子どもの貧困対策 未来社会への投資として

北海道新聞 2015年5月5日

子どもの貧困の問題が年々深刻さを増している。
厚生労働省が昨年まとめた調査(2012年度の実績値)で、18歳未満の子どもがいる世帯の相対的貧困率は16・3%。今や、子どもの6人に1人が貧困のただ中にいる。
国内総生産(GDP)世界3位の経済規模を誇りながら、その足元に広がる現実である。
長期間放置し続けてきたツケが顕在化している。未来を担う子どもの苦境は、とどのつまり政治の貧困にほかならない。
子どもたちを取り巻く環境を早期に、そして確実に改善する必要がある。
きょうは「こどもの日」。11日までの1週間は、子どもたちの健やかな成長を願って定められた児童福祉週間だ。「子どもの貧困」に向き合いたい。

6人に1人が苦境に
子どもの貧困率は1985年に10%台だったが、年々過去最高を更新し続けて16%台に突入した。
特にひとり親世帯の貧困率は55%に跳ね上がる。平均年収200万円以下の母子世帯が多い。
小中学校では、学用品や給食費、修学旅行費を払えず、市町村から就学援助を受ける子どもがこの15年間で2倍に増加した。受給児・生徒は全国で150万人、北海道でも9万人を超えた。
学校を拠点に福祉の専門家として子どもを支援するあるスクールソーシャルワーカーは数年前の出来事が忘れられない。
道内の小学校からの要請で面談した母親はシングルマザーで失業中。児童扶養手当を受けずに、水道と電気は止められ、母子は公園の水飲み場で顔を洗ったり、水をくむという困窮の中にいた。
援助制度を知らなかったがためだ。ソーシャルワーカーが同行し、手当が受けられるようになって危機を脱した。
こうしたケースをなくしたい。そのためには学校や関係機関などばかりでなく、地域での見守りも重要だろう。

雇用の改善急がねば
子どもの貧困は教育格差にもつながる。例えば大学進学率だ。全国平均が50%超なのに、生活保護世帯となると19%に落ちる。その格差が就職という社会への間口を狭め、「貧困の再生産」を招く。
この悪循環の根っこにあるのは社会情勢の変化である。
長く社会を下支えしてきた終身雇用が崩れ、働く場が正規、非正規に二分された。低収入の非正規が全国で2千万人を超え、労働者全体の4割を占めるようになり、生活苦の家庭が増えた。
だからこそ、政府は雇用の問題に取り組まねばならない。
まず手をつけるべきは、非正規を正規雇用に変えていくことだ。安定した仕事に就けなければ、貧困から抜け出せない。
政府、労働組合、経済界による昨年末の政労使会議でも、非正規労働者の処遇改善が確認された。
イトーヨーカ堂や川崎重工業など一部企業では正規雇用を増やし始めた。この流れを広げたい。
ただ、政府は非正規を固定化しかねない労働者派遣法の改正も目指している。子どもの貧困対策にも逆行する。慎重であるべきだ。

国の大綱は力不足だ
だが、雇用の改善には時間がかかる。当然、短期的な対策が必要だ。
政府は一昨年子どもの貧困対策推進法を成立させ、昨年は対策大綱を定めた。ようやく危機感を持ったからにほかならないが、大綱の中身は不十分さばかり目立つ。
対症療法として効果が大きいのは現金給付である。しかし児童扶養手当の拡充や返済義務のない給付型奨学金導入などが検討はされたものの、財政難で見送られた。これでは成果がおぼつかない。
安倍晋三首相は先月、子どもの貧困対策を進める財源の調達のため民間資金を募る基金を創設することを表明した。
首相も国の施策では力不足と感じたからだろうが、景気に左右される民間におんぶにだっこでは心もとない。
子どもへの支援は国の将来への投資である。税体系や再分配のあり方の見直しを含め、国はもっと積極的に責任を果たすべきだ。
子どもの貧困をめぐっては民間でもさまざまな動きが出始めた。兵庫県尼崎市のNPO法人は使い終わった参考書や文具を募り困窮家庭に配り始めた。
また親を亡くした子どもに支援を行う民間団体などが大同団結し、子どもの貧困対策を考える組織を来月にも発足させる。生活実態調査や進学のための支援モデルを作り、政府に提言するという。
こうした支援を歓迎したい。
子どもは未来への希望である。社会全体でそう考えることがすべての出発点だ。

「じぶん」を乱す子どもが憎いか?~児童虐待の謎

田中俊英 2015年5月6日

なぜ大人のオトコが引き起こすのか
児童虐待事件の加害者の75%は「男親」らしい。これは実父(40%)と継父・愛人(35%)に内訳される(児童虐待、過去最多の476件…加害者の約4割が「実父」)。
実母は20%程度で、加害者別にみると少数派だ。が、虐待死に至らせた親のトップは母親になる(児童虐待、加害者の64%実の親 12年摘発過去最多)。
全体的には虐待は「大人のオトコ」の犯罪ではあるが、少数だが殺人にまで至る事件(21 件/28件)は大人のオンナが引き起こしている。
だから児童虐待を考えるとき、まずは1.「なぜ大人のオトコが引き起こすのか」という点を考える必要がある。その次に、2.「凶悪ケースではなぜ大人のオンナが多いのか」ということになる。
2.は、オンナの場合はDVの加害者として自らのストレスがパートナーに向かうことはないので(むしろDVの被害者)、日常のストレスがパートナーではなく、身体的に自分より弱い子どもに向かう、という点で説明される場合もあるようだ。
凶悪事件はオンナが主原因だとしても(僕はこの裏には、「オンナへの操作的関わり」等で、何らかの意味でオトコが絡んでいると推察するが)、数的には大人のオトコが圧倒的に多いことから、児童虐待とはまずは大人のオトコが加害者である、と僕は位置づけている。

子どもへの「邪魔者」感
ではなぜ、加害者の母数としてはなぜ圧倒的に大人のオトコが多いのだろうか。
そうしたことをこの連休にFacebookでつぶやいていたら、友人の石井正宏さん(NPOパノラマ代表特定非営利活動法人パノラマ)が以下のようなコメントをくれた。
「ここに若いお父さん(或いは母の彼氏)の性欲があると思うんですよ。早く寝てくれないかな、子ども邪魔だなと。苛立ちの背景にこれがぜったいあると思います」
なるほど、51才の僕は最近すっかり枯れ始めてきて忘れていたが、20年くらい前の自分を思い起こすと、日常的に内部から沸き起こってくる「欲動(エネルギーのたかまりのようなもの)」と「欲望(イメージの増大化~いずれも精神分析用語~)」に悩まされていた。
20年前の僕であれば、いくら子どもができて育児中心に生活しなければいけないとはいえ、内部から突き上げられる欲動に押されて、セックスを邪魔する自分の子どもに対してある種の「邪魔者」感を抱くかもしれない。しばらくは子どもが寝静まるまで待つ、あるいは寝かせつけることに集中してもそれがうまくいかなければ(子どもの都合だけではなく子どものペースに合わせる妻に対しても)、いらだちと怒りを抱くかもしれない。
これは、なかなか報道されたり論述されたりするとこはないものの、虐待を読み解く上で重要なポイントだと思う。

「じぶん」を邪魔されることに怒ることが虐待
虐待は英語でabuseであり、直訳すると「権力の濫用」的意味であるということは当欄でも触れた(虐待の謎~abuseとアタッチメント)。
親(特に男親)という「力(権力/power/pouvoir)」は、上の性衝動の取り扱いの事例で考えるとわかりやすいが、子どもに対して「邪魔者」感をいだく。
邪魔者とされた子どもは、排除される力/powerを動員され被害者となる。これが虐待だ(同じく大人のオトコの暴力発動でも、女性パートナーに向かうDVの場合は排除のすぐ後に謝罪がやってくるから〈アルコール依存症等〉少し毛色が違う。そっちはいわゆる「共依存」)。
大人のオトコは児童虐待の主原因でもあると同時にDVの主原因でもあるという、どうしようもない存在なのだが、今回は大人のオトコ分析に細かく踏み込むのは避けよう。
ここで触れておきたいのは、「なぜ、自分のペースが乱される『程度』で、虐待という最悪の事態にまでなってしまうのか」ということだ。
言い換えると、常に乳幼児のペースで進むのが子育てであり、そこを乱されると(つまり「親自身のペースを乱されると」)、なぜ(父)親たちは虐待にまで走ってしまうのか、ということだ。
当欄であまり長く書いても読まれないため、さらに言い換えてみると、「なぜ我々は『自分』のペースを他者(ここでは乳幼児)によって乱されることが虐待になるまで腹が立ってしまうのか」ということだ。
そしてそれがなぜ「(貧困状態にある)大人のオトコ」たちに数としては顕著に見られるのか。
どうやら貧困は、大人のオトコから「他者」を奪い、凶暴にさせ、「他者のペースで遊ぶ楽しさ」を楽しさとして見いだせなくしてしまうようだ。「じぶんのペース」でいることのほうに快楽を抱くようになり、他者(イノセンスな子ども)を否定してしまう。
このあたりが、哲学好きの僕ができる、児童虐待に関する一つの答えを提案できる問いのようだ。

4月・5月に自殺が多い理由

Mocosuku Woman 2015年5月6日

大型連休ももう終わりですね。明日から仕事や勉学に戻らねばならないと思うと、憂鬱になるという人も多いのではないでしょうか。中には、沈んだ気持ちを誇張して「死にたい気分だ」などと冗談を言う人もいるかもしれません。実は、4月、5月は本当に自殺者が多い時期なのをご存じでしょうか。ここでは、日本における自殺の状況について見てみましょう。

春に自殺が多いのはなぜ?

日本の自殺者数の概況
内閣府が公表しているデータによると、日本人の自殺者数は、1998年~2012年まで14年間連続で3万人を超えていました。それ以降は減少しており、2014年には2万5000人程度に留まっています。年代別に見ると、1985年までは40代の自殺者が最も多く、1986年~2011年までは50代、ここ3年間は60代が最多となっています。性別としては、男性の自殺者数のほうが断然多く、1980年代あたりから一貫して女性の2倍以上です。

自殺者数の月別推移
自殺者数を月別に見ると、時期によってバラツキがあり、ほとんどの年で3~6月の春にピークを迎えています。特に2011年の5月は、直近の5年間で最も多くの自殺者が出ており、女性の増加も目立ちます。また、年代別の月ごとの自殺者数は、男性は80代を除いて5月が最も多く、30代にその傾向が強く、女性も20歳未満を除く多くの世代で4月、5月に多いという統計が出ています。

統計に見る自殺の動機・原因
同じ内閣府の統計によると、自殺の動機・原因は、男性の場合は「健康問題」が最も多く、次いで「不明」「経済・生活問題」「家庭問題」「勤務問題」──の順になっています。女性の場合は、「健康問題」「不明」「家庭問題」──の順です。この傾向は年間を通して変わりません。男女とも「不明」が多いのは、遺書などの明確な裏付けがないケースが少なくないからです。

自殺者数と社会問題の関係
2012年まで年間自殺者が3万人を超え、中年男性の割合が高かったのは、経済・社会問題の影響があると考えられます。この時期は、バブル崩壊後の「失われた20年」と呼ばれる経済の低成長、2008年のリーマンショック以降の景気低迷が続いていました。失業率が高く、年金問題、独居老人問題、介護問題などの社会的な問題が次々と浮上した時期でもあります。厚生労働省の政策レポートでは、無職者・独居者・生活保護受給者等に自殺リスクが高いことと、有職者の自殺率上昇には職場のメンタルヘルス不調が影響していると分析しています。

有職者のメンタルヘルス問題
働く人の職場のメンタルヘルス問題で浮き彫りにされてきたのが「うつ病」です。内閣府では、自殺者の最も多い理由である「健康問題」の40%超を「うつ病等の気分障害が自殺の要因として特に重要」としています。結果として、「うつ病対策」のためにメンタルヘルスケアが重要視されるようになりました。2014年には労働安全衛生法が改正され、従業員数50人以上の企業では今年12月から定期健診時のストレスチェックが義務化されます。

「木の芽時」と自殺の関係
春に自殺者が多いこと、また自殺理由の最上位が「健康問題」であり、とりわけうつ病が多いということを考え合わせると、「木の芽時」(このめどき)という言葉が想起されます。気温の寒暖差の激しさによって体調や精神状態が不安定になりやすい、春先のこの時期を、日本では古来からそう呼んできました。寒暖差という点では秋も該当しますが、実は秋も自殺数のもうひとつのピークとなっています。

季節的な原因で生じるストレス
気候の変動による急激な寒暖差は、それ自体がストレスです。これによって自律神経のバランスが乱れ、交感神経が働き続けて心身が休まらない事態が起きます。また、ホルモンバランスも乱れ、冷え、肩こり、月経不順などの不定愁訴も起きやすくなります。社会的にも、年度初めであるこの時期は何かとイベントが多く、進学、入学、入社、転勤、転居など大きな生活の変化が生じます。これもまた、ストレスとなります。このように、身体的にも社会的もストレスフルな時期となるのが「木の芽時」なのです。

ストレス放置が自殺につながる
こうしたストレスに気づかないまま放置しておくと、身体も精神もストレス耐性の限界を超えてしまいます。その結果、軽ければ5月病などの「適応障害」になり、さらに悪化すると「うつ病」を発症し、悪くすると「自殺」までいってしまうのでしょう。ストレスが決して侮れないものであること、それどころか命にさえ関わるものであることは、自殺者数というデータが端的に示しています。睡眠・休息・バランスのとれた食生活・運動など基本的な生活習慣の整備と、不調を誰かに相談することで、心身のストレスをうまく処理することが、何より予防につながります。ストレスを一人で抱え込まず、家族や友人、あるいは相談室や心療内科などに早めに相談することを忘れないでください。

感謝したい公務員1位は「消防士」

web R25 2015年5月5日

クビにならない、福利厚生に恵まれている、お堅い、融通が利かない…。みなさんは公務員にどんなイメージを持っているでしょうか。ニュースなどではネガティブな文脈で取り上げられることも多く、なにかと批判されがちな存在ですよね。でも、一生懸命やっている公務員の皆さんにはちょっと申し訳ないような…。そこであえてポジティブな質問。「縁の下の力持ちとして、よくやってくれている」と思う公務員はどれなのか、20~30代の社会人男女200人(※公務員は除く)に聞いてみました。

〈縁の下の力持ちだと思う公務員TOP10〉
(3位まで回答。1位は3pt、2位は2pt、3位は1ptで集計。特別職の公務員である国会議員、地方議会議員、裁判官などは調査対象外 協力/アイ・リサーチ)

1位 消防士 288pt
2位 警察官 190 pt
3位 自衛官 168 pt
4位 清掃作業員 113 pt
5位 海上保安官 104 pt
6位 保育士 91 pt
7位 公立学校の教員 71 pt
8位 刑務官 46 pt
9位 航空管制官 28 pt
10位 皇宮護衛官 19pt
10位 入国警備官/入国審査官 19pt

いざという時に頼りになる、我々の命を守ってくれる…。そんな“守ってくれる系”公務員がTOP3に。とりわけ「火災」という一般市民の身近にある脅威と戦う消防士への支持がダントツでした。では、ランクインした公務員たちはどんな理由で支持されたのか、寄せられた「感謝の声」をご紹介しましょう。

1位 消防士
「命を懸けて命を救ってくれるから、他の職業とレベルが違う」(35歳・女性)
「一番誠実そう。手抜きもないと思う」(36歳・女性)
「火災現場は危険だと思うから」(38歳・男性)
「身近であり、いつもトレーニングをしたり準備を怠らず、いざとなった時には助けてくれるから」(36歳・男性)
「不正を聞いた事がないから」(39歳・女性)

2位 警察官
「警察官がパトロールしてくれるおかげで防犯につながってると思うし安心」(37歳・女性)
「やはり、季節を問わず、天気を問わず、駆けつけてくれるから」(38歳・男性)
「危ない職業だし、よくテレビでも密着で取り上げられているのを見るので」(32歳・女性)

3位 自衛官
「目に見える活動は多くないが、国民を守るために頑張ってくれていると思うから」(24歳・女性)
「国内の自由が保障されているのは、国外からの干渉がなくそれを阻止しているのは軍事力と思うから」(36歳・男性)
「東日本大震災の時に本当に助かり、その仕事ぶりを痛感した」(29歳・女性)

4位 清掃作業員
「クローズアップされることの少ない仕事だが、社会の人の役に立ってくれていると思うから」(25歳・女性)
「実際に身近で目に見える形で働いてくれてるのが分かるから」(37歳・女性)
「汚れ仕事だし、やり手が余りいない職種なので」(39歳・男性)

5位 海上保安官
「隣国による領海侵犯への対応など、危険な任務に従事しているので」(37歳・男性)
「最近はよく報道されているが、任務が増えるなかでよく対応していると思うから」(36歳・男性)
「命懸けで海を守っているので」(30歳・男性)

6位 保育士
「大変な仕事で子供が好きでないと続かないと思うから」(39歳・女性)

7位 公立学校の教員
「最近の子どもや親は扱いづらい人が増えているうえに、体罰だなんだとがんじがらめにされていてストレスの大きさは尋常でないと感じるから」(38歳・男性)

8位 刑務官
「人がやりたくない事を率先してやってるイメージ」(29歳・男性)

9位 航空管制官
「忙しく事故を防いでいるから」(33歳・女性)

それぞれの経験も踏まえつつ、公務員への尊敬・感謝の念をこめたコメントが多数。公務員の皆さんは、よくある「親方日の丸なんでしょ」的なやっかみ混じりの批判にやりきれなさを感じることもあるかもしれませんが、そんな声ばかりではないことを改めてお伝えしたく思う次第でございます…。
(のび@びた)

ベランダでもダメ!と言われる時代 タバコの煙がもたらす本当の「害」とは?

Mocosuku Woman 2015年5月6日

住宅密集地やマンションで、しばしば問題となるのが、住人の喫煙マナーです。家族に気を遣ってベランダでひとり煙をくゆらすお父さんなどを、昔は「ホタル族」と呼んで、その哀愁ある立ち姿に同情の念を込めていたような気がしますが、最近はまったく社会的立場がないようです。その背景にあるのは、やはり喫煙による健康被害でしょう。喫煙者本人が吸引する「主流煙」と、周囲にいる人に影響を及ぼす「副流煙」の問題です。具体的に解説していきましょう。

本人よりも深刻な、副流煙の影響
「受動喫煙」は、自分の意思とは無関係に副流煙を吸い込んでしまうことを言います。タバコの影響で、目が痛い、ノドが痛い(咳が出る)、頭痛がする、冷え性、などの症状が出ると、それは「急性受動喫煙症」に相当します。喫煙をする本人以上に、受動喫煙の影響は深刻なものがあるのです。
タバコに含まれる有害成分は、低温の不完全燃焼時により多く発生するので、実は喫煙者本人の主流煙よりも、周囲への副流煙に多く含まれているものが多いことが知られています。主流煙と比べた副流煙の有害物質の比率は、次のようになっています。

●ニコチン・・・・・・・・2.8倍
●タール・・・・・・・・・3.4倍
●一酸化炭素・・・・・・・4.7倍(組織の酸素欠乏を引き起こす)
●ベンツビレン・・・・・・3.4倍(発がん物質)
●アンモニア・・・・・・・46.3倍

「好まない喫煙」による危険度
副流煙に含まれる有害物質による疾病リスクは、煙の影響がまったくない場合と比較すると、肺がん死亡率は1.19倍、狭心症・心筋梗塞などの心臓病死亡率は1.25倍というデータもあります。
とくに、自分は吸わないのに、タバコを常飲する夫と同居している場合、肺がんリスクは1.3倍程度、肺腺がんリスクは2倍以上にもなることが報告されています。

受動喫煙に関する、よくある質問
受動喫煙に関する、よくある質問とその回答を2~3挙げてみました。

外で吸っていれば大丈夫?
喫煙後4分弱は、吐く息にもタバコの成分が大量に含まれ、その後も微量ながら排出され続けます。たとえば、ベランダでタバコを吸っても、サッシの隙間からタバコの粒子は部屋に入り込みます。ですから、外で吸っているからといって、影響がないわけではありません。

空気清浄機があれば大丈夫?
空気清浄機は粒子成分の除去はできますが、一酸化炭素など有害物質のガス成分は素通りしてしまい、受動喫煙の影響を防止することはできません。

妊婦への影響は?
受動喫煙により、低体重児出産や幼児の発達障がい、中耳炎、SIDS(乳幼児突然死症候群)などを招きやすいことが指摘されています。

受動喫煙を避ける
受動喫煙症の初期症状を放置していると、次第に身体が慣れてきて、継続した有害物質の吸入を許し、「慢性受動喫煙症」と呼ばれる、化学物質過敏症、アレルギー性皮膚炎、気管支炎、喘息、副鼻腔炎、肺がんなどの症状を引き起こすリスクを高めます。
初期症状を自覚した段階で、タバコの煙が立ち込める場所は避け、長居をせずに、早めに立ち去る習慣をつけましょう。

なかなか禁煙できない!という悩み
自分自身や家族がなかなか禁煙はできない、という場合は、禁煙外来を受診し、喫煙を「治療」することも、受動喫煙による健康被害を避ける方法です。とくに、妊娠中の女性や幼児のいる家庭では、受動喫煙に十分に注意することが大切です。