児童虐待の通告・通報は「法律で義務付けられている」

NEWS ポストセブン 2016年4月9日

虐待により、幼い命が奪われる痛ましい事件が後を絶たない。この3月末にも、「親に虐待を受けている」と、神奈川県相模原市の児童相談所に保護を訴えていた中学2年の男子生徒(当時14才)が自殺を図り、重い障害を負った末に亡くなったと発表された。児童相談所は「緊急性はない」と判断して保護を見送っていたという。
2013年4月1日~2014年3月31日の間で、虐待により命を失った子供の数は69人に上る(厚生労働省調べ)。児童虐待とは、親または親に代わる養育者が児童(0才~18才未満)に加える行為で、注意すべきは、殴る・蹴るなどの身体的虐待だけでないことだ。
東京都児童相談センターの栗原博さんは言う。
「児童虐待は(1)身体的虐待(2)性的虐待(3)ネグレクト(保護の怠慢、養育の放棄、拒否)(4)心理的虐待の4種類に分けられます。特に最近は、子供を意図的に無視するなどして、心に深い傷を負わせる心理的虐待の割合が増えています。一見して“傷”が残らないため、周りに気づいてもらえないのが問題です」
虐待を受けている約4割が小学校入学前の乳幼児だ。子供自身が助けを求められないからこそ、周りの大人が行動を起こさねばならない。私たちがまずすべきことは地域の相談窓口への相談、児童相談所への通告、警察への通報だ。
「児童虐待の通告・通報は、法律で義務づけられています」と語るのは警視庁生活安全部少年育成課の担当者。通告・通報後は、児童相談所や警察が必ず、子供の安否を確認しに向かう。この時の児童相談所の権限は大きい。
「児童相談所は、親や養育者が拒否しても、家の中への立ち入り調査や、子供を親から引き離し一時保護できる権限があります」(栗原さん)
一時保護は、原則的に親の同意を得て行うが、危険な場合は強制的に引き離すことも可能だ。しかし、相模原市での一件では、男子中学生が、「保護してほしい」と訴えていたにもかかわらず、受け入れてもらえなかった。なぜ、このような事態が起きたのか。
19年間児童相談所で心理司を務め、現在は女性の生き方アドバイザーとして活躍する山脇由貴子さんは言う。
「おそらく児童相談所側は、指導によって“親子関係が改善された”と判断した可能性があります。この見極めは非常に難しいんです」
児童相談所は親子関係の再構築の役割を担っているので、無理に子供と親を引き離さないし、親の証言を重視する傾向にあるという。また、都内の一時保護所は常に定員オーバーという実態も。
しかし、今の日本では、児童相談所が頼れるセーフティーネットであることは間違いない。私たちが子供を救うには、通告・通報が最も有効な手段なのだ。

期待される「特別養子縁組」の普及

Japan In-depth 2016年4月8日

3日に引き続き、日本財団ビルで4月4日の「養子の日」にちなみ、「子どもが家庭で育つ社会をつくるシンポジウム」が開かれた。
第一部では、「子どもの家庭養育推進官民協議会」(以下、協議会)発足記者発表が行われた。協議会会長には、三重県知事の鈴木英敬氏、協議会副会長は全国里親会副会長の木ノ内博道氏がそれぞれ就任した。
協議会は、地方自治体の知事や市長といった「官」と、NPO法人や公益社団法人といった「民」の団体によって構成されている。官民が連携し、家庭養育を推進することを目的とする。具体的には、官民ネットワークの形成、里親制度や養子縁組の普及・啓発、研修の実施、政策提言というアクションを起こしていく。「子供第一主義」というマニフェストを掲げている浜松市長の鈴木康友氏や、実際にNPO活動を行っていたという奈良市長の仲川元庸氏など、一人一人の首長たちから挨拶がなされた。
参加民間団体の一つである認定NPO法人Living in Peace代表の慎泰俊氏は、「多くの子供にとって望ましい環境というのは、家庭に近い環境、家庭環境そのもの。」と話し、官民共同の協議会の発足に期待感を示した。
次に登壇した渡嘉敷奈緒美厚生労働副大臣は、子どもを家庭の中で育てるのがいかに大切か、里親の体験談の話を聞いて感じたと述べ、「この活動を厚生労働省を挙げてしっかりと応援していきたい。」と決意を語った。協議会会長の鈴木氏による設立宣言で、第一部は幕を閉じた。
第二部では特別養子縁組の今後について、児童相談所、民間養子縁組団体、専門家が参加してシンポジウムが開かれた。福岡市こども総合相談センター長の藤林武史氏による基調講演、その後、家庭養護促進協会大阪事務所の岩崎美枝子氏、日本女子大学教授林浩康氏の講演が行われた。
藤林氏は、里親委託の事業を進めてきたが、「パーマネンシ―(永続性)」の観点を意識し始め、特別養子縁組への取組を始めた。特別養子縁組にはまだ大きな課題が残っていると指摘。その中でも、年齢の高い子供の特別養子縁組をどうするかが、大きな問題だ。現在、特別養子縁組の制度には、6歳以下の子どもに限るという年齢制限が存在する。そのため、6歳以上の子どもは特別養子縁組が適用されず、児童相談所に残るケースが多い。それに対し藤林氏は、年齢制限の見直しを始めとする法改正を提言。現在、児童福祉法の改正が進んでいる。
続いて家庭養護促進協会の岩崎氏が講演。同協会は、「あなたの愛の手を運動」による児童相談所との協働を通して、官民連携を進めてきた。官民連携と言ってもよいところばかりではない。例えば、措置権をもつ公と、実働部隊となる民との関係性が上下関係になりがちである点や、個人情報保護法による情報共有の難しさなどの問題点を指摘した。
最後は、日本女子大学の林浩康氏。彼はデータを用いて養子縁組、児童相談所の現状と、課題を説明。また、「児童相談所は安心な機関か?」との疑問を呈した。民間養子あっせん団体、特別養子縁組の仲介団体は、あっせん法によって規制されているが、児童相談所は規制されていない。現在、林氏もかかわり、より厳格なガイドラインを作っているという。
国連の子どもの権利条約には、子どもは「家庭環境の下で幸福、愛着及び理解のある雰囲気の中で成長すべき」(前文)とある。乳幼児期に大人との愛着形成がなされないと、子どもの人格形成や成長に大きく影響してくる。罪のない子どもたち、声を上げることができない子どもたちを社会全体で育てたい、そんな気持ちが湧き起こるシンポジウムであった。

子ども会存続の危機 習い事、学習塾…生活多様化で減少 今後のあり方模索続く

西日本新聞 2016年4月11日

地域ぐるみの子育ての一端を担ってきた子ども会が、減少の一途をたどっている。福岡市内のある子ども会は、人数不足のため4月から活動を一時休止し、子どもたちは隣接する地域の子ども会に加わることになった。少子化に加え、親子ともに多忙で地域との関わりが薄れた現代社会が減少に拍車をかけている。
春休み終盤の午後、市営地下鉄六本松駅近くの公園は、ボールやジャングルジムで遊ぶ大勢の子どもたちでにぎわっていた。子ども会存続が危ぶまれる状況からほど遠いように映るが、「ほとんどが隣の町内の子どもたちなんです」。公園近くのマンションに暮らす2児の母親の小田さん(42)は打ち明ける。
小田さんが参加する子ども会は、中央区の梅光園1丁目と梅光園団地で構成。昨年度まで4世帯が加入していたが、進学や転居で本年度は小田さん宅だけに。やむなく活動を休止したものの「ソフトボールなどの団体競技や地域の大人と接する機会は子どもにとって大切だと思う」と、他地域の子ども会に加わることに決めた。

会員数はピーク時の3分の1に
子ども会は小学校区や町内単位でつくる任意団体。園児や小学生向けのイベントを企画しており、地域の指導者や保護者が役員となって運営している。戦後間もなく、社会教育や児童福祉を目的に全国に広がった。
全国子ども会連合会に加盟する会員数は2015年度で約280万人と、ピークだった1981年度の約3分の1になった。最大の要因は少子化だが、「子どもの減少率よりも、子ども会会員の減少率の方が大きい」と担当者は頭を抱える。福岡市も例外ではなく、市子ども会育成連合会によると、子ども会への加入率は2001年度の75%から14年度には52%に減少した。

子育てのメリットは多い
習い事、学習塾…。子どもたちの過ごし方の多様化に加え、役員になるのを敬遠する親が加入を拒むケースも少なくない。役員になれば行事の準備にも追われる。小田さんは「子どもに留守番させて役員会に出るなど、本末転倒と感じることもあった」と吐露する。それでも「誰かがやらなくては成り立たないし、他の保護者と関係を築くことで得るものもある」。
同じ笹丘校区内の輝国2丁目2区子ども会で昨年度会長を務めた葛西映子さん(43)も共感する。「同じ地域にいる親同士は悩みも共通点が多く、相談が解決に結びつきやすい」。他の保護者からわが子の意外な一面を知らされるなど、子育てのメリットは多いという。

「まずは中高生や大人を含めた交流が必要だ」
現状では母親頼みになりがちな子ども会の運営だが、手を差し伸べるケースも出てきた。子ども会の消滅に危機感を覚えた梅光園団地の自治協議会は、3月26日に花見イベントを開催。会長の郡嶋正之さん(57)は「地域の仲間づくりのきっかけになれば」と近隣の子ども会と一緒に運営した。子どもからお年寄りまで多くの人が、屋台が並んだ団地内で桜を楽しんだ。
「子ども会復活のためにも、まずは中高生や大人を含めた交流が必要だと再認識できた」と郡嶋さん。「非常に心強かった」と母親たちも声をそろえた。戦後長く続いてきた子ども会だが、社会が大きく変化しつつある中、今後のあり方の模索が続いている。

保育士確保へ資金貸付 条件満たせば返還免除

紀伊民報 2016年4月11日

和歌山県は、保育所に入れない待機児童の解消策として、不足している保育士を確保するため、本年度、四つの資金貸付制度を新設する。いずれも県内で一定期間、保育士として従事するなど、条件を満たせば返還を免除する。今秋の貸付開始を目指す。
政府が「女性の活躍」を推進する一方で、母親が子どもを保育所に預けられず、就業や職場復帰が難しいという問題が起こっている。
県内でも特に年度途中(10月1日時点)の3歳未満待機児童が多く、近年、紀北を中心に急増している。
そこで県は、保育士確保のため、条件を満たせば返還を免除する資金貸付制度の新設を決めた。
一つは、保育士養成施設の在学生に対する修学資金の貸与。学費として月5万円(最長2年間)、入学準備金20万円、就職準備金20万円。県内に5年間、保育士として従事すれば返還を免除する。
県内に約5千人いると推定される「潜在保育士」には上限20万円の就職準備金を貸す。潜在保育士は、保育士免許があるのに、現場から離れている人で、県内で2年間従事すれば返還を免除する。
潜在保育士で未就学児がいる場合は、子どもの優先的な保育所入所を認め、月額保育料の半額(上限5万4千円)を貸し付けする制度もつくる。2年間の従事で返還を免除する。
保育士の離職を防ぐなどの目的で、保育士を手助けする「保育補助者」を雇う保育所には上限295万3千円(年額)を最長3年間貸す。保育士資格を取得すれば返還免除となる。
このほか、子どもを保育所に預けなくても自宅で就労できる態勢も整える。インターネットで企業から外注業務を受ける「クラウドソーシング」を紹介するイベントを、11月に田辺市のビッグ・ユーなどで開く。
県子ども未来課は「市町村と連携し、産休や育休後に円滑に保育所を利用できるよう、保育士人材の確保など受け皿整備を進めたい」としている。