LINEで虐待方法を話し合っていた親に「殺された」3歳児は、おそらく救えていた

駒崎弘樹 2016年1月14日

3歳児の父親の駒崎です。
またしても、胸が潰れるような事件が起きました。
・<狭山女児死亡>母らLINEで虐待やりとりか「帰ったらやろうね」- Yahoo!ニュースhttp://bit.ly/1Oj6MJV
・3歳娘に「正座」強要…元同僚が激白、目にあざも(テレビ朝日系(ANN))- Yahoo!ニュースhttp://bit.ly/1Oj73wG
報道が事実とすれば、この残酷な母親と内縁の夫に強い憤りを覚えないかと言ったら、嘘になります。
しかし、我々は「再発防止」の観点から、この事件を見なくてはいけません。
現在出ている限られた情報からですが、分析をしたいと思います。

【死までのタイムライン】
まず、羽月ちゃん(3歳)が命を落とすまでに至るタイムラインを、報道資料から整理してみました。
2012年 8月 誕生
2012年 12月 4ヶ月検診受診せず
2013年 4月 (受診がなかったので)家庭訪問
2014年 2月 1歳6ヶ月検診を受診せず
2014年 7月 (受診がなかったので)家庭訪問
2015年 6月29日夜近所から警察に通報あり(警察は児相に通告せず)
2015年 7月19日夜近所から警察に通報あり(警察は児相に通告せず)
2015年 6月~7月 保育所に16日だけ通所
2015年 秋からエスカレート
2015年末 マンション隣の青果店店主「泣き続ける子どもの声が部屋から聞こえてきた。二時間以上泣いていた」
2015年11月 3歳児検診を受診せず
2016年 1月 虐待死

【救えたチャンス】
これをご覧いただければ、羽月ちゃんを両親のもとから引き離す、「一時保護」の機会があったことがわかります。
例えば、4ヶ月・1歳半・3歳児検診の3回ともを受診していない、ということ。これは虐待の重大なサインです。基本的には受けさせなければいけない検診を受けさせていない、というのは、子どもを心理的に受容できていないことを意味するためです。
そしてこの「要注意家庭」において、警察への通報が2度もありました。
しかし、警察は「外傷がなかったため」、児童相談所には通告しなかったのです。
ここでもし、「(ここまでには2度とも)検診に行っていない」という情報と、「短期間に2度虐待的な状況があった」という情報が、警察と児相の間で共有され、足し合わされていたらどうだったでしょうか。
一時保護をする判断は、できたと思います。少なくとも児相からの家庭訪問を頻回化させたり、近隣住民への追加ヒアリングはできたでしょう。

【なぜ児相と警察は連携できないのか】
児童虐待防止法(http://bit.ly/230vB56)の10条では、警察への援助要請について規定されています。しかし、現場の実態としては、児相と警察の連携は進んでいません。
児童虐待防止の活動を続ける後藤弁護士は「警察と児童相談所は、お互いに縦割りの組織で、『連携なんて聞いたこともない』『自分たちのやり方を変えたくない』という意識が強くあります。お互いがよほど困らない限りは連携しようとしません」と語ります。
https://www.bengo4.com/other/1146/1307/n_2621/
こうした文化的な部分に加えて、現在の児童虐待防止法では、警察が積極的に児相に情報提供をしたり、その逆で児相が警察に情報提供することも規定していないのと、児相と情報共有し、パトロールなどのルートの中で家庭訪問をしていくことも定められていないのです。
「児相と警察の意識の低さ」と「法の不足」が要因となって、子どもたちが死んでいったのです。

【問題解決のために】
今回のような事件は珍しいものではなく、我が国では、3日に1人、子どもが虐待で殺されています。
この数を少しでも減らすために、我々ができることはなんでしょうか。
(たくさんあるのですが、今回のケースの文脈に沿ったものとして短く挙げておきます)

国ができること:
・児童虐待防止法を改正し、児相と警察の連携を強化させる。情報共有と、家庭訪問の共同実施
・児童福祉司が持っているケースが100件(欧米では20件)を超え、よって家庭訪問もろくにできないという狂った状態を是正するための予算措置をとる

自治体ができること:
・都道府県警察と児相、そして自治体の連携がきちんとできるように、条例を策定/改正する
・虐待防止の地域協議会を自治体のあまねくエリアで行う。今回は、地域協議会の範囲外だった

私たち個人ができること:
・虐待かな、と思ったら、児相共通ダイヤル「189」に電話。
・110番にも重ねて電話し、その際に「児相と情報共有してもらえますか?」と添える
・過去電話して、改善されなくても、しつこく電話する。回数によって優先順位も変わるため
・友人や同僚が虐待をしているとわかった時は、きちんと相談に乗りつつ、児相にも通告しておく(匿名で通告できます)
・「子どもの虐待防止」を公約に掲げている政治家に投票する

以上、簡単ですが分析と提言でした。
目にアザをつけられ、寒空の中ドアの外に出され、食事も食べさせてもらえず、熱湯をかけられて病院にも連れていってもらえず死んでいった3歳の羽月ちゃんの冥福を、心から祈ります。

【ここにいるよ 沖縄 子どもの貧困】「母のようになりたくない…」 虐待受け里子に

沖縄タイムス+プラス 2016年1月13日

中学2年のアリサ(14)は、小学1年のころから、里親のマユミ(58)のもとで暮らす。
3歳のとき、母親に殴られ、血を流しているところを発見されて、児童養護施設に入った。
アリサの母親は高校を中退し、10代で出産、二十歳で離婚した。経済的に困窮し、慣れない育児に追い込まれていたようだ。暴力は、幼いアリサが家にあった食パンを勝手に食べたことがきっかけだったという。
児童養護施設でアリサに初めて会ったときのことをマユミは今も鮮明に覚えている。笑顔がなく、ぼーと遠くを見つめ、目を合わせようとしない。触れようとすると、「触るな、ばか、あっちいけ」と悪態をついて、拒絶した。
十分な栄養を取っていなかったのか、4歳に近かったが、体が小さく、2歳くらいにしか見えなかった。マユミは「この子を放っておくわけにはいかない」と、アリサを引き取った。
アリサは慣れてくると、マユミの愛情を求め、独占したがった。寝るときも、出掛けるときもべったり。マユミのおなかから「オギャー」と生まれるまねをしてよく遊んだ。

アリサは後に、手紙やメールでやりとりをするようになった実母から、「お金がないのが一番苦しかった」と聞かされた。「高校中退じゃあ、働き口もあまりなかったはず。がんばって大学に行っていたら、お母さんにも自分にも、違う未来があったかもなって思う。私は子どもをちゃんと育てられるようになってから結婚したい。お母さんのようにはなりたくない」

アリサは今、塾に通いながら、勉強に励んでいる。児童福祉法は「児童」の定義を18歳未満と規定し、里親家庭にいられるのは原則18歳までと定めている。
アリサは基本的に高校卒業後、家を出なければならない。「兄」たちは、「お前に残してあげられるのは学力だけだ」と言って、熱心に勉強を教えてくれる。
マユミはアリサのほかにも、児童養護施設や里親家庭で育った子に関わってきた。愛情不足からか自己肯定感が弱く、「がんばっても、どうにもならない」と意欲を失い、施設や里親家庭を出た後に生活困窮に陥り、「貧困の連鎖」からなかなか抜け出せない子も多い。
アリサは今、成績が伸び、けいこ事が上達して、回りからほめられ、自信をつけてきている。医者、音楽の先生…、中学生らしく夢はいろいろ変わるが、「将来、人を助けられる人になりたい」と話す。
マユミは「今のうちに学力や基本的生活習慣を身につけ、貧困の連鎖を断ち切ってほしい」と願う。

沖縄の少女売買春、搾取する男性側の問題点とは?

沖縄タイムス+プラス 2016年1月12日

「特に沖縄では児童の性的搾取が見られる」。2015年10月、日本の児童ポルノや児童売春の状況調査のため来日し、沖縄にも足を運んだ国連特別報告者のマオド・ド・ブーア・ブキッキオ氏は日本記者クラブでの会見でこう述べた。沖縄で一体、何が起きているのか。売買春に関わる少女や大人への取材から浮き彫りになった問題点をまとめた。

ソーシャルメディアと売買春の関係
2013年8月、沖縄県警は18歳未満の少女13人を含む19人に客と淫行させた男3人を児童福祉法違反で立件した。男らは見知らぬ人との出会いが目的の「出会い系サイト」などで客を集め、沖縄や東北など約10県のホテルなどで少女たちに淫行させていた。管理型売買春である。
売買春で欠かせないツールがSNSや出会い系などのソーシャルメディアだ。スマートフォンの普及によってチャットで交流することができるアプリやそのIDを交換するサイトが登場。警察庁によると、2015年上半期にSNSなどのコミュニティサイトで796人の少女が被害に遭っている。
業者の男は少女のふりをして出会い系やSNSで客を募り、買春したい客はソーシャルメディア上で少女を探し、少女は業者から仕事の連絡を受ける。業者から何度も仕事を受けてきた少女の中には業者のまねをして、直接ネット上に書き込み、客を探すケースもあった。

ネットは問題か
県教育庁と県警は、管理型売買春事件を受け、2013年9月、「青少年をネット犯罪から守る県民集会」を開いた。親や中高生ら約700人が参加。「青少年を性犯罪から守るため、情報モラル教育に積極的に取り組む」などを宣言した。
しかし、根本的な問題はネットではない。売買春は通信機器の発展と連動してきた歴史がある。1990年前後はテレホンクラブやツーショットダイヤル、2000年ごろからは携帯電話が普及し始め、出会い系の掲示板に書き込む形で広がっていった。警察は新たなツールが登場するたびに規制をしているが、いたちごっこが続いている。
変わらないのは、少女に売春をあっせんする男と少女を買う男の存在だ。売買春の根本的な問題の一つは、ここにある。

男性側の意識
業者はなぜ、少女に売春をあっせんするのか。事件後、30代の県内業者の男にインタビューをしたところ(1)未成年は性や社会経験が少ないため、扱いやすい(2)中学生は男側のコンドーム使用の有無が判断しにくい(3)沖縄の子は目鼻立ちがはっきりしていて県外の客に人気(4)売春は少女たちの“花嫁修業”と考えている―などの背景が浮かび上がった。
買う男にも聞いた。30歳の男は、未成年の少女を扱う業者から届いた「女の子買わない?」とのメールをきっかけに買春を始めた。ソープより値段が手頃な上、少女が好みのタイプでない場合にはキャンセルもできる。「未成年の買春は犯罪なの?」と聞いてくるほど罪の意識は薄かった。
少女が大人に“商品”のように扱われている実態があるにもかかわらず、買春に関わる男たちの姿は、なかなか浮かび上がらない。世論から批判や非難の声もほとんど聞こえてこない。
刑も軽い。児童買春・児童ポルノ禁止法は5年以下の懲役か300万円以下の罰金、沖縄県青少年保護育成条例は2年以下の懲役か100万円以下の罰金で済む。
そんな男たちに、少女たちは街頭でスカウトされ、SNSで紹介され、魔の手に絡め取られる。家族や友人関係の悩みに親身に耳を傾け、彼氏のように装い、“疑似恋愛”に持ち込む。出勤が続かない少女には「親や友達にバラす」と脅し、囲い込む。

社会が問われている
ブキッキオ氏は先の会見で、「(子どもの性被害の撲滅には)根源的な原因究明が必須であり、それは日本政府と沖縄県の共同の責任であると思っている」と指摘した。法、モラル、理性…これまでも問題視はされてはきたが、いかに遡上(そじょう)に乗せられるのか、突き付けられている。
さて、問題をはき違えて実施された「県民集会」。その責任者であり、教育庁ナンバー2を務めたこともある幹部が2014年、児童買春容疑で逮捕された。18歳未満と知らなければ、児童買春・児童ポルノ禁止法は適用されない。結局、県青少年保護育成条例で起訴され、処分はわずか罰金50万円だった。
2016年3月には最終調査報告、勧告が国連人権理事会に提出される。売買春に関わる大人は身近にいる。彼らに対し、社会の監視の目が生まれる契機となれるのか、社会のあり方が今、問われている。