死に至る子どもの心臓病、国内初承認の「補助人工心臓」への期待高まる

Mocosuku Woman 2015年9月3日

治癒を期待できる手段が心臓移植しかない重症の心不全があります。しかし、ドナーの提供がなければ心臓移植を受けることができないため、待っている間に亡くなってしまうケースも少なくありません。補助人工心臓は待機中の生命維持を担う重要な医療機器です。
この度、小児用の補助人工心臓に対する治験の結果が発表されました。厚生労働省は今年6月、ドイツ・ベルリンハート社の「EXCOR」を国内で初めて小児用の補助人工心臓として承認。同機器については2011年より東京大医学部付属病院、大阪大医学部付属病院、国立循環器病研究センターで医師主導治験が行われており、東京大医学部付属病院の小野稔教授は8月29日、重症心不全の子ども9人全員の生存を伝えています。平均8か月半装着し、中には2年を超えるケースもあるといいます。同機器の承認以前、国内に重症心不全の子どもが1か月を超えて使える補助装置がなかったとこを考えると、大きな前進といえます。ここでは補助人工心臓の役割を確認しておきましょう。

心臓のポンプ機能を補う役割
通常、心臓は連続して休むことなく動いていなくてはなりませんが、急性あるいは慢性心不全に陥ってしまった場合、心臓の代わりに血液循環のためのポンプ機能を補うことが必要になります。このための治療装置が補助人工心臓です。小型化されており、身体に取り付けてある程度自由に行動することができます。
しかし、補助人工心臓は、あくまでも心臓移植を待つ患者さんが移植を受けるまでの間、生命を維持するためのもので、永久に使えるものではありません。

心臓移植までの生命維持の役割
日本では、2009年の臓器移植法改正によって、小児重症心不全の患者に国内心臓移植の道が開かれました。しかし、課題もありました。法的に心臓移植の途が開けても、実際にドナーの提供がなければ移植手術を受けることはできず、待機期間が長引けば患者さんの生命にも影響するからです。
当初、日本には成人用の人工心臓しかありませんでしたが、日本心臓血管外科学会や小児循環器学会などが、小児用補助人工心臓として世界的にニーズの高い、「EXCOR」の認定を厚生労働省に要請し、実現にこぎつけた経緯があります。

実績のある「EXCOR」
ドイツ・ベルリンハート社の「EXCOR」は、1990年以来、これまで世界で1100人余りの子どもたちに埋め込まれて成果を得てきました。新生児から成人までのすべての患者に適応できる機器で、心臓移植手術が行われるまでの生命を維持することができます。基本的に臓器提供されるまでの待機時間に使用されるものですが、補助人工心臓の機械的支援によって心臓の機能が改善する可能性もあるといいます。
今回の治験の結果は、心臓移植を必要とする患者さんを勇気づけるものに違いありません。小児重症心不全の患者さんがより良い医療を受けられるようになることが期待されています。

性的少数者10代男子、4割がいじめ経験 ケア呼びかけ

朝日新聞デジタル 2015年9月2日

性的少数者のうち同性愛や両性愛の10代男子の4割がいじめにあい、2割が不登校や自傷行為の経験があることが、日高庸晴・宝塚大看護学部教授の調査でわかった。性的少数者は政府の自殺総合対策大綱でも自殺の危険性が高いと指摘されており、夏休み明けは自殺が多くなることから、専門家は配慮を呼びかけている。
調査は昨年8~12月、厚生労働省のエイズ対策政策研究事業として、日高氏の研究班がインターネットで実施。全国に住む11~71歳の同性愛と両性愛の男性、約2万人が答えた。
10代の回答者1096人を調べると、いじめられたことがあるのは44%、不登校になったことがあるのは23%、自傷行為の経験があるのは18%だった。首都圏の男子中高生全般を対象にした別の調査では、自傷経験があるのは8%となっている。
また、今回の調査では、同性愛について「小中高で一切習っていない」は41%と、日高氏の2005年の調査時の63%より減少。一方、「『異常』なものとして習った」「否定的情報を得た」は計30%で、05年の計23%より増えていた。
性的少数者は、社会の偏見や無理解によって自分を肯定する感情をうまく育めず、うつや自殺につながりやすいと指摘されている。文部科学省は性的少数者の子どもに配慮を求める通知を出したが、教員への啓発が遅れている。日高氏は「性的少数者の子どもは誰なら安心して話せるか分からず、SOSを出しにくい。教員などが日常的に肯定的なメッセージを発して、相談しやすい環境を整えてほしい」と話す。
一般社団法人「社会的包摂サポートセンター」のよりそいホットライン(24時間・無料、0120・279・338)は専用回線で相談に応じている。(二階堂友紀)

【障害年金:その1】精神疾患などで働けなくなったとき「障害年金」をもらうには?

Mocosuku 2015年8月27日

ここ数年、貧困層の拡大が懸念されていますが、30代・40代という働き盛りの世代であっても、病気や怪我をきっかけに仕事を失い、急速に生活が困窮してしまうケースが問題となっているようです。
本シリーズでは実際にあった例をもとに、ビジネスマンが精神疾患などで働けなくなったときのセーフティネットともいえる「障害年金」について解説していきたいと思います。

障害厚生年金を受給したNさんの場合
損保関連の会社に勤めるNさん(仮名・28歳男性)は、「うつ」を発症して会社を休職、しばらくして「双極性障害」と診断されました。うつ状態のときの気分の落ち込みと、躁状態のときの突発的な行動によって、オフィスワークをすることが難しくなったNさんは、会社を退職して実家で療養生活に入り、障害年金を申請しました。
医師から「精神の障害によって労働が著しい制限を受ける」と診断されたNさんは、障害等級2級と認定され、会社員時代の報酬(配偶者あり・月額30万円)から算出した年金額によって、年間150万円ほどを受給することになりました(内訳は、以下のとおりです)。
・障害基礎年金部分=780,100円
・障害厚生年金部分
300,000円×5.769(平成15年3月までの勤務は無しと仮定)÷1,000×300か月(みなし適用)=519,210円
※再評価率などは考慮していない
・配偶者加給年金=224,500円
合計=780,100円+519,210円+224,500円=1,523,810円
初診時に厚生年金に加入していなかったSさんの場合
ところが、Nさんと同じ職場でやはり「うつ」を発症したSさん(仮名・31歳男性)の場合は少し事情が異なりました。中途採用で、3か月間の研修期間中に「うつ」を発症したSさんは、最初に精神科を受診したときには、まだ厚生年金に加入していなかったのです。そのため、Sさんは「厚生年金に加入している間に初診日があること」という障害厚生年金の支給要件を満たしておらず、申請を断念せざるを得ませんでした。

支給要件が違う「2つの障害年金」
Sさんが申請できる可能性のある障害年金としては、もうひとつ「障害基礎年金」があります。障害基礎年金の場合は「初診日に国民年金に加入していること」が支給要件なのです。
しかしここで、もうひとつの年金の支給要件である「障害等級」の問題が出てきました。障害年金を申請するには、国民年金・厚生年金保険の基準に沿って、「障害の認定」を受けなければなりません。認定される障害は、重いものから順に1級~3級の等級に分けられています。「障害厚生年金」の場合は、支給要件が障害等級1級~3級までとなっているため、Nさんは問題なく障害年金を受給することができたのです。
ところが、「障害基礎年金」の場合は、支給要件が障害等級1級・2級のみとなっているため、障害年金を受給できる人の範囲がかなり狭くなっており、精神の障害では「日常生活に著しい制限を受ける」ようなレベルでない限り、なかなか受給が認められません。
Sさんは「うつ」によって勤務をつづけることは困難になっていたのですが、食事や買い物、入浴といった日常生活は問題なくできていました。そのため、社労士や精神科の医師から「この症状では障害基礎年金の申請は無理」と、Sさんは障害年金の受給をあきらめるようにいわれてしまったのでした。
このように、障害年金の申請においては、「(その病気や怪我で)最初に医療機関を受診した日はいつか?」ということと、そのときの「年金への加入状況」、そして「障害の等級」が非常に重要であり、これらの条件によって申請できる年金の種類や受給の可否も大きく違ってくるのです。

【障害年金:その2】申請前に押さえておきたい「障害年金」受給の条件とは?

ビジネスマンが精神疾患などで働けなくなったときのセーフティネットともいえるのが「「障害年金」です。障害年金には「障害基礎年金」と「障害厚生年金」の2種類がありますが、それぞれで受給できる条件(障害の重さなど)に違いがあるため注意が必要です。ここでは、そのポイントをご紹介しましょう。
「初めて精神科を受診した日」に厚生年金に加入していなかったことから、「障害厚生年金」を申請できず、「障害基礎年金」を申請することにしたSさん(仮名・31歳男性)。
しかし、障害等級1級~3級まで受給できる「障害厚生年金」に対して、「障害基礎年金」では1級または2級の障害等級の人しか受給できないため、Sさんは障害年金の申請をあきらめるようにと、医師や社労士から言われてしまったのでした。

障害年金の申請において重要なこと
上記のように障害年金を申請する際には、該当するケガや病気で最初に医療機関を受診した日(初診日)と、その際の公的年金の加入状況、そしてケガや障害の重さが重要となります。
また、こうした予備知識のない状態で、「受給できるかも」という期待を持って障害年金の申請に取りかかってしまうと、手続きの困難さなどがストレスとなり、精神疾患の場合にはかえって悪化させてしまうケースもあります。

申請の過程で症状が悪化!?
「うつ」で会社を休みがちになっていたKさん(仮名・26歳女性)の場合は、障害年金の手続きをするなかで、「うつ」の症状が悪化してしまいました。
Kさんは、インターネットを通じてたまたま障害年金のことを知り、もし障害年金を受給できるなら会社を休職または退職して、「うつ」の療養に専念できるかもしれないと考えたのです。しかし、Kさんのそうした期待は、病院と年金事務所で二重に打ち砕かれてしまいました。
Kさんは、まずかかりつけのクリニックの医師に障害年金を申請したいと相談したのですが、医師はKさんの申し出に対して「あなたの症状は、障害年金を受けるには軽すぎるので無理だろう」とキッパリ言いました。
それでもあきらめきれないKさんは、今度は年金事務所に相談に行きました。
Kさんは年金事務所の窓口で、「うつ」で通院していることや、会社を休みがちになっていることを伝え、障害年金を申請したいと伝えました。
すると、年金事務所の担当者は、「障害年金はあなたのような軽症の人が受給するものではありません」と、強い口調でKさんに言いました。
さらに担当者は、「そんな症状でウチに来られても困る」「お門違いだ」などと、怒ったような口調でKさんにキツい言葉を浴びせかけたそうです。
この件で心身ともにダメージを受けたKさんは、この日をきっかけに「うつ」を悪化させてしまい、しばらくして会社を休職することになってしまいました。
そして、皮肉なことにKさんは、症状の悪化によってやがて障害年金を受給できるようになったのでした。

医師との連携が大切
障害年金の申請には、医師や社労士、年金事務所とのやり取りがつきものですが、なかでも医師との連携は特に大切です。医師の診断が障害等級の判定に極めて重要となるため、かかりつけの医師が「障害年金の申請に対してどう考えているのか」を確認し、医師が否定的な場合には医療機関の変更が必要なケースもあります。
また、Kさんのように「障害年金の手続きがストレスになる」といった事態を避けるためにも、事前に「受給条件」については十分な下調べをおこない、「自分は受給する資格があるのか?」ということについては、冷静に判断しておく必要があるといえるでしょう。

【障害年金:その3】受給開始までに1年を要するケースも!?「受給までの期間」とは

これまで、障害年金には「障害基礎年金」と「障害厚生年金」の2種類があることや、「軽症」であることを理由に年金事務所や医師から申請を断られ、ストレスから精神疾患が悪化してしまったケースなどを紹介してきました。
実は障害年金にはもう1点、「実際に受給できるようになるまでの期間」についての問題もあるのです。詳しくご紹介しましょう。

一般的な障害年金申請の流れ
ケガや病気で働けなくなり、障害年金を申請することになった場合、まずそのケガや病気で最初に医療機関を受診した日(初診日)を調べることから手続きはスタートします。その後、年金保険事務所や市町村の役場へ出向き、障害年金を請求する資格があるかどうかを確認したうえで必要な書類をもらいます。
この時点で、医師に診断書を作成してもらいます。また、複数の医療機関を受診している場合は初診日の証明が必要となるため、最初に診察を受けた医療機関で「受診状況等証明書」も作成してもらわなければなりません。
また、必要書類の作成や提出に関しては、民間の相談センターや、公共施設でおこなわれている「無料相談会」を通して、社会保険労務士(社労士)にサポートを依頼するケースも多いようです。
ただし、社労士に手続きの代行を依頼すると、当然のことながら着手金や報酬が発生するので注意が必要です(着手金0円でも、そのほかに手数料がかかる場合もあります)。
社労士への報酬の支払いは年金の受給が始まってからというケースが多いのですが、社労士に手続きを依頼したからといって、必ずしも障害年金をスムーズに受給できるとは限らないことも覚えておきましょう。
添付書類が揃ったら、年金保険事務所に年金請求書とともに提出して申請をします。その際も「障害基礎年金」と「障害厚生年金」では管轄する年金保険事務所が異なる場合があるので注意しましょう。
申請してから年金の受給が決定するまでの期間は約3か月ですが、書類に不備や疑問点があった場合は、役所からの照会に対処する必要があるため期間が長くなることもあります。

受給までに1年以上かかったケースも
前々回で紹介したSさん(仮名・31歳男性)は、障害年金の申請を思い立ってから、実際に年金を受給できるまでに1年以上もかかりました。
Sさんの場合は、初診日に厚生年金に加入していなかったことから、「障害厚生年金」を申請することができず、「障害基礎年金」の申請に同意して診断書を作成してくれる医師に出会うまで、役所に書類を提出することができなかったのです。
Sさんは「うつ」の症状が改善しないことと、障害年金の申請に同意してくれる医師が見つからないことを理由に複数のクリニックを転々としていました。
4つ目に受診した医療機関でようやく、院長が「うつ」で思うように働けないSさんの立場に理解を示し、Sさんに「ウソは書けないが、一番重いときの症状を基準に診断書を作成する」と言ってくれたのです。おかげで、Sさんは「障害基礎年金」を受給できるようになりました。
しかし、そこに至るまでには、複数の医師に診断書の作成を断られたり、年金保険事務所で門前払いされたり、手続きの代行を依頼した社労士と医師が対立してしまったりと、さまざまな苦労があったと言います。
また、もともと生真面目でこだわりの強い性格のSさんは、一時期は「障害年金」のことにすっかり心がとらわれてしまい、ただでさえ「うつ」の精神状態が、さらに不安定になってしまったといいます。
障害年金の申請から受給までは「3か月程度」といわれているものの、Sさんのケースのように申請がスムーズにいかない場合は、手続きが長期にわたってしまう場合もあります。そのため、障害年金に関しては、「申請してもすぐにお金が入るわけではない」ということを事前に納得しておく必要があるといえるでしょう。

【障害年金:その4】病気になって働けなくなっても障害年金を「受給できない」ケースとは?

これまで順調に仕事をしていたビジネスマンが「うつ」になり、突然働けなくなってしまったとき……生活をサポートする制度として「障害年金」と「生活保護」の2つが考えられます。しかし、どちらの制度においても、さまざまな理由で「受給できない」というケースもあり、当事者がさらなる困難に直面してしまう場合もあるようです。

障害年金を受給できなかったSさんの場合
前回にも登場したSさん(仮名・31歳男性)の場合、「うつ」が原因で会社を退職することになってしまったものの、「うつ」で初めて医療機関を受診した際(初診日)に厚生年金に加入していなかったため、「障害厚生年金」を申請することができませんでした。
また、国民年金に加入していることが申請条件の「障害基礎年金」の場合、「障害厚生年金」よりも受給できる人の範囲が狭いため、受給するには「症状が軽い」とみなされたSさんは、障害基礎年金の申請もあきらめざるを得ませんでした。

受給できるまでは「困難の連続」
Sさんは最初の年金相談の後、症状が悪化したことから受診する医療機関を変え、そこで障害年金の申請に理解のある医師と出会うことができました。皮肉なことに、Sさんが「うつ」の症状を悪化させた原因のひとつは、障害年金の受給に執着して悩んだことだったそうです。病院を変わって1年近くが経ち、医師のサポートのおかげもあって、Sさんはようやく障害基礎年金(2級)を受給することができるようになったのですが、当時を振り返ってSさんは「障害年金を受給できるようになるまでの1年間は困難の連続だった」と語りました。

「就労継続支援B型」の事業所へ
障害年金の申請を最初に断念したとき、Sさんはまず生活保護を受けることを考えました。しかし、近くに「金銭的な援助をすることが可能な」親や兄弟が住んでいるSさんは、そのことを理由に受給の対象から外れてしまいました。実際に雇用保険が切れ、貯金も底をついてしまうと、Sさんにとっては家族からの経済的援助だけが頼りになりました。Sさんは「このままではいけない」と焦りましたが、まだ就職活動ができるほど心身の状態は回復していません。そこで、Sさんが通うことにしたのが、「就労継続支援B型」といわれる事業所でした。
「就労継続支援B型」の事業所とは、さまざまな障害によって企業で働くことが困難な人に、雇用契約を結ばずに「働く場所」を提供する施設のことです。Sさんが通っていた施設でも、身体や精神に障害を持つ人たちが、タッパーを検品したり、タオルを袋に入れたりといった作業を、それぞれにとって無理のないペースでこなしていました。

この賃金では「生活できない」
しかし、雇用契約を結ばない「就労継続支援B型」の事業所の平均工賃は月額で1万4190円(平成24年度 厚生労働省調べ)とあまりにも低く、作業に馴れてリーダー職をしていたSさんがもらっていた賃金も月額で1万円程度でした。
結局、Sさんは3か月程度で事業所に通うのをやめて、飲食チェーンで1日4時間のアルバイトをすることにしました。しかし、「うつ」で起きあがれない日はアルバイトに行けないこともあり、十分な生活費を稼ぐにはほど遠い状況でした。
結局、このアルバイトも長く続けることができず、やがて障害基礎年金を受給するようになったSさんは、家族からの家賃の援助と障害年金によって、なんとか生活できるようになりました。しかし、障害年金は一部の例外をのぞいて1年~5年ごとに更新(Sさんの場合は2年ごと)があるため、Sさんは次回の更新時に年金を打ち切られるのが心配とのことでした。
Sさんの事例からは、障害年金や生活保護は(条件を満たしていないため)受給できず、かといってフルタイムでは働けない、という状況に悩む「うつ」などの精神疾患を持つ患者への、国や行政からの経済的なサポートの必要性を感じます。このように「セーフティネットの隙間からこぼれ落ちてしまう」人々のサポートやケアには、ほかにどのような形があるのか、引き続き考えていきたいと思います。

【障害年金:その5】病気の症状が改善して社会復帰し、障害年金の受給をやめるとき

順調に仕事をしていた人が、突然働けなくなってしまったときのセーフティネットとしての「障害年金」。これまでは申請や受給の際のさまざまなケースについて紹介してきましたが、障害年金を受給する理由となっている症状が改善されたときには、支給が停止されたり、減額されたりといった措置が取られることもあります。
また、「うつ」などの精神疾患を理由に障害年金を受給している人の場合、再発や受給停止後の生活への不安から、なかなか自発的に社会復帰に踏み切ることができないのも実情のようです。

「うつ」の症状は改善されても…
10年以上勤めた金属加工関係の会社を「うつ」によって退職したTさん(仮名・40歳男性)は、国民年金・厚生年金の障害認定基準において3級と認定され、年間70万円ほどの障害厚生年金の支給を受けています。Tさんは年に数回、知人の紹介で単発のアルバイトをするほかは、もう何年も仕事をしていません。
独身で実家暮らしのTさんは、障害年金の支給を受けている限り生活に困ることはありませんでしたが、「うつ」の症状が改善するにつれて、障害年金の支給が停止されることへの不安が出てきたといいます。

働くと支給停止になる?
Tさんは、障害年金を受給してそろそろ5年になりますが、最近では薬の量や種類も減り、問題なく日常生活を送れるようになりつつあります。しかし、たとえアルバイトでもレギュラーの仕事に就くと、「障害年金の支給を停止されるのでは」という不安があり、Tさんはなかなか就職活動に踏み切ることができません。たしかに、精神疾患による障害等級3級の認定基準には、「労働が著しく制限を受ける」というものがありますが、だからといって必ずしも「働いたら即支給停止」というわけではありません。
たとえば、前回の【障害年金:その4】で紹介した「就労継続支援B型」の事業所などで作業に従事しているような場合は、支給停止や減額を心配する必要はないといえます。また、たとえ一般企業に就職したとしても、精神疾患が理由で「仕事が続けられず、転職を繰り返す」ような場合は、支給が認められるケースもあります。
しかし、継続した就労が可能であり、労働能力にも問題ないと判断された場合は、障害年金の支給は停止される可能性が高いといるでしょう。

段階的なサポートが求められている
ここ数年、生活保護の支給額が、法律で定められた最低賃金を上回る「逆転現象」が、生活保護受給者の「自立への意欲を損なう」として問題となっていました(2014年に最低賃金の値上げにより「逆転現象」は解消)。「うつ」など、改善や回復の可能性がある精神疾患の場合、障害年金においても、いかに受給者の「自立への意欲」を高めるかということは、重要な課題といえるでしょう。
精神疾患により「一時的なリタイア」を余儀なくされた障害年金の受給者が、安心して社会復帰するためには、「支給停止か継続か」といった選択のほかに、経済的な援助を含めた段階的なサポートが必要なのかもしれません。

一般に「躁うつ病」と呼ばれている「双極性障害」、うつ状態との違いはなに?

Mocosuku 2014年10月20日

長期間にわたって気分が晴れず、何をしても楽しいと感じないうつ状態と、逆にやたらとハイになって活動性が高まる躁状態とを交互に繰り返す気分傷害は、一般に「躁うつ病」と呼ばれていますが、医学的な正式名称は「双極性障害」です。双極性障害は、躁状態の症状の程度によって、さらに「双極I型障害」と「双極II型障害」の2つに分類されます。

双極I型とII型の違い
双極I型は明確な躁状態が現れるのが特徴で、躁状態の歳には気分の異様な高揚感が続きます。気が大きくなる、睡眠を取らなくても元気なまま過ごせる、極端に多弁になって1日中しゃべりまくるなどの行動が見られる一方で、攻撃的になって突然怒り出したり暴力をふるったりすることもあります。毎日が楽しくエネルギッシュで仕事にも積極的にとりかかる反面、注意散漫になって1つのことに集中することができないという特徴があります。これに対し双極II型の場合は、I型同様に周囲から見ても異様に高揚しているものの、仕事や人間関係に支障をきたすほどではない「軽躁状態」であることが特徴です。

躁状態とは真逆のうつ状態
一方のうつ状態は、何とも表現しがたいうっとうしい気分が何日も続くという「抑うつ気分」と、すべてのことに興味が持てなくなり、何をしても楽しい・うれしいという気分が持てない「興味・喜びの喪失」が主な症状です。このいずれかもしくは両方の症状があり、さらに早朝に目が覚める、食欲の減退/増進、体重の増減、疲れやすい、やる気が出ない、自責感、自殺願望といった症状のうち、5つ異常が2週間以上出ている状態が「うつ状態」です。双極性障害の患者は、I型・II型ともに自分が躁状態の時にはそのことを自覚しにくいため、うつ状態の時に具合が悪いと感じ、「自分はうつ病だ」と思い込むケースも多いようです。

うつ状態と躁状態の移行
双極性障害では、最初の病相から次の病相に移行するまで、約5年の間隔があります。ここで言う病相とは、「うつ状態」か「躁状態」のどちらかを指します。また、2つの病相の間に躁でもうつでもない健常な状態が見られることもあります。しかし、状態が安定しているように見えるからと言って躁うつ病を放っておくと、躁状態とうつ状態の切り替わりのサイクルが次第に短くなり、「急速交代型」と呼ばれる年間に4回以上病相が変化する症状へと進行すます。こうなると、治療薬が効きにくくなってしまう危険性があります。

双極性障害の治療
とはいえ、両極性障害は早期に正しい治療を受ければ、症状をコントロールしながら正常な生活を送ることが可能です。躁うつ病は単なる心の悩みではなく、脳の疾患であることがわかってきています。したがって、カウンセリングだけで治癒することはありません。しかし、治療がうまくいくように精神面でのサポートも必要です。治療は薬物療法と疾患教育(患者が自分の疾患を理解すること)、心理療法を組み合わせて行われます。

職場を離れたり休日は楽しいのに、月曜が憂鬱すぎる! 適応障害かも?

Mocosuku 2014年9月25日

適応障害とは、ある状況の変化に適応できずに、その状況にストレスを持ち続けることで心身に様々な症状をもたらすことを言います。ある状況とは、進学や就職、結婚、そして失業や離婚などの生活上での大きな変化が起因していることが多く考えられます。特徴としては、そのストレスの原因がはっきりしていて、統合失調症やうつ病などその他の精神疾患がない場合に適応障害と診断されるものです。
ここでは、 適応障害について、簡単に解説します。

適応障害の特徴は?
適応障害の症状の特徴ですが、大きく「不安症状」、「うつ症状」、「問題行動」、「身体症状」などの4つに分けられています。不安症状とは、不安や恐怖などの症状により動悸や吐き気が出たり、不眠などになる症状です。
「うつ症状」とは、落ち込んで憂鬱な気分が長引く、絶望や喪失感、涙もろいなどの症状です。そして、「問題行動」は、飲酒やケンカ、無断欠勤など社会人として問題のある行動が目立つようになることです。「身体症状」ですが、慢性疲労や肩こり、倦怠感など病気と思われるような体調の不良があらわれる症状です。
適応障害はうつ病などと似た症状のため、区別が付きにくいものですが、原因がはっきりしているため原因を取り除くことによって解決する可能性があります。
ただし、原因がうまく取り除けられなければ適応障害と診断された人の40%は5年以内にうつ病と診断されるなどというデータもあり、重篤な症状の引き金になりかねません。その他にアルコール依存症や反社会性人格障害などの症状に移行してしまう場合もあります。

適応障害になりやすい人
適応障害は、生活の様々なことに本人が強くストレスを感じ発症する症状です。心療内科に通う人の10%は適応障害と判断をされています。適応障害になりやすい人の特徴ですが、ストレスを溜めこみやすい人や、周りにサポートをしてくれる人がいずに孤立してしまう場合に多くみられます。
適応障害がうつ病と異なる特徴ですが、例えば職場がストレスの場合、職場を離れたり休みの日は楽しむことができたりしますが、うつ病の場合は、そういったことも一切楽しめなくなります。2週間以上うつ症状が持続する場合はうつ病であると考えられます。

適応障害の対処法は?
適応障害の対処法ですが、まずはその原因となるものから離れることです。原因が簡単に取り除けられるものの場合は良いですが、職場環境や家族など取り除くのが困難な場合は別に治療が必要にあります。また、自分がその環境に適応するように努力をしていくというのも改善策です。それには認知行動療法というカウンセリングが有効です。
症状の改善のためには、薬物療法もあります。不安や不眠系の薬、抗うつ薬などの処方ですが、対処療法になるため、完治するためにはカウンセリングを受け、生活環境の改善が大切です。

あなたは「理容」派or「美容」派-変わる社会と法律

ZUU online 2015年9月1日

「理容師」と「美容師」、一字違いだが、法律が定める業務内容は異なる。1948年に施行の理容師法によると、「理容とは、頭髪の刈込、顔そり等の方法により、容姿を整えることをいう」(第2条)とある。
一方、1957年施行の美容師法では、「美容とは、パーマネントウエーブ、結髪、化粧等の方法により、容姿を美しくすることをいう」(第2条)となっている。その結果、これまでは主に男性は「理容室」を、女性は「美容室」を利用してきたのである。
しかし、近年のライフスタイルの多様化により男性の美容室利用も増えている。安倍首相が毎月、渋谷の美容室でカットすることは新聞報道等でもよく知られている。若い人の場合は、美容室で自分の好みの髪型に整えるのが主流かもしれない。
1978年には美容師が男性の髪のカットだけ行うことを禁じた厚生省局長通知が出ていたが、今年7月、厚生労働省は時代状況にそぐわないこの通知を廃止、理容師のパーマ掛けや美容師のカットを容認したのだ。
私のような中高年世代には、「理容」よりも伸びた髪を短く刈る「散髪」という言葉が馴染んでいるが、近年では、「散髪」の世界にも大きな変化が起きている。10分、1000円ほどでカットだけする店が増えているのだ。忙しい現代社会においては、わずかな仕事の隙間時間や駅・空港での待ち時間などを利用した散髪や整髪は、時間を効率的に使いたいビジネスマンにはとても重宝だろう。
私の場合、時々、もう少し費用と時間を掛けてでも、従来の理容室に行くことがある。それは単に髪を短くするだけではなく、シャンプーや顔と髭を剃ってもらい、少しの転寝を楽しみ、リラックスすることが目的だからだ。髪を触られることは人間にとって”癒し”の効果があるそうだ。「理容室」には、時代が変わっても、効率性だけでは計り知れない変わらぬ付加価値があるのではないだろうか。
環境変化により理容と美容の現状と法律に齟齬が生じたように、社会を規定する法律が実態に合わなくなっていることがしばしばある。
学校教育法に基づく幼稚園は、少子化時代を迎えて定員割れを起こし、児童福祉法に基づく保育園は、働く母親の増加により待機児童がなかなか解消されていない。現在、国会で審議中の「安保関連法案」も、日本の安全保障環境変化へのひとつの対応とされている。
法律は永久不変ではなく、時代に即していることが重要だ。規制に関わる通知・通達は適切に見直し、法律は国民生活や産業・経済の実態に沿うように柔軟に改正する必要がある。ただし、法律を変えるも変えないも、それはわれわれの暮らしをよりよくするためにあるということを忘れてはならない。

非常食を日常的に食べよう!「ローリングストック」のすすめ〈dot.〉

dot. 2015年9月1日

9月1日は防災の日。1923年(大正12年)に関東大震災が発生した日である。世界でもまれなプレートの重なり合いの上にあり、近年では各地の火山が活性化する火山国でもあるわが国。災害への備えは常にしておくべきである。
まず取り組みたいのは備蓄だ。東日本大震災でも、発災直後、支援物資が届くまで食事に苦労した話は広く伝えられた。内閣府では、家庭でもひとりにつき3日分、さらにできれば1週間分の食事と水を備えておくことを推奨している。さて、ではどのようなものを備蓄するべきか?
備蓄を整える上で意識したいのは「日常的な味」と「ローリングストック」というキーワードだ。
「発災直後の1日目は、極端に言えば水とブドウ糖だけでも大丈夫なんです。エネルギーは取れますから。しかし2日目以降に、1日3回も食べ慣れないもの、おいしくないものしか食べられないと、被災とは別のストレスが加わることになるんです」と語るのは、「自助、互助、公助」を基本に、地域社会のリーダーとして防災意識を高める活動を行い、「災害食グランプリ」などの防災イベントも主催している(一社)防災安全協会の北村博さんだ。
非常時こそ、日常の味が求められる。乱暴に言うとカップ麺でもツナ缶でもやきとり缶でもなんでもいい。日常食べているものを多めに買い、ストックしておくのだ。「これを食べるとどんな味がするか知っている」ことが、非常時に安心と食欲をもたらしてくれる。
だが、意外と賞味期限が短いカップ麺などを保管しっぱなしにすると、いざというとき期限切れのものを食べることになる。そこで「ローリングストック」だ。ローリングストックとは、簡単に言えば「ストックを使い回す」こと。備蓄を日常生活で食べて消費し、新しいものと入れ替えることである。こうすることで、ストックの味を把握できるし、賞味期限切れを防ぐことができる。
しかし、普段インスタント食品を食べない家庭もあるだろう。その場合でも、最近では進化した美味な備蓄食がある。「横浜・災害グランプリ」(2015年8月22,23日横浜開催)でもそうした製品を見ることができた。出展しているメーカーは、「日常の味」「非常時でもおいしく」という2点を抑えた上で、賞味期限も長い製品を作っている。
今回、「ごはん類部門」でグランプリに輝いた尾西食品の「おにぎり・鮭」は、アルファ米とは思えないもちもち感。具材の混ざり具合もよい。パッケージの外からおにぎり型に握ることができるので水が使えない災害時にも便利だ。
また、「缶詰セット類部門」グランプリの(株)非常食研究所の「備蓄王」は、カレーや丼物などを発熱剤によって火を使わずに温めることができる。アレルゲンフリーのものもあり、アレルギーを持つ子供のいる家庭ではぜひ常備したい。
アルファフーズ(株)では、筑前煮や肉じゃがなどの家庭の味をレトルトにした総菜の備蓄食や、インフラが回復し、お湯が沸かせるようになってから食べるフリーズドライのスープ(スープ類部門でグランプリ獲得)なども開発し好評を得ている。
避難所や自宅での避難生活が続くと、嗜好(しこう)品で心を癒やしたいときもあるだろう。東京高木珈琲では、酸化を防ぐ真空パックのドリップバッグコーヒーと発熱剤のセットで80度のお湯を沸かし、コーヒーを飲めるセットを開発している。ほかにも栄養価が高い玄米を缶詰にしたものなどもあり、これらは日常で食べてももちろんおいしいし、いざというときも変わらずその味を発揮してくれる。
ちなみに、神奈川県で東北支援と防災活動を展開するNPO法人かながわ311ネットワーク代表理事の伊藤朋子さん(58)に備蓄について聞いたところ、夫と2人暮らしの自宅に、水2??ペットボトルを18本、カセットコンロ用ボンベ24本と、缶詰類、乾麺、インスタントラーメンなどを備蓄しているという。「東日本大震災以降、家庭の備蓄は重要と改めて思いました。随時、食べまわしているので、古くて廃棄しなければならないものはないですね」と語る。やはり、ローリングストックと日常の味を実践しているようだ。
「学校でも会社でも、防災訓練は行われますがそのときに“食の訓練”もした方がよいと思いますね。そこでおいしい災害食を試食して味や備蓄の重要性を知ることが大事です。最近では糖尿病患者用やアレルゲンフリーのものも増えていますから、ぜひ最新の災害食について知っていただきたいですね」(北村さん)。
少々古いデータだが、厚生労働省が平成23年度に調べた結果では、何らかの非常食や食料を備蓄している家庭は47%にとどまっている。これからは1年に一度備蓄箱を開けて中を確認するのではなく、日常的に使い回し、ストックしていこう。
(島ライター 有川美紀子)