児童養護施設の課題、卒園後にこそ

オルタナ 2015年8月20日

NPO法人BLUE FOR TOHOKU(ブルーフォートーホク)は8月17日、福島の児童養護施設で暮らす子どもたちに職業体験プログラム「おいでよ!東京2015」を行った。同日、子どもたちは都内の職業体験施設「キッザニア東京」を訪れ、楽しみながら働くことを学んだ。プログラム中は、子どもたち一人ひとりにボランティアが付き添い、交流していたが、同団体代表の小木曽麻里さんは、「卒園後にこそ、フォローの手が足りていない」と課題を話した。(オルタナS副編集長=池田 真隆)
同プログラムは今年で4回目。毎年、ブルーフォートーホクが福島の児童養護施設に呼びかけ、40人ほどが参加している。キッザニア東京で職業体験をしたあとは、ボランティアも参加してのミニ運動会で一日を楽しむ。
企画運営は、ブルーフォートーホクのスタッフと100人弱のボランティアが行う。福島からの交通費やキッザニア東京のチケット代などは企業からの寄付でなりたっている。伊藤忠商事は、次世代育成のCSR活動として、昨年に引き続き寄付を行った。寄付額は、1,125,128円。同社は今年3月、復興支援のため社員に募金を募り、その金額に会社からのマッチングを加えた。
今回参加したのは、森の風学園(福島県玉川村)や白河学園(福島県白河市)ら4施設から42人の小学生たち。
児童養護施設に来る子どもたちの多くは、親から虐待やネグレクトを受けているという。そのため、大人に対して、抵抗を感じている子どもは少なくない。今回のプログラムでは、職業体験をするだけでなく、大人との交流も目的の一つだ。
今回集まったボランティア数は、平日にもかかわらず100人弱。参加した子どもたち一人ひとりに、アテンド役として着いた。子どもたちはキッザニア東京そして、ミニ運動会と一日を、初対面の大人と一緒に過ごす。徐々に大人に慣れさせていく考えだ。
ボランティアとして今回で3回目の参加となる49歳のIT系企業に勤める会社員の男性は、有給休暇を取ってきた。男性は小学生の子どもを持つ親であり、「(自分の子どもと)同い年くらいなので、何か力になりたい。参加するごとに、子どもたちとうまく交流できるようになっていくことがうれしい」と話した。
大人と子どもが交流することに対して、伊藤忠商事も意義を感じている。同社のCSR・地球環境室室長の小野博也さんは、「子どもの職業体験だけではなく、大人と子どものコミュニケーションを当イベントでは重視している。子どもたちには、さまざまな人と接することで、仕事のことを知ってもらい、学んでもらえれば。当イベント以外にも、冬には児童養護施設に訪問し、様々な職業を子どもに紹介する機会を提供したいと考えている」と話す。

課題は、施設卒園後
ブルーフォートーホク代表の小木曽麻里さんは、児童養護施設の子どもたちが抱える課題として、卒園後のフォローと指摘する。「卒園後の状況を把握できなく、どこで何をしているのか分からない」。国としても施設を卒園した子どもたちの現状把握は行っていない。
卒園者は、支度金を施設からもらうが、その額だけでは、マンションを借りて一人で生活していくのは困難だ。そのため、土木作業員として、住み込みで働く者が多いという。しかし、小木曽さんは、「長続きしないと聞いている」と心配する。
施設にいる子どもたちは、親から虐待やネグレクトを受けたことで小学生のときに、不登校になる子が多くいるという。そのため、「学力が足りなく、高校に進学できる子は少ない」と小木曽さんは言う。学歴で、就職先が限られてしまうという課題もあるのだ。

「おいでよ!東京」をモデルに
おいでよ!東京2015では、大人との触れ合い、そして職業体験で働くことの楽しさを学ばせている。さまざまな大人と話すことで、子どもが将来就きたい職を見つけるきっかけになったり、相談相手ができるかもしれない。
児童養護施設の卒園後の課題を解決するため、小木曽さんは、企業・NPO・個人などさまざまな人・団体が手を取り合っていくべきと主張する。小木曽さんは率先して、児童養護施設を拠点に活動する他の団体に呼びかけ、集まる場をセッティングした。だが、実際には、方向性の違いからうまく話がまとまらない。
まとまらない原因の一つに、各団体の資金難がある。児童養護施設の子ども向けに活動する団体で、正社員がいるNPOは少なく、その多くが本業を持ちながら、空いた時間に活動している。「自分たちだけでも大変なのに、連携できる余裕がない」といった意見が出ているという。
現状は、資金面では企業の寄付金に頼っているところが大きい。今後は、サステナブルに活動していくために、他団体との連携とともに、資金調達方法の改善も課題だ。
課題は多くあるが、現に「おいでよ!東京」は東日本大震災から4年連続で実施している。この日のために、100人弱の大人が有給休暇を取り、100万円近く寄付する企業もいる。NPO・企業・個人の3者が一体となったこの活動をモデルに、卒園後の就労支援も含めた活動を展開していきたいと、小木曽さんは意気込む。

性的少数者支援へ自治体模索 同性カップルに証明書や検討部会発足

神戸新聞NEXT 2015年8月20日

同性愛や性同一性障害など性的少数者(LGBT)を支援する動きが自治体に広がりつつある。東京都渋谷区では3月、同性カップルを結婚に相当する関係と認め、証明書を発行する条例が成立。世田谷区でも同性カップルを公認する証明書を交付する。兵庫県内でも宝塚市で4月、支援に向けた検討部会が発足した。性的少数者に対する根強い偏見を解消し、多様な生き方を認め合う社会への一歩を踏み出せるか、注目される。(土井秀人)
「人が自分らしく生きるために大切な施策」。宝塚市の中川智子市長は力を込める。衆院議員時代に性同一性障害の当事者から陳情を受け、その「生きづらさ」を実感した。「ずっと気に掛かり、宝塚でも何とかしたいと思っていた」と渋谷区の条例制定をきっかけに支援へ動き出した。
検討部会では当事者や専門家、他の自治体の取り組みなどを聞き、10月にも基本方針を策定。条例制定も視野に入れ、「各地の自治体が動けば、国もじっとしていられないはず。まずは議論することが大事」とする。

厚生労働省などの調査では、LGBTは人口の3~5%程度とされる。しかし、問題が議論されることは少なく、行政などの現場では“いないもの”として扱われてきた。
「テレビの中でも、海の向こうの話でもない。身近なことと受け止めて」。同性愛者の弁護士・南和行さん=大阪市=は、5月にあった宝塚市職員への研修で呼び掛けた。親にも打ち明けられず、自己否定にさいなまれ、自暴自棄になる当事者たちの苦悩を紹介。「誤りのない情報が社会に浸透することが大切」と訴えた。
「命に関わる問題」と指摘するのは、宝塚大看護学部の日高庸晴教授(社会疫学)。日高教授らが厚労省の研究事業の一環で行った複数の調査では、同性愛や両性愛の男性の55・7%がいじめ被害に遭い、65・9%が自殺を考えたことがあると回答。自殺未遂のリスクは異性愛者の男性の約6倍に上るという。
「性的少数者の支援は人権の問題。イデオロギーの問題にすり替えてはいけない」

支援策は途に就いたばかりだ。条例制定などには反発もあり、各自治体で模索が続く。
渋谷区は10月にも「パートナーシップ証明書」を発行する。法的効力はないが、取り組みを発表後、保守系政治団体が抗議活動を繰り広げた。「伝統の家族制度が崩壊する」「憲法に反する」-。区には千通を超える抗議のファクスが届いたが、担当者は「性的少数者の苦しみは、今そこにある現実。行政が手を差し伸べるのは当然」とする。
大阪市淀川区は2013年に「支援宣言」を発表し、課題の「見える化」に取り組んできた。相談体制を充実させ、当事者同士の交流の場も設けた。毎月の広報誌には必ずLGBTの話題を載せ、約280人の全職員が研修を受けた。
11年から支援を続ける神奈川県横須賀市では、今年のテーマに「人権課題としての認識を深める」と掲げた。担当者は「市民の認識はまだまだ深まっておらず、現状で条例制定などは考えていない。私たちも悩みながら、当事者に寄り添い歩んでいきたい」と話す。

【LGBT】性的少数者の総称。
レズビアン(女性同性愛者)、ゲイ(男性同性愛者)、バイセクシュアル(両性愛者)、トランスジェンダー(性同一性障害など、生まれたときの社会的・法律的な性に違和感を持つ人)の頭文字を取っている。電通が約7万人を対象に行った調査では7・6%に上る。

アイデンティティを失う?「解離性障害」の原因と実態

nikkanCare.ism 2015年8月20日

これまでの記憶を失ってしまったり、普段の自分とは異なる人格が生まれたり……自分のアイデンティティが失われるのは非常に怖ろしいことです。しかしこれは、病気の一つとして、誰にでも起こりうることでもあります。
今回は、厚生労働省の「みんなのメンタルヘルス~解離性障害」より、この病気“解離性障害”についてみていきます。

多重人格もここに分類される
もっとも広く知れ渡っている解離性障害の症状は、“多重人格障害”でしょう。
自分のなかにさまざまな人格を作り上げ、それぞれが独自のキャラクターを持ちます。現れる頻度には差があるものの、人格が交代で出てくるため、「普段は温厚な人なのに、いきなり乱暴になった」「突然口調が幼くなった」などのような状態に陥ります。
多重人格障害のほかにも、心的ストレスをきっかけに記憶がなくなってしまったり、自分自身をまるで遠くから見ているかのように感じたりすることがあります。また、こん睡状態になったり、体が硬直して動かなくなったりと、物理的な影響が及ぶこともあります。

解離性障害はなぜ起こる
解離性障害は、強いストレスや心的外傷が関係していると言われています。
ストレスや心的外傷によるダメージを避けるために、「これは私の身に起こったことではないのだ」と体験を自分自身から切り離すために起こる防衛反応の一つであるとも考えられています。
もっとも、一時的にこれらの症状が起きることは、健康な人でもありうることです。しかし、症状が深刻になって、生活することにさえ不自由が出てくる場合は、治療の必要がでてきます。

“時間薬”も有効
治療にあたり、その原因となっている環境から患者を引き離すことは、とても重要です。もちろん、“起こってしまったこと”は解消することはできませんが、虐待などが原因の場合はそこから引き離し、安心できる環境を整える必要があります。
また、解離性障害の場合、「治療をしようにも、心の中で解離されている部分がなかなか表に出てこない」という問題もあります。これらの部分を治療するためには、患者にとって医師が信頼できる相手であることを伝えていく必要があります。そのため、時間はかかります。
ただ、解離性障害の場合、この“時間をかけること”そのものが治療になることもあります。ある程度の時間を経れば自然に解消されることも珍しくありません。逆に、早い段階で催眠療法などを使用することは症状の悪化を招くおそれもあり、慎重さが求められます。
解離性障害の場合、薬物による治療方法はそれほど有用ではありません。ただし、解離性障害と同時にうつ病などがでている場合は、そちらへの対処として薬が処方されることもあります。

解離性障害は、周囲の理解も大切です。目の前の人が突然違う性格になってしまったり、体が固まって反応しなくなったりしたときに、「演技をしているのだ」と決めつけたりしてはいけません。「これは障害なのだ」と受け止め、治療に向き合っていく必要があります。

個人番号カード、入院入所先で受け取りも-厚労省、マイナンバーで周知要望

医療介護CBニュース 2015年8月19日

来年1月からマイナンバー制度が運用されるのに伴い、今年10月以降に配られる個人番号記載の「通知カード」について、厚生労働省は日本病院会や全国老人福祉施設協議会などに対し、長期の入院患者や入所者が住民票に書かれた住所地で受け取れない場合、必要な申請を行えば入院先での受け取りが可能なことを周知するよう通知した。【新井哉】
通知カードは市区町村から送付されるが、長期入院の患者は、住所地ではなく医療機関にいるため、受け取れない可能性が指摘されていた。
厚労省は、長期の入院や入所が見込まれ、期間中は住所地に誰も居住していないケースについて、総務省が示したカードを受け取れない「やむを得ない理由」に該当すると説明。「あらかじめ入院先を居所として登録すると、入院先でカードを受け取ることができる」としている。