障害者の再犯、地域で防ぐ 弁護士と社会福祉士が連携

朝日新聞デジタル 2016年2月22日

知的障害などを抱え、犯罪を繰り返してしまう「累犯障害者」を地域で支えようと、弁護士と社会福祉士が手を組む試みが動き出している。福祉的なケアをまとめた「更生支援計画」を裁判所が認め、刑が軽くなった例もある。「ただ刑務所に入れるのではなく、背景に障害があることを理解して関わらなければ解決しない」と関係者は話す。

「刑務所には絶対に戻りたくない」。川崎市にある知的障害者のためのグループホームで、男性(40)は暮らしている。知能指数(IQ)は49。厚生労働省によると、70以下は知的障害とされる。前科・前歴は20を数え、実刑判決を6回受けた。「お酒を飲むと気が大きくなってしまう」。幼いころに両親に捨てられ、児童養護施設で育った。成人になってからは、ほとんどの時間を刑務所で過ごしてきたという。
徳田暁弁護士=横浜弁護士会=が5年前に担当になり、知的障害と犯罪の関係に着目。社会福祉士に相談し、精神鑑定を医師に依頼した。男性の経歴や生活環境を考慮すると、懲役刑の実効性は乏しく、生活訓練をやり直す必要があるという趣旨の結果が出た。
徳田弁護士は、判決から3カ月後には受け入れてくれる福祉施設があることなどをまとめた更生支援計画を裁判所に提出した。情状証人として、障害者の自立支援に取り組んできた福祉施設の職員が出廷。その証言も踏まえて、裁判所は懲役1年6カ月の求刑から半年を減らした。さらに、勾留日数の刑への算入を260日と通常より大幅に認めて、男性が施設に入れる時期に合わせて刑を終えられる判決を言い渡した。
「罪に問われた障害者の中には、福祉と接点を持ってこなかった人もいる。刑務所による矯正教育が有効に働かず、障害に応じた支援が必要な場合がある」と徳田弁護士。男性には社会福祉士の男性(46)が付き、男性が受給する障害年金や生活保護費の管理を含めて面倒をみている。これまで4年間、施設での生活を続けられているという。
徳田弁護士らが中心となり、横浜弁護士会は昨年12月、神奈川県社会福祉士会と連携協定を結んだ。社会福祉士は、出所後の住まいの確保や障害者手帳の申請手続きなどで協力。弁護士は更生支援計画に盛り込んで裁判所に出す。県社会福祉士会の山下康会長は「障害による生きづらさを社会が理解し、地域に戻った時の仕組みを作らないと、再犯は防げない」と話す。

13都府県で、所在不明児なお18人…追跡調査

読売新聞 2016年2月21日

厚生労働省の2014年の調査で所在不明とされた18歳未満の子供約2900人のうち、その後2年近くの追跡調査でも、13都府県の18人が所在不明のままであることがわかった。
読売新聞が先月末時点の調査状況を関係自治体に取材し、判明した。この中には、警視庁が20日、母親を殺害した容疑で元交際相手を逮捕した事件に巻き込まれた疑いが浮上している東京都新宿区の男児も含まれる。他の所在不明児も危険な状態に置かれている恐れがあり、各自治体は警察と協力して安否の確認を急いでいる。
14年の厚労省調査は、児童虐待防止を目的に初めて実施。同年5月時点で2908人が所在不明とされたが、追跡調査で多くの子供は転居や出国の記録などが見つかり、同10月に141人、さらに、昨年6月の読売新聞の調査で34人にまで減少したことがわかった。その後も入国管理局への照会作業などが進み、16人の所在は確認できたが、18人が所在不明のままという。

児童福祉司、来年度から大幅増員へ 虐待増加に対応

朝日新聞デジタル 2016年2月24日

児童相談所(児相)で児童虐待の相談や調査にあたる児童福祉司について、政府は新年度から大幅に増やす方針を決めた。増加する児童虐待に対応が追いつかないためで、人件費に使える地方交付税を増やして自治体に増員を促す。最大で約230人増える計算だ。厚生労働省が23日、自治体担当者の会議で説明した。
大学で心理学や教育学などを専修し、児童福祉に関する相談業務に1年以上携わった人らが児童福祉司に任用される。現在は人口170万人につき36人置けるよう算定基準が定められ、昨年4月時点で全国に2934人が配置された。この基準を新年度に39人に引き上げ、その分、地方交付税を増額する。基準の引き上げは2年ぶり。児童虐待防止法が施行された2000年以降で、引き上げ幅は07年度と並び最も大きい。
児童福祉司の人数は00年度からの15年間で2・2倍になったが、14年度に児相が対応した児童虐待の件数は8万8931件で00年度の5・0倍に急増している。無理心中以外の虐待死事例を担当した児童福祉司の受け持ち件数は、13年度で1人あたり109・1件に上った。
厚労省は今後、児童心理司や保健師などの増員も含めた児相の体制強化プランをまとめる方針。(伊藤舞虹)

<同一賃金>政府が指針…法改正前に作成方針

毎日新聞 2016年2月24日

政府は、正規労働者と非正規労働者の賃金格差を是正する「同一労働同一賃金」に向けた法改正に先立ち、どのような場合に格差を認めるかを示すガイドライン(指針)を作成する方針を決めた。安倍晋三首相は23日、政府の1億総活躍国民会議で、労働法の専門家らによる検討会を設置し、指針の内容を検討するよう指示した。
政府は、パートタイム労働者、有期契約労働者、派遣労働者に関する現行法の改正を軸に関連法案を準備し、来年の通常国会への提出を目指す。ただ、法改正後も勤続年数などを考慮し一定の賃金格差は認める方向で、その場合、訴訟になれば企業には合理的な説明が求められる。政府があらかじめ指針を示すのは、経済界に同一労働同一賃金の考え方を浸透させるためとみられる。「指針を作れば、すぐに行政指導で使える。法改正を待たずに運用に移る」(政府関係者)という意見もある。
23日の国民会議では、榊原定征経団連会長が「日本の雇用慣行を踏まえた議論が必要」と条件を付けたうえで、同一労働同一賃金に「賛同する」と表明。日本商工会議所の三村明夫会頭も「不合理な格差是正なら理解できる」と述べた。
これを受けて安倍首相は「心強い発言があった。雇用慣行に十分留意しつつ、ちゅうちょなく法改正を準備する」と述べ、早期の法改正に意欲を示した。
国内では非正規労働者が全雇用者の38%(2015年10~12月)を占める。厚生労働省の賃金構造基本統計調査(昨年7月)では、正社員の平均月給32万1100円に対し、非正規は20万5100円で、正社員の63.9%。パートタイム労働者の賃金が正規の8割程度とされる欧州とはかなりの開きがある。【加藤明子】

危険な外国産肉が知らぬ間に口に…スーパー等の牛豚肉、原産国表示がなくなる恐れ

Business Journal 2016年2月24日

昨年の12月18日、オバマ米大統領は、米国の義務的原産地表示制度(COOL)の対象から牛肉及び豚肉(ひき肉を含む)を除外するための同制度の修正を含む一括法案に署名した。これにより、米国では牛肉と豚肉は原産国表示が義務でなくなり、消費者はどこの国から輸入されたのかを見分けられなくなる。一体、なぜこのような事態が起こったのか。
これまで米国では、COOLにより牛や豚の出生、肥育、食肉の処理が行われた国の表示が義務付けられていた。米国、カナダ、メキシコの3カ国では、フィードロットを3カ国横断的に経営を営んでおり、米国で出生してカナダで肥育し、メキシコで屠畜するというシステムをとっていた。カナダとメキシコ両政府は、牛豚の分別と記録の手間が増すことから輸入産品の競争上の不利益を被るとして世界貿易機関(WTO)に提訴され、WTO紛争解決委員会は、COOLがWTO協定違反との決定を下したのである。これを受けて、米国政府はCOOLの対象から牛肉と豚肉を除外したのである。
このニュースは、衝撃をもって世界的に配信された。もちろん、日本政府もこの問題には強い関心を持っており、WTO紛争処理委員会のパネルにも第三国参加というかたちで出席していた。

日本への影響
では、この原産地表示の問題が、日本にどう波及するのであろうか。日本でも原産地表示は行われており、加工品については原料のそれも実施されており、その対象品目の拡大が課題となっている。牛肉については、消費者が産地だけでなく出生から食肉の処理までの流通過程がわかるようにすること、いわゆる「トレースアビリティ」が義務付けられている。米については、輸入米も国名表示が義務付けられている。これらの表示制度が、輸入産品の競争上の不利益をもたらすとして、関係国からWTOに訴えられないか。その現実味が増してきたといえる。
特に問題なのは、TPP(環太平洋経済連携協定)である。TPPでは、第8章「貿易の技術的障害」の規定が盛り込まれ、「不必要な貿易の技術的障害を撤廃し、透明性を高め、規制に関する一層の協力及び規制に関する良い慣行を促進すること等により貿易を円滑することを目的」としている。技術的障害の対象には、すべての強制規格、任意規格が入っており、義務的表示制度はここでいう強制規格になるのである。
要するに、義務的表示制度が不必要な貿易の障害とされれば、当然撤廃される対象となるのである。牛肉と豚肉の原産地表示を廃止した米国のみならず、原産地表示で米国政府を訴えたカナダ、メキシコ両国もTPP加盟国である。日本に対しても米国、カナダ、メキシコから牛肉と豚肉が輸出されている。
さらに、日本は米国から米を年間40万トンほど輸入している。当然、牛肉、豚肉、米の原産地表示やトレースアビリティなどが関係国から「不必要な貿易障害」と認識されれば、TPPで紛争案件になり、TPPで紛争されることになる。

揺れる日本の原産地表示制度
日本の表示制度でもっとも懸念されるのが、牛肉と米のトレースアビリティである。米国の原産地表示制度もトレースアビリティ的な内容を含んでおり、それが輸入品の競争上の不利益をもたらすとされたのである。
牛肉のトレースアビリティは、日本ではBSE発生を受けて導入されたものであるが、発生からすでに15年を経過しその後の発生もないため、厚生労働省はBSE国内対策の見直しに着手し、食品安全委員会にこれに関する食品健康影響評価を諮問している。牛肉のトレースアビリティが輸入牛肉への競争上の不利益をもたらす役割を果たしているとされた場合、その表示義務撤廃の動きにつながる可能性もある。
また、米国でも外食・中食で輸入米を使用した場合、その表示が義務付けられているが、TPPで7万8400トンの日本への別枠輸入を勝ち取った米国政府が、外食・中食における輸入国産表示が競争上の不利益をもたらす主張した場合も、厳しい局面を迎えることになる。
TPPの紛争処理は、WTOとは違い、参加12カ国の下でパネル設置され処理されることになる。日本が経験したことがない紛争解決過程である。このようなTPPの下で日本の原産地表示制度が守れるのか。今回の米国のCOOLにおける牛肉、豚肉の表示除外の案件は、そのことを問うている。
(文=小倉正行/フリーライター)