子どもの死亡相次ぐ…虐待防止、地域の「目」重要

読売新聞大手小町 2016年2月4日

民間の相談窓口/「住民も支援の輪に」
埼玉県と東京都で、3歳の子どもが虐待で死亡する事件が相次いだ。国や自治体は、相談体制の充実など虐待防止に力を入れるが、痛ましい事件は後を絶たない。
専門家は関係機関の連携強化とともに、民間団体や地域住民の取り組みも大切だと呼びかける。

1月11日、やけどした女児(3)を放置したとして、埼玉県の母親(22)と、同居する内縁の男(24)が保護責任者遺棄容疑で逮捕された。27日にも、東京都大田区で、暴力団組員の男(20)が、同居中の女性(22)の長男(3)に対する傷害容疑で逮捕されている。
厚生労働省によると、虐待(心中を除く)で死亡した子どもは2013年度は36人だった。14年度に児童相談所が対応した児童虐待は過去最多の約8万8900件に達した。
虐待防止に向け、国や自治体、民間団体は知恵を絞る。
国は07年度から、生後4か月までの乳児がいる全家庭を保健師などが訪問し育児の悩みを聞く事業を行っている。
さらに、千葉県浦安市は、妊娠の届け出時と出産前後、子どもが1歳になる頃の計3回、保健師が母親と面談し、母親の様子に目配りする。家庭環境や母親の気持ちを聞き、虐待の恐れがある場合は家庭訪問してケアに努める。
それでも、「妊娠届を出さずに出産する人や、悩みを抱え込んだままの家庭もある」と同市の担当者は頭を抱える。NPO法人児童虐待防止全国ネットワーク理事長の吉田恒雄さんは「行政に信頼感を持っていない人もいる。民間にも相談窓口があることを知ってほしい」と話す。
NPO法人ホームスタート・ジャパンは、育児経験のあるボランティアが依頼してきた家庭を訪問し、親に寄り添って話を聞く。事務局長の山田幸恵さんは「悩みを話すことで気持ちが楽になる。『そばに誰かがいてくれる』という安心感につながる」と訪問型の支援の重要性を訴える。
埼玉県の事件では、住民から「女の子が泣いている」と110番通報もあったが、児童相談所と情報が共有されなかった。淑徳大学教授の柏女霊峰かしわめれいほうさんは、「関係する機関の連携の強化とともに、地域住民も支援の輪に加わる仕組み作りが急がれる」と話す。
現状では、住民にできるのは、虐待の可能性があればすぐに通報することだ。立教大学教授の浅井春夫さんは、「通報後の対応は、個人情報保護などの理由で教えられないことが多い。通報後も心配な状況が変わらない場合は、児童相談所のほか、市区町村や警察、民生委員など、様々なルートで繰り返し通報することが大切だ」と呼びかける。
死亡した子どもの母親は2人ともシングルマザーだった。母子家庭を支援するNPO法人「しんぐるまざあず・ふぉーらむ」理事の赤石千衣子さんは、「一人で悩みを抱え、相談相手を求める人は多いため、母子家庭への支援策を充実させてほしい」と訴える。

全国共通のダイヤル
厚生労働省は児童虐待の通報をしやすくするため、昨年7月、全国共通ダイヤル「189(いちはやく)」を設けた。
受け付けは24時間、365日。電話すると、通報者の住む地域を担当する児童相談所につながり、職員と話せる。匿名でもいい。通報後、児童相談所は、原則として48時間以内に子どもの安全や虐待の有無などを確認する。
同省の担当者は「虐待でなかったとしても罰則はない。疑わしいと思ったらためらわないで」と呼びかけている。

幼児の虐待死 防ぐ取り組み地域から

信濃毎日新聞 社説 2016年2月2日

幼い子が虐待を受けて命を落とす痛ましい事件が続いている。“密室化”した家庭で起きる虐待をどう防ぐか。難しさをあらためて感じさせられる。だからこそ、地域や社会で何ができるかを考えたい。
東京都大田区で先週、3歳の男児が激しい暴行を受けた後に死亡した。同居していた母親の交際相手の男から、1時間半にわたって、頭に「かかと落とし」をされたり、投げられたりしたようだ。
身長195センチ、体重120キロの男が振るう暴力に、男児はなすすべがなかったに違いない。どれほど恐ろしかったか。母親も暴力を受け、興奮した男を止められなかったという。
男は、事件前にも「しつけとして平手打ちをした」と供述している。ただ、区や児童相談所に虐待の相談や通報はなかった。
埼玉県狭山市では先日、3歳の女児が顔にやけどを負ったまま放置されて死亡した。母親と同居の男が、熱湯をかけたり、両手を縛って拘束したりする虐待を繰り返していた疑いがある。
半年ほど前、近所の人が「泣き声がする」と警察に通報し、署員が家を訪ねたが、虐待の形跡を確認できなかったという。警察は児相に知らせていなかった。
核家族化が進み、隣近所の付き合いも薄れて、外の目が届きにくくなったことで、虐待が深刻化したと指摘されてきた。自分で身を守れない幼い子が、親や身近な大人の暴力、あるいは育児放棄によって、命の危険にさらされている現実がある。
厚生労働省のまとめでは、2003年度からの10年間に虐待で死亡した子どもは540人余。その75%を3歳以下が占めている。最悪の事態に至る前に、どうにかして救いたい。
子どもは、親だけでなく社会が守り育てるべき存在だ。市町村や児相をはじめ関係機関が連携して取り組みを強めるとともに、住民それぞれが自分の問題として受け止め、力を合わせたい。
経済的な困窮が子どもへの虐待につながることも多い。近所の人と日ごろから言葉を交わし、変わった様子や困っていることはないか気遣う。そんなごく当たり前のことが土台になる。
それは、子どもの虐待だけでなく、高齢者への虐待を防いだり、一人暮らしのお年寄りが孤立しないようにしたりするためにも欠かせないことだ。おせっかいなくらいの方が、関心を持とうとしないより、ずっといい。

片づけの伝道師「汚屋敷で子育ては虐待といわれて仕方ない」

NEWS ポストセブン 2016年2月4日

5000軒の家を手掛けた“片づけの伝道師”こと、美しい暮らしの空間プロデューサー・安東英子さんが『ワイド!スクランブル』(テレビ朝日系)で手掛けた片づけ企画が1月12日以後、数週にわたって放送され、大きな反響を呼んでいる。
足の踏み場もない汚屋敷での、家族6人の生活。ゴミと生活用品が混在する中、子供たちが物を食べ、そして眠るのは、「虐待と変わらない」と安東さんは片づけの依頼者である母親を諭した。そして安東さんは続ける。家のあり方は、心の鏡。この状況こそが、自分自身である──と。
安東さんに片づけを依頼したIさん(37才・女性)。台所には作りかけのまま放置された“元・食べ物”が何か月も放置され、床は足の踏み場もない。その様子は、言葉にしがたい光景だ。5人の子供を持つ安東さんの心に引っかかったのは、そんな中で11才の長女のほか、0才児まで4人の子供が育てられていることだった。そしてこれは、何もIさん宅だけで見た光景ではないと言う。安東さんが“汚屋敷”(おやしき)で育った子供にどんな悪影響があるのか、解説する。

5000軒の家を見てきて実感しているのは、汚屋敷で子育てをしている家庭が急激に増えているということ。物が散乱した居間には、食卓テーブルを置くことすらできず、それを家族が囲むスペースもない。お盆を床に置いて食べたり、家族がバラバラに食事をする家庭もありました。汚屋敷に住む家族にとって、食事は一家団欒ではなく、ただ空腹を満たすだけの行為のように思えました。
洗われないまま食器が放置された流し台やガス台では、まともな調理などできません。なかには風呂場で米をといでいる人もいました。そんな調子だから、必然的に食事も偏ってしまいます。菓子袋がたくさんあるのも、汚屋敷の特徴のひとつです。親は料理をせず、お菓子で空腹を満たしているのではと疑ったことも幾度あったことか…。
ゴミの上やわずかな隙間に体をうずめて眠る。これでは伸び伸び寝られるはずがなく、成長にも影響しかねない。もちろんそんな布団はダニの温床となります。こうした家で多いのは、親がわが子はアトピーやアレルギーだと思いこんでいること。
でもそれはダニに刺されて掻きむしった傷ということが多く、片づけが進むにつれ、「あれ? 痒くなくなった」「だんだん咳が出なくなった」という会話によくなります。親は子供の不調の原因を、何か病名をつけることで言い逃れをしようとしているのではないか、とも思います。それだって、ある種の育児放棄。責任転嫁以外の何ものでもありません。
汚屋敷で育った子供は、そもそもゴミや物が散乱した中で生活しているから、「ゴミはゴミ箱へ」「使ったものは元に戻す」といった、生活の基本動作が身についていない場合が少なくありません。
さらに「食事を作る」「部屋を掃除する」「洗濯物はためこまずまめに洗う」という、自活能力も育たない。
床一面に物があるから、つまずかないようにといつも下を見ながら暮らしているので、猫背になってしまう子供も多いように思います。実際、汚屋敷を訪れると、子供は判で押したように、肩をすくめてうつむきがち。覇気が感じられません。
親にその気がなくても、汚屋敷で子供を育てることは“虐待”といわれても仕方がないと思うのです。

厚生労働省によると、児童虐待は、身体的虐待・性的虐待・ネグレクト・心理的虐待の4種類に分類される。ネグレクトとは親の怠慢による“育児放棄”のことだが、このなかに“ひどく不潔にする”ということが挙げられている。汚屋敷はこれに当てはまるといえるだろう。