「虐待するかも、怖かった」孤立しない子育て、支援広がる 先輩ママが家庭訪問、9割満足 行政も注目

西日本新聞 2017年12月26日

 子育て経験のあるボランティアが、乳幼児のいる家庭を訪問し、親の話を聞いたり、育児を手伝ったりして支援する「ホームスタート」が広がっている。孤立しがちな親に寄り添うことで、子どもの虐待防止にも役立てようという狙いだ。九州でも各地で取り組みが続き、行政もその効果に注目している。

「心の支えに」
 茨城県つくば市の坂谷千春さん(31)は、第2子を出産した8月からホームスタートを利用している。生まれたばかりの次男の世話で寝不足が続く中、2歳半になった長男が赤ちゃん返りして「心が折れそうな毎日」だった。実家は遠方で頼れない。「ホームビジター」と呼ばれるボランティア、和田清子さん(57)が来てくれるのが支えだったという。
 長男の遊び相手になってくれたり、お風呂に入れるのを手伝ってくれたり。「ゆっくり子どもたちに向き合う時間がつくれたことで、育児が少し楽になった」と坂谷さん。自身は2人の子がすでに成人している和田さんは「子育て中は周囲の人にたくさん助けてもらった。次は自分が手助けする番」と話す。
 つくば市で支援事業を担うNPO法人「kosodateはぐはぐ」の前島朋子代表理事は、子育てサロンを運営する中で「施設まで出てこれない人へのアプローチが必要」と実感し、導入を決めたという。

対等な立場で
 こうした家庭訪問型の子育て支援ボランティアは40年ほど前に英国で生まれた。日本では2009年にNPO法人ホームスタート・ジャパン(HSJ)が発足。現在はHSJからノウハウを習得した地域の子育て支援団体などが全国27都道府県の95地域で活動していて、九州でも23自治体に実施団体がある。
 対象は未就学児のいる家庭で利用は無料。ビジターは専門の研修を受けた子育て経験者だ。訪問は週1回2時間程度、計4回までの利用が前提だが、状況に応じて増やすこともできる。これまで5100家庭が利用し、利用者の9割以上がサービスに満足し「悩みが軽減した」といった反応を寄せているという。
 HSJ代表理事を務める大正大教授(児童福祉)の西郷泰之さんは「専門家ではなく、無償のボランティアだからこそ、対等な立場で親の気持ちに寄り添える」と指摘する。

普及これから
 「虐待してしまうかもと怖かった」。宮崎県都城市の女性(34)は昨秋、わらにもすがる思いでホームスタートを利用した。夫は出張が多く不在がち。0歳、3歳の子育てを1人で担い、ストレスで背中に帯状疱疹(ほうしん)ができた。家にいると子どもに手を上げてしまいそうで、毎日朝から子どもを連れて夕方まで外出していた。
 5人の子育て経験があるビジターに同行してもらい、ようやく病院で治療を受け、悩みを聞いてもらったことで救われたという。「1人で子育てしているんじゃない、もっと周りに頼っていいんだと気付かされた」と振り返る。今では子育てを楽しめているという。
 全国の児童相談所が2016年度に対応した児童虐待の被害は12万2575件と過去最多を更新した。社会構造の変化で人間関係が希薄になり、子育て家庭が孤立化したことが背景として指摘されている。
 行政もホームスタートに着目し、乳児家庭の全戸訪問事業のフォローアップとして活用する例も増えてきた。ただ普及には地域差がある。九州でも大分県内では12の団体が支援を続けているが、福岡県と長崎県には実施団体がない状況だ。
 HSJ九州エリア代表の土谷修さん(69)は「都市部こそ周囲に頼る人がなく、支援が必要な人は多い。どの地域でも利用できるように広げていきたい」と話している。

「僕の絵本!」と子どもは言った。マンガ家・古泉智浩さんが描いた特別養子縁組

ハフポスト日本版 2017年12月29日

マンガ家の古泉智浩さん
 「今年に入ってから、僕らが行っていた里親会に来ていた人たちがバタバタと里親になってるんです。特別養子縁組が実現できたわが家も含めて、やっぱり法律が変わったからでしょうね」
 およそ1年前、血のつながらない男の子と特別養子縁組したマンガ家の古泉智浩さんは、里親になりたい人たちの「現場」の実感をこう語る。
 「里親」とは、子どもを決まった期間預り、産みの親の代わりに自宅で育てること。「特別養子縁組」は、6歳未満の子どもと迎え入れる家庭が、法律・戸籍上の「親子」になること。実の親子と同じ権利・義務が与えられ、親権も移る。
 児童福祉法が2016年に改正され、厚生労働省は「養子縁組を5年間で倍増させ、年間1000件の成立を目指す」という目標を掲げた。
 特別養子縁組は、これからの「家族のかたち」の選択肢になるのか。2年間の里親経験を経て、特別養子縁組を実現させた古泉さんに話を聞いた。

「日本の法律は実親の権利が強すぎる」
ー2年間の里親を経て、子どもと特別養子縁組した小泉さん。両方を体験して、制度のこの部分が変わるといいのに、と感じたところはありますか。
 もっとシンプルになればいいのに、とは思いますね。日本の法律って実の親の権利、親権がものすごく強いんですよ。それが里親になるときにも、特別養子縁組をするときにも、一番の高いハードルになっている。
 子育てを全然していないような実親でも、その実親が「ダメだ」と言ったら他の人が子どもを引き取ることはできない。そこから変えていくのが一番いい気がします。
 ただ、(前作の)『うちの子になりなよ ある漫画家の里親入門』でも描きましたが、最初のうちは僕らも完全に「子どもがほしい」という自分たちのエゴしかなかったんです。それで児童相談所に行って話を聞いたら、「里親制度は子どものためのシステムである」と言われて、「ああ」って思ったんですよ。痛いところ突かれた、って。

ー親のためではなく、子どものための制度だと。
 でもそんなことを思いながらも養護施設の研修行ったら、とにかくその子たちがみんな、人懐っこくてかわいらしくて。そういう子どもたちにとっては施設にずっといるよりも、家庭的養護、家庭で特定の人と接して育つほうがいいんだという話を聞いて、確かにそうかもしれない、と納得する部分もあったんですね。
 だから、最初のきっかけはエゴでもいいんじゃないでしょうか。どんな気持ちであれ、とりあえず児童相談所に電話をしてみたらいいと思います。全国各地にあるので。そこで話を聞いたり研修を受けたりすることで、気持ちはどんどん変わってきますから。
 もし今、不妊治療をしている人でも、並行して里親研修に行くといいことをおすすめします。不妊治療は長く続けると心がボロボロになるので、その前にこういう選択肢もあるんだな、と知っておくのはいいんじゃないでしょうか。

僕は、児童相談所の手厚いサポートに驚いた
ー児童相談所は急増する児童虐待への対応が多いため、特別養子縁組まで手が回らないとも聞きます。古泉さんもそんな印象はありましたか?
 僕も児童相談所がどういうシステムになっているのかわからなかったんですけど、前に里親の集いに出席したときに、僕の住んでいる自治体では「児童相談所の職員は何人くらいいるんですか?」「50人くらいです」「里親制度の担当は何人ですか?」「2人です」という話は聞いたことはあります。いろんな業務を兼任しながら回しているらしくて、大変みたいですね。

ー最近では民間のあっせん団体も増えています。公的な窓口ではなく、民間の団体を通じての養子縁組は考えませんでしたか。
 実は最初は民間のあっせん団体を考えてたんですよ。それでその業者のサイトを見たら、「住んでる地域で里親登録してる方が条件です」とあったので、じゃあ児童相談所で里親研修を受けてからそこに申し込もうと思っていた。行政なんて人手不足だろうから絶対に後回しにされるだろう、と思いこんでいたんです。
 でも実際に児童相談所を訪れてみたら印象がまったく違って、すごく手厚くしていただいて、びっくりしました。「勝手に信用できないと思ってなんか失礼しました」と謝りたいです。

ー里親同士のつながりはありますか?
 僕らが住んでいる新潟の児童相談所では「里親の広場」っていう集まりが定期的にあるので参加していますね。里親になる前に、先輩の話を聞けたのは良かったです。里親の先輩がたは明るい人が多くて、毎回元気付けていただいております。
 今は、皆さんが子育ての不安や不満を話している中で、特に思春期のお子さんは大変そうですが、うちはかわいい自慢しかできなくて。なんか申し訳ないなあ、って思ってます。

『うちの子になりなよ 里子を特別養子縁組しました』本文より
「真実告知」は、ぽろっと小出しで
 そうですね。でも、まだ本人はちゃんと理解できていないので、これからもちょっとずつ、という感じですね。年に2回、うーちゃんがお世話になったNICU(新生児集中治療室)に挨拶に行っているので、その度にぽろっと言ってみようかなと思います。
 でもそれ以上に、新刊の見本が届いたときに、表紙を見て「うーちゃんの本だ!」「僕の絵本」ってわかってましたからね。字が読めるようになったら、タイトルでもう真実がわかっちゃうわけじゃないですか。

ーこの本の存在そのものが真実告知になってしまいますね。
 そう。読んでもらえれば全部わかるという。でもそのことに気づいた妻が、「うーちゃんが大人になってこれを読んだときに、自分は本当に本当に愛されていたんだ、ということをもっとしっかり伝えないと」と言い出して、僕のあとがきも書き直しを命じられました。

ー今回は「妻のあとがき」も収録されていますね。うーちゃんへの溢れるほどの愛情と、里親制度に関心を持つ人へのエールが文面からしっかり伝わってきました。
 そうなんです。すごい長文が校了直前にできあがって、担当編集さんが収めるのに苦労してました(笑)。僕としてはうーちゃんへの愛は日々、絵に込めて描いているつもりなので、そんなに取り立てて文章で書くことがないんですけどね。

うーちゃんや将来について語る古泉さん
 近い将来「きょうだい」をつくってあげたい
ーではこれから先、どんな風に子育てをしていきたいですか。
 うーちゃんには空手を習わせようと思っているんですよ。3歳になってすぐに空手道場に連れて行ったんですよ。いじめに負けない子になってほしいから。でも全然ダメでしたね。「ほら、アンパンチだよ!」ってミットを打たせても、「……ポコンッ」って(笑)。
 あとは、僕は暗算が苦手で繰り上げ算とかすると頭がモヤモヤってなっちゃうので、そこはちゃんとできる子にさせてあげたい。
 それから、もう少し落ち着いたら、うーちゃんにきょうだいを作ってあげたいとも思っています。「もうひとり里子を預かって家族として育てたいね」と夫婦で話しています。

「これ以上何を削れば」 生活保護費減額に悲鳴

神戸新聞NEXT 2017年12月29日

 生活保護費の見直しで、2018年度から受給世帯の3分の2が支給額を引き下げられることになったことを受け、対象となる単身高齢世帯や母子世帯からは「もう切り詰めようがない」「これ以上子どもに我慢させられない」と悲鳴が上がる。見直しを決めた厚生労働省の審議会委員からも「最低限度の生活を守れるのか」と疑問の声が上がっている。(阪口真平)
 兵庫県尼崎市のパート従業員の女性(48)は、中学2年の長女と小学6年の長男、足に障害があり介助が必要な母親(73)との4人暮らし。10年前に離婚しシングルマザーとなり、9年前から生活保護の受給を始めた。
 月の収入は保護費とパートなどを合わせて4人で30万円ほど。食費はスーパーで夕方以降値引きのシールが張られた食材を買い求め、子どもの服はお下がりばかり。仕事用のTシャツ以外に自身の服はもう何年も購入していない。
 長男は学校の成績も良く、私立中学を受験したいとの思いもあったが「お母さんには言われへん」と打ち明けていなかった。長女から長男の思いを知らされた女性は「ショックで、申し訳ない」と自分を責める。
 クリスマスにケーキを買う余裕もなく、正月も長男の制服購入代捻出のために特別なことはできない。「年越しそばはカップ麺かな」と力なく笑う。
 保護費減額のニュースを見て、出てくるのはため息ばかり。「これ以上何を削ればいいんだろうか」
 生活保護を受ける北風正二さん(79)は、単身で神戸市北区の団地に住む。ふすまは何カ所も破れ、修理もままならない。テレビは約20年使い続けるブラウン管のまま。「買い替える費用はない。毎日なんとか食べていくのがやっとだよ」と漏らす。3食同じものを食べる日も多い。13年度にも生活保護の支給額が引き下げられた。「またか、と腹が立つ。国は弱いところから先に削ろうとしている」。北風さんは憤った。