一時保護所の児童が学校に「通えない」状態は、違法じゃない?! — おときた 駿

アゴラ 2015年7月3日

都議会では登壇の出番がなくても定例会中に「文書質問」を提出できるので、今回も社会的養護の分野について、特に一時保護所について質問しています。
滞在100日超え、1年以上も…「一時保護所」の子どもたちを取り巻く環境
(http://otokitashun.com/blog/daily/7656/)
上記の前回記事の中で、一時保護所の子どもたちの外出は制限されており、基本的に学校には通学できないことをレポートしました。
一時保護所で緊急保護されている児童は深刻な虐待など、文字通り両親の元から逃げてきた子もおり、彼らの安全を確保するため場合によっては登校が制限されるのは、仕方ない部分かもしれません。(両親が学校・通学中に捕まえに来てしまうため)
でもそれが恒常的に登校できないとなれば問題ですし、あくまで「一時的」な対処だからこそ許される事態です。
事実として一時保護所の滞在期間は長期化しており、レアケースとはいえ100日・200日、1年以上に及ぶ児童も存在します。
学校には行けない。保護所に来る子どもと友達になっても、自分より先に出所するなど、継続的な人間関係が構築できない…そんな悲惨な生育環境で、多感な時期を過ごさせることになってしまいます。

そしてご案内の通り、少なくとも小学校・中学校は「義務教育」です。
いくら子どもたちの安全のためとはいえ、恒常的に通学を制限するとすれば、それはどのような根拠・法律によって許されるのでしょうか?
どうも調べていくと、児童福祉法四十八条が根拠になっているようです。

【児童福祉法 第四十八条】
児童養護施設、障害児入所施設、情緒障害児短期治療施設及び児童自立支援施設の長、その住居において養育を行う第六条の三第八項に規定する厚生労働省令で定める者並びに里親は、学校教育法に規定する保護者に準じて、その施設に入所中又は受託中の児童を就学させなければならない。

これの何が根拠になるのかって?
太字にした施設・里親は

「学校教育法に規定する保護者に準じて」
「受託中の児童を修学させなければならない」

わけですが、一時保護所はこの中に入ってないんですね。
入ってない=修学させなくてもOKというわけで、ってなんじゃそりゃぁぁぁ!!
いやね、現場も苦肉の策・苦肉の論理なんだと思います。
子どもに修学させてあげたいけれど、安全を守るためからそれができないのだと。
そして、それは法律に禁じられていないから合法なのだと。
でもたぶんこれ、当事者が裁判起こしたら勝てる可能性もあると思います。
もし判例で
「児童相談所が、一時保護所の児童を修学させないのは違反!」
なんてことになれば、死ぬ気で通学させる方法を考えるでしょう。
(送り迎え用のスタッフをつける、学校側と強力に連携する等)
しかし、当事者能力のない子どもにそんなことはできませんし、「そこまで滞在が長期化するのは、あくまでレアケース」としてこの問題は今日まで棚上げにされてきています。

確かに「とにかく一時保護所の子どもたちも、常に学校に通わせろ!」という対応は乱暴ですし、現実的に難しい部分はあると思います。
しかし原則である「40日間」を超えて長期滞在を余儀なくされる子どもたちには何らかの形で復学させる必要があるのではないでしょうか。いくら施設の中で有資格者による授業や教育を施したところで、学校という社会生活の代わりにはなりません。
「そもそも長期滞在化しないことを心がけ、抜本的解決を目指す」
という行政の姿勢は間違ってはいないと思いますけれど、現実的にどうしても長期化する子どもがいる以上、それに個別対応する方法も考えなければいけないはずです。
この問題を解決するには、やはり安全な通学を見守る「人員」であり、その人員配置を可能する「予算」の獲得が必要になります。
引き続きこの社会的養護・児童養護の分野には惜しみない政策的投資と人員加算が行われるよう、働きかけていきたいと思います。

[上田令子]【都推進「家庭“的”養護」に要注意】~施設での児童養護を正当化~

Japan In-depth 2015年7月4日

要保護児童とは、「保護者のない児童又は保護者に監護させることが不適当であると認められる児童」をさす。この子ども達は政府・行政、あるいは里親などの家庭、地域といった社会全体で育んでいく。
だからこその「社会的養護」と考え、かねてより都議会にて家庭養護の推進を求めてきた。
ことに生後3カ月までに結ばれる特定の養育者との絆は、愛着度が深いと立証されている昨今、赤ちゃんの里親委託は喫緊の課題だ。しかしながら、東京都においては平成24年度、335人の2歳未満の乳幼児のうち里親委託されたのは、1ヶ月以上のゼロ歳児2名、1歳以上2歳未満12名、合計14名だけで、過去三年間1ヶ月未満の赤ちゃんの里親委託はゼロである。
現在日本における、要保護児童数は4.7万人(東京都は約3,600人)。そのうち里親委託は4,500人と僅か10%。東京都もほぼ同率で、以下世界標準と比較し、施設編住型の日本は「政府による社会的ネグレクト」との批判を受けている。※トップ画像参照
ことに新生児~乳幼児の赤ちゃんにおいてはほとんど、迷う余地も無く乳児院という現実がある。27年4月に策定された「東京都社会的養護施策推進計画」7ページ「東京都の社会的養護の体系図」において乳幼児期の部分は家庭養護がすっぽりと抜け落ちているのは問題だ。これまで都議会でも議論が重ねられ、私の平成27年度第一回定例会一般質問 においても「児童養護施設では、グループホームなどの設置により、本体施設の定員を減らした場合に生じた空きスペースを活用し、児童の生活の場を小規模で家庭“的”な養育が行える形態に変更」と答弁している。
ここで注意を払わねばならないのは「家庭養護」と「家庭“的”養護」とでは、似て非なるものであるという点だ。グループホームでは、5~6名の「家庭“的”」な養護をするとはいえ、同一職員が24時間365日関わるわけではない。これでは、乳幼児に不可欠な同一養育者による一対一の愛着関係が築きようもない。施設職員も奮迅しているのは十分承知しているが、施設の人員では夜泣きする赤ちゃんを一人ひとり胸に抱く余裕は無く、本来の家庭養護とは程遠くならざるをえない。
実際に国においての家庭養護の定義は「里親及びファミリーホーム※(上田注:里親家庭で複数の子どもを養育)」としているのに対して、東京都は、「家庭養護」という言葉を使うのを回避して、「養育家庭(里親・養子縁組)等、ファミリーホーム、グループホーム」と、グループホームを入れ込んで「家庭“的”養護」と定義、施設での児童養護を正当化し、政府の目標である家庭養護6割を達成しようとしているのが見てとれる。
平成27年5月27日に、日本テレビ系列の情報番組「news every.」にて、東京都子ども家庭相談センター一時保護所における子ども達への威圧的な指導について衝撃的な報道「 特集 児童保護施設の現実・子供たちの声に責任者は?」がされた。
上田も昨年同施設ならびに一時保護所を、6月1日には江東児童相談所と一時保護所を視察。一時保護所における生活環境も憲法並びに子どもの権利条約20条、児童憲章2条「すべての児童は、家庭で、正しい愛情と知識と技術をもって育てられ、家庭に恵まれない児童には、これにかわる環境が与えられる。」とされる観点からも法律・条約違反にあたるのではないかと大きな問題意識をもっている。
都のこれらの現状を踏まえれば、施設から家庭養護へ早急に推進することは世界の趨勢をもってしても議論を待たない。「家庭“的”養護」にだまされることなく、これまで以上の特別養子縁組・養育家庭等の里親委託事業を推し進めることを切に望み引き続き東京都へ都議として働きかけをする所存だ。また同時に、ともに都議会で家庭養護推進問題に取組むおときた駿都議会議員と上田が発起人となり仮称「すべての子どもたちに温かい家族を!」プロジェクトを立ち上げた。水野ゆうき千葉県議会議員、伊藤陽平新宿区議会議員、三次ゆりか江東区議会議員ら地方議員、有志の施設卒業生、里親、NPO等児童養護関係者が参画して、HPも開設し今後長期的に取組んでいく。
子ども達の一日は長い。政府や行政を批判し任せるだけでは間に合わないことから、当事者、民間、地域、地方議会からこの問題を解決する道を模索していく予定だ。

子だくさんママに聞く、子だくさんを選んだワケ

web R25 2015年7月4日

少子化が加速する日本社会。最新のデータによると、女性が一生の間に産む子どもの平均数を示す「合計特殊出生率」は「1.43」(平成25年「人口動態統計」厚生労働省調べより)。経済的な理由や晩婚化など、さまざまな理由で子どもをたくさん産むという選択肢自体が遠いものになっているのかもしれません。
しかしその一方で、子どもがたくさんいることで、ハッピーな人生を歩んでいるママもいます。そんなママの一人で、5人のお子さんを育てながら社長業や学業にも励んできたという、大葉ナナコさんにお話を伺いました。

子ども5人はかけがえのないチーム
22歳で長男を出産、仕事もバリバリこなすかたわら、2男3女の育児を経験された大葉さん。なぜ子どもをたくさん産むという選択をしたのでしょうか?
「私は3人兄妹の真ん中だったのですが、皆とても仲が良かったこともあって、昔から子どもがたくさんほしいなと思っていたんです。20歳のときの日記にも『たくさん子どもがほしい』と書いていたくらいなので、子だくさん家庭への憧れは若い頃から持っていたんだと思います。子どもたちとチームとして暮らすことを待ちわびていましたね。主人も子育てに理解があって、とても協力的なので、5人の子どもを持つことにためらいもなかったです」(大葉さん、以下同)

家事の大変さなんて小さなこと
現在、成人を含めて5人のお子さんに囲まれている大葉さんですが、「毎日ただただ楽しい!」といいます。
「子どもたちを育てることは、本当にやりがいがあることです。子どもがたくさんいると掃除洗濯などの家事をはじめ、日常が慌ただしくなるといったネガティブな面ばかりに目が行きがちですが、それ以上に得られるものが大きい。家事の苦労なんかとは比較できないくらい、幸せ感で満たされるものです」
多少の苦労も子どもたちから与えてもらえるエネルギーがあれば乗り越えられるものなのかも。
「それぞれ異なる個性を持った子たちをまとめながら、家庭というオアシスをつくる。そんな感覚です。これは、人生の何物にも代えがたいことだと思います。もし子どもをたくさん産める環境とチャンスがあるのなら、ぜひ他の方にも経験してもらいたいですね。子育てから学べることって本当にたくさんあるんです。『待つこと』『信じること』『許すこと』という人として身につけるべき力も子育てを通して備わりますし、不調和なものを調和させていく力は、仕事にも役立ちます」
子育てにも仕事にも、とにかくアクティブな大葉さん。その原動力となっているのも、やはり子どもたちから注がれる愛情とパワーなのかもしれません。
(構成・文:末吉陽子/やじろべえ)

児童養護施設職員、アプリで知り合い中学生買春

読売新聞 2015年7月3日

福島県警いわき南署は2日、埼玉県熊谷市、児童養護施設職員(22)を児童買春・児童ポルノ禁止法違反(児童買春)の疑いで逮捕した。
発表によると、容疑者は5月12日午前1時頃、自宅アパートでいわき市の女子中学生にわいせつな行為をして現金1万円を渡した疑い。2人はスマートフォン専用アプリの掲示板で知り合い、JR熊谷駅で待ち合わせて容疑者の自宅に向かった。女子中学生が帰宅しないと母親から連絡があり、同署が調べていた。

障害児施設の管理者、女児連れ帰り掃除させる

読売新聞 2015年7月2日

堺市西区の障害児通所支援事業所で、女性管理者(51)が、利用者の女児3人(11~14歳)を勝手に自宅に連れ帰り、犬小屋や風呂場の掃除をさせるなどの虐待をしたとして、市は1日、運営会社に対し、2日から半年間、新規利用者の受け入れを停止する処分にしたと発表した。
事業所は「放課後等デイサービス事業所クレヨン」。発表によると、管理者は昨年7~10月、複数回にわたり、3人を車で区内の自宅に連れ帰り、掃除を命じた。昨年8月には、管理者が職員をどなり、その様子を見た児童2人が泣き出したり、嘔吐(おうと)したりしたという。
市は、こうした行為が心理的虐待にあたり、児童福祉法で定める障害児の人格を尊重する義務に違反すると判断した。

道徳教科書 「寛容」と「規則の尊重」 自ら考え議論に力点

産経新聞 2015年7月4日

文部科学省が取りまとめた道徳の学習指導要領解説書を通じ、今年から編集作業がスタートする検定教科書の大枠が明らかになった。解説書には、「寛容」と「規則の尊重」など、ときに対立する価値観が併記されており、これらの記述に沿って編集が進められると、子供たちの「議論の場」となる教科書が誕生する。
新教科導入時は教員も手探りの指導となるため、教科書の完成度が教育の成否を左右する。解説書は一義的には教員向けだが、今回は教科書会社へのメッセージを前面に押し出した格好だ。
文科省の担当者は「教科書会社への論理の軸を明確に打ち出した」と話す。小学校の「寛容」を教える指導項目には「寛大な心をもって他人の過ちを許すこと」などと記し、広い心が必要なことを説明した。一方で「規則の尊重」の項目では、「法や決まりを守ることは(ルール違反者の)自分勝手な反発に対してそれらを許さないという意思を持つこと」と記述し、厳格さの必要性も強調している。
「寛容」では「許す」ことを教えるが、「規則の尊重」では「許さない」ことを教える-。価値観の対立について、唯一の正解を提示することは難しい。
文科省の担当者は「人間社会でバランスの取り方を教えるためにも、子供たちに積極的に議論してほしい。あえて踏み込んで両論を併記した」と説明する。
教科書では、少年法の改正や臓器移植をめぐる倫理的問題など身近な具体的事例の導入が想定されているが、教科書は“問題”について、正解を示すのではなく、子供たちが自ら考えたり、互いに話し合ったりすることに力点を置いた編集になるとみられる。(玉崎栄次)

<文科省>道徳の学習指導要領解説を公表

毎日新聞 2015年7月3日

文部科学省は3日、教科外活動から教科に格上げされる小中学校の道徳の授業や教科書編集の指針となる学習指導要領解説を公表した。教科化のきっかけになったいじめ問題については、「人間の弱さに起因していることに気づかせ、周囲の雰囲気に流されない態度を育てる」ことなどを指導の要点として示した。「教材を読む道徳」から「考える道徳」への転換を図るため、討論しながら学ぶ「課題解決型学習」の活用を重視する。
文科省のホームページで同日から公開している。この解説と今夏にも示される教科書の検定基準に基づき、出版社が教科書を作る。小学校用は2016年度、中学校用は17年度の検定を経て、それぞれ2年後から授業が始まる。
いじめ問題への対応で「公正、公平、社会正義」について学ぶ内容では、小学校高学年や中学校で、いじめに加担するだけではなく、傍観することも「人間の弱さ」によるものだと教え、「学校や関係機関に助けを求めることをちゅうちょしない態度を育てる」ことを指導の要点に挙げた。小学校低学年では「偏見や差別が背景にある言動には毅然(きぜん)として是正することが必要」とした。
小中を通じて学ぶ「国や郷土を愛する態度」に関しては、「国を愛することは偏狭で排他的な自国賛美ではない」「『国』とは政府や内閣などの統治機構を意味するものではなく、歴史的・文化的な共同体としての国を意味する」と留意点を示した。
また、指導するうえで配慮すべき事項の一つに課題解決型学習の活用を挙げ、「教師と児童・生徒、児童・生徒相互の話し合いが十分行われることが大切で、教師の発問の仕方が重要」と強調した。
教科化にあたって課題となる成績評価の方法は、文科省の専門家会議が年内に基準を示す予定。【三木陽介】

<母乳ネット販売>厚労省など自治体に注意呼びかけ

毎日新聞 2015年7月3日

インターネットで不衛生な偽「母乳」が販売されている実態を明らかにした毎日新聞の報道を受け、厚生労働省は3日、衛生管理状況が不明な母乳を乳幼児に与えることに注意を呼びかける通知を全国の自治体に出した。問題がある母乳の販売業者には販売停止などの指導をするよう求めている。また、消費者庁も同日、同様の注意を喚起した。一方、医療関係者も「厳密な安全確認を重ねない限り、他人の母乳を与える行為はリスクが大きすぎて許されない」と訴えている。
厚労省は文書で、既往歴や搾乳方法、保管方法などの衛生管理状況が不明な第三者の母乳について、「病原体や医薬品の化学物質などが母乳中に存在した場合、これらに暴露するリスクや衛生面のリスクがある」と指摘。母乳を通じて感染する可能性がある病原体の例として、エイズウイルス(HIV)や、白血病ウイルス(HTLV-1)を挙げている。
その上で、妊産婦訪問、新生児訪問、乳幼児健康診査などを利用し妊産婦や乳幼児の養育者に、ネット販売されている母乳のリスクを広く注意喚起するよう求めた。
ネット販売の母乳の危険性は、昨年7月に設立された国内唯一の「母乳バンク」を持つ昭和大江東豊洲病院(東京都江東区)の取り組みからうかがい知ることができる。
同バンクは早産や病気などで母乳が出にくい母親に代わり、医療目的で別の女性の母乳を赤ちゃんに与える機能を持つ。使われる母乳は、徹底的に安全を追求したものだ。提供する女性は血液検査を受け、感染症の有無、飲酒や喫煙の習慣のチェックを経て、ようやくドナーとして登録される。
ドナーが自宅で搾った母乳はすぐ冷凍してバンクに送付。細菌検査や母乳成分の基準をクリアすれば、さらに62・5度で30分間、低温殺菌処理される。これで細菌がないことが確認されたものが、マイナス70度で冷凍保存されて出番を待つ。しかし、冷凍保存期間は3カ月が限度。解凍した場合は一気に細菌が繁殖するため、24時間以内の利用が必要だという。
バンクの運営を主導する水野克己・小児内科教授は「安全な母乳を全国に提供できるシステムを早期に整備し、ネット売買をなくしたい」と話している。【古関俊樹、鳴海崇】

個別指導塾でブラックバイトが横行するワケ

東洋経済オンライン 2015年7月4日

都内の大学に通うAさんは、疲れた表情で話し始めた。「バイト中心の大学生活になっていてつらい。ただ、担当している生徒に思い入れもあるので、辞めたくても辞められない」。

他にもこんなに!教育現場の法律違反事例
この春大学生になったAさんが、現在勤めている個別指導塾でアルバイト講師として働き始めたのは、3カ月前。教員になる夢があり、就職活動にも有利と聞いたからだ。

授業前後も含めると最低賃金を割り込む
ところが、職場の現実は、Aさんの想像とは懸け離れていた。週3日、計9コマの授業を受け持っているが、給与が支払われるのは授業時間分だけ。授業前の予習や授業後の質問対応、報告書記入は給与支払いの対象外だった。授業前後の拘束時間も含めた勤務時間で、給与を割ると、最低賃金を下回ってしまう。
大学の時間割を職場の上司と一緒に決めたところ、バイトのシフトが優先され、教員免許の取得に必要な授業を取ることができなかった。自宅周辺のコンビニに張られたバイト募集の案内をうらめしく眺める毎日だという。
こうした悩みを抱える学生はほかにもいる。NPO法人POSSEが立ち上げた「ブラックバイトユニオン」に2014年以降、寄せられた相談のうち3割超が教育業界からのもの。中には、Aさん以上にひどい例も散見される。
たとえば、大学4年生のBさんは就職内定先のインターンに参加したり、卒業論文を書いたりするため、バイトを辞めたいと申し出た。すると「責任感ないの?」「そんなんじゃ社会人としてやっていけない」とまくし立てられた。
さらに悪質なケースになると、雇用契約書に「遅刻した授業の給与は無給」「後任者が決まる前に退職すれば、損害賠償を請求する」、と記していた塾もある。東京法律事務所の井上幸夫弁護士によると、この記載は労働基準法16条(賠償予定の禁止)に抵触する可能性が高いという。

ユニオンや厚労省が動いた
こうした事態を受け、6月4日、バイト塾講師の大学生とブラックバイトユニオンが中心となり、「個別指導塾ユニオン」を結成した。
同日、「明光義塾」を展開する明光ネットワークジャパンと、そのフランチャイジーであるワールドオーエー、さらに「代々木個別指導学院」を運営する日本教育協会の3社に対し、団体交渉を申し入れた。今後も同様の活動を進め、計10社程度と交渉していく構えである。
彼らが特に問題視しているのは、授業単位で給与を支払う「コマ給」という給与体系だ。個別指導塾ユニオンの坂倉昇平氏は「コマ給は賃金を安く固定しているようなもの。そのうえで仕事量を増やし、責任を負わせ、辞めにくい環境を作り出している。塾バイトのブラックさを象徴する制度だ」と指摘する。
事態を重く見た厚生労働省は3月27日、全国学習塾協会など7つの業界団体に、「労働時間の適正な把握、賃金の適正な支払等について」という要請文を出した。「教育産業への監督指導件数は、製造業よりも少ないが、問題の質がよくない」(労働基準局)。
ユニオンから申し入れを受けた3社は「団体交渉まで意見は差し控えたい」としたうえで、「真摯に対応し、改善すべきは改善する」(明光ネットワークジャパン)と弁明した。

塾側にも言い分がある。「コマ給は、業界に昔からある、一般的な賃金体系。予習や授業後の質問対応も含めて、一つのサービスという感覚」(業界団体の幹部)。
従来型の集団指導塾の講師であれば、一度に教える生徒が多いうえ、問題の出し方などに独自のノウハウが必要なため、給与水準は高い。だから拘束時間で換算しても、最低賃金を割り込むことは少ない。
これに対し、個別指導塾では、1人の講師が1コマで教えるのは1~3人程度。生徒に問題を解かせ、解説をするだけなので、それほどのスキルも要しない。当然ながら、給与水準は低くなる。
前出の業界団体幹部はこう代弁する。「競争が厳しくなる中、勝ち残るにはコストを抑えるしかない。だから、体育会的なノリで過度な要求をしてしまうのではないか」。

競争激化で講師にシワ寄せ
業界の現状について、塾大手の幹部は「個別をやっていない塾がないほどの状況」と明かす。集団型に比べ小ぶりな設備で済むので、出退店は容易。少子化が進む中、集団と個別を併設し、両方を受講してもらえば、生徒単価も上がる。一方、苦手分野を克服できたり、時間の調整に応じてくれたりと、生徒と保護者にとってもメリットは多い。
需給のニーズが合致したことで、2000年代前半に3000億円台前半だった個別指導塾の市場規模は、直近で4000億円台前半まで成長した。だが、ここ数年は都市部を中心に飽和状態に陥り、市場規模も頭打ち。こうした中で、講師の給与にシワ寄せが来ている。
「今は時給の概念が一般化しており、拘束時間に見合った体系にする必要がある。ただ、個別には1対1の塾もあれば、1対3の塾もある。業界として足並みをそろえにくい」(前出の業界団体幹部)
6月末から7月上旬にかけて、ユニオンと塾3社の団体交渉が始まる。“学びの場”の名にかけて、病巣を切り出すことができるか。