横浜・女児虐待死事件 初期対応充実求める 市検証委が報告書

神奈川新聞 2014年12月19日

横浜市磯子区の雑木林で昨年4月、山口あいりちゃん=当時(6)=の白骨遺体が見つかった事件で、市は18日、市側の対応の問題点や改善策をまとめた市の検証委員会の報告書を、市会常任委員会に提出した。初回訪問時にあいりちゃんの不就学を事前に把握できなかったことなどから、虐待の端緒をつかむのが遅れて命を救えなかったことをあらためて指摘。初期対応の充実や、警察・地域との連携推進、児童相談所(児相)の体制強化などを提言した。
事件は、あいりちゃんの母親(32)が転居を繰り返したため、学齢期のあいりちゃんの不就学を自治体が把握するのに時間がかかり、虐待の発覚が遅れたことが問題視された。国が「所在不明の子」の安否確認を始めるきっかけになった。
検証委は報告書で、最初の家庭訪問時には児童通告があった子どもだけでなく、同居している兄弟についても「48時間以内に家族以外の第三者による安全確認」を徹底するよう提言。警察からの児童通告書だけでは情報が不十分として、現場に立ち会った警察官に直接確認するよう求めた。
市内4カ所の児相に虐待通告が集中し徹底した調査を行えなかった現状を踏まえ、必要な支援に結び付けられる仕組みの再検討を要請するとともに、専門性の高い職員の配置の必要性を指摘した。
国に対しては、転居を繰り返す住民の情報を自治体間で共有するための「共通ルール」の設定を要望。また児童福祉司を少なくとも人口4万人に1人の基準で配置できるよう、基準の見直しや必要な財政措置を求めた。
市子ども青少年局の鯉渕信也局長は18日の市会常任委員会で、「居所を転々とする中で世帯の情報をつかみきれなかった。さらに対応力を高め、児童虐待対策をより一層強化していきたい」と話した。

◆横浜・女児虐待死事件 昨年4月21日、横浜市磯子区の雑木林で山口あいりちゃんの白骨遺体が見つかった。母親は暴行と死体遺棄の罪で、元交際相手の男(30)は傷害致死と死体遺棄の罪でそれぞれ有罪判決が確定。判決によると、あいりちゃんは2012年7月22日ごろ、横浜市南区のアパートで虐待され死亡。雑木林に遺棄された。あいりちゃんは母親に引き取られた11年6月以降、千葉県松戸市や秦野市、横浜市などを転々とし、学齢期に達した後も不就学だった。

奈良市「事案が深刻」 児童虐待で初の検証会議

産経新聞 2014年12月18日

今年5月に奈良市で母親(43)が小学1年の三男(6)に暴行を加え、意識不明の重体にさせたとして県警に逮捕された事件を受け、奈良市は17日、有識者らでつくる「第1回市児童虐待重症事例検証会議」を開催した。来年3月下旬までに検証結果をとりまとめ、仲川げん市長に報告書を提出する。虐待事例の検証会議を市が開くのは初めて。
会議は、流通科学大の加藤曜子教授(児童家庭福祉専門)が座長を務め、児童精神科医で奈良教育大の岩坂英巳教授ら4人の外部有識者で構成。市によると、これまで市内で発生した児童虐待については県で検証が行われていたが、「事案が深刻」として市での開催を決めたという。
母親については、今年5月30日に自宅で三男を突き飛ばすなどして急性硬膜下血腫の傷害を負わせたほか、同月16~23日にはビニールのひもで縛るなどして皮下出血のけがをさせたなどとして、県警が傷害容疑で逮捕。今月5日、奈良地検が処分保留で釈放した。男児は現在も後遺症があるという。
この日の会議では、事案の詳細について市の担当課が説明。市によると、男児は生後間もなく、パニックを起こすなどした母親から心理的虐待を受けている可能性があるとして、県の中央こども家庭相談センター(児童相談所)が約2週間一時保護。その後、県や市と関係機関が家庭訪問など約6年間の見守りを続けてきたという。
市子育て相談課は、「身体的虐待はなかったので、軽いケースだと考えていたら、こんな結果になってしまった」と釈明し、「多方面からの検証が必要」と指摘。加藤座長は「ネットワークで支援することが大事。虐待を防止する支援体制をどう構築するかを検討し、積極的な改革につなげたい」と述べた。
市によると、「心理的虐待」の相談件数は平成18年度の60件から25年度には191件と約3倍に増加。担当課は「市民の通告が増え発見につながっている一方で、保護者の孤立化などにより増加している」と分析している。
会議はこの日を含めて4回開催予定。来年1月には保健所や保育園など関係機関へのヒアリングも実施する。検証結果については来年度から市被虐待児童対策地域協議会でも検討され、今後の対策に反映させるという。

公益通報者保護法、進まぬ改正

TBS系(JNN) 2014年12月19日

かつて「内部告発」と呼ばれていた公益通報。これまでも、企業や行政の問題が内部告発者の勇気ある声によって明らかになってきました。こうした公益通報者を守ろうと、8年前、法律ができましたが、不十分だと指摘する声が上がっています。
孤立感を深めている男性がいます。金沢大学大学院の小川准教授。今年、大学で受け持つ授業をゼロにされました。この部屋で1人過ごす日は少なくありません。学生たちと議論する大学教員としての喜びも失いました。
「数年前まで50コマ前後持っていたが、ゼロ。何年も困っている。どう打開しようかというのが、一番の思いというか、今、心を砕いているところ」(金沢大学 小川和宏さん)
きっかけは、9年前の内部告発でした。上司の研究費の不正経理を大学に告発。大学が1年以上検証した結果、その上司を懲戒処分としました。ところが、この告発後、小川さんだけ実験室を使えなくなるなど、数々の嫌がらせを受けるようになったといいます。学生からも79人中10番目と高い評価を得ていて、学外の活動でも表彰されました。今の状況は内部告発への報復だと小川さんは考えています。
さらに、新たな問題に直面しました。金沢大学で行われていた“ある先進医療”。2010年3月、この治療を受けていた16歳の少女が命を落としました。小川さんは去年秋、医療ミスの可能性を知ったといいます。抗がん剤の副作用で心機能が低下した検査データが出ていたのに投与が続けられてしまったのではないかと考えたのです。
「第2第3の死亡を出さない1番目(の理由)。死亡例を隠して(治療の)宣伝を続けているのはまずい」(金沢大学 小川和宏さん)
早く止めなければと、去年10月、厚生労働省に公益通報を試みました。ところが、電話を受けた厚生労働省の担当者は、大学の研究責任者に事実確認のメールを送りました。そのとき、小川さんの実名が明かされてしまったのです。
なぜ、個人情報が漏らされたのでしょうか。2006年に施行された公益通報者保護法では、公益通報者の不利益な取り扱いを禁じています。さらに、国のガイドラインで個人情報の保護を徹底するよう求めています。しかし、厚生労働省の担当者は公益通報とは受け止めていませんでした。そのことは、今年7月の担当者と小川さんとのやりとりからうかがえます。
「刑法に関する事実ということで、処分と勧告を行う権限を厚生労働省は持っていないので。ここ(公益通報者保護法)でいう公益通報には該当しないということ」(担当者)
「違法行為としては刑法に違反しているということなのですが、処分自体は、その刑法に違反している危険な行為について、行政処分の権限はお持ちではないですか」(小川和宏さん)
「いや、刑法に関する事実についてということであれば、やっぱり警察になってしまう」(担当者)
担当者は、死亡事案が刑法の対象であり、管轄外なので、公益通報に該当しないと説明しました。小川さんが告発した少女の死については、今年1月に研究責任者ら3人が業務上過失致死の疑いで書類送検されています。
今年9月、小川さんは、公益通報の情報漏えいなどをきっかけに精神的損害を受けたとして、国を相手取り提訴。裁判は継続中です。
内部告発が公益通報とみなされなかったケースはこれだけではありません。今年4月に千葉県がんセンターで腹腔鏡手術による術後死が次々と明らかになったケース。すでにがんセンターを退職していた麻酔科医が厚生労働省へ公益通報を試みました。ところが、退職者であることなどを理由に受理せず、問題が放置された経緯があります。法律では、現役の労働者であることも条件となっているからです。
公益通報に詳しい中村弁護士は、要件ばかりが厳密で、公益通報として受けとめられない制度に、問題があると指摘します。
「通報者の方が世の中のために良いことを言っているのだから、保護してあげるべき。退職者は労働者でないとか、通報内容が法律に書かれてないと(公益通報者から)外していくのはおかしい」(公益通報に詳しい中村雅人弁護士)
公益通報者保護法は、施行から5年を目途に見直しをするはずでしたが、すでに8年が経過しています。告発者らは罰則規定が必要だと訴えています。
「事業活動に影響を与える罰則を、明らかに報復をしたと認めた場合、そういった(罰則を)課さねばいけない」(オリンパス 浜田正晴さん 6月)
こうした現状に弁護士たちも動きました。10月、日本弁護士連合会などは韓国で現地調査を行いました。韓国の法律では、労働者に限らず、誰でも通報者になれるなど、要件は広くなっています。情報漏えいをした企業や組織には罰則規定もあります。
このままでは、公益通報をしようという人がいなくなるのではないか・・・小川さんは憂えています。
「本来なら防げることが防げなくなってしまう、あるいはなってしまっているのかもしれない。本当に改善目的で危ないことは通報しやすくする。法律でまず守るということは最低限必要」(金沢大学 小川和宏さん)