人事院勧告と児童養護施設職員の給与

 児童養護施設は、措置費や市町村補助金収入によって運営されていることは周知の事実ですが、その収入の中に職員の人件費も含まれています。
 措置費単価の中に含まれている人件費分の配分根拠が、人事院勧告によって示されている国家公務員俸給表等の数字なのです。
 従って、児童養護施設では、本来は、人事院勧告に準じて給与支給するのが順当です。しかし、法人によっては、独自の俸給表で給与支給しているところもあります。
 働く職員にとって、どちらが有利なのかは、年収ベースで判断するしかありませんが、就職時に、そこまで聞くことは殆ど不可能でしょう。
 基本給を国家公務員俸給表より抑えて、その代わりに手当を充実させている場合、毎月の手取り額は多くなりますが、賞与の算定基礎が基本給のため、年収ベースでは、思ったほどの金額ではない場合もあります。
 ですから、児童養護施設に就職している先輩から生の声を聞くのが、一番確実な情報収集の方法です。
 では、人事院勧告に準じていれば、児童養護施設で働く職員さんの給与は、国家公務員さんと同程度なのかと推測してしまいますが、実は、大きな隔たりがあることは事実です。
 まず、一番重要な基本給ですが、これは、同じ俸給表を使用しているので条件は同じですが、初任給のスタート位置が法人によって、まちまちです。それは、地方ごとの経済格差が理由に挙げられています。また、基本は4段づつ昇給しますが、その段数を抑えている法人さんもあります。
 次は、手当です。手当額は、基本的に各法人(事業所)に委ねられていますので、人事院勧告に準じていない場合も多々あります。ただ、殆どの場合、常識的な額を提示しています。
 民間児童養護施設の手当の種類は、以下の通りです。法人によって違いはあるものの、最低限、これだけの手当はあります。

・扶養手当
・住居手当
・通勤手当
・超過勤務手当
・夜勤手当
・宿日直手当
・期末手当
・勤勉手当
・特殊業務手当

 次に国家公務員ですが、上記手当に下記の手当があります。(業務によって、支給される手当は違います。)

・地域手当
・単身赴任手当
・広域移動手当
・特地勤務手当
・寒冷地手当
・俸給の特別調整額
・管理職員特別勤務手当
・休日休
・本府省業務調整手当
・初任給調整手当
・専門スタッフ職調整手当
・研究員調整手当

 特に地域手当については、国家公務員平均額が\40,000-程度となっていますが、民間法人では、殆どの場合、算入することが困難な状況です。従って、これだけでも国家公務員と民間との給与格差が生じてきます。
 民間児童養護施設の場合、昇格が殆どありません。施設長が管理職で、それ以外の職員は、同レベルとなります。主任職に対して、特殊業務手当で一般職員との格差を数千円程度配慮している程度です。
 つまり、若い内は、国家公務員との間の給与格差が少なかったとしても、年を経るにつれて、その格差は広がっていきます。30代中頃では、手取りで10万円以上の格差になっていると推測できます。
 児童養護施設への就職を希望している場合、公務員試験を受けて、公営の児童養護施設に就職するのが経済的には有利と言えますが、児童支援の融通性等を考慮に入れると民間の児童養護施設が良いでしょう。
 公営と民間では、一長一短ありますが、圧倒的に数が多いのは民間の児童養護施設です。また、公営の場合、公務員ですので人事異動があります。確実に児童養護施設に配置されるとは限りません。

 子どもたちへの愛情、生きがい、やりがい、奉仕の精神等は、もちろん重要です。ぜひ、持ち合わせていただきたいと願いますが、自分が生きていくための生活的基盤となる給与収入も大事な要素です。この基盤が貧弱であれば、精神面での挫折原因になる場合もあります。
 児童養護施設への就職を考えている方は、就職した後に、こんなはずではなかったと後悔しないために、児童養護施設に就職している先輩可能な限り複数から情報を得ることが大切です。
 既に児童養護施設で働いている方は、まずは、人事院勧告の内容を理解し、自分が働いている法人の給与体系との格差を調べることが大切です。少しの格差は公務員と民間の違いとして受け止める必要がありますが、極端な格差は、是正を促すことが必要かも知れません。
 また、社会保険や労働保険、退職共済等への加入状況も確認する必要があります。ただし、この部分は、地方自治体の指導監査での指摘事項になりますので、殆どの法人で適正に対応されています。

 人事院勧告と児童養護施設職員の給与について、概要をまとめてみました。児童養護施設で働くことで、経済的に裕福になることはあり得ません。
 しかし、一般企業と比較した場合、景気に左右されず毎月、確実に給与が支給され、年2回賞与が支給されます。減給処分を受けない限り、基本給が下がることもなく、毎年、昇級していきます。つまり、支給が安定しているため、生活設計が立てやすいという、大きな利点があります。
 社会保険や雇用保険への加入も行っていますので、例えば、25年間、普通に働き続ければ、厚生年金の受給資格を受けることが出来ます。また、辞職した場合は、勤務年数に応じて失業手当の申請も出来ます。
 退職金制度も完備しており、独立行政法人福祉医療機構の社会福祉施設職員等退職手当共済制度に法人単位で加入しています。これは、法人及び事業所として加入していますので職員一人一人からの徴収金は発生しません。この制度によって、例えば、40年間、普通に働き続ければ、約1,500万円程度の退職金を受けることが出来ます。
 また、社会福祉協議会の民間社会福祉従事者年金共済事業に加入しています。こちらは、職員と事業所が折半で徴収されますが、定年退職後、退職金として一括に受け取る方法と年金形式で受け取る方法を選択することが出来ます。
 贅沢な暮らしさえ望まなければ、ワーキングプアに陥ることもありません。比較的安定した職業です。社会的な貢献度も高く、特に保育士は、国家資格であり社会的認知度も高い現状です。
 昨今は、待遇改善も少しずつ進んでいますので、就活における魅力的な職場の一つとして、児童養護施設がクローズアップしていくことを願っています。