子供を傷つける親も苦しんでいる?アダルトチルドレンの正しい理解と克服方法

ログミー 2014年11月頃講演

相次ぐ児童虐待や高齢者虐待、障害者虐待は深刻な社会問題になっています。TVや新聞で虐待(ネグレクト)に関するニュースを聞いたとき、あなたはどんな気持ちになりますか? 恐らく多くの人が「虐待なんてありえない」「親失格だ」など、加害者に対する怒りの感情を抱くのではないでしょうか。登壇者の菊川恵さんは、幼少期の家庭環境から「命の大切さ」を心の底から理解することができなかったと告白します。機能不全の家庭で育ったことにより、心にトラウマを抱える「アダルトチルドレン」の問題は依然として増え続けています。同氏は、加害者が虐待に至るまでの背景を想像すること、子供を傷つけてしまう親の苦しみやトラウマを受け入れることの必要性を語ります。(TEDxYouth@Kobe2014 より)

命の大切さを心の底から理解できなかった
菊川恵氏:みなさん、はじめまして。菊川恵です。突然ですが、今から約9ヵ月前、こんなニュースがあったことを覚えていますか? 2014年2月25日、ある父親が逮捕されました。自分の3歳の息子を首輪で窓に繋いでいたそうです。
首輪の長さは約1メートル。鍵の高さは子どもの身長よりも高い位置にあったそうです。男の子は身動きをとることができませんでした。このニュースを聞いて、みなさんどのように思いますか?
テレビではこんな声がたくさん流れていました。「子どもを愛せないんだったら、最初から産むんじゃない」「父親失格だ」。
私は心が痛くなりました。傷ついている子どもを知ったことはもちろんですが、それより、過ちを犯した親に対しての社会の目はこんなにも厳しいんだ、と思ったからです。そして、自分自身が加害者になってしまう可能性もある。その思いが私の心を苦しめました。
自分の将来に思いを馳せたとき、「私はこんな社会で生きていくことはできない」そう思いました。
私の中学時代の話をさせてください。「親は子どもを愛するものなんだよ」「お父さんとお母さんに感謝をしましょう」「命はとっても大切なものなんだよ」。優しい顔をして近づいてくる大人は、そう言いました。
そして、みんな口を揃えて、こう言いました。「今はわからなくてもね、大人になったらわかるよ」。頭ではちゃんと理解できました。でも、心の底から理解することはできませんでした。
中学生のとき、家に帰ると、いつも同じような光景が広がっていました。床の至る所に物が散乱した部屋。カビだらけのお風呂。洗っても洗っても山のように溜まる食器たち。おいしそうなご飯は親と兄弟のもの。
いつも私のご飯はありませんでした。ため息をつきながら掃除をしました。よく見てみると、死んでいた状態で生まれてきた、兄の遺灰がガラクタの中に紛れていました。

アダルト・チルドレンという概念との出会い
中学2年生のとき、ある朝、起きたら、母は亡くなっていました。その母の遺骨も箱に入ったまま、長いあいだ部屋の隅に放置されたままでした。私の家では、命は粗末なものだったんじゃないか。
そう思いながら、中学時代を過ごしてきました。命は大切なものだって、ひとつだって無駄な命はないって、頭ではわかっていました。けれども、大人たちが言うその言葉は、全部、口先だけの言葉に聞こえてしまいました。
そして、心を閉ざすようになりました。自分の感情を殺し、自分の話をしなくなりました。痛みも悲しみもわからなくなりました。自分が今何を考えているかさえ、わからなくなりました。
そして、抑え込んでいた思いは、自分の中で留めることができず、行動に出始めました。中学校を卒業し、だんだんと大人に年齢が近づいていったにも関わらず、恋人との距離のとり方がわからず、クッションで叩きつけてしまったこともあります。
動物が大好きだったはずなのに、構ってほしそうに近づいてくる猫を足で蹴散らしてしまったこともあります。本当は人と仲良くしたいのに、近づいてこようとされると、連絡を取ることを急にやめてしまったり、目を合わせることすらやめてしまったこともあります。
全部大好きなはずなのに、どうして大切にできないんだろう。どうして自分の思いと矛盾した行動をとってしまうんだろう。
あるとき、はっとしました。私は大人に近づくにつれ、だんだんと親と似た行動をとっていたんです。親を反面教師にしようとして、ずっと生きてきたはずなのに、親と似てきてしまっている自分がいたんです。自分が怖くなりました。
もし自分が将来、親になったとき、子どもを苦しめる親になってしまうんじゃないか。そう思ったからです。そんな悶々とした思いを抱えながら、20歳になりました。大人の仲間入りをしました。
「子どもの頃、辛い経験をした分、人に優しくなれるよ。だからがんばってね」と言われてきました。でも、私は優しい大人にはなれませんでした。そのとき、こう思いました。もしかしたら、大人も痛みを抱えているんじゃないか。悲しみを抱えているんじゃないか。そう思ったんです。
ある日、アダルト・チルドレンという概念に私は出会いました。アダルト・チルドレンとは、子どもの頃の家庭での経験や親子関係が大人になってからも精神面や生き方にあまり良くない影響を及ぼしていることを指します。
私はその概念を知ったとき、ホッとしました。ずっと自分を責めてきていたけれど、大人だって完璧ではないんだ、ということを知ることができたからです。そして、こうも思いました。
もしかしたら、私の親だって完璧ではなかったのかもしれない。はっとしました。私は、自分の親に理想の親を押し付けて、親を親としてしか見ることができていなかった。そう思いました。もしかしたら、親だって痛みを抱えているのかもしれない。
親だって悲しみを抱えていたのかもしれない。そう思うことができました。でもやはり、私自身が親になったとき、子どもを傷つけてしまうんじゃないかという不安がありました。子どもの頃はたくさん同情されたり優しくされたりしてきました。
でも、もしも私が子どもを傷つける親になってしまったら、その瞬間に立場は逆転してしまうんだろう。そう思いました。たとえ、子どもに愛情を注ぎたいと思っていたとしても、親と違う子育てを選択したいと思っていたとしても、そんなことなんてお構いなしに、批判をされてしまうんだろう。そう思っていました。

家庭での経験を話せる場所「はじめの一歩」を提供
アダルト・チルドレンという概念を調べていくうちに、自分自身の抱えている痛みを緩和することができること。親と違う子育てを選択できるということを知りました。そして私は、アダルト・チルドレンの克服方法を探し続けました。
カウンセリングやワークショップをたくさん見つけました。でも、どれも高額で、私の手には届きませんでした。自助グループというものも見つけました。自助グループというのは、同じ痛みを抱えた者同士が集まって、自分自身を経験をシェアすることによって、心の傷を癒していく、という集団です。
でも、私が見つけたものは、神様や自分を超えた大きな力に頼るものが多くて、難しくて、なかなか足を運ぶことができませんでした。そして、途方に暮れてしまったんです。
どうして、家族という、こんなに身近な問題のはずなのに、身近な場所で問題を解決できないんだろう。疑問に思いました。もっと身近に、自分の問題を解決できる場所があってほしい。
そう願って、私はもっと気軽に、自分自身の経験をシェアできる場所をつくろうと思い「はじめの一歩」という場所をつくりました。それがちょうど1年前の今日です。1年間、活動を続けてきて、気づいたことがあります。
実は、その場所に足を運ぶこと自体がハードルになってしまっている、ということです。私がつくった場所に足を運べる人というのは、どこにでも行ける人だ。そう思ったんです。
ワークショップやカウンセリングのような専門的なものは社会には必要です。でも、それが専門的であるがゆえに、ハードルが上がってしまっているという現実があると思います。
専門性は時に、人とは違う、という抵抗を生んでしまうんです。だからこそ、どれだけ人に寄り添ったすばらしい制度をつくっても、そこから取りこぼされてしまう人が必ず出てきてしまうのではないか。私はそう思いました。
途方に暮れている人や痛みを抱えている人が求めているものは、専門的な治療法でしょうか。それとも、自分を救ってくれる制度でしょうか。もちろん、それらは社会に必要です。
でも、私はこう思うんです。本当に苦しんでいる当事者が求めているものは、ただ受け止めてもらえること。ただ理解してもらえること。それだけではないか。そう思っています。
身近な所にそういうものが無いからこそ、専門的なものに頼るしかない現実があるんだと思います。そして、専門的なものにハードルを感じた瞬間、途方に暮れてしまうのは、身近に人に理解してくれる人なんていない。そんな前提があるからだと思うんです。

痛みを抱える大人がいることを知ってほしい
だからこそ、私は今、この場を通じて、痛みを抱える大人がいるということを知ってほしいんです。そして、子どもを傷つける親を見たときに、少しだけ想像力を働かせてほしいんです。
もしかしたら、この大人も痛みを抱えているんじゃないか。悲しみを抱えているんじゃないか。そう思って、批判することを少しだけ躊躇してほしいんです。ただ知ること。躊躇すること。
それだけでは何も変えることはできない。そう思うかもしれません。でも、私はそうじゃないと思います。知ること。そして、想像力を持って相手と向き合うこと。ただそれだけで、苦しんでいる当事者は、あなたに理解してもらえている、と感じることができます。それだけで救われる人がいます。
ここにいるあなたも、誰かの居場所になれるかもしれないんです。知ろうとすること。想像力を持つこと。それが当たり前になれば、どんな社会になるでしょう。きっと、今よりもカウンセリングにも行きやすくなるし、身近な人に相談もしやすくなるんじゃないかと思います。
そして、自分が思うような居場所を選択することができるんじゃないかと思います。居場所の選択肢が多い社会の実現が、結果として巡り巡って、悲しい思いをする子どもや痛みを抱える大人を減らすことにつながるのではないでしょうか。
私は自分を受け入れてくれる人たちに出会い、少しだけ居場所ができました。私には実家はないけれど、立ち寄ることができる場所ができました。帰る場所はつくれること。頼れる人は自分で選ぶことができることを知りました。そのことが、今の私を生かしてくれました。
ここにいるあなたも、私を生かしてくれた中のひとりです。今まで私を生かしてくれた皆さん、ありがとうございました。これからも誰かの居場所になってください。
ご清聴ありがとうございました。

運転免許の取得費減免 養護施設の高3ら対象

読売新聞 宮崎 2015年6月14日

県指定自動車学校協会は、県内の児童養護施設などの子どもたちが普通自動車の運転免許を取得するのを手助けしようと、取得にかかる費用のうち10万円を免除する制度を7月から始める。新潟、沖縄両県に次ぐ試みで、就職促進につながると期待されている。
県こども家庭課によると、県内では5月1日現在、442人が児童養護施設(9か所)などに入所したり、里親の元で暮らしている。同施設の高校3年生のうち、2012~14年度に普通自動車免許を取得したのは17・4%にとどまる。
同免許の一般的な取得費は約30万円。国と県が「特別育成費」として約5万6000円を助成しているが、不足分は子どもたちがアルバイトなどで工面せざるを得なかった。資金難から取得を断念するケースもあり、同課は「就職先の選択の幅を狭める一因になっている」と話す。
減免により、半額の15万円程度で取得できるようになる。対象は就職や進学を控える高校3年生など、年間35人程度を見込んでいる。
県内17校が加盟する同協会と県児童福祉施設協議会、県の3者は1日、県庁で協定を結んだ。協会の梅田條尾じょうび会長は「社会に踏み出す第一歩を手伝えることをうれしく思う」と話し、協議会の永田雄三会長は「免許取得は就職の大きな壁だった。子どもたちの希望の光になる」と喜んでいた。

子どもとの外出なし?【引きこもり育児】は、子どもにどんな影響が出る?

ライブドアニュース 2015年6月11日

2011年に0~2歳児の子どもをもつ母親を対象に、平日の外出状況について聞いたアンケートがあるのですが、週に平日5日子どもと「まったく出かけない」と答えた母親が、全体で5.2%に上ったそうです。
このような引きこもり育児で子どもに何か影響はあるのか、子育てに詳しい医師にお話を聞いてきました!

引きこもりのきっかけは些細なこと
1. ママ友との人間関係
ママ友同士の人間関係がうまくいかないなど、女同士の関係がうまくいかずに引きこもります。

2. 子育てでのつまづき
子どもがアレルギーとか発育が遅いなどの理由で、他の子と比較された際に、他の子と比較されるぐらいなら、と引きこもりになるケースもあります。

3. 心の病
母親がうつや、適応障害などのケースです。産後のマタニティブルーや、育児ノイローゼ、嫁姑関係、夫婦関係のトラブルなどから、引きこもるケースも少なくありません。

引きこもり育児の影響はどんな風に表れる?
1. 社会性
親子の愛着は大事ですが、それが十分に形成できたら子どもには社会、他者との関わりが必要です。幼稚園や小学校に行くようになり徐々に身につくようになることもありますが、未就園の時点での経験も重要です。

2. 体の強さ
子どもは外に出て病気になったり、身体をたくさん動かしたりしながら、強くなっていきます。

3. 骨の強さ
ビタミンDは、小腸でのカルシウム吸収を促し、幼少時から発育期にかけての骨や歯の形成と、その発育を促します。ところが、ビタミンDの合成は、食べ物からの摂取は全体の1割程度ともいわれ、そのほとんどが皮膚を通した紫外線の吸収を通じて行われます。
子供の骨を健全に発達させるには、屋外で一定時間遊ばせる時間を作るなどして、日光(紫外線)を肌に浴びる時間を作ることが重要です。引きこもり育児が増えていることにより、紫外線の照射不足が起こり、子供のくる病は全国的に増加傾向にあるという報告がでてきています。

4. 心の豊かさ
外の音や風や匂いを感じ、様々な季節の花々などを見ることにより、子供の心は豊かに育っていくように思います。

医師からのアドバイス
引きこもってばかりの育児ではお子さんへの弊害もありますし、ますます気分が落ち込んだり考えが偏ったりするという悪循環に陥りがちですが、引きこもりの原因を考えると、なかなか根深い問題があります。
原因に応じて、一人で抱え込むことはせず、精神科の病院を受診したり、児童相談所や市町村の窓口に連絡したりしましょう。

介護・子育ての支援強化=担い手不足、地域に期待【戦後70年】

時事通信 2015年6月15日

経済成長に伴う急速な都市化などで核家族化が進んだ。近所同士のつながりも薄くなり、介護や子育てを家族で抱え込むには負担が重くなった。身寄りのない高齢者は老後の暮らしへの不安を募らせた。そんな中、政府は1990年ごろから、介護や子育てに悩む人たちを支援する政策に本腰を入れ、サービスを充実させてきた。
家族も高齢者も安心
総人口に占める65歳以上の割合は50年時点で4.9%だったが、90年に12.0%、2010年に23.0%と急速に増大。
高齢化が進む中、介護保険制度が00年に導入された。旧厚生省OBで制度づくりに携わった国際医療福祉大学大学院の和田勝特任教授は「家族だけでは限界があり、社会的な支援が必要だ。高齢夫婦にとっては、お金はあっても、安心できるサービスがないという不安が強かった」と制度導入の背景を語る。
制度では、身体機能が衰えた高齢者が排せつや入浴の介助といったサービスを受けたり、特別養護老人ホームに入所したりできる。費用は利用者が一部を自己負担するが、残りは税と40歳以上が納める保険料で賄う。家族が高齢者にかかりきりになる「介護疲れ」や、医療の必要性が低いのに長期入院する「社会的入院」を防ぐ効果がある。
きっかけは1.57ショック
1人の女性が生涯に産む子どもの数の推計を示す合計特殊出生率は1947年に4.54だったが、74年を最後に2を割り込み、2013年には1.43まで落ち込んだ。
子育て支援政策が本格的に動きだすきっかけとなったのは、89年の出生率が当時の過去最低を記録した「1.57ショック」。政府内でも危機感が強まり、関係省庁は94年にまとめた「エンゼルプラン」で雇用環境の改善や保育サービスの充実をうたい、これ以降数多くの政策を打ち出した。15年度には、消費税収を財源に、保育所と幼稚園を一体化した「認定こども園」の整備を促す子ども・子育て支援新制度が始まった。
子育て支援策に長く関わってきた村木厚子厚生労働事務次官は少子化が進んだ理由について、「子育てをする若い世代が置かれている環境は厳しくなっているが、『社会で若い世代をサポートする』という本気度が足りなかった」と分析する。その上で「社会全体にある『正社員=長時間労働』という構図を変える動きが広まるよう、もう一押しできるかが大事だ」と指摘。保育サービスの充実とワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)の達成という両面からのアプローチが重要だと訴える。
市町村が知恵を
介護や子育てをめぐる事情は地域によって大きく異なる。介護保険も子育て支援も市町村に制度の運営責任があり、各自治体がどう取り組むかがポイントだ。
介護保険制度創設に関与した神奈川県立保健福祉大学の山崎泰彦名誉教授は「(介護予防などに取り組む)地域支援事業は市町村の独自性を発揮しやすい。市町村のやれることは元気老人をつくることだ」と強調。高齢者が交流する「サロン」や「カフェ」で地域の実情に合った生活支援や介護予防のサービスを提供するなど、自治体の創意工夫に期待をかける。
ただ、労働力人口が減る局面にあり、介護や子育て支援の担い手不足という壁に直面している。15年度予算でも介護職員や保育士の処遇を改善する事業を盛り込んだが、さらなる対応策が必要だ。
70年代初めから子育てをめぐる研究に取り組んできた恵泉女学園大学大学院の大日向雅美教授は「子育ての人材育成は地域の課題」と語る。東京都港区を拠点とするNPO活動で、一時保育などの担い手となる人材育成を実践。04年から養成している「子育て支援者」は1400人余りに達した。「団塊の世代」の男性が企業人として身に付けた経験を生かす地域貢献活動にも力を注ぐ。「地域には人の宝が眠っており、どうやって掘り起こして地域の育児力を高めていくかがカギだ」と指摘し、市町村をはじめ地域ぐるみで人材を育成し、確保する必要性を訴える。

<携帯端末代>「実質ゼロ円」の落とし穴 滞納年200万件

毎日新聞 2015年6月14日

ケータイショップや家電量販店の店頭に、今日も「一括ゼロ円」「実質ゼロ円」という文字が躍っている。消費者としては、高価なはずのスマートフォンやタブレット端末がタダで手に入るというのだからうれしい話だ。その結果、日本は世界で最もiPhoneのシェアが高い国になっている。情報通信分野に詳しい野村総合研究所上席コンサルタントの北俊一さんが、「実質ゼロ円」の仕組みを解説する。

【格安スマホ選び2つのポイント】
新型iPhoneを買わせる「実質ゼロ円」という仕組み
「一括ゼロ円」は、さまざまな条件付きながら、携帯電話端末本体がゼロ円で手に入る販売方法。ただし、「型落ち」端末、つまり発売から1年以上たっても売れ残っている端末が対象だ。携帯電話事業者も販売代理店も、手数料を積み増して、ゼロ円で売ってでも在庫を処分したいような場合、「一括ゼロ円」として販売する。
一方、「実質ゼロ円」は端末本体価格の24分の1の金額が24カ月間、毎月の通信料金から割り引かれ、24カ月後には本体の負担金が実質的にゼロ円になるという仕組みだ。端末を一括購入しても、割賦を組んでも変わらない。
この割引制度は「月々サポート」(ドコモ)、「毎月割」(au)、「月月割」(ソフトバンク)という名称で提供されているが、恐らく日本にしかない制度だ。少なくとも24カ月以上同じ端末と回線を使い続ける人にとっては、とてもありがたく、太っ腹な制度だと言える。
ちなみに、日本はiPhoneのシェアが最も高い国である。その要因の一つがこの「実質ゼロ円」販売にある。一番下のグレードの新型iPhoneが「実質ゼロ円」で手に入ってしまうからだ。

途中解約すると残金と違約金を請求される
例えば、「iPhone6」の16GBモデルは、日本では発売当初から3事業者ともに「実質ゼロ円」に設定されている。Appleのお膝元の米国でさえ、2年契約の場合、購入時に端末代金として200ドル程度を負担しなければならないため、より安いAndroid端末を選択する消費者が多くなる。
この太っ腹な「実質ゼロ円」販売も、当然のことながら、回線契約を24カ月以内に解約すれば、月々の割引がその時点で終了し、負担金が発生する。
特に、端末本体を一括購入ではなく、割賦で購入した場合は、割賦代金の残債(残金)が請求されることになる。つまり、隠れていた“負債”が突然表面化するのだ。
もしあなたが、端末購入から24カ月以内に、今はやりの「格安SIM」「格安スマホ」に乗り換えるのであれば、割賦の残金と、回線「2年縛り」の違約金の合計金額を支払わなければならない。これを一体何カ月で回収できるかを計算する必要がある、ということだ。

61日以上滞納するとブラックリストに
割賦については、さらに注意すべきことがある。携帯電話の割賦販売が浸透して以降、「クレジットカードの審査が通らなかった」「クルマや家のローンが組めなかった」といったトラブルが増えている点だ。携帯電話を割賦で購入した人が、月々の支払いを滞納すると、個人の信用情報、いわゆるクレジットヒストリーに傷が付くからである。
「端末(本体)の購入契約」と「回線契約」とは別の契約であり、月々の支払いを滞納すると、端末(本体)の分割払い代金を滞納したことになる。端末(本体)の分割払いの滞納が3カ月(厳密には61日)以上続くと、その情報は割賦販売法に基づく「指定信用情報機関」に登録されることになる。
完済した場合でも、5年を超えない期間は滞納記録が残り、その情報はクレジットやローンの申し込みなどの際に利用され、滞納情報があると、ローン会社の判断によって契約を断られる可能性がある。

「実質ゼロ円」ほど高いものはない
2013年1月には、政府広報オンラインで「携帯端末代を分割で支払っている場合の滞納にご注意ください。あなたの信用情報に傷がつくおそれがあります」という注意喚起がなされている。そこには、携帯電話のクレジット契約が12年12月時点で約6300万件あり、このうち約200万件が滞納されているという驚くべき数字が示されている。
たかがスマートフォン、と甘く見ることなかれ。スマ-フォンを割賦で購入するということは、たとえ「実質ゼロ円」であってもローンを組むのと同じことである。「実質ゼロ円」をタダだと勘違いしていると、痛い目にあうので、皆さん十分にご注意を。

「ブラックバイト」で学生生活が破綻。それでも抵抗しない学生たち

週刊SPA! 2015年6月14日

昨今、「ブラックバイト」という言葉が定着してきた。「ブラック」とはいうが、どうブラックなのか?ブラックバイトの「過重労働」の実情について、関西学生アルバイトユニオンの青木克也氏はこう語る。
「私たちが相談を受けたケースですが、あるレストランでバイトをしていた20代の女性は、労働時間の取り決めがなく、月80~90時間は働いていました。時給に換算すると300円です。シフトが入っていない日でも呼び出されることが何度もありました。例えば、夜の11時に店長から電話がかかってきて、『今、何やっているんだ?』と聞かれたので、『もう寝ようかと思っていたところです』と答えると、『今すぐ店に来い!』と呼ばれる。彼女は専門学校に通っていたのですが、試験前に勉強していても『そんなヒマがあるなら店に来い!』と。職場に行くのに難色を示すと『俺がこんなに大変なのにお前はわからないのか!』とか、『俺が倒れたらお前は責任取れるのか!?』と怒鳴られるなど、もう言っていることがメチャクチャです。彼女のバイト仲間の男性も過労死寸前まで働かされ、またしょっちゅう殴られていたとか」
「低賃金であるにもかかわらず、正規雇用労働者並みの義務やノルマ、異常な長時間労働は、これまでも非正規労働者が直面してきた問題ですが、最近は学生たちが、学業に支障をきたすなど『学生であることを尊重されない』バイトが多くなっています」。そう語るのは若手弁護士でつくる『ブラックバイト対策ユニオン』の久野由詠弁護士。
「『ブラックバイト』は学生の教育を受ける権利を侵害して教育システム・人材育成システムを破壊するもので、行き着く先は日本経済の破壊だといえます」
実際、学生の生活はブラックバイトのために破綻している。首都圏青年ユニオンの神部紅氏も、こう指摘する。「例えば、バイトの面接で、『週に5~6日の勤務で大丈夫だよね』と言われたら、NOとは言えません。契約書も何も結ばないから、テスト前であってもシフトに入れられて休ませてもらえない。実際に成績が落ちる、なかには退学や休学にまで追い詰められた人もいます」。

ブラックバイトに対抗するには法を知り、泣き寝入りしないこと
学生が法律を知らないこと、企業がそれにつけ込んでいることも大きな問題だ。
「学生の知識不足、企業側の倫理欠如も深刻です。我が国では教育課程における労働者の権利の周知が致命的に不足しています。高校や大学で行われている『キャリア教育』は、企業や社会への『適応』ばかりを教え、『抵抗』を教えない、偏ったものであるといえます。その結果、被害者である学生たち自身が自らの置かれている状況の異常さを認識できません。使用者側はそうした学生の無知につけ込み、学生たちの責任感や向上心に巧みに働きかけて、使用者側に都合良く『教育』し、学生が自ら辞めることができない方向へもっていくという構造があります」(久野弁護士)
ブラックバイトで働いてしまったと思ったときに大事なのは「法律を知ること」「泣き寝入りしない」ということだ。「例えば、数十万円の損害賠償なら到底払えないから私たちに相談が来るけど、皿一枚を割って5000円とか数万円の損害賠償なら『ボクも悪かったし、それで済むなら』で払っているのが大半だと思います。でも労働問題は大概の場合、解決できます。『辞めさせてくれない』パターンだって、法的には『2週間前までに辞意を伝える』だけでOKなんです。賃金や残業代の未払いだって違法なんだから、理を通せば必ず勝てます」(神部氏)。
バイトといえど、法律で守られる存在なのだ。少しでも、おかしいと思ったら、まずは相談することが大事なのだろう。

ブラック企業さえ使い捨て!? 「モンスター社員」の“実態”〈dot.〉

dot. 2015年6月15日

社員の権利は主張するが、仕事はほとんどしない。注意されると法を盾に拒む。――そんな「モンスター社員」の存在に頭を抱えている企業は数多い。
時として百戦錬磨のブラック企業経営者も困らせるモンスター社員たちは、今、企業を困惑させている。「企業経営にとって、もっとも脅威」(兵庫県の地場建設業者)といっても過言ではない。
下手に扱えば何をやらかすか、わからない。勤務態度や仕事上での注意は逆恨み、労働基準監督署に通報するだけならまだしも、インターネット上にあることないこと書き散らかすので、下手をすれば信用も失いかねないからだ。
さりとて、辞めさせようにも明確な理由も見つからない。たとえ社員の重大な過失があったとしても、それを理由に解雇することは「現実的には難しい」(大阪府内の労働基準監督署関係者)側面もある。
結局、社員が自発的に退職するのを待つしかない。もちろん、それまで企業は給与をきちんと支払い続ける。仕事をしない、だから何も生み出さない非生産的な社員に支払う給与は、企業側にとって「無駄な経費」であることは企業経営者ならずとも誰しも察しがつく。
5月18日、塩崎恭久厚生労働相は全国の労働局長に対して、違法な長時間労働を繰り返す企業名を行政指導の段階で公表するよう指示した。行政による「ブラック企業」の企業名公表である。
一向に減ることのない長時間労働を抑制する取り組みとして評価する声がある一方、その対象は複数の都道府県に支店や営業所がある大企業のみが対象ではあるが、「その実効性は極めて高い」(厚生労働省関係者)という。こうした形での企業名公表は、やはり企業側にとっては「大きなイメージダウン」(1部上場の食品メーカー広報担当者)となるからだ。
もっとも公表対象となるような“大企業”の数は日本の全企業のうちごくわずかだ。中小企業庁の『2014年中小企業白書』によると日本の全企業約368万社のうち、大企業の数は約1万1千社、これは日本の企業全体のわずか0.3%だ。さらに「複数の都道府県に支店や営業所がある」企業となるとごく限られている。
それでも「ブラック企業として世間に公表する」という厚労相の指示は、中小企業にとってもインパクトあるものとして受け止められている。
「中小企業の場合、行政が公表しなくてもインターネット上で風聞の形で公表されるから。いちど『ブラック企業』とのレッテル貼りがなされるとそれを打ち消すことは実際は困難を要する」(前出の地場建設業者)
インターネット上での企業名公表とは、近頃プレオープンしたと話題の、「ブラック企業 ~ブラック企業を見極めろ!」というwebサイトだ。これは行政と違い企業名の公表にその規模で制限が設けられてはいないようだ。行政でも救い切れない闇に光を当てる存在といえよう。
だが、行政やインターネット上における民間有志の動きは、逆に「モンスター社員の動きを活発化させる」との懸念もある。長年、ハローワークに勤務する厚労省職員が語る。
「モンスター社員の目的は、ずばり『失業保険狙い』です。雇用保険(失業保険)の給付資格が生じるのは、大ざっぱにいえば満1年勤めればいい。またその保険金給付も自己都合退職なら最大でも150日、しかし会社都合なら最大330日受給できる。行政、インターネット上のブラック企業名公表の動きで、その規模問わず企業側が従業員に萎縮している。そこに彼らモンスター社員がつけ込むという構図なのです。まさに『プロ社員』といってもいいでしょう」
こうした声を裏付けるかのように、過去、正社員として就職しては退職、失業保険給付を繰り返し受けてきたAさん(45歳・男性、兵庫県在住)はその実情をこう明かす。
「ブラックといわれる会社は、当然、何か問題がある。だからこそ、入社しやすく、居座りやすい。正社員として就職して、失業保険給付の条件を満たすことが仕事だ。世間で騒がれている長時間勤務や上司からの厳しい指導もやり方次第でいくらでも回避できる」
最近までAさんは地場精密メーカーで正社員として製造業務に携わっていた。そこはブラックとの風評を時折耳にするところだった。拘束時間が約12時間と長く、給与は年齢や経験に応じて月額16万円から21万円とかならずしも高給とはいえない額というのがその理由だ。
とはいえ、Aさんは、失業給付金をもらうまでの腰掛けと開き直り、仕事は徹底的して「時間をかけて丁寧」にやったという。それを1カ月続けた。やがて質はよくとも時間がかかる非効率的な勤務ぶりに、上司は業を煮やしAさんを厳しく叱責した。
「叱責された後、すぐに労働基準監督署に電話した。証拠などなくていい。その場ですればいい。そして労基署に『自分は仕事を一生懸命やっているのにこんな仕打ちを受けた』と話した。私はサボタージュしたのではなく、あくまでも『丁寧に仕事をした』だけ。それで厳しく叱責したとなるとこれは会社側にも問題ありでしょう。ブラックですよね?」(Aさん)
こうしたAさんの態度に勤務先のメーカー側はすぐに反応した。まず、製造職から外し、日々、草むしりを命じた。誰もAさんに厳しく指導する者がいなくなったかわりに、親しく話しかける者もいなくなった。だが、それでも別に困ることもない。所詮は失業保険給付をもらうまでの腰掛けだ。何をいわれても平気なのだ。定時の出退勤で給与もきちんともらっている。文句はない。
「企業側に、『こいつ面倒くさいな』と思わせれば、後はもうこっちのものです。世間でブラックと評判の企業ほど、ややこしい者を抱える余裕はないので。そんな人間を刺激して、企業が抱える問題が表に出るリスクのほうが高いですから」
過去、ブラック企業を含め、いくつかの企業を“使い捨て”にした経験のあるAさんは、決して、従業員が「一生、御社で勤めたい」という態度を取ってはならないという。
「住宅ローンがあるとか、生活が厳しいとか、『御社で働きたいです』という態度を出せば、それは企業側もつけ込みますよ」(Aさん)
ではどうすればいいのか。Aさんは「毅然とした態度で自分の目的を企業側に言外に伝えることが大切」だとした上でこう話す。
「失業保険の受給資格ができればすぐに辞める。辞めた後はぐちゃぐちゃ騒がないということを、経営者や上司との話し合いの席で話の端々ににおわせ、態度で示すのです。そうすると、企業側は折れてくる。場合によっては会社都合で早めに退職させてくれることもあります。退職後の失業保険給付の月数も延びるのでこちらにとっても好都合です」
とくに入社して最初の1カ月間が勝負だという。まずは、暇さえあればスマホを触っている姿を経営者や上司、同僚に見せつける。これで、「何かあればネットに書き込みをする者」との印象を周囲に植え付けるのだ。そして、仕事は“丁寧に”行う。決してサボっているのではないというアピールだ。極め付きは上司から叱責を受けた際、「タダ者ではないな」と思わせることだ。労働基準監督署への通報、弁護士への相談をにおわせるのだ。
「ブラックと評判が立つ喧嘩慣れしている企業ほど意外にも対応は早い。逆に喧嘩慣れしていない企業ほどこじれる傾向があります。でも、こじれれば、それだけ従業員側が有利になります。従業員は弱い立場です。自分の身を守るのは当然でしょう」(Aさん)
なるほど、ブラック企業ですら持て余す理由がよくわかる。長らく続いた円高不況も終焉を向かえ、日経平均株価も2万円台を超えた。就職戦線はかつてのバブル期を思わせる売り手市場だという。「失われた20年」の長らく続いた不況期に咲いた徒花が「ブラック企業」だとするならば、活況期を迎えた今、花開こうとしているのが「モンスター社員」という名のそれかもしれない。ここ数年来、キャリア教育が成熟したが、それ以前の「職へのモラル」教育が年齢問わず必要だ。どこか空恐ろしくなる。