「一瞬で何もかも奪われた」家屋6割超が全半壊 熊本・西原村ルポ

沖縄タイムス  2016年4月23日

俵山には地震の爪痕がはっきりと残る。亀裂だ。熊本地震で甚大な被害を受けた熊本県西原村。「震度7」の揺れは村の6割以上の家屋を全半壊にした。そこに追い打ちをかけるかのような激しい大雨。525世帯に出されていた避難勧告は22日解除されたが、村人は避難生活を強いられている。
20日午後3時半、熊本県道28号線。西原村を目指し、レンタカーのハンドルを握った。途中、アスファルトがむき出しの道が数カ所。「支援物資」と書かれた自衛隊の車両と3度すれ違い、ようやく西原村に到着したが崩壊した集落に言葉を失った。
車道にはガラスやコンクリートの破片、土砂が散乱している。傾いた家を見つめぼうぜんと立ち尽くしていた91歳の女性は「長く生きて、こんな揺れは体験したことがない。夫との思い出も家も全部失った。先行きが見えない」と嘆いた。 沖縄にめいっ子がいるという桂悦朗さん(63)は26年間住んでいた家屋を失った。「一瞬で何もかも奪ってしまったけぇー。裏山(俵山)の形も変わっとる。いつ崩れるかわからん。もうここにはいられない」
避難者が身を寄せている同村万徳区にある山西小学校。同区出身の童謡歌手、曽我実磨子さん(31)も被災者の1人だ。人気キャラクター「くまモン」のテーマソングを歌う曽我さんは、4月上旬、沖縄市の児童養護施設などでボランティアコンサートを開催したばかり。沖縄から帰ってきて10日後に2度の強い地震に襲われ、自身の家も全壊した。地震でプロパンガスのタンクが倒れ、ガス漏れが発生。「一歩間違えたら死んでいたかも。振り返るだけで手の震えが止まらない」
沖縄から安否を心配するメールが何十通も相次いだ。沖縄で義援金を呼び掛ける人たちの写真が添付されているのを見てうれしかった。「本当に辛くて大変な思いをしているけど、沖縄の人たちが応援してくれている。今、沖縄のユイマールの精神を肌で感じている。落ち着いたら、また沖縄の子どもたちのために歌を歌いたい」。(中部報道部・比嘉太一)

<熊本地震>天幕の下、息抜きの場 車中泊の子どもら

毎日新聞 2016年4月24日

熊本地震で大きな被害を受けた熊本県益城(ましき)町の町立広安小の運動場で、わきに防水シートの天幕を張った車が止まっていた。「避難所となっている校舎内では、子どもが泣いたり騒いだりすると迷惑がかかるから」と車中泊を続ける、小さな子を持つ家族だった。
熊本地方に雨が降った23日。同町惣領の会社員、作長知彦さん(31)の長男楓太(ふうた)ちゃん(2)と次女美春ちゃん(1)が段ボール箱に入ったり出たりしてはしゃいでいた。作長さんは「ここなら思いっきりはしゃげるね」と、一家5人で寝泊まりしている車の横に張った青いシートを見上げた。ここは、大人が体を伸ばしたり、子どもたちを遊ばせたりするためのスペースとなっている。
指定避難所となっている同小では約700人が避難生活を送り、うち350~400人が車中で寝泊まりしている。その中には作長さん一家のような小さな子を持つ家族も多い。「子どもたちは地震のトラウマで余震があると泣いたり、逆に昼間は元気に走り回ろうとしたりする。『騒がないで』と言うと、その声も迷惑になるように感じて」。妻の愛さん(27)が言った。
車中泊の避難者の中には幼子を持つ妊婦もいる。「ちょっとした工夫で避難所の施設内に子どもが遊べるようなスペースが作れるような気がするのですが」。肩身の狭い思いをしている親たちのせめてもの願いだ。【栗田慎一】

<熊本地震>被災地 水道濁り続く

毎日新聞 2016年4月24日

熊本地震では、長期間の断水に加え、水道が復旧しても濁って飲めないという問題が被災者を悩ませている。熊本県は阿蘇山麓(さんろく)の豊富な地下水を飲み水にし「水の国」とも呼ばれるが、地盤が激しく揺すられて水源が濁ったためだ。厚生労働省は23日、最大時43万戸に上った熊本県内の断水が2万2365戸に減ったと発表したが、濁水による不便な生活は続いている。
阿蘇山は過去の噴火活動によって、地下に雨水がたまりやすい。熊本市や菊池市など多くの被災自治体は水源の100%を地下水に頼っている。そのまま飲料水にできるため、多くの浄水場は、ろ過せず塩素処理だけして配水している。
だが、それが復旧のネックになっている。山都町は16日の本震以降、全4700戸で濁りが生じた。断水は200戸に減ったが、23日現在4000戸は飲み水にできない状態だ。担当者は「ろ過しないため、水源の濁りが直接影響する」と話す。菊池市は2600戸で濁水が出ている。

倒壊建物アスベスト対策、防じんマスク無償配布

読売新聞  2016年4月24日

熊本県を中心に相次いでいる地震で倒壊した建物から、有害物質「アスベスト(石綿)」が飛散する恐れがあるため、環境省と厚生労働省は22日、防じんマスク計6万6580枚を被災者やボランティアに無償で配布すると発表した。
石綿は吸い込んで肺の中に入ると、中皮腫や肺がんなどを引き起こす恐れがある。環境省によると、使用が規制された1995年以前に建った鉄筋コンクリートや鉄骨造りの建物には、石綿を含む建材が使われたり、石綿が吹き付けられたりしているケースがある。
2011年の東日本大震災でも、建物の倒壊や解体作業で石綿が飛散する危険性が指摘された。同省は「倒壊した建物の周辺や、がれき置き場などで作業する際は、必ず防じんマスクを着用してほしい。石綿が見つかった場合は近づかないように」と注意を呼びかけている。

<熊本地震>被災地の保育園、子供たちに施設開放

毎日新聞 2016年4月22日

熊本地震で大きな被害を受けた熊本県西原村にある村立にしはら保育園が22日、避難生活で運動不足になりがちな子どもたちのために施設や園庭の開放を始めた。避難の長期化で子どもたちが受けるストレスが懸念される中、小学生たちは保育士と一緒に幼い子をあやしたり、友だちと思いっきり体を動かしたりした。
「はい、ア~ンして」。小学5年、緑間(みどりま)琉音(りおん)さん(10)が、1歳の男の子の口におかゆを運んだ。泣いていた男の子は次第に笑顔に。「かわいいねえ」。緊張気味だった琉音さんにも笑みが広がった。
被害を免れた同園は、熊本地震で大きな被害が出た自治体にある公立保育園の中で唯一、14日の地震後も0~5歳児の預かり保育を続ける一方、避難所として住民約60人を受け入れている。
同村立の小中学校3校は休校中で、ゴールデンウイーク明けの再開を目指している。園田久美代園長(59)は「保育士たちも被災しているので大変だが、『悔いのないよう精いっぱいやろう』と励まし合っている。子どもやお母さんたちに早く笑顔が戻ってくれればうれしい」と語る。園庭は毎日、園舎も土日祝日以外は開放される。
被災地では、校舎が壊れた学校は閉鎖され、避難所となった学校はグラウンドが駐車場として使われている。仕事を持つ母親たちは子どもの世話で働きに出られないなど生活への支障が出始めている。【栗田慎一】