児童虐待防止 児相の態勢充実と連携を

佐賀新聞  2015年11月30日

児童虐待の防止策を協議する厚生労働省の専門委員会が、児童福祉法の対象年齢を現行の「18歳未満」から「20歳未満」に引き上げる案の検討を始めた。児童相談所の機能から親に対する支援を切り離して市町村に移したり、虐待の通告を受けた機関が緊急性を考慮して対応を警察や児相、市町村に振り分ける案などもある。いずれも児相の負担軽減を図る狙いがある。現実に沿った多面的な取り組みを進めたい。
児童福祉法は「児童」の定義を18歳未満としている。児童養護施設などにいられるのは原則18歳までで、高校卒業後に施設を出ることになる。ただ、民法上、未成年者は保護者の同意なしで住居や携帯電話などの契約ができないことなど、自立には多くのハードルがある。高校3年生の虐待が発覚した場合、17歳なら児相が保護できるが、18歳は対象にならないという問題もある。そうした背景から20歳への引き上げが浮上した。
児相の機能分離や通告の振り分けは、虐待が増え続ける一方、職員不足などで児相の対応が難しくなっている現状が背景だ。役割を一時保護など強制的な危機介入に特化し、保護者らの支援や相談は別の機関が請け負うような仕組みにすることで、児相の負担軽減を図ろうと考えている。
児相の実情が分かる数字がある。全国の児相が2014年度に相談や通告を受けて対応した児童虐待は前年度比20・5%増の8万8931件(速報値)で、過去最多を更新した。1990年度の集計開始以来24年連続の増加で、初めて8万件を突破した。
一方、児相の人出不足は深刻だ。1999年度と2014年度を比較してみると、対応件数は約7・6倍に増えているのに、全国の児相に配置された「児童福祉司」の数は1230人から2934人と約2・4倍しか増えていない。これでは十分な対応は難しい。
佐賀県の数値は、2014年度の対応件数は190件で児童福祉司は15人。件数は5年前から50件増えているが、児童福祉司の数は2人増にとどまっている。
こういう実情をみれば、児相の態勢充実が急務なのは明らかだ。厚労省の専門委員会も協議を急いでほしい。同時に関係機関の連携や地域社会の対応も強めたい。
昨年、神奈川県厚木市で当時5歳とみられる男児が父親に放置され、死後7年たって発見された事件があった。3歳の時に迷子として児相が一時保護していたが、その後の家庭訪問を怠っていた。男児は3歳半健診を受けておらず、行政間の連携や情報共有も論議になった。
先日、武雄市であった子どもの非行防止県民大会で、生活困窮者の支援にあたっている団体の関係者から、住民からの情報提供が大切だという意見が上がった。児童虐待に限らず、生活苦からの無理心中など「周囲が気づけなかったのだろうか」と思う悲しい事件も続いている。貧困や虐待は表に見えにくい。少しでも気になることがあれば、行政や関係機関に連絡することも大切だ。
児相の態勢充実、関係機関の連携強化、さらに地域の見守りを加えて、児童虐待を防ぐ体制を強化し、手を差し伸べることができるようなネットワークを築きたい。(小野靖久)

企業に「ストレスチェック」義務化 過労など防止

テレビ朝日系(ANN)  2015年12月1日

仕事のストレスや過労で心の病になることを防ぐため、従業員の「ストレスチェック」を企業に義務付ける制度が1日から始まります。
従業員50人以上の企業に年に1回の実施が義務付けられるストレスチェックは、働く人に「部署内で意見のくい違いがある」「仕事に満足だ」などの質問をする形で、「ストレス」や「過労」の度合いを測ります。強いストレスがある人は医師が希望に応じて面接し、企業は医師の意見や本人の希望を考慮したうえで、仕事内容を変更したり労働時間を減らすなどの対応を取らなければなりません。うつ病など心の病で労災を申請する例が増えていて、厚生労働省は「制度を活用して労働者の心の健康を保ってほしい」としています。.

日本が是が非でも男女平等を実現しなければならない理由

THE PAGE  2015年11月30日

ダボス会議で有名な世界経済フォーラムは11月19日、2015年における世界男女平等ランキングの結果を発表しました。日本は145カ国中101位となり、前回からわずかに順位を上げたものの、依然としてかなりの低ランクです。安倍政権は女性の社会進出を成長戦略として掲げているのですが、現実とのギャップはなかなか縮まりません。
この世界男女平等ランキングは、職場の女性進出、教育、健康、政治の各分野において、男女平等がどれほど進んでいるのか評価し、総合ランキングとして集計したものです。日本のランキングは毎年極めて低く、100位以下という状況が続いています。100位近辺にはインドや韓国など男女差別が極めて激しい国が並んでいますから、基本的に日本も同じような国と認識されていることになります。
日本において男女平等は、文化やモラルの問題として捉えられており、「男性の意識改革が必要」「女性の側もあまり社会参加を望んでいない」といったやり取りが行われてきました。しかし、今の日本にはこうした文化的な議論を続けている余裕がなくなりつつあります。急速な高齢化の進展によって、労働力人口が激減しており、経済全体に供給制限がかかっているからです。べき論以前に、家庭に入っている女性が労働市場に出てこなければ、人手不足によって経済がさらにマイナスになる可能性が高まっているのです。
女性の労働市場への参加を妨げている原因のひとつは、やはり職場における男女の賃金格差でしょう。「ウチの会社では男性も女性も同じ条件で働いている」という声が聞こえてきそうですが、賃金の男女格差の問題はもう少し複雑です。男女の賃金格差問題の背景には、非正規社員と正社員の賃金格差問題が大きく関係しているからです。
厚生労働省が発表した2014年の就業形態調査では、パートや派遣など非正規社員の割合が初めて4割を超えました。経済界が2度にわたって賃上げを行っているにもかかわらず、労働者の実質賃金が上昇しないのは、非正規社員の賃金が圧倒的に安いことが原因です。男性の非正規社員の割合は20%程度ですが、女性は50%超とかなり高くなっており、これが女性の賃金を大幅に引き下げています。
こうした状況から、男女平等ランキングにおける女性の職場進出の項目では、日本の順位はさらに下がっています。硬直化した労働市場という根本的な問題に対処しなければ、男女平等のみならず、あらゆる問題について解決することがより困難となるでしょう。

教員の育成策 「高め合う」学校へ改革を

産経ニュース 主張 2015年12月1日

これからの学校教育を担う教員の育成策について、中央教育審議会が答申案をまとめた。
形骸化しがちな研修制度や養成、採用方法を含めて見直し、教員同士が「学び合い、高め合う」育成を進めるというが、狙い通りにいくか。
それを阻んできた教育界全体の意識改革が欠かせない。
若手教員の育成が喫緊の課題であるのは確かだ。児童生徒数の多かった昭和50年前後に大量採用された世代が退職し、経験5年未満の教員が一気に増えている。
地域によっては30、40歳代が極めて少なくなり、指導ノウハウを伝える機会が減っている。
中教審がまずあげたのも研修制度の見直しだ。「教員は学校で育つ」と、教員同士が日常的に学び合う校内研修の充実を求めた。
採用後10年など、定期で義務付けられている研修時期も学校の実情に応じて弾力化し、中堅のリーダーとなる人材の能力を高めるなど目的を明確化して行う。
方向性はいいとしても、教員は自分の授業のやり方に口だしされるのを嫌う。ベテランほどその傾向が強く独善的になりがちだ。校内を風通し良くする校長らの手腕が問われよう。
教員養成や研修などを担う大学と教育委員会自体の閉鎖性も変えなくては改革は望めない。大学と教委の「教員育成協議会(仮称)」を創設し、養成課程などに学校現場の要望を反映するというが、実践と隔たる養成などが続けられてきたことが問題だ。
多くが学校の教壇に立ったことのない者が指導する教職課程には「患者(子供)を診たことのない医師が教えているようなもの」との批判がある。行きすぎた子供中心主義のような特定の教育理論にこだわるほか、学閥もあり、せっかく経験豊かな教員出身者が教授になっても孤立する例がある。
採用では、教員を目指す学生らが学校や福祉施設などでボランティアやインターンシップを行える機会を増やす。意欲ある人材を集め、鍛える改革を長期的視野で実現してもらいたい。
道徳教育で「正解」のないテーマを扱うなど、教員の指導力がますます問われる時代だ。家庭の教育力低下で学校への要望も多様化している。教員にとって大変な時代だが、やりがいは増している。頼りになる先生を増やしたい。