どう防ぐ性犯罪 障害者支援の現場で(上)母娘の苦しみ

カナロコ(神奈川新聞) 2015年2月18日

障害児が通う横浜市内の「放課後等デイサービス」事業所で昨年1月、知的障害のある女児が職員からわいせつな被害に遭う事件が発覚した。犯行は周囲に気付かれぬまま、数カ月にわたって繰り返されていた。自ら助けを求めるのが難しい障害児を性被害からどう守っていくのか。支援現場や行政は、重い課題を突き付けられている。
「娘さんが被害に遭っているかもしれない。動画を確認してほしい」
横浜市内に住む女性(41)は、警察から受けた電話を、今も忘れることができない。
特別支援学校の小学部に通う長女には知的障害がある。放課後に通う「放課後等デイサービス」で昨年1月、職員の男(42)が利用者の女児にわいせつな行為に及んでいたことが発覚。知的水準が幼児程度の長女は、被害を受けていたとしても理解するのが難しいため、「もしかしたら娘も被害者ではないか」との不安に襲われた。事業所から「被害に遭っていない」と説明されても、気持ちは落ち着かなかった。
警察からの電話は、発覚から4カ月後だった。警察署で、男が撮影したという動画を見せられた。脱がされている衣服などから、長女だと分かり、女性は泣き崩れるしかなかった。

長女は知的障害を伴う自閉症で、幼いころは靴を履かずにパジャマのまま外を徘徊(はいかい)したり、雨の日でも庭に出て遊んだりの連続だった。目を離すことができず、「親はへとへとになった」。外で犬がほえているので何かと思うと、2階のトイレの窓から抜け出して屋根に上っていたこともあった。
もちろん、苦労だけではない。成長がゆっくりな分、一つのことができるようになる喜びは大きかった。とはいえ、毎日の生活は大変で、夫が働いている日中に1人で世話をするのに限界を感じ、放課後に預かってくれる場所を探した。どこも空きがない中、ようやく見つけたのが、今回の事業所だった。
通い始めると「楽しかったよ」とほほ笑む長女。新しい遊びを体験するなど、これまでと違う世界を満喫しているようだった。それなのに-。
「一生守っていく」と誓ったはずの一人娘を守れなかった女性は、自らを責め続けている。

事件の被害者は、立件されただけで4人に上った。ある家族は男が送迎を担当していたために自宅を知られてしまい、恐怖から持ち家を手放さざるを得なかった。被害を受けたことを理解しながら、周囲にうまく伝えられないことで二重に苦しんだ女児もいた。女性の長女は被害を理解できておらず、親として「また同じように不審者に狙われるのでは」と不安が消えない。
支援現場への信頼も消えうせた。安心して任せられる事業所に長女を預けたいが、「客観的に評価できる指標はなく、情報はママ友同士の口コミが頼り」と女性。特に新規の事業所では情報自体が少なく、保護者が事前にサービスの質を見極めるのは困難という。
今のままでは、性的欲求を満たすために障害児が利用され、再び苦しめられるのではないか。だからこそ、強く望む。「犯人が処罰されたら終わりではなく、事業所と行政には再発防止を徹底してほしい」

放課後等デイサービス
放課後や長期休暇中の障害児に対し、自立した生活を送るために必要な訓練や、居場所を提供するサービス。2012年施行の改正児童福祉法で、それまで障害ごとに分かれていたサービスが一元化された。発達障害を含めた障害のある児童・生徒(主に6~18歳)が対象。療育手帳や身体障害者手帳の有無は問わず、児童相談所や医師などから、療養の必要性が認められれば利用できる。厚生労働省によると、14年4月の全国の事業所数は4595カ所で、利用者数は7万9680人。

「発覚しないと思った」
「障害のある子どもなら、被害が発覚しないと思った」。昨年8月、横浜地裁の法廷。証言台に立った被告の男(42)は、知的障害児を狙った理由を、淡々と語った。
事件当時、男は横浜市内の「放課後等デイサービス」事業所の職員。女児の下半身を触るなどした強制わいせつなどの罪と、女児の下半身を撮影した児童ポルノの製造の罪に問われた。事業所内で利用者の女児と2人きりになった際や、送迎の車内での隙を狙って、犯行に及んでいた。被害が認定されたのは、知的障害のある7~12歳の女児4人に上った。
知的障害ゆえに、被害を理解できないと考えたのか。公判で男は、被害児について「嫌なそぶりを見せたことはあっても、明確に嫌と言うことはなかった」と話した。だが、ある女児は事件後から食欲を失い、笑顔が消えた。男が逮捕された後も被害を思い出すのか、突然泣きだすこともあるという。
男のことを怖がり、「いつ(社会に)出てくるの」と親に尋ねる女児もいる。女児全員が被害を理解できなかったわけではなく、事件が発覚したのも、女児の1人が男のわいせつ行為を保護者に訴えたからだった。
捜査では、女児が繰り返し被害に遭っていたことが判明。また関係者によると、家宅捜索では複数のわいせつな動画データが見つかっている。だが写っているのが誰か特定できず、立件できなかった被害もあるという。
「子どもで知的障害があり、発覚しにくいだろうと思って敢行した誠に卑劣かつ悪質な犯行」。男の行為は厳しく批判され、昨年9月の判決では懲役7年が言い渡された。男は公判で起訴内容を大筋で認めていたが、判決を不服として東京高裁に控訴している。

どう防ぐ性犯罪 障害者支援の現場で(中)「対策甘さあった」

カナロコ(神奈川新聞) 2015年2月19日

普通の人-。
放課後の障害児を預かる横浜市内の「放課後等デイサービス」事業所を運営するNPO法人代表の男性(67)が、元職員の男(42)に抱いた第一印象だ。だが採用からわずか3カ月後、利用者の知的障害児にわいせつな行為を繰り返していたことが判明する。
男は2013年10月、「子どもの福祉の仕事がしたい」と語り、職員募集に応募してきた。履歴書には、2カ所の障害児施設での勤務歴が書かれていた。代表が1人で1時間にわたって面談。きちんと目を見て話すことができ、実際に福祉の知識もあった。すぐに採用が決まった。
しかし働き始めると間もなく、「問題行動」を見せるようになった。代表によると、男は利用者の障害児と接する際、女児ばかりを選んで近づいていた。周囲の職員の目にも留まるようになった。不適切な行為に至らないよう、採用から2カ月後、男を子どもと接することが少ない事務職に配置換えした。
「事務の仕事をやりに来たわけではない」。普段はおとなしい男だったが、配置換えに強く反発した。「女の子ばかりに近づくと、不審者に思われるよ」。そう諭してもなお、男は不満を残した様子だったという。
事件は、この配置転換から約1カ月後、女児の1人の訴えで発覚した。一審判決によると、男の犯行期間は、勤務期間とほぼ重なっていた。周囲が問題行動に気付いた時には既に女児が被害に遭っており、配置換え後も繰り返されていたことになる。

どうすれば、男のような職員を避けることができるのか。
代表によると、事業所は問題行動に気付き、男の解雇も検討した。だが相談した社会保険労務士は、当時の契約内容では「女児ばかりに近づくことだけを理由とした解雇は難しい」と回答。このため、配置転換で対応したという。
今回の事件を受け、事業所は契約書を修正。事業所側が不適切と判断した場合に解雇できるとの一文を加えた。
また、採用時の確認も強化。過去にわいせつなどを理由に退職したことがないか、宣誓欄を設けた。今回の事件発覚後、以前勤めていた施設でも、男が禁止されていたトイレでの異性介助を行うなど問題行動を起こし、退職していたことが分かったからだ。
さらに施設内に防犯カメラを設置。管理職を増やして情報を共有する仕組みもつくった。「一つの対策で完全に防ぐのは難しい。いくつもの対策を組み合わせることで、利用者の被害を防ぎたい」。代表は力を込める。

放課後等デイサービスは、12年4月に創設された新しいサービス。需要の高さもあって、このNPO法人は13年秋に新規参入した。職員には未経験者もおり、利用者増で職員不足にも直面していた。男が応募してきたのは、そんなころだった。障害児施設での勤務経験を信頼し、男の採用を決めたという。
代表自身、障害者の在宅介護やグループホームなどに35年携わってきた。障害児支援のノウハウはあるつもりだった。だが-。
「職員に問題行動を起こさせない対策に、甘さがあった。被害者の方は地獄と思う。責任を感じている」。代表は謝罪を繰り返し、こう続けた。
「人の良いところを見抜くのが福祉の仕事。しかし今回の事件で、(犯罪行為が起きる)かもしれないという目を持たなければいけないと、痛感している」

施設での虐待 声上げにくく
障害者虐待防止法に基づく県の集計によると、2013年度に県内で家族や福祉施設の職員らによる虐待が認められたのは153件に上る。このうち、施設職員による虐待は29件。だが障害者を支援する事業所の関係者は「公表された数字は氷山の一角だ」と指摘する。
類型別では、性的虐待は12件だった。ほかには身体的虐待が96件、暴言や差別的な言動など心理的な虐待は60件などとなっている。
障害の種類別(重複計上)では、知的障害が82人、精神障害が58人、身体障害が24人、発達障害が5人、その他の心身の機能障害が2人だった。担当者によると、知的障害者は周囲と十分なコミュニケーションを取るのが難しいことに加え、福祉サービスを利用する機会が多いことなどが背景にあるとみられる。
障害者への虐待は、事実確認が難しいのが実情だ。中でも、施設職員らが加害者とされる場合、実際に虐待と認定されたのは、通報・届け出数の1割未満にとどまっている。
県によると、通報には内容が具体的でなかったり、発生から時間がたっていたりするものもあり、担当者は「調査をしても、事実確認が難しいケースはある」と打ち明ける。通報者が施設内での立場を守るために、通報を取り下げることもあるという。
だが、県内で障害児の支援に当たる事業所の関係者は「『預かってもらっている』という負い目から、サービス利用者は声を上げにくい」と指摘。「公表されているのは氷山の一角だろう」と話し、利用者側が訴え出やすい環境整備の必要性を強調している。

県内の障害者施設で発覚した近年のわいせつ事件
厚木市内の福祉施設で2013年、利用者の知的障害のある少女が、生活の介助などを担当していた臨時職員からわいせつな行為を受けていたことが発覚。12年には横浜市旭区の入所施設で職員が入所女性に性的関係を迫ったと施設側が公表。綾瀬市内の知的障害者施設では09年、利用者の女性が非常勤職員2人から体を触られるなどの被害に遭っていたことが分かった。

どう防ぐ性犯罪 障害者支援の現場で(下)質確保が大きな課題

カナロコ(神奈川新聞) 2015年2月20日

職員によるわいせつ事件が発覚した障害児が通う「放課後等デイサービス」は、ニーズの高さから事業所数は増え続けている。障害児の成長を地域で支える仕組みが整いつつある一方で、質の確保が大きな課題となっている。
同サービスは2012年4月にスタート。従来の制度では障害の種類によって受け入れ先が分かれていたが、障害の種別にかかわらず、小中高校の児童・生徒が通えるようになった。担い手も自治体や社会福祉法人だけでなく、民間企業やNPO法人にも門戸を開いている。
12年4月に112だった県内の事業所数は、今年1月時点で276まで増えた。県の担当者は「保護者からの需要があり、今後も増加が見込まれる」と話す。
一方で、県内の事業所の関係者は「急に数が増えたことで、人材の質に不安があることは否めない」と明かす。

各事業所には、5年以上の実務経験など要件を満たした「児童発達支援管理責任者」を1人以上置くことが求められている。一方で、一般職員は保育士資格を持つ職員がいる場合もあるが、特別な資格がなくても働くことができる。厚生労働省の13年の全国調査によると、事業所職員のうち資格要件のない「指導員」が55%を占めた。
先の関係者は「できるだけ国家資格を持つ人や専門資格のある人を採用するようにしているが、確保は難しい」と話す。この関係者の事業所では、弁護士の助言を受けて苦情の申立窓口を設けるなど、虐待防止に力を入れるが、「わいせつを含めた虐待が絶対に起きない、と言い切れる事業所はないのでは」と本音を漏らす。
だからこそ、「アンテナを張り巡らせ、小さな兆候にどれだけ早く気づくことができるかに、事業所の力の差が表れると思う」。サービスの質は、事業所の自助努力に大きく左右されるのが実情だという。

放課後等デイサービスには人員配置などの基準があるものの、あくまで最低限度の基準にすぎない。多様な支援が行われている中で、どう質を担保するか、行政側も対応に追われている。
厚労省は、放課後等デイサービスを含む障害児の通所支援の事業所について、本年度中にガイドラインを作成する予定で、有識者が議論を続けている。障害のない子どもが利用する保育所や幼稚園、放課後児童クラブには質の向上に努めるよう計画の作成などを定めたガイドラインが存在しながら、障害児の支援事業所にはないためだ。
今回の事件が起きた事業所について、開設時の指定や指導をしてきた横浜市も、これまで以上の対策を講じる考えだ。15年度から、新規事業者に対する市独自の研修受講を義務化するほか、地域ごとに事業所などが相互に連携できる仕組みを構築。新規オープン時の指導の強化や、情報共有の体制をつくり、サービスの質の確保を目指す。
市障害児福祉保健課は「万能策は見いだせていないが、安心してサービスを利用してもらうことが最も大事」と話し、再発防止に力を入れる考えを示す。
ただ、同課で指導に当たる人員は課長、担当係長を除けばわずか3人。制度開始から事業所数は4倍以上の85カ所(1月現在)に増えたものの、人員は据え置かれている。「事業所数の増加で、仕事量は増えている」と話す同課は、今回の事件が起きた事業所について「結果として、指導が十分だったとは言えない」と認める。
市の計画案では、3年後には事業所数は計200カ所を目指す。指導に当たる体制の強化について、同課は「今後、検討していきたい」としている。

行政が積極関与を
2012年の児童福祉法改正で創設された「放課後等デイサービス」の事業所数が増えたことは、さまざまな障害のある子どもに門戸が開かれるなど、メリットは大きい。こうした子どもたちはこれまで放課後の余暇を十分に楽しむことができなかった。学校とは違う場で人間関係を築くことは本人の成長につながり、保護者の負担軽減にもなる。民間が運営する事業所が増えているが、サービスを充実させている事業所もある。
今回の事件の背景として、事業所数が増える一方、人材の確保や育成が追いつかず、サービスを充実させるのが難しい状況にあることなどが影響しているように思う。
事業所で働く職員に特別な資格要件はなく、厳しい雇用情勢の中で、本人が望まない形で別業種から流入してくることもあるだろう。資格要件のハードルを高くしすぎると運営が成り立たなくなるが、採用の段階で丁寧に人間性を見極めるべきである。例えば、面接だけでなく、子どもと実際に触れ合った時の本人の対応を見ることなどは有効だろう。
障害児の権利擁護について職員にしっかりと意識させておくことも必要だ。障害児が相手だからということで、過剰にスキンシップをしたり、年齢に不相応な言葉遣いをしたりすることは不適切な対応である。
例えば、高校生くらいの年齢の子どもであれば「ちゃん」付けではなく年齢相応に「さん」付けで呼ぶようにするなど、一般社会と同じようなコミュニケーションを心掛けるべきだろう。たとえ悪意がなかったとしても、障害児本人のためにならないだけでなく、権利擁護の意識が希薄になり、さまざまな虐待にもつながりかねない。
また、保護者の意見を聞き取る機会を設けたり、職員同士の連携を密にしたりしてほしい。現行制度になり、それまで別々だった重度の肢体不自由児、元気に動き回るような知的障害児、比較的軽度の発達障害児まで、一緒に受け入れるようになった。さらに、例えば自閉症といっても、本当に一人一人個性が違う。その子どもの個性を丁寧に見極めて支援をしていく必要がある。
そのためには、事業所内だけでは限界があり、学校や家庭での様子などの情報収集が欠かせない。利用児の特性に合わせた支援のために他機関と連携を深めることで、結果的に職員の問題行動などの早期発見にもつながるだろう。
近年の事業所数の増加に伴い、適切な支援のノウハウを持たない事業所も少なくない中で、行政が関わる重要性も増している。運営上の注意点について積極的に通知を出したり、適宜聞き取りを行ったりして、新規の事業所を含め、各事業所の質を担保する取り組みを進めてほしい。数を増やすことも大事だが、今回のような事件を防ぐためにも、適切なサービスを提供できているかを監督することが、行政には求められている。

是枝喜代治・東洋大教授
これえだ・きよじ 1960年生まれ。2012年から東洋大ライフデザイン学部教授。専門は障害児者福祉。特別支援学校の教員も15年間務めた。茅ケ崎市内の発達障害児の保護者団体の支援などにも関わる。

遺産相続で家族が崩壊! 財産がないほうが幸せなのか?

cakes 2015年2月20日

昨年から世間を騒がせている、某有名歌手や某大物俳優の遺産相続問題。財産を持っている人ほど、死後のお金の問題については、元気なうちに決めておかないとトラブルになりやすくなります。今回は、1,000人以上を看取ってきた医師・大津秀一が、お金を持っていた人、持っていなかった人の事例を比較して、どちらが幸せだったかを考えます。

お金の使いどころを知っておく
がんの患者さん同士が「やはりお金は大事よね」、なかには「お金が〝一番〟重要よね」と話し合っている姿を見ることがあります。
たしかに、お金は重要です。お金があると、治療や介護の選択肢が増えるからです。ただし、意外と知られていないことですが、高額療養費制度を利用すれば、「どんなに医療費がかかったとしても」、1ヶ月に数万円で収まります。この制度を利用したいときには、自分が加入している公的医療保険に申請する必要があります。厚生労働省のサイト内の「高額療養費制度を利用される皆さまへ」で、詳しく説明してありますので、参考にしてください。
そうは言っても、終末期の現場では、患者さんたちが医療費や介護費をできるだけ使わないように、細心の注意を払われている姿をよく目にします。もちろん、できるだけご家族にお金を残したいというお気持ちもあるのでしょう。
ただ、その結果として、緩和ケアを受けるお金をケチって苦しんだり、介護にかかるお金を節約して、本当は家で過ごしたいのに、我慢して病院で最後の時間を送ったりなさっているのを見ると、残念になります。余命が数ヶ月と推測される状況になったら、必要な緩和ケアや介護のために、ぜひお金を投入してもらいたいと思います。それは、「今」使うべきお金だからです。
たくさん持っている人ほど苦労する!?
「俺は何もないから……幸せだねえ」
60代男性の山田さん(仮名)は、ポツリと言いました。
山田さんは独身です。一度結婚していますが、長続きはせず、定年を迎えてホッとした途端に、死病におかされてしまいました。年の離れたお兄さんとは疎遠で、もう何10年も連絡を取っていません。誰も頼る人がいないのですが、彼は苦にならないようです。
山田さんと対照的に、同じ60代男性の深瀬さん(仮名)は、中小企業の経営者で、奥さんと息子さん、娘さん、そして5人のお孫さんがいて、はためには財産にも家族にも恵まれた方でした。
ところが、深瀬さんのがんの進行とともに、これまで保たれていた微妙なバランスが崩れ始めました。体力に不安がある奥さんと、実質的に会社を継いだ息子さんのかわりに、介護を担当していた息子さんのお嫁さんの負担が増えてしまったのです。
一方で、深瀬さんに可愛がられ、会社の後継者である兄よりも金銭的な遺産を多く譲られることになっている娘さんは、少し離れたところに嫁いでおり、それほど頻繁に病院には来られません。来るたびに悪化する父の様子に、娘さんは不信感を募らせました。
「ねえ、お義姉さん、何か急に父さんの具合が悪くなっているんだけれど」
「……病気だからね。私たちも頑張っているんだけれども」
「やせたねえ、父さん。ちゃんと食べてる?」
「あまり食べないわね。どうしてもがんだからね」
お嫁さんは、がんが進行し、あまり食べられないこと、食べられたとしても衰弱は進んでしまうことがあると説明されています。毎日のように来ていますから、これまでの経過も腑に落ちています。
しかし、娘さんにはそれは分かりません。こっそりと母に義姉がちゃんと介護をしているか問いただしたところ、そのことがお嫁さんの耳に入ってしまいました。
「あの……ずっと言おうと思っていたんだけれども、お義父さんのこと、結構大変なのよ。私たちだって一生懸命やっているけれども、これは病気だから仕方ないの」
「仕方ない……まあ、お義姉さんとは血がつながっていないですしね」
言ってはいけないことを言ってしまいました。こうなると、これまで積もりに積もった不満が噴出します。
「これだけ介護をやっているのに、誰からも温かい言葉はないじゃないの。時々訪れては、いい顔をしているだけのあなたに言われたくないわ」
「大変なら、最初から手伝ってと言えばいいじゃない。これまで何も助けを求めないでやってきて、あげく、私にばかり押しつけてと言われても」
そして、介護は圧倒的に兄弟姉妹のうちの一人が受け持っているのに、相続は平等というところが災いしました。(実際には、こういう例は多くあります。)
「文句ばかり言わないで、少しはお金でも出したら!?」
「だってお義姉さんたちは、会社をもらっているでしょう?」
「その分、お金ではあなたたちが圧倒的に多くもらうことになっているじゃない」
「だって平等なのは当然でしょう? もともとお父さんとお母さんだって、私たちを頼っていたわけだし、兄さんだってお父さんと仲もあまり良くなかったから、私が取り持ったようなもんじゃない! ……恩知らず」
「お、恩!?」
個室でしたが、部屋の扉は開いていました。二人の怒りは激しく、通りかかった山田さんばかりか、部屋の中にいた深瀬さんにも聞こえてしまったでしょう。
その後、お嫁さんは、ぱたっと姿を見せなくなりました。長男さんの3人のお孫さんも来なくなりました。もともと体調があまり良くない奥さんは、お嫁さんの代わりを務められるほど介護はできません。娘さんも、こういう事態になったからと言って、面会を増やせる状況ではないようでした。こうして、お金もあって家族もいて〝幸せ〟なはずの深瀬さんは、心穏やかな状況で最後の時間を送ることができなかったのです。
終末期には、人はたくさんのことを捨て、別れねばなりません。だからこそ、お金や家族など、捨てたくないものをたくさん持っている人ほど、大変なのかもしれません。
もちろん、お金があるから必ず揉めるというわけではなく、幸せそうに見えていたとしても、深瀬さんをとりまく人間関係は、けっして盤石のものではなかったのだと思います。それが、最後になって露呈してしまったのですが、もしお金がなかったとしたら、こんなことにはならなかったかもしれません。そう考えると、山田さんのように、何も持たず、何も残さずに逝くほうが気楽なようにも思えます。
私なりの結論を述べましょう。いざという時にないと困るのがお金であり、持っているに越したことがないのが財産ですが、逆にたくさんありすぎると、持っていない人よりも多くの配慮や自制心が要求されるのです。「ほどほど」が一番幸せなのかもしれません。
※登場する方の名前はすべて仮名です。

“夕方”の過ごし方がカギ、5つの快眠ポイントとは

オリコン 2015年2月20日

長かった冬も終わりに近づき、春はすぐそこまで迫ってきている。そんな季節の変わり目に気をつけておきたいのが“睡眠”のとり方。厚生労働省が実施した調査によると、日本人の5人にひとりが「睡眠で休養が取れていない」と回答、その満足度は低めの現状にあり、睡眠トラブルを引き起こしやすいこれからのシーズンは特に質を高める心がけが大切だ。そこで、睡眠専門クリニック「RESM新横浜」院長で医学博士の白濱龍太郎先生が、“快眠のツボ”を解説する。

<体を温めることが大切>『マッサン』で話題 “ホットトディー”の作り方
ウーマンウェルネス研究会 supported by Kaoが、20~50代の男女を対象に行った調査では、季節の変わり目に睡眠リズムの乱れを経験している人は約6割。平均の睡眠時間は6時間26分と、6時間以上確保しているものの、眠りの浅さや倦怠感を抱いている人は少なくないよう。
この結果を受け、白濱先生は「春はほかの季節に比べて、気温や気圧が大きく変動するので、自律神経が乱れがちになります。また、日の出の時間が急激に早まることで体内時計が乱れやすくなり、結果的に“睡眠リズム”が狂いやすくなるのです」と分析。満足のいく睡眠を得るためには、“体温リズム”と“ストレス”を上手にコントロールするのが大切で、特に「夕方から段階的に行うことが重要」なんだとか。以下は、白濱先生がオススメする、夕方からはじめたい快眠ポイント5つ。どれも手軽に実践できることなので試してみて。

【その1】肩甲骨回し
肩甲骨まわりには、体温を上げる細胞が集中。ここを中心に体を動かせば、効率良く体温を上げることができる。

【その2】少量のチョコレートを食べる
カカオにはストレス抑制が期待されるGABAが多く含まれており、チョコレートを食べることを習慣化することで脳がリラックスし、快眠スイッチが入りやすく。

【その3】帰りの電車の中では寝ない
体温は朝起きてから夕方に向けて高くなり、夜にかけて徐々に低下する。夕方に眠ってしまうと上がるはずの体温が上昇せず、睡眠リズムが乱れてしまうので注意。

【その4】炭酸入浴で身体を効率的に温める
体温を一時的に上げる効果的な方法は入浴。この時、炭酸ガス入りの入浴剤を使うと、炭酸が血管を拡張するため血流がよくなり、ぬるめのお湯でも短時間で温浴効果が得られるそう。

【その5】首もと、目もとを温める
人の体には、温かさを感じやすいホットポイントが数ヶ所あり、首もと、目もとはその代表格。蒸しタオルや市販の温熱シートを活用して、夕方にリラックスを。