刻む2014<6> 児童虐待 「連鎖」自分で最後に

神奈川新聞 2014年12月26日

子どもへの虐待が後を絶たない。親がわが子の命を奪う事件も相次ぐ。育児放棄されてもか細い声で「パパ、パパ…」と父親を呼び続けた男児は衰弱死し、7年以上放置された。「ママと一緒に暮らしたい」と別居していた母親に引き取られた女児は暴行され、土の中から見つかった。どうしたら虐待を防げるのか。
アルバムをいくらめくっても、三つ編みの少女の笑顔は見つからない。中学時代の「私」。当時の記憶はモノクロのままだ。
都内のNPO法人が企画する、子どもへの虐待や家族関係などに悩む母親向けのグループミーティング。アキさん(50)=仮名=は4年前から月2回、進行役のファシリテーターを務めている。
参加者は多い日で5人程度。初めは緊張している人も、次第にせきを切ったように話しだす。相手が納得するまで耳を傾け、助言も反論もしない。「誰にも言えなかった悩みを吐き出し合うことで、気持ちがすごく楽になるんです」
自分もかつて、「あちら側」にいた。
31歳の時、一つ年上の会社員の男性と結婚した。都内で社宅暮らしを始め、2年後に長男を授かった。家事と育児の両立はなかなかできない。夫は帰宅後、ワイシャツ姿のまま「手伝うよ」と優しく声を掛けてくれた。その都度、激しい自己嫌悪に襲われ、「なんて駄目な妻だ」と責められているように感じた。
ある時、料理がはかどらず、いら立ちが募り、テレビが見たいと泣きだした2歳の長男を蹴飛ばした。初めてだった。前のめりに倒れた息子の火がついたような泣き声でわれに返った。「これじゃ母と一緒じゃないか」。後悔と恐怖の感情がない交ぜになり、その場に泣き崩れた。
物心ついた時には、父はギャンブル依存で酒浸り。母はいつも父をなじり、愚痴をぶちまけた。「あんたさえいなければ離婚できるのに」と疎まれ、事あるごとに平手で頭をたたかれた。「自分が悪いから仕方ない」。いつもそうして気持ちを押し殺した。
「かわいそうな母」を喜ばせたい-。母に言われた通り、頭の良しあしで友達を選び、授業参観では進んで手を挙げた。テスト前は遅くまで机に向かい、成績は常に上位。皆が認める「いい子」を続けた。でも、母から褒められた記憶はない。
長男に暴力を振るってしまったのと同じ時期。インターネットで「アダルト・チルドレン」という言葉を知った。子どもの頃の家族関係などが原因で成人後も生きづらさを感じている人のことだ。産後うつだと思い込んでいたが、思い悩んで駆け込んだ精神科で確信した。自分を責めてきた気持ちが和らいだ。
週1回診療に通い、医師の丁寧なサポートを受けながら、時間をかけて生い立ちを振り返った。両親の言動で「心理的虐待」を受けていたことに怒り、母の価値観に支配されていたことにがくぜんとした。それまで感じたことのない感情に驚き、過去を少しずつ受け入れられるようになった。
虐待で子どもが犠牲になったニュースに胸を締め付つけられる。そのたび、氷山の一角だと思う。「虐待は何かのきっかけで誰にでも起きうる。決してひとごとではない」というのが実感だ。
11年間通った診療を終えたのは3年前。長男は16歳になった。毎日学校に行くのが楽しくて仕方ない様子に、どうしようもないうらやましさに襲われた時期もあったが、今はもう感じない。
それでも、時々「怒鳴らない母親を持ってずるい」という思いが湧いてくる。なかなか変わり切れない自分がもどかしい。でも長男に同じ思いはさせない。「虐待の連鎖」は自分が断ち切る。そう決めている。

◆子どもの虹 情報研修センター研究部長 川崎二三彦さん 「周囲も子育て応援を」
児童虐待は、軽度の虐待を含めて実数として増えていると考える。家族や地域より個々を大切にする風潮から、孤立化が進んだ。子どもを育てる環境として厳しくなった。趣味で子どもを虐待する親はおらず、親も追い詰められた結果ということを理解してほしい。
厚生労働省の手引きでは、虐待を引き起こす要素として▽親が子ども時代に大人から愛情を受けていなかった▽生活にストレスが積み重なり危機的状況にある▽社会的に孤立化し援助者がいない▽親にとって意に沿わない子ども-の四つを挙げている。どれも個人で解決するのは難しい。「虐待をしたひどい親」という認識では、問題の解決につながらない。
虐待問題は、日本の社会の矛盾が弱い部分に集まって起きた最悪の結果だ。例えば、父親が家事をせず、母親がストレスを抱える実態は家庭内の問題に見えるが、背景には長時間労働などが潜んでいる。日本全体で子どもを第一に考え、できることから実現していくべきだろう。
周囲の人にも、できることはある。子育て中の母親に「子育て大変ですね」と声を掛けるなど、いたわりのまなざしを向ける。見ていて「おかしいな」と思うことがあれば、援助機関に連絡してほしい。
即効性はないが、最悪の結果を防ぐためには、子育てを応援しているという雰囲気を、社会全体でつくる必要がある。

◆県内で近年起きた主な児童虐待事件
▽厚木・男児衰弱死事件
厚木市内のアパート一室で今年5月30日、斎藤理玖君=当時(5)=の白骨遺体が見つかった。県警などによると、理玖君は母親が家を出てからは、父親(36)と2人で生活。次第に父親が部屋に戻らなくなり、わずかな食事と水しか与えられず、理玖君は2007年1月ごろ、栄養失調により死亡したとみられる。
事件は理玖君が中学校に入学する年齢になったのに、所在が分からなかったことをきっかけに発覚。発見まで死亡から7年以上が経過していた。迷子として児童相談所に保護され、健診を受診していなかったが、見過ごされた。父親は殺人罪などで起訴されている。

▽横浜・女児虐待死事件
横浜市磯子区の雑木林で2013年4月21日、山口あいりちゃん=当時(6)=の遺体が見つかった。判決によると、あいりちゃんは12年7月22日、同市南区のアパートで母親(32)の交際相手(30)から暴行を受け死亡。その後、母親と交際相手によって雑木林に遺棄された。
事件前、あいりちゃんは母親とともに千葉県松戸市、秦野市、横浜市と短期間に居所を転々とし、小学校にも通っていなかった。このため自治体側の把握に時間がかかり、虐待の発覚も遅れたことが問題視された。交際相手と母親には今年、有罪判決が言い渡され、確定している。

■県内の主な 相談・通報窓口
▽子ども家庭110番 電話0466(84)7000(午前9時~午後8時)
▽かながわ子ども虐待ナイトライン 電話0466(83)5500(通報専用、午後8時~午前9時)
※政令市(横浜、川崎、相模原)、横須賀市の各児童相談所にも窓口が設けられている

<3歳長女死亡>縛って投げ布団ぐるぐる巻き…母ら2人逮捕

毎日新聞 2014年12月26日

3歳の長女の両手を粘着テープで縛り布団に投げつけるなどしたとして、高知県警香南署は26日、母親の飲食店員、衣斐(えみ)未歩容疑者(27)と、同居の無職、吉村瞳容疑者(23)=香南市野市町下井=を暴行容疑で逮捕した。長女は心肺停止の状態で病院に搬送された後、死亡が確認された。死因は窒息死で、傷害致死容疑に切り替えて送検する方針。2人は「いたずらを注意したがやめなかったのでやった」と容疑を認めている。
逮捕容疑は25日午後2時ごろ、2人は同居している吉村容疑者の自宅で、長女の瑠維(るい)ちゃんの両手をテープで縛って投げつけたり、布団でぐるぐる巻きにしたりするなどの暴行を加えたとされる。吉村容疑者は、衣斐容疑者の内縁の夫の妹。
香南市消防本部によると、25日午後4時50分ごろ、吉村容疑者が「子供の反応がなく、呼吸もしていない」と119番し、事件が発覚。目立った外傷はなかったという。
26日に記者会見した県と高知市によると、県中央児童相談所(高知市)は2012年2月、両親の養育力不足を把握した後、瑠維ちゃんを乳児院に保護。13年3月に「家庭が落ち着いた」として措置を解除した。高知市内の自宅に戻した後、家庭訪問などを繰り返して家族を支援した。
瑠維ちゃんの妹を含めた家族4人は今年11月中旬から吉村容疑者宅で暮らしていた。今月9日に市職員が両親と面会した際には、瑠維ちゃんの体に虐待の痕はなかったという。
吉村容疑者宅近くの女性(47)は「家から子供の大きな泣き声が聞こえ、自宅を訪ねようとしたこともあった。瑠維ちゃんは顔を会わせると、可愛らしく手を振ってくれていた」と肩を落とした。【岩間理紀、上野宏人】

年金額抑制、来年度から…全受給者が対象に

読売新聞 2014年12月27日

2015年4月から、公的年金を受け取るすべての人の年金額が抑制されることが確実となった。
物価の上昇などで、04年の年金改革で導入された抑制策「マクロ経済スライド」が初めて適用されることになるためだ。受け取る年金額そのものは、物価や賃金の上昇に伴って増えるが、抑制策などで上昇分が抑えられる。読売新聞試算では、40年間サラリーマンとして働いた夫と専業主婦によるモデル世帯の場合、年金の伸びが月約3400円分抑えられる計算だ。
マクロ経済スライドは、物価が上がると年金の支給額が同時に増えてしまうため、一定程度を抑制する仕組み。総務省が26日発表した11月の全国消費者物価指数は、前年同月に比べて2・7%上昇した。10月までの数値を含めて試算すると、1~11月は前年同期比2・8%プラスとなり、12月も含めた1年間の物価が上昇することが確実だ。これまで抑制策が適用されてこなかったのは、物価が下がるデフレが長引いたことも要因の一つだ。
厚生労働省は、現時点で支給額を抑制する割合(調整率)を1%程度と見込んでおり、最終的な調整率は来年1月に決まる。

知っているようで知らない「うつ」のこと3:うつ病が疑われる場合どうすればいい?相談機関も活用しよう!

Mocosuku Woman 2014年12月26日

あなたやあなたの家族が「うつ病」かもしれなかったら……。気分がひどく落ち込む、意欲が低下する、興味・関心が失われる、食欲・性欲が湧かない、眠れない状態が続く──といった状態が2週間以上続くようなら、もしかしたらあなたはうつ病かもしれません。ただし、身近な人や大切なペットなどが死去した場合は例外です。「喪失体験」といって、この期間の2週間は、うつ病の診断が保留されます。そこからさらに2週間以上その状態が続くようなら、やはりうつ病が疑われます。そんな時は、どうしたらいいのでしょうか?
知っているようで知らない「うつ」のこと3:うつ病が疑われる場合どうすればいい?相談機関も活用しよう!

うつが疑われる時は受診を
端的に言えば、心療内科、精神科、女性の場合は女性外来など、医療機関を受診することをお奨めします。うつ病である場合、早期に治療に入ることが、早期の回復につながります。家族などに受診を勧めることを「受診勧奨」と言います。うつ病の場合は、パートナーからの受診勧奨が受診につながるケースも少なくありません。とはいえ、精神科へ行くということは、風邪やケガで病院に行くのと比べて心理的なハードルが高いのも事実です。場合によっては偏見や差別の対象にもなり得るので、地域や職場などでは、なかなか受診につながらないこともあるかもしれません。

受診に抵抗がある場合は相談機関を活用する
いきなり医療機関に行くのではなく、事前に相談をするのも有効です。例えば、職場に健康管理室や医務室がある場合は、そこには保健師や医師などがいますし、大きなところなら臨床心理士がいる場合もあるので、こうした専門スタッフに相談するといいでしょう。ご自身だけでなく、家族の場合でも相談して構いません。その人の状態に合った医療機関を紹介してくれますし、場合によっては同行してもらえることもあります。

身近にそのような場所がない場合は、地域の精神保健センターなどに相談することができます。ちなみに、厚生労働省のウェブサイトには、メンタルヘルスのサイト「こころの耳」内に「全国さまざまな相談窓口」というコーナーがあり、相談機関のリストが掲載されています。こうした相談機関は、医療機関と同じくプライバシーの保護には十分に配慮して対応してくれますから、その点の心配はいりません。

発病期の2つ注意点
発病期は、症状などが顕著に出でやすい時期でもあります。家族がそのような状態になった時は、驚いたりショックを受けたりするかもしれません。相談機関や医療機関で、どのように接すればいいか、またどんな点に注意したらいいかを聞いておきましょう。うつ病の人をケアする場合は、十分な休息をとらせてあげることと、「頑張って」など不用意な励ましをしないことの2つがポイントです。

30代になっても続く返済… 19万人が延滞する「奨学金」問題はなぜ起きたのか?

ウートピ 2014年12月26日

「返済のため風俗店でバイトをする女子学生が増加している」といったニュースが飛び出すほど社会問題化している奨学金。堀江貴文氏がTVで「こんなことまでして大学行かなきゃいいんですよ」とコメント、賛否両論呼んでいる(参照:「堀江貴文氏が借金して進学することを批判」)。
実際、筆者も450万円借りた奨学金を毎月3万円弱ずつ返済しているが、30代後半になっても完済はほど遠い。アラサー女性にとっても人ごとではないだろう。

奨学金の延滞が19万人
現在、奨学金問題と言われているのは主に「日本学生支援機構」(以下、機構)の奨学金のことだ。最もよく知られ、高校在学中から予約できることもあって、多くの人が大学、短大、専門学校等への進学にあたり利用している。
「奨学金」には返さなくて良い奨学金もある。しかし、今、問題となっているのは、この機構の“返還の義務のある貸与”だ。その上、無利子の奨学金の枠は限られており、多くの人が有利子で借りている。機構の発表によれば、一昨年末時点で奨学金を返済している人は約290万人、それに対して3か月以上延滞している人は約19万人となっている(参照:平成24年度奨学金の延滞者に関する属性調査結果)。

奨学金がなぜ社会問題となったか
なぜ機構の奨学金が近年社会問題化したのか。理由の一つは、若者の雇用情勢の悪化だ。皆が正社員として就職し、年功序列で賃金が上がっていった時代には、返済が比較的スムーズに行われたため問題とされなかったのだろう。しかし、低賃金での非正規労働の広がりや、正社員でも賃金上昇が望めない人も増えた中、返済が難しくなってきたわけだ。
さらに、学費の上昇による負担増に、家計収入の落ち込みが重なり、奨学金の利用が増加していることもある。機構の「学生生活調査」によれば、昼間部大学生の年間平均授業料は、平成16年から平成24年の8年で約6万円増の約87万円。それに対して、家庭が学生に対して負担できる給付額は減少、下宿等で親元を離れて暮らす学生の仕送りはこの間約30万円減少している。その分、増えているのが奨学金で、8年で約10万円アップの41万円が平均となっている。

執拗な取り立て、ブラックリスト登録
こうした社会情勢に加え、奨学金問題対策全国会議は機構の対応が追い打ちをかけている現状を指摘する。一つは、救済手段が不充分な点だ。機構は返還期限の猶予や減額返還制度、返還免除の制度を設けているが、利用条件が厳しく、運用上もさまざまな制限があることが指摘される。周知が不十分で利用できる人も利用していない現状もあるようだ。
さらに、同会議は回収強化策が時代に逆行すると糾弾する。執拗な取り立てに加え、いわゆるブラックリストへの登録も始まった。
また、奨学金を借りる際には保証人、連帯保証人が必要な点も問題とされる。自分が返還できなければ、保証人になってくれた親や親戚に請求がなされることを恐れて自己破産もできないというのだ。

そもそも奨学金はどうあるべきか?
返済の滞りがちな人の救済や高すぎる学費の引き下げ、返還の必要のない奨学金を増やすことも大事である。また、生活保護世帯や児童養護施設入所者など保証人を立てられず奨学金自体が借りられない若者の対策も必要だ。
しかし、そもそも奨学金を借りてまで進学する必要があるのか、というのも問題だ。確かに、大学を出たからといって良い就職先がある時代ではない。また専門学校も玉石混淆で、教育内容や就職指導が極めて不十分で、お金を払って進学する価値がないと思われる学校も残念ながらある。アラサーの今となっては「あの学校、借金してまで行く価値なかった……」といった体験をしている読者もいるだろう。
進学の必要性について議論する際の、大きな条件は就職だ。高卒就職の状況が良好で、良質な仕事が得られれば、就職希望者が増えるだろうし、高卒後の公的な職業訓練が増えるのも良いだろう。現在は数が少なく、学べるものも限られる公共の職業訓練大学・短期大学を、例えば、介護や保育のような人材不足の分野についても学べるようにするなど、幅と受け入れ人数を増やしてはどうだろうか。そろそろ高校卒業後の教育とお金について抜本的な議論もあって良いように思う。
(鈴木晶子)