横浜市 里親委託率、低水準で推移 全国平均下回る

橫浜タウンワーク 2016年5月5日

横浜市の「里親」への委託率が全国平均を下回っていることがこのほどわかった。市の児童人口は約59万人、社会的養護の必要な児童数は約700人。市は、2015年3月末現在の里親委託率12・7%を、19年度末までに22%へ引き上げたいとしている。
親の病気や死別、離婚、虐待などの事情により家庭で生活することのできない子どもたちのための「里親制度」。里親には養育里親(養子縁組を前提としない里親)、縁組里親(将来的に養子縁組を行う里親)、親族里親、専門里親の4種類があり、子どもにとって最善の場所が選択される。里親への委託率を69都道府県市別(47都道府県+20指定都市+2中核市)にみると、1位が新潟県の41・4%、最下位が秋田県の6・1%で、全国平均は16・5%。横浜市は12・7%の48位で、市は子どもの健やかな成長のためにも里親への委託率を上げたい考えだ。

100組が待機状態
里親委託率が伸び悩む原因としては【1】制度が認知されていない【2】養子縁組が前提と思われている【3】里親への支援が不十分【4】里親と子どものマッチング【5】実親が里親委託を了承しない―などが挙げられる。市のこども家庭課担当者によると「説明会などの相談で最も多いのが養子について」だという。また現在、認定を受け登録されている里親は141組で、そのうち子どもを預かっている家庭は42組。約100組の里親が待機しているような状態だ。「子どもたちは状況もさまざま。委託期間や年齢、性別など、子どものニーズに応えられる多種多様な里親が必要」と担当者は話す。
市では19年度末までに「里親委託率22%」を目標に掲げ、対策強化を始めた。まず昨年度から、今まで児童相談所でしか行っていなかった説明会を、区役所など場所を移して実施。同時に市内のイベント会場にブースを設けるなどして制度の普及啓発に努めている。また制度を充実させるため、里親専任の児童福祉司を各相談所に配置、里親からの相談を受けられる体制を整えた。そのほか、家事ヘルパー派遣などの養育援助も行っている。市は「まずは制度を知ってもらうこと。その上で、責任を持って里親になっていただける家庭を増やしたい」としている。

「こどもの日」に「貧困」が社説の共通テーマになる日本 新聞から消えた「のんびり」論調

J-CASTニュース 2016年5月8日

「こどもの人格を重んじ、こどもの幸福をはかるとともに、母に感謝する」(祝日法2条)。「こどもの日」は端午の節句の昔から、子どもの健やかな成長を願う日だ。
この日を、新聞各紙は毎年、社説で必ず取り上げるが、2016年5月5日は、日本が現在抱える大きな課題を認識させることになった。全国紙各紙がほぼ共通して「子どもの貧困」を取り上げたのだ。

日本の子どもは6人に1人が貧困層
基礎データとして確認しておくと、4月に国連児童基金(ユニセフ)が公表した報告書によると、経済協力開発機構(OECD)や欧州連合(EU)に加盟する41カ国で、0~17歳の子どものいる世帯について分析したところ、日本は所得が下から10%の最貧困層の所得が中央値(標準的な層)の39.8%にとどまり、41カ国の中で8番目に格差が大きく、学習到達度における同様の比較でも、OECD加盟37カ国中で下から11番目という結果になっている。所得が中央値の半分に満たない割合を示す「相対的貧困率」でも、日本の子どもは6人に1人が貧困層にあたり、先進国の中でも最低のグループにいる。
こうした事実を踏まえて、「朝日」は「生活の苦しい家庭で育った子が、大きくなってもその状態から抜け出せず、世代を超えて続いてしまう『貧困の連鎖』をどう断ち切るか」がポイントとして、「カギとなるのは教育だ」と指摘。「教育分野では、経済規模と比べた公的支出が先進諸国の中で最低水準にとどまる。予算を思い切って増やすべきだ」と訴える。
これに対し、「読売」は「子供は、成長しようとするパワーに満ちている」と、子どもの持つ可能性をいかに伸ばすかを論じたうえで、「夢を持ちにくい環境で育つ子供たちからも、目を背けてはならない」と、子どもを取り巻く課題に話を進めるが、「政府も、子供の貧困と児童虐待の対策強化プランをまとめた……改正児童扶養手当法が成立した。その他の施策についても、着実な実施が求められる」と、政府への注文より施策の着実な実行を求めているのが目立つ。
「毎日」と「産経」は、虐待など、より深刻な状況に光を当てる。
「毎日」は「親から虐待されている子、生活苦で子の養育ができない親たち……。貧困だけでなくアルコール依存や障害などさまざまな要因が複雑に絡み合って、子供たちを傷つけている」など「複合的困窮」を取り上げ、特に18歳で児童福祉法の適用年齢を超すと、児童養護施設や障害児入所施設が利用できなくなって寝るところ、食べるものにさえ困る子どもが少なくないなど、「自己責任を求めて解決できる状況ではない」として、「子供の困窮対策は国政の最優先課題に位置づけるべきである。財源や人材を確保し、福祉や教育の支援を厚くしないといけない」と説く。
「産経」は「主張」で、虐待で死亡した可能性のある15歳未満の子供が全国で年間約350人と、厚生労働省集計の数倍に上るとの日本小児科学会の推計を示し、「児童相談所などがもう一歩踏み込んでいたら助かった命もあったろうにと思われる例も目につくだけに、輝きを失い、救いを求めている子供を見つけ出す周囲のまなざしが欠かせない」と、行政への注文より社会の関心を高める必要を訴えている。
経済紙の「日経」は、「若者や子どもがしっかりと教育を受け、定職に就く。かつては当たり前だったこのことが、難しくなっている世界の現実」を取り上げている。世界の15~24歳の若年層の失業率13%超、ギリシャやスペインの25歳未満の失業率40%超、中東・北アフリカ地域の若年失業率20~40%台、全米で約4千万人の学生と卒業生が抱える借金総額1兆ドル超など、世界全体の現状を踏まえ、「各国・地域の政治指導者は勇気を持って、若者受難の局面を変えてほしい」と訴える。少子化が進む日本については「社会保障の歳出を組み替え、子ども・子育て支援にもっと予算を振り向けるべきだ」としている。

「生まれ育った環境によって左右されることのないよう…」
1年前の2015年5月5日の社説と比べると、「朝日」が「子どもの貧困――大人一人ひとりが動こう」と題し、子どもの貧困率が6人に1人といった数字を示し、政府の対応の不十分さや「支える連鎖」の必要を指摘しているだけで、他の主要4紙は、静岡市の山間部の寺で子どもたちが2泊3日を過ごす「修養会」を紹介(「毎日」)▽困難を抱える子供の学習や食事を支援するボランティア団体など地域の「おせっかい」の勧め(「読売」)▽子供の声を「騒音」と捉えるかのごとき風潮を嘆き、大人が知恵を絞るよう求める(「産経」)▽社会全体で子育てを支え、子どもが健やかに成長する環境を整えたい(「日経」)など、今年に比べれば、ややのんびりした内容だっただけに、今年の各紙社説の切迫感が際立つ。
2014年に施行された子どもの貧困対策法を受け、政府は「子どもの将来が生まれ育った環境によって左右されることのないよう、必要な環境整備と教育の機会均等を図る」と謳った大綱を閣議決定した。この理念の実現に、この1年で少しでも近づいた、とはとても言えないようだ。

こどもの日 助けての声が聞こえる

毎日新聞 2016年5月5日

きょうは、こどもの日。「こどもの人格を重んじ、こどもの幸福をはかるとともに、母に感謝する」と国民の祝日法に書かれている。しかし、幸せそうに見える風景の中に小さな悲鳴が隠れている。
親から虐待されている子、生活苦で子の養育ができない親たち……。貧困だけでなくアルコール依存や障害などさまざまな要因が複雑に絡み合って、子供たちを傷つけている。子供はこうした困窮が自覚できず、なかなかSOSを言わないだけで、実態は深刻だ。

複合的な困窮から救え
学校を休みがちの中学生がいた。
まったく不登校というわけではないので誰も気付かなかったが、1年前からひとり親となった母の生活が苦しくなり、水道やガスが止められていた。風呂に入らず、駅や公園の公衆トイレを使っていた。中学の養護教員が子供たちの何気ない会話からようやく気付いたのだという。
「渦中にある子はなかなか自分から助けてと言わない。周囲が気付いてもすぐに救済されるわけではない。生活保護は申請してから受給するのに1カ月もかかる」
中学生を支援する静岡市の独立型社会福祉士の川口正義さんは指摘する。30年以上、虐待や貧困で苦しむ子供たちに寄り添ってきた。
今やどこにでもこうした子供はいる。困窮の状況が見えにくく、関心を持つ人が少ないだけだ。
札幌市の社会福祉法人「麦の子会」の保育所や放課後等デイサービスには、500人近い子供が通っている。そのうち77人はひとり親家庭の子だという。
親のアルコール依存や精神障害、虐待、近親者の自殺、触法などが何重にも絡み合うケースが多い。母の内縁の夫に暴力を振るわれている子、母がうつでゴミ屋敷の中で生活している子もいるが、「これが普通の家庭だと子供は思っている」と北川聡子総合施設長は言う。「暴力があってもお父さん、お母さんが好きで、貧しいのは自分のせいだと思ってしまうのです」
義務教育を受ける15歳までは、学校が子供の困窮を発見し支援につなげる役割を担っている。年齢が上がるにつれて教育や福祉などの公的支援は少なくなる。18歳になり、児童福祉法の適用年齢を超すと、児童養護施設や障害児入所施設が利用できなくなり、「自立」を迫られる。
現在、大学や専門学校などへの進学率は7割を超えているが、生活困窮家庭の子は高等教育を受ける機会が少なく、高校中退者も多い。部屋を借り、就職する際に必要とされる保証人を探すことが難しい。
どうやって自立しろというのか。
寝る場所や食べ物がないため、インターネットのサイトで援助してくれる男性を求める少女たちがいる。「神待ち少女」と呼ばれる。
警察庁によると2015年に非出会い系サイトで児童買春や児童ポルノの被害にあった子供は1652人に上る。性風俗にしか居場所を見つけられないという少女も多い。
こうした子供たちが求めるのは、今すぐ寝るところ、食べるもの、お金だが、子供の福祉を担う公的機関はほとんど頼りにならない。

国政の最優先課題に
政府の対策が遅れてきたのは、親の養育責任を重視する考えが根強いからでもある。「甘やかすとためにならない」と子供にも努力を求める意見がよく聞かれる。
だが、親族や近所などの支え合いが格段に厚かった時代に比べ、現在は子供を保護し育てる近隣の補完的な機能が極めて弱い。
幼少期に虐待やネグレクトに遭うと、自分自身や社会に関心が持てなくなり、生活習慣を身に着けたり学習したりする意欲が阻害される。ひどい虐待を受けた子の中には、脳が萎縮する例があるとの研究報告もある。努力するために必要な土台がない子に努力を求める理不尽さを認識すべきである。
母子家庭の8割の母親は就労しており、先進国の中でひとり親の就労率は日本が突出して高い。その半数は低収入の非正規雇用で、複数の仕事を掛け持ちしている人も多い。
社会的格差が以前よりはるかに大きくなり、社会の底辺でもがいている人に自己責任を求めて解決できる状況ではないのだ。
「子供はうそをつく。自立のために部屋を確保し、仕事を見つけてきても、家賃を踏み倒して逃げていく。幼いころに虐げられた子は簡単に立ち直ることはできない」。困窮家庭の子供や非行少年を支援している造園業の男性はそう言う。
しかし、何度だまされても辛抱して支援し続けると、数年が過ぎてから、子供が変わっていく。そんな経験を何度もしたという。この男性自身が幼いころ父から激しい虐待を受け、非行に走った過去がある。
福祉制度の隙間(すきま)で、公的な助成を受けずに必死に子供たちを救っている人々がいる。こうした民間の活動にこそ公的支援がもっと必要だ。
子供の困窮対策は国政の最優先課題に位置づけるべきである。財源や人材を確保し、福祉や教育の支援を厚くしないといけない。官民を挙げた取り組みが求められている。