児童養護施設の入所、22歳まで引き上げる本当の理由–米国では28歳まで支援

マイナビニュース 2016年3月3日

厚生労働省は、児童養護施設で暮らせる期間について、現状の「20歳未満」から「22歳未満」へと上限を変える方向で議論を進めている。なぜ期間の延長が必要なのか。国が設置した委員会の報告書から読み解く。
「自立支援の責任」を遂行できていない
この問題は、厚生労働省の「新たな子ども家庭福祉のあり方に関する専門委員会」において議論されているもの。現時点で決定してはいないものの、2015年11月27日に開催された委員会では、以下の内容が記された報告書案が提出されている。「平成28年度より、不適切な教育を受けた子どもや家庭基盤が脆弱な子どもに対する児童福祉法による支援の対象年齢を『20歳未満』とする。あわせて、措置延長の年限を『22歳未満』とする」。
児童養護施設への入所は、児童福祉法で定められた支援内容となっている。現在、児童福祉法の支援対象年齢は「18歳未満」で年限が「20歳未満」。この年齢をいずれも2歳ずつ上げることで、養護施設の入所可能年齢の上限も上がるというわけだ。
報告書案の中では現在の上限年齢について、「支援の必要性の観点ではなく、一定の年齢に達したことで支援が終結しており、子どもの自立を支援するという公的責任の遂行という観点から問題である」と指摘している。

施設卒業後の離職率は70%
具体的に、どのようなことが指摘されているのか。例としてあげられているのが東京都の調査だ。都によれば、この10年間で児童養護施設を退所した子どものうち、調査時点で把握が可能であった退所者の約40%が、退所時に就いた職を1年以内に辞めている。さらに3年間では70%が離職していることが明らかとなっている。こうした離職者はより劣悪な職業・生活環境に置かれていることが推測されるのだ。
この結果について同委員会は、「職業的、社会的自立のための能力と生活基盤の形成が、現行の『18歳未満』までの支援では極めて困難であることを示唆している」とした。その上で「支援対象年齢を上げること」「自立支援計画の作成が着実に実行されるための制度づくり」が必要だと主張している。
あわせて「自立援助ホーム」についても言及している。「自立援助ホーム」とは、児童養護施設などを退所した後にも支援が必要だと認められた子どもたちが生活できる施設のこと。現在、同施設の支援の対象は「子どもが就労もしくは就学していることが求められる傾向にある」とのことだが、「就労や就学が困難な子どもにこそ支援が必要」と訴えている。

米国では28歳まで支援
同報告書案によれば、アメリカの一部の州では、社会的擁護の出身者に対する支援の上限について「精神的、社会的、職業的、経済的自立の年齢に関する調査研究の結果に基づき、28歳に定めている」とのことだ。委員会では、「早急に同様の調査を実施し、社会的擁護の利用者等に対する継続的な支援の枠組みを定める必要がある」と結論付けた。
委員の中からは、「施設ではなく日常生活において自律・自立性を要請するための十分なケア」や、「施設等への措置が解除された後も、地域において必要な支援が公的責任の下で提供される仕組み」が必要との声もあがった。
厚生労働省としては、上限年齢の引き上げについて「決定事項ではない」とコメントしている。子どもたちの支援のあり方について、議論の行方が注目される。

児童手当376万円着服疑い 京都、元児童施設長を再逮捕

京都新聞 2016年3月3日

入所者の児童手当を着服したとして、京都府警下鴨署は3日、業務上横領の疑いで、児童養護施設「迦陵園(かりょうえん)」(京都市左京区)の元施設長の男(55)=児童福祉法違反の罪で公判中=を再逮捕した。
再逮捕容疑は、2014年2月~15年6月、市から支給された入所児童延べ103人分の児童手当計376万円を着服した疑い。
下鴨署の説明では、元施設長は「横領した事実はない」と容疑を否認している。昨年9月、迦陵園の職員から「児童に渡っていないお金がある」と同署に相談があった。着服したとされる児童手当は昨年10月、元施設長が代理人を通じて全額弁済したという。
同園によると、元施設長は昨年11月に施設長を解任された。小島信活施設長(66)は「子どもや保護者に迷惑をかけて申し訳ない」と話した。

「特別養子縁組」が日本で広がらない理由 支援団体代表が語る、アメリカとの子育て意識の違い

サイゾーウーマン 2016年2月29日

1988年に施行された「特別養子縁組」制度。生みの親との戸籍上の関係が消滅し、親族ではない夫婦の子どもとして縁組みができるという制度だ。日本では6歳未満の子どもを対象に、25歳以上の夫婦が共同で養育するという原則のもと、全国で年間300件から500件ほどの縁組が成立している。
「養子大国」と呼ばれるアメリカでは、ブラッド・ピットとアンジェリーナ・ジョリー、マドンナやトム・クルーズなどのセレブを筆頭に、養子を迎える文化が定着している。その一方、日本において“他人の子どもを我が子として育てる”特別養子縁組は、まだまだ普及したとはいえない状況だ。
実際に養子を迎えるということはどんなことなのか、またアメリカと日本では、養子縁組に対してどのような意識の違いがあるのか。養子縁組の支援をする民間団体「一般社団法人ベビーライフ」の代表理事である篠塚康智さんに話を聞いた。

社会的養護が必要な子どものうち、養子縁組に結びつくのは1%
ベビーライフでは養子縁組の支援以外にも、生みの親や養父母への支援をトータルで行っておられますが、具体的な内容について教えてください。
篠塚康智さん(以下、篠塚) 子どもを養子に出すことを希望される、実親さんの相談を受けています。実親さんには、養子縁組以外に、里子に出すという選択肢についてもお伝えしますし、もし経済的に厳しければ一定期間は生活保護を受けて育てられないかなど、一緒に模索することもあります。
また、養父母を希望される方には独自の書類審査と面談を実施しており、授乳の仕方やオムツの替え方、沐浴の仕方など、人形を使って実演で教えるセミナーも行っています。そのほか、養子を迎える以外にも、里親(血縁関係のない子どもを預かり養育する)という選択肢があることについても説明しています。私たちは、養子縁組が唯一の解決策ではなく、生みの親と養父母双方に寄り添って支援をすることが大事だと考えているので、子どもの立場でベストな方法を見つけ出すようにしています。

たとえば、民間の養子縁組あっせん団体に、特別養子縁組の仲介をお願いする場合、どのような準備と手順が必要になるのでしょうか?
篠塚 書類と面談審査では、なぜ養子縁組を選んだのかをヒアリングします。いろいろな角度から質問をして審査を実施し、登録の意思がある人は順番待ちをするというかたちです。この夫婦にはこの子どもさんがいいかな、というマッチング作業は、こちらで行います。たとえば、養父母が住んでいる場所に近いところで生まれたお子さんをお任せするのは、近すぎるかもしれない、というような地理的なことや、兄弟姉妹の有無など、さまざまな面を考慮します。また、公的な支援がないので、養父母のほうに実費負担が発生します。

実際にこれまでどれくらいの養子縁組が成立していますか?
篠塚 当法人では、だいたい実親さんから毎年300件くらいの相談を受けますが、そのうち10%くらいが養子縁組に決まるかたちです。いま、社会的養護が必要な子どもは全国に4万6,000人ほどいるといわれていますが、施設で暮らす子どもが約85%、残りの約15%が里親委託、そして養子縁組に結びつくのはわずかに1%前後です。

養子縁組はかなりマイナーなのですね。やはり選択肢としてハードルが高いのでしょうか?
篠塚 里親委託は児童相談所のみで実施していますが、養子縁組は公的機関以外に我々のような民間団体が請け負うこともできます。しかし、やはり養父母を希望される方の母数が少ないという現実がありますね。また、子どもと養父母をマッチングさせるというのは、支援の内容がすごく濃いものになるので、マンパワーがとても必要とされるんです。そうしたことから、養子縁組をサポートする人材が足りていないともいえると思います。私たちは、アメリカとカナダにも養父母希望者を抱えていますが、どちらも国を挙げて養子縁組を推進しています。逆に養護施設は緊急シェルターとしての役割でしかないので、そこで子どもが暮らすことはありません。

アメリカでは、シングルや同性カップルでも養子を迎えることができる
日本では里親に自治体から手当が支給されますが、養父母には養育費は出ません。また、夫婦でないと養子を迎えられないですし、半年間の試験養育期間中は離婚ができないなどの制約があります。そのあたりはアメリカでは、どのような仕組みなのでしょうか?
篠塚 まず金銭的なことですが、アメリカでは養子を迎えたら、年間支払う税金のうち一部がキャッシュバックされる制度があります。また、夫婦ではなくシングルや同性カップルでも、養子を迎えることができる州もあります。一方で、養父母の審査は、かなり厳しいです。国や州政府レベルのお墨付きをもらったソーシャルワーカーが家庭訪問を何回もして認定したうえで、裁判所の裁判官が認めないと養子縁組ができないので、ハードルは高いと思います。

より多くの人が養子を迎えられるよう門戸を広げながらも、子どもを不利益な状況から遠ざけることを徹底しているのですね。
篠塚 その通りです。養父母になる前には指紋を10本分取られて、過去に犯罪歴がないか必ず確認されます。スピード違反で有罪判決を受けていたり、麻薬で捕まっていたりすると、確実に審査に引っ掛かります。これは、児童虐待を防ぐ目的でもあります。実際に養父母が養子を虐待するというケースは、全米を見ても、ほぼないに等しいです。ちなみに虐待はかなり重い罪として位置づけられており、通報があればすぐに警察が出動しますし、場合によっては禁錮18年くらいの刑期になります。制度や権限の所在からも、子どもを徹底的に保護しようという姿勢が見て取れますね。

そのようにハードルが高くても、養子を迎えたいと思うのは、どのような背景があってのことだと思われますか?
篠塚 アメリカは「人種のるつぼ」といわれるように、文化の違う人たちが一緒の地域に住んでいます。そうした中で、日本に比べると多様性を認める文化があるように感じられます。養子縁組で子どもを授かるという選択も、周囲がすんなり受け入れられるくらいの心の余裕があると思います。日本では不妊治療がうまくいかなかった結果、養子縁組を選択することが多いですが、アメリカでは、すでに実子はいるけれど、養子縁組をするという人たちは珍しくありません。

その心の余裕というのは、何に起因しているのでしょうか?
篠塚 温かい家庭を必要とする子どもがいるなら、自分が与えてあげようという発想が当たり前になっている気がします。また、キリスト教的な思想のもとに、人間みな兄弟というような考え方があるかもしれません。日本では、親を必要としている子どもがいるから養子に迎えるというよりも、子どもに恵まれなかったときの代替手段として養子を考えるということがほとんどなので、意識の違いがあるかもしれないです。子育てについても、「子どもがいると大変で損をする」ではなくて、「子どもに色々なことを教えられて、自分が幸せになる」というような考え方が普通なので、やはり文化的な背景が違うのかもしれないですね。

子どもを育てることによって、心理的な幸福度が上がる
よく「他人の子どもは可愛くないけど、自分の子どもだけは可愛い」という声を耳にします。養子は他人の子どもになるわけですが、実際に養子を迎えたときに、どんな子どもでも自然に愛情が生まれるものなのでしょうか?
篠塚 子どもは親がいないと生きていくことはできませんので、自分の命をかけて親に依存しています。そのため、子どもを育てていると自然に「この子が生きていくためには、自分がいないといけない」という気持ちになってきます。それが、愛情につながるのではないでしょうか。これまで支援をした養父母の皆さんは、養子に対してすべからく、そうしたプロセスを経て愛情を感じていらっしゃいます。仮に後々子どもに障害が出たとしても、その子の特性だと捉えて、手放すということはまずありえないようです。子どもを育てるのにはお金もかかりますが、老後を助けてくれるというリターンがあるかもしれません。しかし、そういう経済的なメリットではなくて、子どもを育てることによって、単純に心理的な幸福度が上がると思います。

愛情を抱くようになるには、子どもと出会ってからのプロセスが大事なんですね。
篠塚 女性は妊娠期間があるので、実子への愛情というものを強く意識すると思いますが、男性は子どもが生まれてから世話をして、時間を重ねることで可愛く感じるようになりますよね。最初は3時間おきにミルクをあげて、泣けばあやしてという暮らしだと思うんですが、だんだん表情が出てきて、笑顔を見せたり自己主張したりするのを愛おしく感じるはずです。他人の子どもが可愛く感じられないというのは、その子どもと過ごした時間が少ないからです。血がつながっていなくても、時間を積み重ねる中で、確実に愛情は深まると思います。

最後に、これから日本で特別養子縁組が普及するためには、どのようなことが必要だと思われますか?
篠塚 たとえばシングルの男性や女性で、子どもを育てられるだけの経済的なゆとりはあっても、パートナーには恵まれなかったという人はたくさんいらっしゃいます。そうした方たちが子どもを持ちたいと考えたときに、特別養子縁組がひとつの選択肢になるように制度が変わっていくのも可能かなと思っています。また、一組でも多くの特別養子縁組が成立すれば、身近に養父母や養子が増えます。それによって、多くの人が今までに知らなかった「家族」と「幸せのかたち」を知り、特別養子縁組を我がことして考えられるようになるのではないでしょうか。
(末吉陽子)