性虐待から自分守って 傷ついた子支援のプログラム

中日新聞 2014年9月12日

あいち小児保健医療総合センター(愛知県大府市)の心療科病棟では、性虐待などで心が傷ついて入院した子どもらが退院後、自らの身を守れるよう支援してきた。虐待を受けた際、子どもが周囲に訴えるよう教えるプログラムを広げるため、最近は職員が地域にも出掛けている。
「今日はこころと体の勉強をします」。センターの保育士、棚瀬佳見(よしみ)さん(53)は七月、児童向けの「ケアキットプログラム」を愛知県内の児童養護施設で、臨床心理士の大橋陽子さんと実演した。施設職員が子ども役になって学んだ。プログラムは一時間を週一回、三回一セット。紙芝居や操り人形などで遊びながら学べるため、センターに入院中の小学生向けに五年前に導入した。
心療科病棟に入院する子や施設に入所する子の中には、性的な虐待で心が傷ついた子もいる。心療科の医師、新井康祥さんによると、被害に遭った子は恥ずかしさや人間関係が壊れることへの恐怖などから、口外しにくいという。嫌な思いをしても、それが不適切な行為かどうかの判断がつかず、周囲に相談できないこともある。
性的虐待に限らず、暴力や虐待にさらされた子は無力感が強い。自分の意見が通らないのは仕方ないと、心にふたをしてしまいがちで、本音を話さない。自尊心を取り戻すため、被害と同じことを別の子にすることも。殴られるなどの虐待が日常化したため「気に入らないことがあれば殴るのが当たり前」と考え、加害者になることもある。
プログラムでは尻や胸など、体には原則、他人が触ってはいけない部分があることや、もし触られた場合は「やめてと言う」「信頼できる大人に言う」という基本的なことを伝える。紙芝居などで具体例を示し、善悪の基準と不適切な行為への対処法を伝える。
紙芝居は大人に相談した結果、困り事が解消する物語で、「嫌なことがあったら助けを求めて」とのメッセージを込めた。ふたをした気持ちに気付くよう「いろんな感情があっていいよ」ということも伝える。
信頼できる大人に虐待から救われる物語を聞くうちに、虐待経験を思い出し、動揺する子もいる。院内では子どもたちの様子をスタッフが観察し、プログラム終了後に動揺した子から話を聞くなど、心のケアをする。やり場のない気持ちを抱え、粗暴な言動の子には、その気持ちを受け止め、落ち着けさせるにはどうすればいいか、同じ目線で一緒に考える。「気持ちが表に出るのは治療の第一歩」と新井さんは話す。
プログラムは子どもに身を守るすべを伝えると同時に、隠していた本当の気持ちと向き合う糸口でもある。「プログラムによって施設でも、子どもたちの傷ついた心に気付き、スタッフで共有する場ができる」と大橋さん。棚瀬さんは「皆が参加することで、自分たちの体を大切にする文化ができる」と指摘している。

保育所定員数が大幅に増加した自治体、1位「横浜市」

リセマム 2014年9月16日

厚生労働省は9月12日、「待機児童解消加速化プラン」に基づく自治体の取組み状況を発表した。保育拡大量は、平成25年度が7万2,430人、平成26年5月30日時点が11万8,803人。定員数が大幅に増加したのは、横浜市、福岡市、川崎市、札幌市、名古屋市など。
待機児童解消加速化プランは、待機児童の解消に向けて、平成25年度からの2年間で約20万人分、平成29年度末までの5年間で合わせて約40万人分の保育の受け皿を確保するため、自治体が行う保育所の整備や保育士確保などの取組みに対して、国としてできる限り支援しようとするもの。
平成26年5月30日までに454市区町村が「待機児童解消加速化計画」を提出し、計16.1万人の保育拡大を実施。また、待機児童解消加速化プランに不参加の自治体(1,288市町村)から提出のあった「保育拡大計画」は、計3万人であった。保育拡大量は合計19.1万人に上る。
主要事業の実施状況は、保育所緊急整備事業が333市区町村、賃貸物件による保育所整備事業が96市区町村、小規模保育設置促進事業が84市区町村、幼稚園長時間預かり保育改修事業が43市区町村などとなっている。
同日発表された保育所の定員や待機児童の状況取りまとめによると、平成26年4月1日時点での保育所定員は、前年比4万7千人増の234万人、保育所を利用する児童数は、前年比4万7,232人増の226万6,813人となった。定員数が大幅に増加した地方自治体は、横浜市(2,390人)、福岡市(1,820人)、川崎市(1,330人)、札幌市(1,180人)、名古屋市(1,028人)など。
また、待機児童数は2万1,371人で4年連続の減少。待機児童数はこの1年間で1,370人減少した。100人以上減少したのは、福岡市(695人減)、川崎市(376人減)、名古屋市(280人減)などの9市区町。一方、世田谷区(225人増)、大田区(175人増)、熊本市(139人増)など6市区は100人以上増加した。

高校生の求人倍率、6年ぶりに1倍を超える

エコノミックニュース 2014年9月15日

厚生労働省の発表によれば、2015年3月に就職を希望する高校生の求人倍率が、1.28倍と6年ぶりに1倍を超えたことがわかった。
12日、厚生労働省は来春卒業予定の高校生の求人・求職状況(7月末現在)を公表。それによれば、求人数は前年同期比38.4%アップ、そして求人倍率は前年同期よりも0.35ポイント増えて1.28倍であった。この時期に求人倍率が1倍を超えるのは6年ぶりのことで、景気回復に伴い、建設業を中心とした企業側に人手不足感が強まったことが影響しているとみられている。
来春に高校を卒業し、就職を希望する高校生の数は7月の時点で18万6462人であり、去年の同時期とほぼ横ばい。しかし企業からの求人は同時期38.4%アップの23万8462人であった。それにより、高校生1人あたりの求人数を表す求人倍率が6年ぶりに1倍を超えることとなった。全都道府県のうち、求人倍率が1倍を超えたのは29都府県であった。
また求人倍率を都道府県別に見てみると、東京の3.74倍が最も高く、その後に大阪の2.05倍、愛知の1.91倍が続いた。また11年3月に発生した東日本大震災の被災地である岩手、宮城、福島についても、それぞれ岩手が1倍、宮城が1.6倍、福島が1.25倍と1倍を超える結果となった。
こうして都市部では求人状況の改善が見受けられるものの、九州や沖縄などの地方の求人倍率は厳しい状況が続いている。沖縄の求人倍率は全国で最も低く、0.49倍、次いで次いで青森が0.61倍、鹿児島が0.63倍という結果であった。
そして求人数を業種別に見てみると、建設業が前年同期比50.6%アップの3万1783人、卸・小売業は前年同期比45.3%アップの2万7770人、製造業は前年同期比37.5%アップの7万5298人であった。
15年3月に卒業する高校生に対する企業の採用活動は、16日より解禁となる。なお15年3月卒業予定の中学生の求人倍率は前年同期よりも0.04ポイント増えて0.41倍であった。
就職難、就職氷河期などという言葉がいわれて久しいが、高校生の求人については現在、売り手市場となりつつあるようだ。(編集担当:滝川幸平)

米兵・ジェレミーさん ボランティアで子どもたちと交流6年

神奈川新聞 2014年9月16日

米海軍横須賀基地(横須賀市)で働く米兵のジェレミー・バックストンさん(35)は6年間、仕事の傍ら、子どもたちとの交流などボランティア活動を続けてきた。自らを「親善大使」と言って笑う陽気で実直な人柄で周囲に溶け込み、愛されてきた。今月中旬、惜しまれながら母国へ戻る。
現在、陸上勤務のジェレミーさんは、佐世保(長崎県佐世保市)と横須賀の両基地で通算10年にわたり日本に滞在、その間に日本人女性と結婚した。仕事以外では基地内の大学に通ったり、週末のボランティア活動に参加したり、と精力的に日々を過ごす。
市内の児童養護施設で子どもたちとバーベキューをしたり、ホームレスに食料支援をしたり、とさまざまな形で社会貢献してきた。2012年1月からは幼児ら向けの「ネーティブによる英語絵本の読み聞かせ」(主催・川名亘子さん)に参加し続けている。
新しい英単語は繰り返し丁寧に発音して聞かせた。長身で筋骨隆々の姿に「最初は子どもたちが怖がっていたが、回を重ねると近寄ってくれたのがうれしかった」と振り返る。
教え方も板につき、自らが進行役としてプログラムを進めることもあった。川名さんは「彼のようにずっと(読み聞かせ役として)来てくれる人は見たことがない。まるで幼稚園の先生みたい」と感心する。
ジャズで有名なルイジアナ州ニューオーリンズ出身。母もやはり、奉仕精神に満ちていた。おなかをすかせた近所の子どもたちにご飯を分けたり、ホームレスに食料支援を続けたり。「彼女からそういう姿勢を学んだ」という。
草の根の国際交流を進めてきた。「米国発のニュースは不幸にもネガティブなものが多い。でも、実際に会う米国人の印象は違うはず。イメージを少しでも変えてもらうためにやってきた。アンバサダー(親善大使)という言葉が好きだね。二つの文化に橋を架けたかった」
妻と一緒に業務で帰国するが、「また休暇中に日本へ戻ってくるさ」と約束した。

<昼寝>効率アップ狙い導入企業も 仕事はかどる?

毎日新聞 2014年9月15日

昼寝効果が見直されている。安全性や社員の健康維持、仕事の効率を高める観点から、勤務時間内に積極的に取り入れる企業も出てきた。
【1日10~30分】昼寝の効果 能率向上、認知症予防にも
さいたま市のリフォーム会社「OKUTA」は、仕事中に眠気を感じた時に15~20分間の仮眠を推奨する「パワーナップ(短い仮眠)」制度を設けている。
午後3時、オフィスの一角で、男性社員が机に伏して寝始めた。周囲の社員は気にせず仕事を続けている。受注業務担当の大竹明日香さん(29)は、「眠くて限界という時に15分仮眠します。効果は絶大で、驚くほど仕事効率が上がります」。
2012年から導入し、内勤社員の3分の1が日常的に利用する。同社担当者は「パワーナップは働きやすい環境作りのために導入したもので、業績向上が目的ではありません。社員には仕事効率が上がると好評で、関連は不明ですが、業績も伸びています」。
昼寝を導入する企業は増えている。IT企業「GMOインターネットグループ」は、昼休みの午後0時半から1時間、大会議室にリクライニング椅子を並べ、昼寝スペースとして開放する。JR東海も、運転の安全性維持の観点から、運転士や車掌らに仮眠を推奨し、仮眠室も設ける。
昼寝の場を提供する店も人気だ。東京・神保町のオフィス街にある「おひるねカフェcorne(コロネ)」は、女性専用のカフェ兼昼寝スペースだ。
天蓋(てんがい)カーテンで仕切られたベッドが10台。照明を薄暗くし、アロマオイルがたかれている。枕は17種類から選べ、寝間着も借りられる。利用は10分160円。昼休みや午後3時ごろの利用者が多い。塚島早紀子店長は「オフィスで休める場所は少ない。昼寝スペースのニーズは今後も増えると思う」。
睡眠不足は、高血圧や糖尿病などの生活習慣病やうつ病につながる。だが、経済協力開発機構(OECD)の09年の調査では、日本人の1日平均睡眠時間は7時間50分。調査対象18カ国の中、7時間49分の韓国に次ぐ2番目の短さだ。
厚生労働省が3月に示した「睡眠指針」では、睡眠不足を補うために短時間の昼寝は望ましいとし、眠気が生じた場合は30分以内の昼寝が効果的とした。
睡眠の研究機関「睡眠評価研究機構」(東京都中央区)の白川修一郎代表は、「昼寝は脳のリフレッシュに最も効果的な方法。現代の日本人には重要」とする。
白川さんに、効果的な昼寝方法を聞いた。時間は成人(20歳~50代)なら15~20分程度、55歳以上だと30分程度が良い。長いと目覚めても睡眠の影響が続き、仕事効率が低下するからだ。夜間の睡眠に響かないよう、午後5時(高齢者は同3時)までに取るのがよい。
姿勢も重要だ。一番良いのはリクライニング式の椅子に座り、背もたれの角度を60度程度取った姿勢だ。リクライニング椅子がなければ、壁際にオフィスで使う椅子を置き、壁に頭をもたせかけて寝る。ネックピロー(首枕)を使い、しっかり頭を固定するのがポイント。机の上に伏せて寝る場合は、胸を圧迫しないよう厚めのクッションを使う。
昼寝前には、寝過ごさないようタイマーをセット。昼寝前にコーヒーなどカフェイン飲料を飲むと、昼寝が終わる頃に効き始めてスムーズに目覚められる。
渋谷ロフト(同渋谷区)でお薦め昼寝グッズを聞いた。人気はMOGUの「ホールピロー」(2052円)。ビーズクッションで変形自在、中央に穴が開いたデザインで、うつぶせ寝、腰当てなど多様な用途で使える。首に巻くタイプのネックピローでは、U字形や長方形に変形するもの、3回程度息を吹き込むだけで瞬時に膨らむもの、フード付きのものなどがある。アイマスクも、オーガニックコットン製、アイメークをした状態でも気にせず使える立体型など、種類豊富だ。効果的な昼寝のためにグッズも上手に活用したい。【細川貴代】

みなさまに深くおわびします 朝日新聞社社長

朝日新聞 2014年9月12日

朝日新聞は、東京電力福島第一原発事故の政府事故調査・検証委員会が作成した、いわゆる「吉田調書」を、政府が非公開としていた段階で独自に入手し、今年5月20日付朝刊で第一報を報じました。その内容は「東日本大震災4日後の2011年3月15日朝、福島第一原発にいた東電社員らの9割にあたる、およそ650人が吉田昌郎所長の待機命令に違反し、10キロ南の福島第二原発に撤退した」というものでした。吉田所長の発言を紹介して過酷な事故の教訓を引き出し、政府に全文公開を求める内容でした。
しかし、その後の社内での精査の結果、吉田調書を読み解く過程で評価を誤り、「命令違反で撤退」という表現を使ったため、多くの東電社員の方々がその場から逃げ出したかのような印象を与える間違った記事になったと判断しました。「命令違反で撤退」の記事を取り消すとともに、読者及び東電福島第一原発で働いていた所員の方々をはじめ、みなさまに深くおわびいたします。
これに伴い、報道部門の最高責任者である杉浦信之編集担当の職を解き、関係者を厳正に処分します。むろん、経営トップとしての私の責任も免れません。この報道にとどまらず朝日新聞に対する読者の信頼を大きく傷つけた危機だと重く受け止めており、私が先頭に立って編集部門を中心とする抜本改革など再生に向けておおよその道筋をつけた上で、すみやかに進退について決断します。その間は社長報酬を全額返上いたします。
吉田調書は、朝日新聞が独自取材に基づいて報道することがなければ、その内容が世に知らされることがなかったかもしれません。世に問うことの意義を大きく感じていたものであるだけに、誤った内容の報道となったことは痛恨の極みでございます。
現時点では、思い込みや記事のチェック不足などが重なったことが原因と考えておりますが、新しい編集担当を中心に「信頼回復と再生のための委員会」(仮称)を早急に立ち上げ、あらゆる観点から取材・報道上で浮かび上がった問題点をえぐりだし、読者のみなさまの信頼回復のために今何が必要なのか、ゼロから再スタートを切る決意で検討してもらいます。
同時に、誤った記事がもたらした影響などについて、朝日新聞社の第三者機関である「報道と人権委員会(PRC)」に審理を申し立てました。すみやかな審理をお願いし、その結果は紙面でお知らせいたします。
様々な批判、指摘を頂いている慰安婦報道についても説明します。朝日新聞は8月5日付朝刊の特集「慰安婦問題を考える」で、韓国・済州島で慰安婦を強制連行したとする吉田清治氏(故人)の証言に基づく記事について、証言は虚偽と判断して取り消しました。戦時の女性の尊厳と人権、過去の歴史の克服と和解をテーマとする慰安婦問題を直視するためには、この問題に関する過去の朝日新聞報道の誤りを認め、そのうえでアジアの近隣諸国との相互信頼関係の構築をめざす私たちの元来の主張を展開していくべきだと考えたからです。この立場はいささかも揺らぎません。
ただ、記事を取り消しながら謝罪の言葉がなかったことで、批判を頂きました。「裏付け取材が不十分だった点は反省します」としましたが、事実に基づく報道を旨とするジャーナリズムとして、より謙虚であるべきであったと痛感しています。吉田氏に関する誤った記事を掲載したこと、そしてその訂正が遅きに失したことについて読者のみなさまにおわびいたします。
慰安婦報道については、PRCとは別に社外の弁護士や歴史学者、ジャーナリストら有識者に依頼して第三者委員会を新たに立ち上げ、寄せられた疑問の声をもとに、過去の記事の作成や訂正にいたる経緯、今回の特集紙面の妥当性、そして朝日新聞の慰安婦報道が日韓関係をはじめ国際社会に与えた影響などについて、徹底して検証して頂きます。こちらもすみやかな検証をお願いし、その結果は紙面でお知らせします。
吉田調書のような調査報道も、慰安婦問題のような過去の歴史の負の部分に迫る報道も、すべては朝日新聞の記事に対する読者のみなさまの厚い信頼があってこそ成り立つものです。
わたしたちは今回の事態を大きな教訓としつつ、さまざまなご意見やご批判に謙虚に耳を澄まします。そして初心に帰って、何よりも記事の正確さを重んじる報道姿勢を再構築いたします。そうした弊社の今後の取り組みを厳しく見守って頂きますよう、みなさまにお願い申し上げます。

吉田調書「命令違反」報道、記事取り消し謝罪 朝日新聞

朝日新聞 2014年9月12日

朝日新聞社の木村伊量(ただかず)社長は11日、記者会見を開き、東京電力福島第一原発事故の政府事故調査・検証委員会が作成した、吉田昌郎(まさお)所長(昨年7月死去)に対する「聴取結果書」(吉田調書)について、5月20日付朝刊で報じた記事を取り消し、読者と東京電力の関係者に謝罪した。杉浦信之取締役の編集担当の職を解き、木村社長は改革と再生に向けた道筋をつけた上で進退を決める。
朝日新聞社は、「信頼回復と再生のための委員会」(仮称)を立ち上げ、取材・報道上の問題点を点検、検証し、将来の紙面づくりにいかす。
本社は政府が非公開としていた吉田調書を入手し、5月20日付紙面で「東日本大震災4日後の2011年3月15日朝、福島第一原発にいた東電社員らの9割にあたる約650人が吉田所長の待機命令に違反し、10キロ南の福島第二原発に撤退した」と報じた。
しかし、吉田所長の発言を聞いていなかった所員らがいるなか、「命令に違反 撤退」という記述と見出しは、多くの所員らが所長の命令を知りながら第一原発から逃げ出したような印象を与える間違った表現のため、記事を削除した。
調書を読み解く過程での評価を誤り、十分なチェックが働かなかったことなどが原因と判断した。問題点や記事の影響などについて、朝日新聞社の第三者機関「報道と人権委員会」に審理を申し立てた。
朝日新聞社が、韓国・済州島で慰安婦を強制連行したとする吉田清治氏(故人)の証言を虚偽と判断し、関連記事を取り消したこと、その訂正が遅きに失したことについて、木村社長は「おわびすべきだった」と謝罪した。元名古屋高裁長官の中込秀樹氏を委員長とする第三者委員会を立ち上げ、過去の報道の経緯、国際社会に与えた影響、特集紙面の妥当性などの検証を求める。
木村社長は、慰安婦特集について論評した池上彰氏の連載コラムの掲載を見合わせた判断については、「言論の自由の封殺であるという思いもよらぬ批判があった」「責任を痛感している」とした。

「読者の信頼傷つけた」朝日新聞社長会見、主なやりとり

朝日新聞 2014年9月12日

吉田調書をめぐる報道で、朝日新聞社の木村伊量社長が11日、「読者の信頼を大きく傷つけた」として謝罪した。慰安婦問題についても訂正が遅れたなどとおわびした。東京本社(東京都中央区)で開かれた会見には、国内外のメディア関係者約250人が詰めかけ「吉田調書について、いつ疑義が生じたのか」「朝日新聞の構造的な問題か、記者の資質か」などの質問が出された。朝日新聞社からは、木村社長のほかに杉浦信之取締役・編集担当、喜園尚史執行役員・広報担当が出席した。主な質疑と本社側の回答は以下の通り。

吉田調書報道
――吉田調書報道に関していつ、どんな疑義が生じて会見に至ったのか。
「記事掲載後しばらく、東京電力の社員をおとしめる記事ではないかといった批判があった。そうした意図はなかった。調書を入手しているのは我々だけという認識でいた時点では批判はあたらないと考えていた。8月下旬以降、我々の資料と同じものを入手した報道機関が朝日新聞と違う方向の記事を報じる中で、真剣にこの報道の問題について向き合うようになった」
――事実の誤りなのか、評価の誤りなのか。
「吉田所長が『線量が低いところに残るように』と話した記録は朝日新聞が独自に入手した資料にある。テレビ会議で吉田所長が話したその内容から、所長の命令があったと理解した。福島第一原発から第二原発に多くの方が移ったことが、形式的には命令と違う形の行動になったということで、命令違反と考えた。しかし、多くの方にその命令が伝わっていたかどうかを十分に吟味しないまま記事にしたということが8月末から9月の調査ではっきりした。結果的に事実ではないと判断した」
――吉田所長の命令はあったが伝わっていないと。それを命令違反と言った。
「その通りです」
――調書を全文読めば、そのように読めない。吉田所長の「第二原発に行った方が正しかったんじゃないか」という大事な部分を掲載しなかったことには、意図的ではないかとの批判がある。
「意図的ではない。非常に秘匿性の高い資料であったため、調書を見ることができる記者を限定していた。福島原発事故の取材が長い専門的な記者が取材にあたった。結果、取材班以外の記者やデスクの目に触れる機会が非常に少なく、チェックが働かなかった」
――当時の作業員に命令違反の事実があったか、取材を試みたのか。
「所長の命令を聞いていながら第二原発に行った、という社員の声は聞けなかった。取材が極めて不十分だった」
――聞けないまま記事にしたのか。
「それが、裏付けが不十分だったということです」
――調書で、吉田所長が第二原発に行った方が正しかったと言っている。どのように評価したのか。
「取材班の説明では、吉田所長は事後的な感想としてそう答えた、と。朝日新聞デジタルではこの発言は取り上げたが、新聞は割愛した。載せるべきだった」
――海外メディアも報じたことで、多くの作業員が勝手に逃げ出したとの印象を広げた点について。
「まさにおわびしないといけない点。記事取り消しの発表後、早急に英文で発信していきたい」

慰安婦報道・池上さんコラム問題
――慰安婦問題で池上彰さんの連載コラムを掲載しなかった判断について、批判がある。
「原稿の内容が朝日新聞にとってかなり厳しいものであるという話は聞いたが、私(木村社長)は編集担当の判断にゆだねた。言論の自由の封殺であるという思いもよらぬ批判をいただいた。結果的に読者の皆さまの信頼を損なうような結果について、責任を痛感している」
――コラムの見送りは誰が最終的に判断したのか。
「掲載見合わせを判断したのは私(杉浦編集担当)です。結果として間違っていた。社内の議論、多くの社員からの批判も含め、最終的に掲載する判断をした」
――慰安婦問題では会見をしなかったが。
「8月5、6日の紙面で検証し、内容は自信を持っている。ただし、吉田清治氏の証言を取り消したにもかかわらず、謝罪しなかった。もう一つは、訂正するのが遅きに失した。読者の皆さまにおわびすべきだったと反省している」
――一連の慰安婦報道が国際的な日本批判に影響を与えたと思うが。
「報道が一般的に政府や国際関係に影響を与えるのは、報道に携わるものにとって当然のことと考える。朝日新聞が自身でどう総括していくかは、なかなか難しい問題。その点も含めて、第三者委員会に具体的な検証を委ねたいと考えている」

今後の対応など
――社長の進退は。
「私が先頭に立って、編集部門を中心とする抜本改革におおよその道筋ができた段階で速やかに進退をお伝えする」
――何をもって道筋をつけたといえるのか。
「信頼回復委員会を早急に立ち上げ、新しい編集担当を中心に今度の問題はどんな問題か、構造的な側面を含めて、スピード感をもってやってもらう。経営トップとして危機管理の観点から、社内の立て直し、読者の信頼回復にリーダーシップを発揮していきたい」
――今回の問題は朝日新聞の構造問題か、記者の資質に問題があったのか。
「一部の取材陣に問題があったのか。チェック体制がどうだったのか。構造的な問題がなかったかも含めて社内の(信頼回復)委員会でも検証を深めたい」
――(社内の)委員会はどういう構成でいつごろやるのか。
「新たな編集担当と、各本社の局長が一緒になって考えていこうと思っている。東京だけでなく、大阪や名古屋、西部の編集局の仲間もこの問題を心配しているので、全社あげての参加を考えている」
――雑誌メディアに朝日新聞が抗議書を乱発しているが。
「抗議の前提となる事実が覆ったと認識しており、誤った事実に基づいた抗議ということで、撤回、おわびしたい。実際こちらから抗議書を出したメディア、ジャーナリストの方には別途、誠実にこちらの対応を検討したい」

慰安婦問題の特集記事を巡る経緯
朝日新聞は8月5日と6日の朝刊で、特集記事「慰安婦問題を考える」をそれぞれ2ページにわたり掲載した。5日の朝刊で過去の自社の慰安婦報道を点検し、一部に事実関係の誤りがあったことを明らかにした。1面では「慰安婦問題の本質 直視を」との見出しの論文で、杉浦信之・編集担当が「裏付け取材が不十分だった点は反省します」と釈明した。
5日の特集記事の焦点の一つが、日本の植民地だった朝鮮で戦争中、慰安婦にするため女性を暴力を使って無理やり連れ出したとする「元山口県労務報国会下関支部動員部長」を名乗る吉田清治氏(故人)の証言に関する報道。取材班が済州島を再取材するなどした結果、吉田氏が慰安婦を強制連行したとする証言は虚偽と判断したとし、吉田氏を取り上げた記事16本を取り消した。
吉田氏の証言をめぐっては、現代史家の調査などで1992年に疑問が投げかけられていたことなどから、「訂正に至るまで20年以上も時間がかかった理由がわからない」「記事を取り消しながら謝罪の言葉がない」などの批判の声が相次いで寄せられた。
また、90年代初めの朝日新聞の記事に、戦時下で女性を軍需工場などに動員した「女子勤労挺身(ていしん)隊」(挺身隊)とまったく別である慰安婦の混同が見られたことから、特集記事で当時の報道で誤用があったことを明示し、訂正した。93年以降は両者を混同しないよう努めてきたと説明したが、「混同に気づいた時点でなぜ訂正を出さなかったのかが明らかでない」などと特集の不十分さを指摘する声が出ている。
また、朝日新聞が吉田氏の証言を報じた記事を取り消したことを受け、慰安婦問題で謝罪と反省を表明した河野洋平官房長官談話(河野談話)の根拠が揺らぐかのような指摘も出た。このため、同28日の朝刊で改めてポイントを整理し、「慰安婦問題、核心は変わらず 河野談話、吉田証言に依拠せず」との見出しの記事で、河野談話への影響はないと結論づけた。

池上さんコラム問題の経緯
慰安婦問題の特集記事を取り上げたジャーナリスト、池上彰さんのコラム「新聞ななめ読み」を8月29日の朝刊で掲載予定だったが、朝日新聞社は掲載を見合わせた。これに対して読者から多数の批判が寄せられた。
朝日新聞は9月4日の紙面で、掲載見合わせは「適切ではなかった」として、読者や池上さんへのおわび記事と併せ、「慰安婦報道検証/訂正、遅きに失したのでは」の見出しでコラムを掲載した。同6日の朝刊で、市川速水・東京本社報道局長が改めておわびし、読者に連載の掲載見合わせに至る経緯を説明した。

池上さんがコメント
池上彰さんは11日、訪問中のイスタンブール市内で日本の報道陣に対し、「(記者会見の内容を)正確には把握できていないが、本来、新聞社は紙面で勝負すべきだ。訂正なりおわびなり、紙面ですべてを報告すべきだ。ただし、朝日新聞は、慰安婦報道の検証などが十分ではなかったと批判を受けた。新聞紙面で展開すべきことに批判があったから、今回の会見になったと思う。本来やるべきことをやっていなかったのは極めて残念。その一方で、批判を受けて、社長が会見したことは遅きに失したが、評価して良いと思う。私は、朝日新聞が慰安婦報道の一部の記事を取り消したことについて謝罪すべきだとコラムで書いた。今回、それについては、社長が謝罪されたようなので、事実であれば、私の主張を受け止めてくれたと思う」と語った。朝日新聞のコラムを続けるかどうかについては、「現時点ではコメントできない。日本に戻って、会見内容を見てから判断したい」と話した。

東電「コメント控える」
〈東京電力のコメント〉 朝日新聞社の会見の内容については、コメントを差し控えさせていただきます。
なお、当社は福島の復興が原点であることを肝に銘じ、長期にわたる廃炉作業に正面から向き合い、事故の「責任」を全うしてまいります。

朝日新聞、任天堂に謝罪 公式動画の岩田社長発言をインタビューしたかのように記事に

ITmedia ニュース 2014年09月14日

朝日新聞社は9月14日、2年前に経済面に掲載した記事で、任天堂の岩田聡社長が公式サイトの動画で発言した内容をインタビューしたかのように掲載していたとして、「動画内の発言だったことを明記するべきだった」として任天堂と読者に謝罪した。
記事は2012年6月8日に掲載した「ソーシャル時代、どう対応?/ゲーム大手4社に聞く」。「各社の責任者に話を聞いた」というリード文に続きゲーム大手の代表のコメントが掲載されており、任天堂の岩田社長は「Wii U」の狙いについて述べる内容だった。
朝日新聞によると、任天堂に対し社長への取材を申し込んだが、了解が得られなかったため、公式動画の発言の内容をまとめて記事にしたいと伝え、了解を得られたと思い込んで記事にした、という。だが掲載後、任天堂から「インタビューは受けていない」と抗議され、謝罪していたという。
週刊文春(Web版)は9月14日付けで、「朝日新聞に新たな不祥事 任天堂・岩田聡社長インタビューを捏造していた!」という記事を掲載し、「任天堂から抗議を受けたにもかかわらず、読者に対して2年以上もの間、訂正もせずに放置していた事実は重い」と指摘した。
朝日新聞は「今回新たに外部から指摘があり、事実関係を改めて調査した結果、紙面でおわびする必要があると判断した」として謝罪した。