「胎児虐待」思い詰める妊婦 故意の死産や薬物依存

西日本新聞 2015年11月24日

「胎児虐待」という言葉がある。妊婦健診の未受診や妊娠期の薬物依存が、胎児の健康や生命を脅かすとして、福祉や医療などの現場で「虐待」と認識されるようになってきた。おなかに宿った命を守るには、貧困や望まない妊娠など、悩みを抱えた妊婦へのサポートが鍵を握っている。

誰にも相談できず
ある妊婦は、自分のおなかを壁に何度もぶつけていた。妊娠検査薬で、望まぬ妊娠が判明。人工妊娠中絶の費用が捻出できず、おなかは大きくなるばかり…。壁にぶつけることで、死産にしようとしていた。
福岡市の児童相談所「こども総合相談センター」の河浦龍生・こども緊急支援課長は、そんなケースに関わったことがある。「育てられないけど、誰にも相談できない。思い詰めてしまっていたのでしょう」
死産にしようとしたり、妊婦健診を受けなかったりする背景には、婚外子や若年での妊娠、貧困や孤立などの葛藤がある。河浦課長は言う。「産んでから、自分で育てるのか特別養子縁組や里親にお願いするのか、考えればいい。望まない妊娠が分かったときにすぐ相談できる窓口が全国にあれば、救われる命がたくさんある」
厚生労働省は2011年、妊婦の相談窓口を設置するよう都道府県に通知した。妊娠期からの相談を強化するためだ。だが、日本財団「ハッピーゆりかごプロジェクト」の今年の調査では、自治体が関わる妊娠などの専門相談窓口は、全国で29カ所にとどまっている。

負の感情が影響も
直接危害を加えなくても、母親が摂取した物や負の感情が、胎児に影響を与える可能性もあるという。
胎児期から乳幼児期の母子間の非言語コミュニケーションに詳しい長崎大大学院医歯薬学総合研究科の篠原一之教授(58)は、「胎児虐待」をテーマに講演している。3年ほど前から講演依頼が増え、講師を務めた乳児院の施設長研修では、こんな話を聞いた。
「保護された赤ちゃんが、たびたびけいれんを起こすんです」。母親は薬物依存だった。
羊水を通じて薬物を摂取し、生まれながらに中毒になっていたため、生後「禁断症状」が起きたのではないか、と篠原教授はみる。
中毒にならないまでも、篠原教授は、胎児が薬物やアルコールなどの成分を「母の味」として認知する危険性を指摘する。視覚、嗅覚、味覚、触覚は妊娠7カ月で成熟し、そのころ、刺激を受け取る細胞の種類は大人以上にある。その後、生後3カ月までに使われない細胞は消えていくが、その時期に妊婦や母親が薬物を摂取すれば、その成分を含んだ羊水や母乳を飲むため、必要と判断され、本来必要のない成分の細胞が残ってしまうという。
また、妊婦の感情も胎児に影響するとした研究結果を、篠原教授は10年に発表した。妊娠7カ月の女性十数人を対象に、映画を見たときの胎児の動きを調べたところ、悲しい映画を見ると胎児の手の動きが通常より減少し、楽しい映画では増加した。
篠原教授は「負の感情が胎児に悪い影響を与える可能性もある。妊婦が思い悩まない環境を整えることが、胎児を守ることにつながる」と話している。

まだ食べられるのに廃棄される「食品ロス」、年間800万トン=養護施設やホームレスに配る「フードバンク」事業が急拡大―日本

Record China 2015年11月23日

「飽食の時代」といわれる。多くの食品、食料がメーカーや農家、個人などから、まだ食べられるにもかかわらず、さまざまな理由で捨てられている。一方で、世界の発展途上国はもちろん、日本にも十分な食事をとれない人々が多く存在するのも事実。そこで、廃棄される予定の食品を引き取り、必要としている人たちに届ける、ボランティアベースの「フードバンク」事業が急拡大している。

景気低迷下で新自由主義的な政策運営が続く日本では、所得格差が拡大し、日々の食事にも事欠く貧困層が急増。安全で十分な栄養含む食べ物を手に入れることのできない人が200万人以上に達する。にもかかわらず、賞味できるのに廃棄される「食品ロス」は年間約800万トン(農水省調べ)と、コメの生産量とほぼ同じというから驚く。
日本初のフードバンクNPO法人(ボランティア団体)としで2002年に設立された「セカンドハーベスト・ジャパン(2HJ)」の活動家は「その一部にでも配布することができれば、何十万人もの人が食べ物を手に入れることができる。日本は世界的な『もったいない』運動をリードする節約の国と誇る人がいるが、現実は真逆です」と嘆く。
フードバンクの仕組みは、食品加工工場、輸入業者、卸業者、スーパー、コンビニ、農家、個人などから、食用として活用できるのに廃棄される食品を無償で引き取り、これらを児童養護施設の子供たちや母子家庭、各種福祉施設、さらにホームレス(路上生活者)らの元に配送する―というもの。
品質には問題がないものの、包装不備や過剰在庫などで市場での流通が困難になり、商品価値を失った食品を活用できる。防災用として備蓄していた食品の賞味期限が迫ってきたり、展示会・イベント・試食会・スポーツ大会等で飲食品が余ったりした際もフードバンクの出番となる。
「食品ロス」の元凶として、特に問題となるのが、日本の流通業界に厳然と存在する「3分の1ルール」。(1)スーパーなどへの納入期限は製造日から賞味期限(食べられる期限)までの期間の3分の1時点まで(2)販売期限(店が販売可能な期限)は製造日から賞味期限までの3分の2時点まで―というルールだ。このルールでは賞味期限が3分の1以下のものは販売できず廃棄しなければならないことになる。
フードバンクの担当者は「このルールは商品を過度に回転させる悪しき商慣行。まだ食べられるものを捨てるのは本当にもったいない」と憤る。さらには「在庫切れや店頭での品切れとなるのを恐れるメーカー側が大量に製造して店に納品、大半のデパート、スーパー、コンビニなどでは、売れ残っても、価格政策やブランドイメージ維持のため値引き販売をせずに、廃棄を選択している」と語る。キャベツなど農産物が豊作で大量に余った場合でも、農業補償金を目当てに廃棄するケースが目立つ、という。
こうしたフードバンク活動は欧米では政府の保護があり、社会に浸透しているが、日本ではまだ馴染みが薄いため活動規模が小さい。農水省、消費者庁など関係官庁が縦割り状態なのも阻害要因となっている。
こうした中、菓子、調味料など加工食品の返品や廃棄を減らすため、長年の商慣習を見直す動きもある。食品メーカー、卸、小売りの20社あまりが参加して、「食品ロス削減のための商慣習検討ワーキングチーム」が発足。納品期限を延長する実験が行われている。
食品メーカー幹部は、「賞味期限が長く残っているのに出荷できなかったり、返品されたりするケースは少なくない」と指摘。「加工食品に定められている賞味期限は、おいしく食べられる目安であり、多少期限を過ぎても安全に支障はない」と強調。食べられる時期である「消費期限」と混同しないよう要望している。(八牧浩行)

保育士さん復職して! 厚労省が緊急対策、支援強化へ

朝日新聞デジタル 2015年11月23日

厚生労働省は保育士不足の解消策として、退職した保育士の再就職を促す貸付金制度を設けたり、保育士の負担を軽減するためICT(情報通信技術)を活用したりする方針を固めた。安倍政権が26日にまとめる「1億総活躍社会」の実現に向けた緊急対策に盛り込まれ、今年度の補正予算で実施される見通しだ。
保育士不足は特に都市部が深刻で、東京の9月の有効求人倍率は5・44倍。新規開園の遅れや、定員分の園児を受け入れられない原因となっている。
一方、保育士資格があるのに保育所で働いていない「潜在保育士」は全国に70万人以上いるとされる。この潜在保育士が保育現場に戻るように、一定期間保育施設で働けば返済を免除する貸付制度を新設する。
また、保育計画や指導方針の作成、日誌や記録の記入などの事務作業が保育士の負担になっている。勤務時間外に作業せざるを得ない場合もあるため、事務作業の軽減のため書類作成などのICT化を進め、離職を食い止めたい考えだ。
ただ、保育士の賃金が全産業の平均と比べて月10万円程度低いことなどから、保育士不足の解消策では「一義的には処遇改善が必要だ」との指摘がある。(伊藤舞虹)

「生活相談員の実務」算入 人材確保策、社会福祉士・受験資格

福島民友新聞 2015年11月23日

仮設住宅などを巡回して避難住民の健康や心のケアに携わる生活支援相談員の確保に向け、厚生労働省と復興庁は本年度から、相談員としてのキャリアを、社会福祉士の国家試験を受験するために必要な実務経験として認める。1年ごとの短期雇用という身分保障の不安定さなどを背景に、生活支援相談員の担い手不足が問題化していることを踏まえた対応だが、待遇改善には引き続き課題が残る。
県は本年度、相談員の定員をこれまでの200人から400人に倍増する方針を打ち出し、相談員の給与引き上げのために人件費の予算枠も拡大。また、相談員の業務効率化に向けタブレット端末を配布している。しかし、相談員の数は10月1日現在で269人にとどまり、131人が不足している状況だ。
相談員を雇用するのは、避難住民が住む28市町村や県の社会福祉協議会(社協)。短期雇用に加え、避難住民が抱える悩みが複雑・多様化し業務が増える一方、給与水準は比較的低いなど待遇面での課題も多く、人材確保が進んでいない。
このため厚労省は、社会福祉士の国家試験を受験する際に必要な養護老人ホームや児童相談所などでの1~4年の実務経験について、相談員のキャリアも職歴として加える。受験の際に実務経験が必要となるのは主に福祉系短大などの卒業生ら。適用は来年1月の試験から。
本県など被災地では相談員が被災者に寄り添いながら多くの経験とノウハウを身に付けており、キャリアを実務経験として認めることで、相談員経験者に高齢者福祉の分野など活躍の場を広げてもらう狙いもある。
社会福祉士の国家試験は昨年度、約4万5000人が受験した。復興庁の担当者は、相談員のキャリアを実務経験に算入することについて「相談員になる際の動機付けにもつながる」とし、受験者のうち一定数が本年度以降、相談員経験者になるとみている。