虐待・育児放棄が潜む危険 居所不明児童

中日新聞 2014年7月14日

全国的に問題となっている居場所が一年以上確認できない「居所不明児童・生徒」。鈴鹿市では二年前、十人の子どもの所在がつかめていなかった。いずれも市に届けずに転出していた事例だったが、市が積極的に所在を調べようとしていたとはいえず、対応は甘かった。安否不明の子どもには虐待やネグレクト(育児放棄)などが潜む可能性があり、踏みこんだ取り組みが急務だ。
市町村の教育委員会は毎年五月に小中学生の就学状況を調べている。鈴鹿市では二〇一二年時点で、住民票では学校に通う年齢のはずなのに就学していない児童生徒が十人いた。翌一三年の調査までに七人、その後に三人の所在がつかめたため、現在はゼロになった。
十人の子どものうち、九人は親が外国籍で、引っ越しの手続きをしないまま出国していた。もう一人は他県に引っ越していた。
いずれも虐待などの事例ではなかったものの、自治体が子どもの居所を把握していないことは危険をはらんでいる。虐待やDV(家庭内暴力)、生活困窮による夜逃げなどが背景にあるケースが多いからだ。今年五月末に神奈川県厚木市のアパートで当時五歳だった男児の白骨遺体が見つかった事件では、七年以上も行方が分かっていなかった。
鈴鹿市では、現在高校一年になっている年齢の一人が十年以上前に出国したことを把握できていたにもかかわらず、市教委の記録ミスで居所不明のまま放置されていた。対応への意識の低さが表れている。
市教委学校教育課の山田洋一課長は「急に学校に通わなくなった場合は各学校が家庭に足を運ぶなど積極的に対応してきたが、最初から通わない子どもへの関心は薄かった」と反省し「実態の把握を強めるよう国からも指導されており、今後は確認できるまで誠実に対応したい」と話す。
虐待やDVの窓口となる市子ども家庭支援課の瀬井より子課長は「虐待など動きがある場合の態勢は円滑になっているが、厚木の事件が明るみに出るまで居所不明の事例は意識から抜けていた」と認める。一方で「事態のすべてをつかむのは難しい。特に住民票を移さずに転入してきた場合は、把握する手掛かりがない」と明かす。
子ども家庭支援課には、近隣の泣き声、悲鳴、怒声を聞いたといった通報が毎日五件前後あるものの「子どもがいなくなった」「見掛けなくなった」などの連絡は皆無という。鈴鹿市は人の流出入が激しいため、近所の人も「急に引っ越したのかな」と認識する場合が多いためだ。
瀬井課長は「地域に意識を高めてもらう一方で、保健センターの利用や児童手当の手続きなど市へのかかわりを見逃さず、各所と連携を図りたい」と話す。
NPO法人「児童虐待防止協会」の津崎哲郎理事長は「学校や保健所、市の各課など個別では対処しきれず、不審な点があったら連携してチーム対応する必要がある。専門機関や民間の力も借りてきめ細かに対応しなければ、悲惨な事件は今後も起きてしまう」と指摘する。
(鈴木智重)

社説:社会福祉法人 時代に合った見直しを

毎日新聞 2014年07月13日

特別養護老人ホーム(特養)や障害者施設、保育園などを運営する社会福祉法人に対し、厚生労働省の検討会は「公益活動の推進」や「法人運営の透明性」を求める改革案をまとめた。社会福祉法人は法人税や固定資産税が非課税で、各種助成金制度も優遇されているが、最近は多額の内部留保や金銭授受を伴う法人の合併・事業譲渡などが批判されている。抜本的な見直しは当然だ。
公的な補助金を得ての収益事業しか行わない法人が現在は多いが、戦後の引き揚げ者や孤児などの対応に行政が苦慮していたことから民間の篤志家が私財を投じて始まったのが社会福祉法人だ。行政の認可がなければ設立できず、解散する際には残余財産を国庫に納付しなければならない。日本独特の制度である。
現在は全国で約1万7000法人がある。20年前の1.7倍だ。2000年に始まった介護保険制度で株式会社やNPO法人の参入が本格化してから、社会福祉法人の優遇ぶりが問題視されるようになった。同種の収益事業をやりながら株式会社やNPO法人は課税されるのだ。厚労省の調査では社会福祉法人が経営する特養で1施設あたり平均3億円を超える内部留保があることも明らかになった。
「老朽化した施設の建て替えや修繕のためには積立金が必要」などと社会福祉法人の経営者らは反論するが、内部留保がないNPO法人が銀行から建設費を借金する例も珍しくはない。公的な補助金で事業を運営する一方で、2世や3世が経営を継承し、複数の親族を職員にして収益を給与に充てるなど「私物化」への批判も根強い。経営実態が不透明な法人が多いことから、政府の規制改革会議は財務諸表の公表を提言したが、12年度分を公表した法人は全体の52%(13年9月末現在)にとどまっている。
社会福祉法人への風当たりが強まる一方で、従来の収益事業では手の届かない問題も増えてきた。孤立や失業から起きる生活困窮、独居や夫婦のみ高齢世帯の認知症、児童虐待などである。行政や地域住民の自主的な取り組みだけでは対応が難しい。こうした公益活動こそが本来の社会福祉法人の役割ではないのか。今後も収益事業しかやらないのであれば社会福祉法人だけ優遇税制を続ける必要はないだろう。
一つの施設しか運営していない小規模な社会福祉法人が多いのも事実だが、複数の法人で共同して公益活動を実施している例もある。監督責任のある厚労省や自治体も法人任せではなく、強い指導力を発揮して時代のニーズに応えられる社会福祉法人へと脱皮させなければならない。

施設出身者に働く場を 不用品回収 対価は就労

東京新聞 2014年7月12日

不用品を無料で回収する代わりに、児童養護施設出身の若者の就業体験を企業で受け入れてもらう-。全国でも珍しいそんな取り組みを、栃木県鹿沼市の経営者らが始めた。「信頼できる大人が就労を助ける仕組みが大切だ」との思いからだ。 (大野暢子(まさこ))
発案したのは、同市在住で、美容院や居酒屋を経営する大谷木広行(おおやぎひろゆき)さん(45)。
養護施設を意識したのは六年前。中学生だった次女の友人に、施設で暮らす少女がおり、非行が原因で施設を去ることになった。
「家に置いてあげて」と懇願する次女に根負けし、数日間預かることに。少女は、みんなで食卓を囲んで「家族ってこんなふうなの?」とはしゃいだ。やがて別の施設への入所が決まり、別れを泣いて惜しみながら、転校していった。
「愛情を注げば、非行に走らなかったのでは」。そう考えて三年前、市内の養護施設で子どもと一緒に花壇を作ったり、お菓子を贈ったりするボランティアを、経営者仲間らと始めた。
バザーも開催した。家庭や企業から家具や家電製品などの不用品を引き取り、売った利益を寄付した。これが、施設側ばかりか、家庭や企業にも好評だった。不用品回収の依頼は年間で約百二十件もあった。
活動する中で、養護施設を退所した多くの若者が、新しい環境になじめず、仕事を辞めたり孤立を深めたりしていると聞いた。
「寄付では自立支援にならない。ビジネスとして成立した職場での、安定した雇用が必要」。不用品回収はビジネスとして成り立つと感じた大谷木さんは今年一月、支援の拠点となる資源回収会社「栃木ecoリサイクル」を設立した。
賛同する企業に無料会員になってもらい、不用品をただで回収(産業廃棄物は有料)。引き換えに、職場になじめない、定職に就いていないなどの退所者を一定期間、就業体験させてもらう。働きぶり次第では、そのまま就職することも。
退所者にとっては、就職までいかなくても、社会生活になじむ貴重な機会となる。会員企業にとっても、働きぶりや人柄を見て優秀な人材を確保できる。
すでに建設業や内装業など十数社が会員企業に名乗りを上げている。首都圏全域から募りたい考え。
「栃木eco-」自体も施設出身の男性(19)を雇っている。幼少期に両親が離婚し、施設を転々としてきた。退所後、知人間のトラブルに巻き込まれ、行き場をなくしていた時、前にいた施設から紹介された。「仕事に必要な運転免許を取るのが今の目標。いずれ重機の免許も取りたい」
栃木県内の養護施設でつくる「とちぎユースアフターケア事業協同組合」(宇都宮市)の牧恒男理事長は「(施設出身者に対する)企業の理解にもつながり、早期離職を防げる」と事業を歓迎する。
問い合わせは、大谷木さんらが事業普及のために設立した一般社団法人「明日華(あすか)」=電0289(74)7123=へ。
<児童養護施設> 児童福祉法に基づき、虐待や経済的な原因で、保護者が育てられなくなった子どもを養育する。厚生労働省によると2012年現在、全国の570カ所に、計2万8188人が入所。原則、18歳になると退所する。全国児童養護施設協議会の調査では、04年度中に高校を卒業した子どもの約8割が退所。7割が就職したが、うち3割が05年度中に転職を経験した。