少年院と少年犯罪について

西田亮介  2016年2月29日

先週、2月26日に、茨城農芸学院を視察させていただいた。こう書いても、多くの方には、どこで、何を視察してきたか、伝わらないだろう。農業学校でも見てきたのではないかと思う人が大半ではないか。茨木農芸学院とは、第1種少年院にあたる。そこで、2時間ほどのスケジュールで、施設見学、レクチャー、質疑応答に参加させていただいた。短い時間ではあったが、その過程で、少年犯罪とその背景、プロセス、社会復帰の制度、そしてそれらの実情についてあまりに知らなかったことに気づくきっかけをいただいた。とてもこの問題について深く語る準備はできていないが、せめて教わってきた内容について共有するべく、エントリを書くことにした。視察にあたって、『無業社会』の共著者工藤啓さん、また井村良英さんに大変お世話になったことを記しておきたい。
まず少年院にいるのはどういった少年たちかというと、検挙され、在宅、もしくは少年鑑別所を経由して、家庭裁判所での審判を経たのち、逆送致、不処分、保護観察処分、児童養護施設・児童自立支援施設相当に該当「しなかった」少年たちということになる。
これは犯罪社会学などの分野ではよく知られているが、凶悪犯罪にフォーカスしがちなマスコミの報道の印象とは異なり、少年犯罪は戦後一貫して減少傾向にある。凶悪犯罪や人口比で見ても同様である。たとえば、警察庁生活安全局少年課が公開している『少年非行情勢』(平成26年1月~12月)によると、この10年でも両者は顕著に減少している。たとえば、平成26年の検挙された刑法犯少年の件数は約48000件、少年の人口比で6.8%。平成17年は、約12万人、15.9%であったことと比較しても、顕著に改善しているといえる。同調査によれば、殺人、強盗、放火、強姦という凶悪犯に限定しても、平成26年703件、平成17年1441件と半分近くに減少している。
茨木農芸学院でいただいた資料によれば、こうした少年たちのうち、「心身に著しい障害がないおおむね12歳以上23歳未満の者」を対象に、111名が社会復帰を図っている全国51の矯正施設のなかのひとつということになる。昭和24年に茨木農芸学院として発足し、平成27年に新少年院法が施行され、第1種少年院として指定を受けている。その特徴として、生活指導、職業指導、教科指導、体育指導、特別活動指導からなる新しい矯正カリキュラムのなかに、建設機械運転訓練コースを有する点があげられるということになる。確かに施設内に重機があり、その運転の訓練ができるとのことのようだ。
筆者らが受けたレクによれば、近年境界知性(相対的な低IQ)や発達障害、学習障害が疑われる少年らによる特殊詐欺(オレオレ詐欺等)の使いっ走り等で捕まるケースが増えているという。また社会復帰後も、居場所、職場に困ることも少なくなく、そこに再び犯罪集団が接触すると、再犯につながってしまうこともあるのだとか(ただし再犯率は概ね11%程度で、現在のKPIでは10%を割ることを目指しているとのこと)。ただし、こうした少年たちが置かれている/置かれてきた環境も、十分に考慮されるべきと感じた。生活指導の局面では、鼻をかむ仕方を少年院ではじめて学んだり、歯磨きや、持ち物の整理整頓の習慣もそこではじめて学ぶ人も少なくないのだという。こうした衛生面の習慣化がなされていないこともあって、冬場にはインフルエンザや感冒が大流行してしまうこともあるようだ。
日本社会の現状において、良かれ悪しかれ、職場と生活世界は密接な関係を有している。持続可能で、生産性の高い職に就くためのプログラムは、単に彼らに対するサポートというだけにとどまらず、犯罪への再接触を阻むという意味で、非当事者にも意味があるように感じられた。少年犯罪を犯した彼らをとりまく環境面でのビハインドは、彼らの社会復帰を考えるにあたって、十分に考慮されるべき点があるのではないか。
確かに少年犯罪の加害者としての責任も鑑みなければならないが、同時に彼らが再び社会に定着し、犯罪に手を染めずに生活を送るために、どのような対策がありえるのか。現状、残念ながら筆者は十分に論じきるに十分な知識をもたないが、それでも就労支援という面では、やや前時代的なプログラム中心で、現代的なプログラムに乏しいという側面はありそうに思えた。ITスキルやインターネット、サービス産業に必要なプログラムは、現状、十分には提供されていないように見えたからだ。「自己責任」というラベリングのもと、社会から切断してしまうことは容易だが、おそらくそれでは犯罪の根絶という点で、非当事者の便益向上にも結びつかないだろう。社会的便益に加えて、包摂性にも優れた社会はいかにして可能か。そのような問いを改めて突きつけられた機会であった。

児童虐待9万件、拡大する「愛情格差」~家庭に子どもたちの居場所がない! 安田祐輔×若新雄純×森山誉恵

現代ビジネス 2016年2月29日

自分自身が親になり子どもを持つまで、今の学校が抱える課題や地域や自治体の子ども支援について知ることができる機会は決して多いとはいえません。一方、子どもたちにとって生きやすい社会のあり方を考える必要性は増しています。
こうした現状を踏まえ、3keysでは普段子どもたちと接していない人が、子どもたちの現状を知ることができるよう、3年前より連続講座 (Child Issue Seminar、以下CIS)を開催しています。
昨年12月に開催した第12回のCISでは、『白熱「子ども・若者」教室~最前線の3人に聞く、子ども若者事情と社会貢献~』と題し、NPO法人キズキ/株式会社キズキの代表・安田祐輔氏と「NEET株式会社」の発起人で研究者の若新雄純氏をゲストに迎えました。今回はそのイベントの一部内容をお届けします。

元不良・元不登校者だからできる若者支援
安田氏は、自身も恵まれない家庭環境で育ち、不良など経験した後、大学へ進学。現在は不登校・高校中退経験者を対象とした塾「キズキ共育塾」をはじめ、若者の再チャレンジ・自立支援を行っています。
安田氏は支援を行う理由として、社会的意義だけでなく、就労していない若者が増えると、社会が機能しなくなるという経済的な側面からみた若者支援の必要性を指摘しました。
2000年代に引きこもり・ニートが社会的に認知された際、彼らへの支援は就労支援がほとんどでした。しかし不登校からそうした状況に陥っているケースの場合、漢字が書けないなど、社会で必要とされる基礎学力が欠如していることが多く、就労支援以前に学習支援も行う必要があります。安田氏は、こうした現状を踏まえ彼らに対する支援を行っています。

「不完全」こそが、時代の最先端
若新雄純氏は、全員がニートでかつ全員が取締役となり、ルールのない中で責任を持ってやりたいことを仕事にしてみるという「NEET株式会社」の立ち上げや、「ナルシスト採用」という一見就職に不利に働きそうな個性を持った人たちのためユニークな就職プログラムを作るなど、今までにない実験的な企画を実施しています。
若新氏の活動の背景には「不完全さを生かす」というテーマがあるといいます。高度経済成長期は、社会インフラをはじめとする多くの事業においてたくさんの人手が求められ、「こうすれば必ず豊かになる」といった、社会的に一つの大きなサクセスストーリーが存在しているように見えた時代でした。
しかし経済的に成熟した現在の日本では、そうした「大きな物語」がうまく機能しなくなっており、もはやライフスタイルに対する唯一の正解はありません。
高度経済成長期にはあるとされていた「完全なもの(~あるべきといった規範)」がなくなり、正解がなくなった社会でいかに生きるのかという、ポストモダン的な前提が存在しているのです。
現在の社会の枠組みにはあてはまらない人たちが「不完全さ」の象徴かのようにニートなどと呼ばれています。しかしかつての枠組みに当てはまらないからといって不完全なのではなく、「完全」というものがなくなった時代、誰もが不完全であり、その不完全さを許容することが必要である。そのようなポリシーを背景に、若新氏は様々なプロジェクトや実験をしています。

家庭環境で二極化される子どもたちの現状
毎年、児童相談所が対応している児童虐待件数は1万件ペースで増え、最新では年間9万件。虐待で命をなくす子どもは2.5日に1人という、私たちの実感値をはるかに超える数値となっています。
最低限の愛情や、学力保障、食生活、社会生活などを送ることが難しい家庭が増えている一方で、スポーツや美術といった習い事や、留学、体験活動等を早期から行っている家庭もあります。
そういった子どもたちが同じ学校で勉強をしており、どちらに標準を合わせたらよいかわからず戸惑い、結局保護者会にしっかり来て意見や要望をいってくれる家庭に標準を合わせざるをえません。
裕福な家庭は、学校や住まいすらも選べてしまうため、そもそもこういった子どもたちを見たことがない、実感値がわかないという人も増えており、社会は二極化しています。

3keysではそうした現状を踏まえ、虐待や貧困などによって様々な社会資源から孤立している子どもたちの学習支援や、相談事業、また今回のCISのようなセミナーをはじめとした社会への発信を行っています。

スタートラインにすら立てない若者たちへ
ここからは「子ども・若者」に関わる社会問題について最前線で取り組む3人の鼎談をお届けします(敬省略)。
― それぞれの話を聞いて感じたことや補足はありますか?
安田: 若新さんがおっしゃった「不完全性の許容」という言葉に、とても共感します。たとえば僕の場合、発達障害の影響で睡眠を過剰にとらなければならず、学校にきちんと通えない時期がありました。今も朝は苦手です。
だから不登校の子から「朝に弱い僕が一生働けますか?」という質問を受けた時は、「僕はそもそも朝起きてないよ」と返しています。昼前くらいに起きて自分の会社へ行くよ、別にそれでもやるべきことをやっていれば、僕の会社の場合は誰も文句は言わないよ、と。そう伝えると、不登校の子はほっとして心が軽くなるのです。
「こうしなきゃいけない」ということが世の中にはたくさんあって、それにうまく合わない人たちが苦しんでいるという事実があります。
若新: 最初からすべての選択肢を得るために、社会には、必ず出場しなくてはいけない大会の「予選」のようなものがある。そしてその条件はすごく細かい。朝起きられるとか、髪が黒い、人に挨拶できる……などあらゆることができてはじめて世の中に出るための予選に出場できる。そのスタートラインに立たないとすべての選択肢が消えてしまう。最終的に選択するのは1つや2つなのに、全員が同じ基準で一度足キリにあうわけです。
しかも日本の場合、その大会はほぼ一個しかないわけです。「まともな社会人大会」ともいえる、国が運営しているような大会しかない。親もその予選に出なければうちの子はもう終わり、と思うので、予選で求められている条件をクリアできないことを良くないと思ってしまう。
親こそ子供に対して、「あなたはメインの大会には出られないけれど、ちょっとマニアックなマイナーな大会があるかもしれないから、そっちを探してみよう」とか、じっとできない子には、「無理やり銀行員とか公務員を目指すのではなく、別の小さな大会に出場しよう」と言ってあげるべきだと思うんです。
別の大会にいくには努力も必要で、そこで優勝するのも大変だし、給料も普通の人よりは少ないかもしれない。それでもメインの大会に出場しなくてもいいと言ってもらえることの安心があります。僕らはメインの予選に出場できない人がみんな支援機関に行くんじゃなくて、違う大会に出る、つまり、人とは違うスタイルで生きる、という選択肢を持てたらいいな、と思っています。
私の親は学校の先生だったので、予選大会に出られそうもない子をみると焦っていました。でも親がせかすほど、子ども側は焦って引きこもり、閉鎖的になる。だから違う大会もある、小さな大会でもいいということを教えなきゃいけないと思ったのです。
森山: 私たちの現場で感じるのは、親も、勉強を教えているボランティアでさえも、常にそのジレンマにぶつかっているということです。虐待や厳しい環境を乗り越えた子には、繊細さや強さがあったりする。でもじゃあそれが若新さんのいう大会の「予選」通過において通用するかというと、「予選」の審査基準とは程遠いところに強みがあったりします。
私たちもその子なりの強さや良さを見てそれを伸ばしてあげたいと思う一方で、18歳で公的な支援が切れて、誰かに頼れる、守ってもらえる期間が短かったりすると、「小さい大会でもいいんだよ」と言っていいんだろうか、と悩んでしまい、自信を持って言えないこともある気がします。
でも結局、「予選」の条件が変わるほうが大変だから、やっぱり「予選」にいけるようにしてあげたいと思う人が多い気もします。周りの大人も子どもに対して本当にこの道でいいのか、絶対的な自信を持っている人はいないと感じています。
私や安田さんは、子どもたちへの支援としてはもしかしたら「絆創膏はり」のようなことをやっているのかもしれません。大事なことだけれども、根本的なこと、すなわち、社会のあり方や価値観自体をもっと変えていかなければならない時が来ていると思います。

最も強いのは社会に出る前に受けた「無条件の愛情」
若新: 「絆創膏はり」という言葉が出てきましたが、確かに世の中の支援制度は、気がついた人が絆創膏をはるというパターンが多いと思う。
「あなたの代わりは誰にもできない」ということを伝えるなど、どのような形でも存在していることに価値がある、と思わせてくれるのは親以外になかなかいないようです。社会に出た瞬間に私たちは条件付きで生きている。虐待を受けている子どもはその究極的な愛情を受けいれられなくなってしまっているのだと思うのです。
親から存在を認められていれば、月収2万円であっても充実した生活が送れる。ニートでも彼女ができる。自分の存在が認められていると自覚している人は他人とやたらと喧嘩もしない。ニートで賢くても、些細なことで喧嘩をする人は、物理的ではなくて精神的に帰る家がないんですよね。
若新: 愛情の格差が生まれている。愛情さえあればどんな人生になっても、協力してくれる人が現れるし、人にお願いするごともできる。愛情を十分に受けていない子には、絆創膏をはってあげるよりは、傷をなめるような形の支援があるといいのではないかと思う。
安田: 不登校や引きこもりであっても、親子関係がうまく言っている子は立ち直りが早いです。親が子どもの悪口を言っているような家は論外ですが、例えば母親が子どもを自分と同一視してしまうようなパターン、つまり親が善意から「こうしなくてはならない」という価値観を子どもに押し付けるようなケースも良くないです。親のことを想いやり、親に反論できない子どもほど、メンタルを崩してしまうことがあります。家庭は子どもにとって落ち着く場所でなければいけません。
若新: そういう子どもが求めている場所は、具体的なスキルアップができるとか、就職を紹介してもらえるとか、そういうことではないんですよね。そのままの存在を認められる場がほしい。あなたは無条件にここに居ていい、といわれる場所。にもかかわらず、国の予算や制度を使って支援機関を作ると、どう具体的に支援するのかというプログラムばかりが求められる気がします。

後編につづく。

「保育士の処遇改善なくして、待機児童の解消はあり得ない」保育園問題の専門家が指摘

弁護士ドットコム 2016年2月29日

保育園不足や待機児童などの問題を考えるシンポジウム「新制度で保育はどうなったか? 待機児童、保育の質、子育て支援」(主催:公的保育を守る練馬連絡会)が2月28日、東京都練馬区で開かれ、幼い子どもを持つ親など100人あまりが参加した。
シンポジウムでは、元帝京大学教授で、保育園問題に詳しい村山祐一さんが登壇。待機児童が生まれる背景には、給料の低さや労働環境の厳しさから保育士の離職が相次いだことによる保育士不足があるとして、待遇改善を求めた。

全職種平均より「100万円低い」保育士の平均年収
村山さんによれば、保育士の平均年収は全国で214万円。全職種の平均325万円に比べると100万円以上の差がある(「平成24年賃金構造基本統計調査」)。
また、保育士は園児の世話をする以外にも、事務作業や会議、各種研修などにも追われる。これらが就業時間内にとれないため、残業が慢性化していることも、保育士が離職する要因となっていると指摘した
「社会全体が、ワークライフバランスが大切だと言ったり、完全週休2日制が基本になっているのに、保育士については全然考慮されていない。休みも取れず、給料も低く、どれもこれも全て低い水準になっている。保育士の処遇の改善なくして、待機児童の解消はあり得ない」
そこで、村山さんは「例えば、8時間の労働時間のうち、子どもを世話する時間を6時間にして、残りの2時間で会議や研修をおこなってはどうか。そのためには、今よりも職員を2割多く配置する必要がある」と処遇改善を訴えていた。

4人に1人の現役保育士が「保育士を続けるつもりはない」
シンポジウムでは、過去に行われた保育士を対象にした調査結果の内容も紹介された。
東京都福祉保健局が2014年3月に公表した「東京都保育士実態調査報告書」(有効回答数:約1万5000件)によると、正規職員として働く約25%の保育士が、保育士の仕事を続けるつもりはないと回答した。「保育士を辞め、保育士以外の職種で働きたい」と答えた人は20.8%、3.2%は「保育士を辞め、働かないつもりだ」と答える。
また、在職年数が短いのも特徴的だ。「潜在保育士」(保育士資格を持っているが、保育士として働いていない)を対象にハローワークが2013年5月に実施した別の調査によると、潜在保育士のうち、半数以上が5年未満で保育士を辞めたという結果が出ているという。
前出の東京都保育士実態調査では、過去に保育士として働いていた人に対して、どのような条件であれば再び働きたいと思うかという質問をしている。
この質問に対して、希望勤務日数として最も多かったのは「週5日勤務」、希望年収の平均は「307.3万円」だった。村山さんは「これらの条件は異常に高い条件ではなく、今の社会では当たり前」と指摘した。

「たたいたのはノリツッコミ」あきれた言い訳…大阪の障害児施設虐待、府警も捜査

産経新聞 2016年2月29日

大阪市大正区の障害児向け学童保育施設「ビックハート」で起きた虐待問題で、施設利用者の障害児に暴行を加えるなどした女性従業員が「たたいたのは『(漫才の)ノリツッコミ』だった」などと釈明していたことが29日、市への取材で分かった。市は同日、児童福祉法に基づき、同施設の運営会社「ぴあ」の事業者指定を3月31日付で取り消すと発表。大阪府警は暴行容疑で捜査している。
市によると、平成26~27年の間に、女性従業員が障害児1人を施設のトイレに2~3分閉じ込めたり、5人の頭を平手でたたいたりしたほか、女性役員が1人の手首をかむ虐待をした。従業員は「言うことを聞かなかったため閉じ込めた」、役員は「かまれたら痛いと分かってほしかった」などと説明したという。
市は昨年11月、虐待に関する情報提供を受けて調査を開始。虐待を受けたうち1人はPTSD(心的外傷後ストレス障害)と診断されたという。
また、運営会社は、実態と異なるサービス記録を作るなどして給付費約770万円を不正に受けていた。同社は「入力ミスだった」と説明しているが、市は加算金を含め約1千万円を返還請求する。
ビックハートは市の認可を受け、25年8月に開設。特別支援学校に通う児童や生徒らが利用している。