施設退所者が退所後に住居の確保に困っているという記事を見かけました。連帯保証人も施設長の方がなっている場合があり、かなりの負担になっているとの内容でした。こういった住居問題は実際に発生しているのでしょうか?

 子どもたちは、高校卒業を迎えたらひとり立ちすることになります。いわゆる社会的自立です。
 具体的には、誰からの援助も受けることなく生きていくのが現実です。保護者の中には、経済的には支援できる方もおられるので、稀に保護者の支援を受けられる子どももいますが稀なことです。
 つまり、殆どの子どもたちは、生活費や遊興費等の経済的自立をしなければいけないのです。18歳過ぎても、あるいは20歳過ぎても、親の自宅に住んでいる青年は、沢山いると思いますが、児童養護施設の子どもたちは、否応なく自立するわけです。
 アパートを借りるためには、敷金・礼金・仲介手数料・前家賃等、生活家電等の生活用品、水道光熱費、携帯端末の維持費等々、最初の給料を貰うまでの生活費など経済的準備が必要ですし、それらの手続きの仕方も学ばなければいけません。殆どの高校生は、卒業後の生活資金を工面する目的もあり、在学中に校則が許す範囲でアルバイトをしています。中には、100万円、200万円を高校3年間で貯蓄する子どももいます。
 しかし、なんだかんだと、高校卒業後、すぐにアパート生活をするのはハードルが高く、就職先を探す場合は、社員寮のあるところが優先されるわけです。どんなに仕事の職種への夢があっても、社員寮が完備されていなければ、経済的理由で、他の職種を選ばざるを得ないのが現実です。
 保証人については、児童福祉施設等に関する身元保証人確保対策事業を全国社会福祉協議会が実施していますので、手続きさえ行えば、施設長の負担が軽減されるような対策が準備されています。しかし、条件をクリアしなければいけないので、万能ではありません。
 結果的には、社員寮が完備された企業に就職するのが、一番スムーズな社会的自立となるわけです。
 具体的に、生活経費を比較してみましょう。

一人で社会生活を営むための最低限の生活経費(国保)
家賃     60,000円
光熱水費   20,000円
食費     35,000円
携帯端末   20,000円
国民健康保険 21,000円
国民年金   14,000円
交通費     5,000円
雑費      5,000円
合計     180,000円

社員寮のある企業への就職(社会保険)
社員寮    60,000円
光熱水費      0円
食費(寮費込)   0円
携帯端末   20,000円
健康保険   10,000円
厚生年金    7,000円
交通費     5,000円
雑費      5,000円
合計     107,000円

 この比較で分かるとおり、圧倒的に社員寮が有利です。しかし、もし仮に家賃が期間限定でも良いので免除されたら、経済的な支援としては、とても、有効です。何故か、単純に考えても、高卒者の給料が、180,000円と言うのは、まず、考えられません。手取り、120,000円程度が良いところでしょう。つまり、アパート生活=ワーキングプアの可能性を秘めているため、児童養護施設の職員は、社員寮のある企業への就職を推薦しているのが現状です。
 QOL(生活の質)は、「生命の質」「人格の質」「人生の質」「生活の質」と大きく4項目に分類され、その内の「生活の質」には、「人間関係の質」「空間の質」「時間の質」「社会保障の質」と4つの項目が含まれています。
 子どもたちが人生を生き抜いていくためには、これだけでは足りないと考えます。「魂の質」が必要なのです。生きる目的、人間の存在理由、魂の根源について、子どもたちが児童養護施設での生活の中で、各自の個性に応じて何かをつかみ取って社会に旅立って欲しいと願っています。

 以上、簡単に説明しましたが、ご質問への回答になっていますでしょうか。
 今後とも、児童福祉へのご理解とご協力をよろしくお願いいたします。