社説[子の性被害と貧困]「負の連鎖」断つ施策を

沖縄タイムス 2015年11月2日

児童ポルノや児童買春の調査で来日した国連特別報告者のマオド・ド・ブーア・ブキッキオ氏は記者会見で、日本の子どもの貧困が世界的に見ても深刻な状態にあることを示した。
欧州評議会事務次長を務めた経験を持ち、性的虐待から児童を守る条約採択などに関わってきたブキッキオ氏。先進7カ国で唯一、児童ポルノ所持を規制していなかった日本でことし7月、改正児童ポルノ法が施行されたことを受け、現状を調査するため10月19日に来日した。
ブキッキオ氏が今回調査地として選択したのは、東京など3カ所と那覇市だ。沖縄を選んだ理由を「首都の状況だけでは全体を見ることはできない。失業率や貧困率が高い沖縄に関心があった」と説明した。
8日間の調査を終えて日本記者クラブ(東京)で会見に臨んだブキッキオ氏は「援助交際」「JK(女子高校生の略称)お散歩」と呼ばれる子どもの性を売りにした形態が日本にはいくつもあると指摘した。これらは子どもの性被害と直結しやすく「(日本には)こういった事態を受け入れてしまう社会の寛容性があるのではないか」と語った。
印象的だったのは、ブキッキオ氏が「子どもの性被害の主要な原因を沖縄で目の当たりにした」と語ったことだ。それは「貧困」と「ジェンダー(社会的性差)不平等」であるという。
同氏は、子どもの貧困と性被害の関わりの一例として、家族のアルコール乱用が起きたために、いたたまれず家出を繰り返す少女が、生きるため性産業にたどりついた事例を挙げた。

ジェンダーとの関係では、沖縄の失業率で、特に女性の失業率が高いことを指摘。そうした状況と沖縄での10代の妊娠・出産の多さが、子どもの貧困につながる「負の連鎖」を生み出しているとした。
ブキッキオ氏が指摘する妊娠・出産の若年化はここ数年全国でも顕著な傾向を示している。厚生労働省の統計によると19歳以下の出産は1985年1万7877人をピークに2013年は1万2963人に減少したが、同じ時期の14歳以下の出産は23件から51件へ倍増した。15歳以下の人工妊娠中絶も12年度までの5年間で150件増え1476件となった。
この傾向は、全国で格差・貧困問題が表面化した時期と重なるが、日本では子どもの性被害と貧困問題が関連付けられた個別のケースは散見されても、公的データは現在までに見当たらない。

ブキッキオ氏は「(子どもの性被害の撲滅には)根源的な原因究明が必須であり、それは日本政府と沖縄県の共同の責任であると思っている」と強調した。性被害の根底にある貧困問題に目を向けよ、とのメッセージである。
性被害は、受ける被害の重篤さから「魂の殺人」ともいわれる。子どもの貧困を背景にそうした被害が繰り返されることは、何としても止めなければならない。実態を把握し、「負の連鎖」を断つ施策が急がれる。

子どもの貧困、どうとらえるべき? 専門家にヒント聞く

朝日新聞 2015年11月2日

日本ではいま、子どもの6人に1人が貧困のもとで暮らしています。でも見た目だけでは、助けを必要としている状況かどうかわからないこともあります。子どもの貧困をどうとらえたらいいのか。どういうところが問題なのか。アンケートの声を紹介するとともに、およそ30年研究している専門家にヒントを聞きました。

〈貧困率〉
世帯収入から子どもを含めて一人ひとりの所得を試算し、その国でまん中の人の所得の半分に届かない人の割合です。日本の場合、ひとり親など大人が1人の家庭に限ると54.6%(2014年発表)で、先進国のなかでも最悪の水準です。

北海道大学大学院教授・松本伊智朗さんに聞く
見まわしても、子どもの貧困は見えにくいですね。ボロボロの服を着ているわけじゃない。お金のあるなしにかかわらず、大量生産の同じ服を着ているし、親の多くはスマホを持っています。ぱっと見ではわかりません。
貧困とは何か。生活していくために必要なものがあるのに、その必要を満たすお金が欠如する。結果、暮らしは破壊され、権利は奪われます。「必要」は時代にあわせて定義しないと対応策を考えることができません。
戦後の困窮を越えて、高度成長期の1970年代以降、日本の社会福祉の領域で、貧困は過去の問題とされていました。高齢化や介護問題、非行問題が豊かさのひずみとして説明されていました。
2000年代、貧困は再発見されます。子どもの貧困とは、世帯だけでなく、子ども個人に焦点をあてるとらえ方です。子どもを主体に考えると、子どもの成長や日々の幸せに経済問題がどう影響しているか、どうしたらいいかが見えてきます。
貧困問題を議論すると、親の責任だという意見が必ず出てきます。考えると、いまほど「親次第度」が高まっている時代はありません。日本では教育費の多くを親が負担します。少子化で、1人の子にどれだけ親がコミットし、お金をかけられるかが、子どもの人生に濃厚に影響してしまう。親の健康状態や財布次第です。
そのため、親のがんばりがより求められがちです。でも、それで問題が解決するでしょうか。貧困を生み出す社会的な不平等や不利をどのように緩和させるかが政策の課題であるべきでしょう。社会保障制度を充実させ、機能させなければならないのではないでしょうか。
大きくは二つ。親のお金を増やすことと、お金がなくても困らないようにすること。後者は親の格差を子どもの世界に持ちこまない施策です。保育、教育、医療といった領域で貧困を和らげる工夫が必要です。
支払う保育料にかかわらず、みんな同じ給食やおやつのプリンが食べられる公的保育所は、子どもにとってうれしい場所です。家がしんどくても、楽しいから行こうと思える学校であればいいですよね。そんな学校にするために、給食費や修学旅行代をどうしたらいいかも考えなくてはなりません。(聞き手・河合真美江)

「子どもの貧困」の問題点を指摘する回答も寄せられています。
・「子供にとっての貧困とは、単にお金が無いというだけではなく、生きていくうえで必要な様々な知識を与えてくれる大人が身近にいない、豊かな感性をみがくために必要な機会を得られない、自分が生きていく価値がある人間であると思えない、といった状況までを指すのではないかと思う」(京都府・40代女性)
・「中1で両親が離婚し、高校卒業までは母と妹と団地暮らしでした。母はつま先が裂けた通学靴を見て、いつも心を痛めていたそうです。貧乏エピソードいっぱいあります。でも不幸ではなかった。母は安いパートでもがんばって働いていたし、学校も楽しかったから。『物が豊富=幸せ』ではないと思うんです。問題は人間らしくいるための最低限の衣食住が確保できるかどうか。子どもがまともに生きられないならそれは貧困です。線引きは難しいけど、親に養育能力がないことが本当の意味での貧困なのかなと思います」(愛知県・40代女性)
・「児童福祉施設に勤め、保護される子どもたちの現状、退所後の家庭の生活状況などを見聞きする。団塊の世代が言う『我々もそうだったという根性論』では解決できない経済格差から生まれる、頑張っても報われない現実。そこにもがく子どもたちが、それが当たり前と考え、やる前(もしくは頑張り続けた結果)から諦めてしまう貧困。子どもは生まれてくる環境・親を自分で選べない。最も恐れる貧困は、夢を見ない生活になること。頑張れば良い結果を出せる環境を作ることが必要と感じる」(兵庫県・30代男性)
・「親が金持ちかどうかで自分自身の学歴や将来の大部分が決まってしまっている。努力できる権利すら与えられない人々がいる。せめて大学入試までは国が介入し、親の資産や教育方針にかかわらず同じ条件で勉強できるようにするべきだと思う」(広島県・20代男性)
・「子どもの貧困は社会の分断と階層の固定化を生んでしまう。そうした社会は柔軟性も発展性もなくし、やがて衰退していくだろう。子どもの貧困は、社会の脆弱(ぜいじゃく)さを示す鏡みたいなもの」(徳島県・40代男性)
・「子ども自身が自己肯定感がもてないことが問題だと思う。自分の価値を小さく見がちで、いじめや虐待の標的にもなりやすい。しかし、手厚い保護に甘えて『3代そろって生活保護』という人もいる。貧困の原因は経済だけでなく、親の性格や生活習慣の問題もある。子どもの給食費をサポートをしても親がパチンコに使ってしまっては意味がない」(東京都・50代女性)
・「現代の貧困はとてもアンバランス。可愛い服を着たり習い事をしたりするのに、毎日カップラーメンや菓子パンだけの食事をしたり。働いても働いても稼げないせいか子どものほったらかしも増えたと感じます。息子が以前通っていた公立の小学校で、登校班6家庭のうち4家庭がシングル家庭で、その中の2家庭が生活保護世帯でした。きれいごとなしに子どもにはお金と愛情が必要不可欠です」(大阪府・30代女性)
・「自らの責任ではない貧困で、多くの子どもたちが、豊かな経験を積めなかったり、温かい人びとに囲まれた環境で育てなかったり、『普通に豊かな生活』を送るための教育や仕事のチャンスを奪われ続けている。端的に言って、明白な機会の不平等だと思います。機会不平等社会では、フェアな競争がそもそも成り立ちません。放置していれば、自助努力の理想は説得力を持たず、富裕層に都合の良い詭弁(きべん)、イデオロギーでしかなくなってしまいます」(埼玉県・30代男性)
・「親の貧困、特に母親が社会的に大変弱い立場、社会孤立しやすいことも含めて議論すべきだと感じています。日本の場合、家族主義や儒教文化からくる負の面、困っていても助けを求めることが出来ない『恥の文化』も問題をより複雑なものにしている」(山梨県・40代女性)
・「子どもの貧困は基本的に親の貧困と親の身勝手である。子どもをまともに養育できないのに子どもを作るべきではないし、養育できるだけの経済力もないのに親権を行使するべきでもない」(静岡県・40代男性)
・「貧困にあえぐ子どもたちの多くが母子家庭だと聞きます。離婚、別居している父親が『意思がない』『支払い能力がない』を理由に養育費支払いを免れていることが最大の問題です。離婚しても父親は父親です。養育費支払いを義務化してほしいです」(京都府・40代女性)
・「行政やインフォーマルな社会の救済を親が知らないことも問題だし、地域住民が他人とかかわらない社会性も問題の解決を阻んでいる。子どもは各家庭が育てるものという社会的意識をかえ、子どもは社会全体で育てるという意識でないと、この問題は解決できない」(埼玉県・50代女性)

養護施設、18歳以上でも 児童福祉法の年齢引き上げ議論

アピタル 2015年10月31日

児童福祉法の対象年齢を18歳未満から引き上げる議論が、厚生労働省の有識者委員会で本格的に始まった。現在は18歳になると原則として児童養護施設や里親の家庭から出なければならず、自立できなければ貧困に陥りかねないためだ。少なくとも20歳未満とすることを軸に検討している。
「支援が必要かどうかで判断するのではなく、一定の年齢に達したことで支援が終わってしまう」
30日の有識者委で、北海道大大学院の松本伊智朗教授は、こう問題提起した。
別の委員は、関東の里親のもとで暮らす女子高校生が昨年、卒業後の生活の見通しが立たないとして4年制大学への指定校推薦を取り消されたと指摘。児童相談所が引き続き里親のもとに暮らし続けることを確約しなかったことが理由という。委員は「18歳以降も必ず支援するしくみがあれば防げた」と話す。
施設や里親家庭にいられる期間は、児童福祉法で原則18歳になるまでと定められている。例外的に20歳まで延長できるが、多くは高校卒業まで。厚労省によると、昨年3月に高校を卒業した児童養護施設の子ども1721人のうち、4月以降も施設に残ったのは231人(13%)だった。
東京都内で児童養護施設を運営する社会福祉法人の理事長は、施設を退所する子どもたちがアパートや携帯電話を契約する際、親の代わりに契約書などに署名することがある。民法の規定で未成年者は保護者の同意がなければ契約行為ができないが、虐待を受けるなど親に頼れない子どももいるためだ。理事長は「社会人生活が軌道に乗るまでは、身近なところで様子をみてあげたい」と話す。
支払いが滞り、理事長に請求がくることも少なくない。数十万円の負債を抱えて音信不通になる子もいる。施設への寄付金で対応しているが、個人負担では限界もある。
有識者委は対象年齢の引き上げを含め、年内に社会的養護のあり方に関する報告書をまとめる。これを踏まえ、厚労省は法改正の必要性を判断する方針だ。

子どもの貧困「お金持ちになりたい、塾に通う子をずるいと思ってた」

朝日新聞デジタル 2015年11月01日

子どもの貧困、寄せられた声 過去の体験や周囲の現状
「子どもの貧困」とはどんな状況を指すのでしょうか。朝日新聞デジタルのアンケートで、子どもの貧困の問題を身近に「感じる」「やや感じる」と答えた人が7割近くいます。まず、きょうと明日、みなさんの意見をもとに考えます。ひとり親家庭で育ち、いまは同じような境遇の子どもを支援する学生の体験とともに紹介します。

母子家庭で育った内山田のぞみさん(22)
4歳の時、父の借金が原因で親が離婚して以来、バスガイドの母と2人で暮らしています。母は早朝に出勤するので、1人で朝ご飯を食べて小学校に登校していました。9万円の家賃は重く、母は夜遅くまで、時には泊まりがけで働いていました。小学4年で都営住宅に入居でき、負担が減りました。習い事もしており、自分が特別とは思っていませんでした。
中学校では成績はいい方でしたが進学塾には行かずに都立高校に進みました。進学塾に通う子らを「ずるい」と思っていました。自分の学力レベルが分からず、高校受験の情報格差もつらかったです。
お金持ちになりたいと思ってずっと勉強していました。貧困を脱するには学歴だ、と。資金を得るため、高校1年から焼き肉店でバイトをしました。具体的に夢を描けたのは、慶応大を卒業した焼き肉店の息子さんが話してくれた大学の話。世界が広がったんです。バイト代で塾に1年通いました。大学の学費は、母がためてくれたお金と私のバイト代の貯金、貸与型奨学金で工面しました。学費、高すぎます。
そんな経験から、私の中の「子どもの貧困」は教育格差。いま、生活困窮家庭の子に無料で勉強を教えるNPO法人「キッズドア」の活動に関わっています。私も進路の悩みを聞いてくれる大人が欲しかったので、そうした場は大事です。
私がメディアに取りあげられた時、ネットに「私立大に行っている。それって貧困じゃない」と書かれ、ショックでした。極端な例だけが子どもの貧困だと思わないでほしい。取材でがっかりしたような顔をされたこともあります。かわいそうと思うかどうかで線引きされる。
生活保護は受けてないし、特別なドラマもない。苦しいけれど、声を出せない人の方が多いと思います。子どもの貧困対策に取り組む活動を通して、私も貧困を狭い範囲で捉えていたのではないかと気づきました。ちょっと貧乏でも、かなり貧乏でも、子どもは悩んでいます。私の支えは、私のことを気に掛けて「のぞみの好きなようにしていいよ。応援してるよ」と励ましてくれる母やバイト先の人、親戚でした。一人ひとりの子どもの困っている思いを、受けとめる社会であってほしいです。(聞き手・中塚久美子)

うちやまだ・のぞみ 慶応大4年。子どもの貧困対策に取り組む一般財団法人「あすのば」の学生理事。

親から子へ連鎖しがち
アンケートには、多くの方から自らの体験が寄せられています。
・「母子家庭です。横浜市は中学で給食がなく、部活に異常なまでの費用がかかる。食べ盛りなのに、なんでもお金がかかりすぎて精神的にもつらい。宿題もでないため、塾に行かせられない家は学力を上げることもなかなか難しい」(神奈川県・30代女性)
・「我が家も母子家庭で、いつもガスや電気が止まりそうになったり、実際に止まり、再開してもらうお金がなかったりなど、常に貧乏生活でした。子どもには申し訳ない気持ちでいっぱいでした。子どもの貧困、と言っても、親の貧困生活をそのままかぶっているだけです。そして、貧困は、親から子へ連鎖しがち。今の日本のしくみでは、です」(福島県・50代女性)
・「貧困家庭で育ちました。父親が無職で経済的に不安定。家の食事は粗末で、いつもおなかをすかせていました。学校給食が唯一のバランスのとれた食事でした。その後両親は離婚し母親が働きに出たので生活は安定しましたが、家庭のだんらんはほとんどありませんでした。子どもには親とのだんらんの時間、そしてバランスのとれた食事、教育、すべて必要です」(東京都・40代女性)
・「両親の監護が受けられない孫2人を養育し十数年。年金収入だけではとても30~40代の子育て世代と比較にはならない。働くことには抵抗ないが約70歳、稼得能力もたかがしれてる。過去に親族里親の認定を申請した。児童相談所は理解を示してくれたが、行政判断は不認定であった」(長野県・60代男性)
・「息子が1歳の時に離婚、今は小4ですが、洋服は今まで靴下や下着に至るまで、知り合いのお古で間に合わせ、新品はほとんど買ったことがありません。2着の服を毎日かわるがわるきているので友達から『毎日おんなじ服』と言われるそうです。習い事は、経済的にきついことと、私が朝昼夜三つの仕事を掛け持ちし、送り迎えできないこととで、ひとつもさせていません」(滋賀県・40代女性)
・「自分自身が一時的に無保険状態の子どもでした。当時は『保険証があったら病院に行きたいんだけど』と思うような場合でも、それを言うと親を困らせると思い、言い出せませんでした」(長崎県・30代女性)
・「遺児家庭です。1歳と小1の息子を抱え今年で13年があっという間に過ぎました。幸いなことに二人とも希望校へは行きましたが、塾には通わせられず、お小遣いもあげたことはありません。子どもたちはいつも私のお財布の中身を気にしています。奨学金は子どもの借金。それでも社会貢献が出来る仕事につきたいと考え自分のことを後回しにしている親子は、心だけ貧困ではないとは思っています」(北海道・50代女性)
・「私の子どもは靴1足。服はほとんどもらいものかリサイクル。おもちゃも本も。今は子どもに自転車を買ってあげたい。何年も前からサンタさんに子どもがお願いしています。苦しいけれど貧乏だと思われないように払うものは払い、体は清潔にしています。私も夫も子どもを愛しています」(東京都・40代女性)

自己責任などありえない
職場や知人など、身近にある貧困の現状も寄せられました。
・「小学校教諭の友人から、クラス内に6人、給食で飢えをしのぐ子がいると聞きました。夏休みが明けるとガリガリになっているそうです。高卒で働いているけれど給与を親に搾取される子の話も近くにありました。学校にほとんど通えず、字が書けない子も。そのような子どもがいながらも埋もれている現状で、格差はますます大きくなっているように思います」(京都府・30代女性)
・「友人がシングルマザーで、2人の子どもと暮らしている。正社員でフルタイム残業ありでも月13万円ほど。離婚した夫から養育費はもらっておらず、扶養手当数万円でギリギリの生活。彼女自身も母子家庭に育ち、経済的な理由で大学進学がかなわなかった。子どもの境遇に自己責任などありえない。自己責任論は弱いものにしわ寄せがくるだけ」(東京都・30代女性)
・「高校の教員をしている。昼休み弁当もお金もなく、校内をさまよい歩く生徒。修学旅行に行かない生徒が50人以上。親が多忙で弟妹を保育所に送ってから登校し、遅刻がちになる生徒。部活でのプロテイン配布が唯一のたんぱく源である生徒。母親の貧困もひどい。二つ三つの仕事を掛け持ちし疲労困憊(ひろうこんぱい)して痩せている方がいた」(大阪府・60代女性)
・「小児科医なので貧困のため不適切な環境で生活する子どもによく接します。母子家庭でワンルームマンション生活。自転車もなく、学校以外での生活に大きな格差。塾での交流、休みの日の外出、旅行など皆無です。こどもらしい遊びや、体験をする機会はないです。こどもが成長発達してゆくために、学校以外での生活環境の整備が不可欠です」(香川県・60代男性)
・「学校現場で気づくことは、学習の遅れや、親子を通しての諦め感が強いこと。家庭で学習を見てくれる人がおらず、学習の習慣が全く身につかない。そのまま中学へ行くため、高校受験すら諦めている子どもたちが多いように思う」(高知県・20代女性)

夫婦別姓、最高裁の判断は? 旧姓使用が広がるなかで

朝日新聞デジタル 2015年11月2日

結婚後も働き続ける女性が増える中、旧姓使用を認める職場が増えている。一方で、国家資格や公文書によっては戸籍名の使用が求められ、「二つの姓」による混乱も少なくない。夫婦別姓を認めていない民法の規定は、憲法に違反しないのか。最高裁大法廷が近く、初めての憲法判断を示す。

「信用、実績もこの名で」
東京都内の私立高校に勤める30代の女性教諭は、数年前に結婚。戸籍では夫の名字に改姓したが、学校では旧姓の通称使用を希望した。だが、同校の慣例では、旧姓使用は「改姓した年度内まで」。その後も使い続けるのは「前例がない」と認められなかった。
職員室の名札が変わり、時間割も戸籍名。だが、生徒や保護者は、女性を旧姓で呼ぶ。女性は今春、旧姓使用を認めるよう同校に求め、東京地裁に提訴し、争っている。
文部科学省によると、教員免許は原則として戸籍名。姓が変わった時に教員免許を書き換えることは義務づけられていない。ただ、日常の業務で戸籍名と旧姓のどちらを使うかは、学校や教育委員会の裁量に任せられているという。
「旧姓は、親から授かった姓で教員としての信用や実績もこの名前で積んできた。今後も、本来の姓を大切にキャリアを築いていきたい」と女性は話す。学校側は「法律上の戸籍名に基づいて、取り扱っているだけだ」と主張している。
都内のNPO法人「mネット・民法改正情報ネットワーク」は全省庁に対し、所管している国家資格の登録で旧姓使用を認めているかを照会した。11省庁の計101の資格について回答があり、今年4月1日現在で、医師など約半数で旧姓使用が認められていなかったという。
医師の場合、戸籍名で登録し、登録内容に変更があった場合は申請が義務づけられている。厚生労働省の担当者によると、罰則がないため、実際には免許を旧姓のまま持ち続けることも可能という。
弁護士の場合は結婚後、身分証明書に「職務上の氏名」として旧姓を登録できる。日本弁護士連合会によると、成年後見人として法務局で不動産登記をする場合などは、戸籍名が必要になるという。