「偏見生む」と抗議噴出 ドラマ「明日、ママがいない」

福祉新聞 2014年1月20日

 15日に始まった日本テレビ系ドラマ「明日、ママがいない」の内容が波紋を広げている。児童養護施設の施設長が子どもをペットショップの犬に例えるなどセンセーショナルな表現があり、放映後に「人権侵害だ」と非難の声が上がった。全国児童養護施設協議会(全養協)などは日テレに抗議文を提出する方針だ。

ペットショップの犬
 ドラマは児童養護施設が舞台。さまざまな事情で親と暮らせない子どもたちが母親の愛以上の幸せを探しながら、たくましく生きていく姿を描く。主演は人気子役の芦田愛菜さんで、施設長役の三上博史さんなどが脇を固める。初回の平均視聴率は14%と好調なスタートだった。
 「泣いたやつから食っていい」ーー。最初の見どころはドラマ開始10分の食事のシーンだ。施設長が「お前たちはペットショップの犬と同じだ」と子どもたちを叱責。状況に応じて泣いたり笑ったりする芸を身につけなければ里親のもらい手がつかないと迫る。
 また、冒頭部分で施設はお化け屋敷のように描かれる。子どもへの罰としてバケツを持たせて立たせるなど日常的に虐待を繰りかえすシーンもある。
 一方、子どもたちにはそれぞれあだ名がついている。芦田さんは子どもを匿名で受け入れる“こうのとりのゆりかご”(赤ちゃんポスト)に預けられた設定で「ポスト」、経済的事情で預けられた子どもは“貧乏”を逆さに読んで「ボンビ」といった具合だ。
 ストーリーの概要は昨年末から明らかになっており、全養協は内容に対する申し入れを行ってきた。その際、日テレは「視聴者には誤解がないようフィクションであることをきちんと示したい」などと回答したという。

長年の努力が無に
 第1回の放映が終わり、関係団体からは非難の声が上がった。全養協や全国里親会は20日に日テレへ抗議文を提出し、21日には都内で記者会見を開く。
 藤野興一・全養協会長は「子どもの人権をすさまじく侵している内容だった。ペットショップの犬といった表現は、テレビを使ったヘイトスピーチだ」と憤りを隠さない。「いくらフィクションと断り書きがあっても、養護施設や里親への偏見を生む。さらに学校でいじめが増えることも心配だ」と話す。
 御所伸之・里親会副会長も「とんでもない内容のドラマだ」と感想を漏らす。「現実の里親制度ではあり得ないことが描かれており、2回目以降が不安だ」と語り、関係者が一歩ずつ積み上げてきた努力が無になりかねないと危惧する。
 また、“ゆりかご”を国内で唯一運営する慈恵病院(熊本市)は16日、熊本市内で記者会見し、「子どもたちに対する偏見や差別を生みかねない」と抗議。日テレに番組の放送中止や、子どもたちへの謝罪を求めることを明らかにした。
 田尻由貴子・同看護部長は「表現の自由はあるが、倫理的に問題があり、許される範囲を超えている」と話す。事前に日テレからポストという言葉を使用することなどの連絡もなかったという。
 こうした声に対し日テレは「子どもたちの純粋さやたくましさなどを全面に表し、子どもたちの視点から『愛情とは何か』を真摯に描きたい」とし、今後も放送を続ける構えだ。
 福祉関係団体によるメディアへの指摘を巡っては、日本精神保健福祉士協会がフジテレビに申し入れた事例もある。2010年公開の映画「踊る大捜査線THE MOVIE3」では実際には存在しない「勤務経験5年の23歳精神保健福祉士」が登場。その際フジは「真摯に受け止める」としてウェブサイトで事情を説明した。
 一方、福祉の対象者を描く場合、当事者の意見を踏まえるケースもある。講談社は別冊少年マガジンで聴覚障害者へのいじめを描いた漫画「聲の形」を掲載する際、全日本ろうあ連盟などと協議を重ねた上で公開した。

日テレ、ドラマ「明日、ママがいない」の放送継続

スポーツ報知 2014年1月20日

 親が育てられない子どもを匿名で受け入れる「こうのとりのゆりかご」(赤ちゃんポスト)を設置する慈恵病院(熊本市)が、日本テレビ系列で放映中の連続ドラマ「明日、ママがいない」に児童養護施設関係者への人権侵害が含まれるとして放送中止を求めた問題で、日テレは20日、放送継続を病院に伝えた。
 病院で記者会見した蓮田健産婦人科部長は「継続の理由や、子どもや職員への謝罪、制作経緯について回答はなかった。傷ついた子どもをさらに傷つける結果になるのではと思わせる内容が含まれ、残念だ。放送倫理・番組向上機構(BPO)に審議をお願いしたい」と述べた。
 病院は、ドラマが施設の実態とかけ離れているほか、赤ちゃんポストに預けられた子に「ポスト」というあだ名が付けられた点などを挙げ「誤解や偏見を与える」と批判していた。
 日テレ総合広報部は取材に「倫理問題を含め、総合的な観点で放送前に社内で議論した。最後まで放送を見てほしい」と話した。

<日本テレビ>放送中止や謝罪には応じない 病院側に回答

毎日新聞 1月20日

 日本テレビ系列で放映中のドラマ「明日、ママがいない」を巡り、親が育てられない子供を匿名で受け入れる「赤ちゃんポスト(こうのとりのゆりかご)」を設置する熊本市の慈恵病院が日本テレビに放送中止などを求めた問題で、日本テレビは20日、放送中止や謝罪には応じない考えを病院側に伝えた。
 病院は「児童養護施設の子供たちへの差別を助長する」として、日本テレビに放送中止を求めていた。同病院は近く、放送倫理・番組向上機構(BPO)に審議を申し入れる。
 15日に放映開始されたドラマは児童養護施設が舞台。赤ちゃんポストに預けられたという設定の子役が「ポスト」のあだ名で呼ばれるなどしている。
 同病院は、日本テレビに倫理上の問題について製作段階でどんな議論をしたのかも尋ねていたが、それについての回答はなかったという。記者会見した同病院の蓮田健・産婦人科部長は「一生懸命作られていることは分かるし、素晴らしい部分もあるが、人を傷つけてしまっていると思われる部分があることは残念だ」と述べた。
 日本テレビ総合広報部は毎日新聞の取材に対し「このドラマに限らず製作の経緯を説明することはない」と答えた。【取違剛】

日テレ慈恵病院に事前の取材依頼や問い合わせ一切してなかった

東スポWeb 2014年01月20日

 【放送中止騒動】芦田愛菜(9)主演の日本テレビ系連続ドラマ「明日、ママがいない」に対する抗議に対し、日本テレビ側は「ドラマは子供たちの心根の純粋さや強さ、たくましさを全面に表し、子供たちの視点から『愛情とは何か』を描いたもの」と説明し「ぜひ最後までご覧いただきたいと思います」としている。
 人権か、表現の自由か――。それを語る上で重要なのは、制作チームが児童養護施設の現状をどれだけ事前取材していたのかがポイントになる。国内唯一の赤ちゃんポスト「こうのとりのゆりかご」設置に尽力した慈恵病院で看護部長の田尻由貴子氏は本紙に衝撃の事実を明らかにした。
 「『赤ちゃんポスト』を扱うということは、我々の病院を扱うということ。それなのに日テレの人から取材依頼や問い合わせはこれまで一切来ていません。私たちはどんなドラマが放送されるのかも知らず、初回の内容を見て驚きました。これでは子供たちは傷つきますよ。フィクションだからで済む話ではありません」
 波紋は広がるばかりだが、日テレはどんなに集中砲火を浴びようが、現時点では放送中止など毛頭考えていない。それにはこんな理由がある。
 「ドラマの内容には自信を持っている。今は批判の声も多いが、最終回を見終えた後『これが言いたかったのか~』と賛同してもらえると思っている」と日テレ関係者。
 さらに、慈恵病院が日テレを訴えても、ドラマは、報道や情報番組でのヤラセとは全く質が違うため、BPOも審議入り→放送中止にはならないと日テレが見込んでいるフシもある。
 BPOの担当者も本紙に「前例では、放送人権委員会の審議入りの条件は人権を侵害された当人からの申し出があること。今回の場合、その点がどうか」と慎重な構えを見せている。