社会福祉法人 児童福祉 児童養護施設

大規模形態の児童養護施設の小規模化に向けて

このレポートは、1個人の提案です。法人及び自治体の見解ではありません。社会的養護の一側面を理解するための参考としてお読みください。

大規模形態の児童養護施設の小規模化に向けて

児童養護施設の形態として、措置児童定員45名以下を小規模、措置児童定員100名以上を大規模施設と表現するのが、「社会的養護の現状について」で示されている。
児童養護施設 S施設は、措置児童定員90名であり、形態的には、大規模施設に近似している。家庭的養護の推進のための施設の小規模化の推進に逆行している形態であるが、S施設の施設整備事業は、「社会的養護の現状について」のレポートが公表される前の平成18年に基本設計に着手しており、当時のY市の現状は、低年齢児の一時保護が滞っており、児童養護施設受入児童数の増員を目指していた。
施設整備のヒアリングの中で、措置児童定員数の減数を求めていたが、Y市の現状を踏まえると、措置児童定員数の増員を選択するのが賢明な判断であった。
施設小規模化への提案として、定員45名の児童養護施設を2ヶ所にする施設分割化を提示したが、同敷地内に同種別の福祉施設を複数設置できないとの大原則により、その提案は、挫折してしまった経緯がある。

大規模形態の児童養護施設の課題点

S施設は、措置児童定員が多いため、大規模形態と言えるが、小規模グループケアの形態を全面的に採用している。家庭的(母性的)養護を推進しており、小舎制のマンション型と言う形態を取っている。
しかし、昨今の措置児童の個性は千差万別であり、児童福祉法が示している児童養護施設の定義、

第四十一条  児童養護施設は、保護者のない児童(乳児を除く。ただし、安定した生活環境の確保その他の理由により特に必要のある場合には、乳児を含む。以下この条において同じ。)、虐待されている児童その他環境上養護を要する児童を入所させて、これを養護し、あわせて退所した者に対する相談その他の自立のための援助を行うことを目的とする施設とする。

となっているが、「虐待されている児童その他環境上養護を要する児童を入所」の解釈が曖昧で、軽度の知的障害、注意欠陥多動性障害、学習障害、不登校、低学力、情緒不安傾向など、様々な個性の児童を受け入れている。そのような現状の中で重篤の課題点が生じている。

1.専門的アプローチが多岐に亘るが、職員の専門性が追いついていない。
2.母集団が小規模化しているが、その小規模な母集団の中に多種多様な個性の児童が混在しているため、生活の秩序が混乱してしまう。
3.児童処遇に職員の複数体制が欠かせないが、現状の職員配置数では、労働基準法を遵守した勤務態勢により、一人体制を余儀なくされている。そのため、緊急時の初動が遅滞してしまう危険性を秘めている。
4.児童定員数が多い場合、各ケースの検討会を最低年1回設けることすら困難を極める。
5.児童養護施設に措置されているが、処遇困難児童対応で、措置停止の対応を取らざるを得ないケースが生じ、児童相談所に一時保護されるケースが発生している。
*S施設では、平成25年度に措置児童数の5%を超える事態に陥ったこともある。

更に、職員の就労環境としての課題点も生じている。

1.職員数が50名前後の中規模事業所となり、人事の全体掌握が複雑化している。
2.専門職の加算が補助金の中に含まれているが、ユニット勤務ローテーションの中に組み入れざるを得ないため、本来の専門的業務が手薄になってしまう。
3.ユニット運営を守るために、宿直の人数が、大舎制や中舎制と比較すると、多くなるため、比例して、職員ひとり当たりの宿直回数が増加する。
4.児童への対応に精神的に疲弊してしまう職員が発生するリスクが高くなっている。
5.児童養護施設への就労希望者が減少傾向にあり、雇用数確保に困難を生じている。
6.育児(介護)休業等や、有給休暇消化に向けての対応に余裕がない。
7.従業員数50名以上の事業場において、業種を問わず、衛生委員会を設置する義務が生じ、衛生管理者(資格を有する職員または嘱託契約)、産業医(嘱託契約)が必要になるが、現状の措置費制度の中では、その財源が担保されていない。

特に重要な課題点だけでも多岐に亘り、それらを速やかに改善することが急務であるが、現実的には、困難を極め、職員の献身的な働きに甘んじているのが率直な見解である。
また、重要な事は、個性の集合体である児童構成により、ユニットでの生活が混乱を生じている瞬間、その混乱の原因である児童以外の児童は、見方によっては被害児童になるが、その児童の理解と協力を得られなければ、ユニットでの生活そのものが崩壊してしまう危険性を秘めている。
では、改善策は、皆無なのか。否である。厚生労働省が推進している施設の小規模化が改善への糸口になるのである。そのためには、現状の原則に縛られていては、イノベーションを成すことは出来ない。状況を打開するためには、地方自治体と法人、双方に大きな決断を求められることになる。

施設の小規模化に向けて

平成18年当時の児童相談所一時保護児童は、低年齢化が進んでおり、その児童の居場所確保が優先課題であったが、それから8年後の現在は、高学齢児童一時保護の長期間化が大きな課題点としてクローズアップしている。
S施設は、元々、女子児童を受託していたが、Y市の児童福祉施策の求めに応じ、男子児童受入を開始したり、児童定員数を70名から90名に増員するなど、Y市との協調体制を大切にしてきた経緯がある。それは、今後も継続していくことになる。
現在、課題点として挙げられるのは、大きく3点であろう。

1.施設運営の安定化を図り、児童定員数を受託する。(現状は90%受託を目安にしている)
2.高学齢児童の受入を積極的に行う。
3.大規模形態施設の小規模化を推進する。

以上の3点に焦点を合わせる場合、どうしても抜本的変革が求められる。それは、Sにも地方自治体にも、それによる痛みを覚悟する決断が必要であろう。
その痛みとは、児童養護施設側は、運営方針の変革であり、地方自治体側は、補助金の変革がそれにあたる。場合によっては、制度の拡大解釈が求められることになる。
大規模形態施設の小規模化は、国の方針であり、児童相談所における一時保護期間の短縮化は、公教育の保障という観点からも改善が急務である。最も重要なことは、児童が安全安心に暮らせる環境の維持である。それは、職員の就労環境の適正化にも繋がっていくことになる。

児童養護施設 S施設の分割化

平成18年に提案した施設分割化は、定員90名の施設を定員45名2ヶ所に単純に分割する案であったが、現存する建物がある現在では、物理的に不可能な案である。
現実的な分割案は、現在のS施設児童定員数90名を、児童定員62名と児童定員28名に分割する案である。それは、最低基準、第7章第41条5の「児童三十人以上を入所させる児童養護施設には、医務室及び静養室を設けること。」を遵守するためである。現在、医務室と静養室は各1ヶ所あるが、更にもう1ヶ所ずつ設置するスペースを確保することは不可能である。
また、S施設は、3棟構成となっており、3棟を上手く分割するしか道はないのである。そこから導きだされる分割案は、下図の通りである。
棟配置図
至ってシンプルな分割案であるが、シンプルゆえに、現実的な案である。
*管理棟に医務室・静養室、園内保育に調理室
*児童家庭支援センターに心理療法室、家族療法棟

施設機能の明確化

仮にA施設とB施設と銘々する。A施設は、施設形態の小規模化には至らないが、定員数が削減されることは、児童処遇と職場環境面で現状の児童定員90名より改善されることが見込まれる。また、児童福祉法の条文「虐待されている児童その他環境上養護を要する児童を入所」を拡大解釈しない措置児童受託を目指す。また、既存の地域小規模児童養護施設の併設を継承する。
B施設は、これまでに存在していない形態を創出することになる。軽度の知的障害、注意欠陥多動性障害、学習障害、不登校、低学力、情緒不安傾向などの児童を専門的に受託していくのである。小学校・中学校の養護学級在籍児童生徒、高等養護学校の児童生徒、サポート校の児童生徒、医療的アプローチが必要な児童、高学齢時期による措置児童などが、中心に構成される。これは、児童養護施設と情緒障害児短期治療施設の中間的役割を担う、全く新しい形態である。また既存の児童家庭支援センターの併設を継承する。
Y市は、児童家庭支援センターのY型を創出した実績があり、Y型児童養護施設の創出も十分に検討の余地があると考えられる。大規模施設の小規模化、高度な専門性が求められる児童の受入に特化した児童養護施設の設置など、全国的に見ても先駆的な取り組みになることは間違いない。

職員配置と人件費収支差額

では、施設を分割化した場合、その財政基盤は、現実性があるのか、数字で示す必要がある。数的根拠が示されなければ具体性が見いだせないからである。
資料1は、定員別の職員配置を表している。62名定員のA施設は、従来型の児童養護施設であり、1ユニット3名の職員配置とした。参考までに90名定員の現在は、1ユニット2.75名の職員配置である。28名定員のB施設は、受託児童の特性を考慮し、1ユニット4名の職員配置とした。
下段の表が示しているのは、どちらの場合も、法定及び加算配置と現員数の差が5名となっており、児童の安全と安心を守る体制を構築するには、補助金対象職員数では不足してしまうのが、現行制度である。
資料1
資料2は、勤務態勢を模擬的に組んでみた。1ユニット4名体制で、何とか夜勤を組み込んだ体制となるが、1ユニット3名では、夜勤は組み込めず宿直となる。労働基準監督署は、児童養護施設の夜間態勢について、宿直とは認められず夜勤に相当すると指導しているが、現行制度での夜勤体制構築は、不可能である。
また、どちらの体制も、児童処遇の複数体制が確約された状況ではなく、1人体制の時間帯が多く存在している。常時複数体制が組めることが理想であるが、そのためには1ユニット4.5名の職員配置が必要になる。
資料2
資料3は、人件費の収支を模擬計算した。人件費収入については、平成25年度の単価で算出している。定員数によって措置費単価が異なるが、それにも対応しており現実的な数字となっている。人件費支出については、平成25年度のS人件費支出を基礎データとして算出しているが、平均勤続年数9年の職員集団から算定している。分割当初は、平均勤続年数6年程度が見込まれるため、5~8百万円程度の減額補正は必要であろう。
この資料3から見て取れるのは、資料1で示している職員体制を構築するための財源的根拠が乏しいと言うことである。財源的には、資料1の体制から、双方共に職員数3名程度の削減が必要である。人件費を事務費や事業費から補填するにも限界があり、また、Sの場合、施設整備借入金について年間約1千万円の償還が必要であり、財政を圧迫しているため、人件費への過剰な支出負担は、極力避けなければいけない状況にある。
現行のY単独補助金の小規模ケア推進加算の単価改定が、もっとも現実的な対応策となる。
補足であるが、児童定員28名の場合、1ユニット3名体制については、現行制度の中でも財政的に可能である。これが、施設小規模化の有利性を如実に示している。
資料3では、参考数字として、K市のデータを収集した。K市の場合は、市として1ユニット4名以上の配置を推進し市単独補助で、それを保障しているため、民間施設側は、財政的な心配をせずに、職員を雇用できる。
K市の場合、Y市と比較すると児童養護施設の設置数が少ないが故に、このような大胆な施策が採れるのかも知れないが、1ユニット4名以上で児童の安全安心な生活を保障していこうとする姿勢は、Y市も見習うべきであろう。
資料3

施設分割化の段階的移行

現状のS施設は、措置児童定員90名に対して、常時、87名前後の児童が措置されている。つまり、現実的に、それらの児童が生活している。その生活パターンを可能な限り乱さずに移行していくことが重要である。
移行の第一段階は、在籍児童をA施設とB施設に振り分けることになるが、小学校・中学校の養護学級在籍児童生徒、高等養護学校の児童生徒、サポート校の児童生徒、医療的アプローチが必要な児童を中心にB施設のユニットに移動して貰い、25名から26名でスタートする。A施設は、61名前後でのスタートとなる。
第二段階は、B施設の場合、卒園や家庭復帰等で退所児童が出た場合の入所受入を軽度の知的障害、注意欠陥多動性障害、学習障害、不登校、低学力、情緒不安傾向などの児童を中心に受託していくことになる。高学齢時期による措置児童の受託も積極的に受け入れていく。A施設は、要養護児童と被虐待児童を中心に受託していくことになる。
第三段階として、A施設は、地域分散化を目指していくことになる。

変革の時期は…

S施設の現存建物は、平成22年9月より本格稼働しているが、次の建替の時期は、40年後以降である。それまで、国の施策に逆行した施設形態を維持していくことに何らメリットを感じることは出来ない。措置費制度上も既に、小規模ユニットケアや施設形態小規模化に対しての優遇措置がとられており、現状のS施設は、運営的にも経営的にも不利な状況となっていることは事実である。
施設整備当時の国やY市の施策に従順に応じたことが、社会的養護に向けた施策転換によって、不利な立場に陥ることを誰が予測出来たであろうか。
時代の変化である。その時代の変化に柔軟に対応していく適応力が、今試されているのである。
現状を維持し継続していくことに、利点を見いだせないのであれば、変革すべきである。その時期を先延ばしにする合理的理由も見当たらない。変革にメリットを見いだせるのであれば、それは、早急に手を打つべきである。
Y型児童家庭支援センターを国に対して提案したY市である。Y型児童養護施設を、ぜひ、国に対して提案していただきたい。それは、大規模形態の児童養護施設の小規模化への取り組みとして、斬新な提案となり、他の自治体へモデルケースを示すことにも繋がるのでなかろうか。

児童養護施設等の小規模化及び家庭的養護の推進のために

大規模児童養護施設の小規模化に関しての見解の一部を抜粋する。

・大規模施設を分割して、その半分を施設の立地がない地域に移転することや情緒障害児短期治療施設に移転することも考えられる。ただし、大規模な児童養護施設を、単に同一敷地内で2ヶ所の児童養護施設に分割することは、小規模化の趣旨に沿うものとは言えない。
・児童養護施設については、本体施設を大胆に小規模化し、施設機能を地域分散化していくとともに、本体施設は高機能化する、という将来の方向性を明確にする。

この見解のチェックポイントは、「単に」である。S施設の分割案も施設整備当初は、この「単に」分割すると言う趣旨であったが、今回の分割案は、施設機能の異なる施設への分割である。
A施設は、本来の児童養護施設の姿を取り戻し、地域分散化への歩みを進めていき、B施設は、施設機能を高機能化していくのである。明らかに「単に」と言う枠組みに入らない、同一敷地内での分割と言える。
「施設の立地がない地域に移転する」については、Y市における児童受入数の増員にはならない施設整備となり、特にS施設は、施設整備を終えたばかりであるため追加投資となってしまう。現在の借入金返済が18年残っており、資金的にも無理が生じる。
「情緒障害児短期治療施設に移転する」については、法人は、既に情緒障害児短期治療施設を運営しているため、そのノウハウは持ち合わせているが、現建物の構成では、最低基準を満たすことは不可能である。
以上の観点を踏まえ、今回の、児童養護施設とY型児童養護施設(高機能型)への分割を趣旨としたレポートを作成した。

施設分割による新施設設置に対する主な手続き

・理事会、評議員会の承認
・土地分筆登記
・児童福祉施設変更届(Y市)
A施設は、定員数の変更が必要になる。
・児童福祉施設設置認可届(Y市)
B施設は、新設になるため設置認可が必要になる。
土地・建物を明確に示す必要がある。
・定款変更(厚生労働省)
土地・建物を明確に示す必要がある。
・電気・水道・ガスのメーター分け、電話(インターネット)回線の設置
・納税関連、社会保険・労働保険、年金共済等への団体登録
・新施設公印、預金口座、パンフレット、封筒印刷、ゴム印等の作成
・会計上、サービス区分として新施設を追加する。
固定資産を振り分ける。

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