福岡育児院が残業代不払い、土日の行事は休み扱い 労基署が是正勧告

西日本新聞 2016年6月7日

家族による養育が困難な子どもたちを受け入れる児童養護施設の福岡育児院(福岡市東区)が職員に残業代の一部を支払っていなかったとして、福岡東労働基準監督署から労働基準法に基づく是正勧告を受けていたことが分かった。育児院は、職員の労働時間を把握できていなかったのに「残業はなし」などと事務処理していたといい、労基署の指導を受け改善した。
育児院は同名の社会福祉法人(同)が運営し、児童相談所の依頼で幼児から高校生までを受け入れている。入所定員77人、子どものケアを担当する職員は約35人。

残業試算、月に最短50時間、最長110時間
労基署による是正勧告は3月23日付。育児院によると、多くの職員が残業を申請できなかったり、申請しても月4~5時間にとどめたりすることが慣例化していた。院側は「申請しづらい状況があったのは事実」と認め、複数の職員から直近1~3月の残業代を再申請させ、最長約23時間分を4月末に支払った。
施設関係者によると、勤務状況を事後把握できた職員十数人の残業時間を試算したところ、今年1月分だけで最短50時間、最長110時間に上った。昨年秋には月220時間の職員もいたとの証言もある。夜までケアを続けたり、土日の行事に休み扱いで対応したりするサービス残業が慢性化していたとみられる。
労基法では、不払い分は過去2年分請求できる。育児院の橋本博文施設長は「職員の申請があれば追加で支払う」としている。
育児院は、改善策として(1)始業・終業時間を適切に把握(2)残業するときのルール明文化-を講じ、5月20日付で労基署に報告した。育児院を管轄する福岡市こども家庭課は「労働法制を守ることは施設運営の大前提。改善策が適切に行われているか確認を続けたい」としている。

自殺したい中学生を救った大人たちの「言葉」

東洋経済オンライン 2016年6月7日

5月31日に厚生労働省が発表した自殺対策白書によると、2015年の自殺者数は2万4025人と過去10年で最少になった。4年連続で3万人を下回り、特に中高年男性の自殺が大きく減っているという。
景気回復に加え、自殺死亡率全国ワーストだった秋田県が2014年、相談事業を強化して19年ぶりに返上(2位)するなど、大人の自殺予防対策の効果が表れているのだ。
その一方で、子どもの自殺は増え続けている。

中高生の自殺死亡率が増える日本
今年4月「改正自殺対策基本法」の施行がスタートした。実に10年ぶりに改正された主な点は「子どもの自殺対策」だ。学校は保護者や地域と連携し、児童・生徒のこころの健康を保つ教育や啓発活動を行うことなどが新たに盛り込まれた。
このような子どもの自殺対策が強化された背景には、子どもの自殺が減らない実態が横たわる。日本の年間自殺死亡率は減少傾向なのに、年齢階級別で唯一増えているのが中高生たちだ。
高校生以下は毎年300人前後が自死しており、若年層の自殺死亡率は先進国の中で最も高い。先進他国では若年層の死因トップは「不慮の事故」が多いなか、日本の死因1位は自殺なのだ。
私たち大人はどう向き合えばいいのだろうか。

「子どもの命を守るために大人ができることは、子どもの心の危機に気づくこと。子どもから『相談するに値する』『信頼できる』と思われる大人になること。この2つを意識してほしい。そのためには、子どもの気持ちや感情を、子どもの視点から理解しようと努め、言葉にならない心の声にも耳を傾けようとすることが大切です」
そう話すのは、中学校教員として教壇に立ち、現在は大阪府内で小・中学校のスクールカウンセラーを務める阪中順子さんだ。日本自殺予防学会理事でもある自殺予防の専門家が、自身の出会ったある女子中学生の話をしてくれた。
その女子生徒は脱髪、つまり髪が抜けてしまう悩みがあった。中学入学後は運動系の部活に入るなどして毎日楽しく学校に通っていたが、2年生の6月から休みがちになる。友達に気づかれるくらい脱髪が進んでいたからだ。夏休みを経て2学期になると不登校に。昼夜逆転の生活になった。
しばらくすると、家出をしたり、線路に飛び込もうとしたり、鴨居にひもを掛ける行動に出た。その都度必死に止めていた母親から「このことは誰にも言わないで」と言われ、阪中さんは母親の意思を汲みつつも「学校として援助体制を取るべきではと悩んだ」という。
「そのなかで何とか彼女と対峙できたのは、同僚のA先生のおかげです。保護者もその先生を信頼していたので、私自身も支えられながらその親子に向き合うことができた」と振り返る。
阪中さんは、母親の話を真剣に聴きながら、女子生徒本人が興味を持ちそうな教材を探しては家庭訪問を続けた。友人とのかかわりを持てるよう、学校の様子を伝えた。学級通信には、本人の書いたものや、クラスメートが本人について触れたことを許可を得て掲載した。皮膚科や児童相談所へ行くことも勧めたが、本人が断り続けたので無理強いはしなかった。

家に居場所があったから
不登校は続いたものの、高校へ進学。その後も紆余曲折はあったが、現在は仕事を持ち社会人としてがんばっている。自著『学校現場から発信する 子どもの自殺予防ブック いのちの危機と向き合って』(金剛出版)でともに過ごした日々に触れるため、阪中さんは大人になった女性に最近再会した。その「元女子生徒」の話が、とても興味深い。 女性は中学生の最初のころは家族に「学校へ行け」と言われるから我慢して登校していたが、おなかが痛くなったり体に異変が表れた。「死ぬくらいやったら学校行かんでもいい」と父親が言ってくれて楽になったそうだ。
「家に居場所があったから、今、生きてます」と彼女は穏やかな表情で話したという。
加えて、阪中さんとともに彼女を支えていたA先生がクラスメートに伝えてくれた言葉に感謝していた。
「何気ない一言で傷つく子がいるんだよ」
「差別(いじめ)をする者は水に流すが、された者は石に刻む」
A先生は授業中、誰に向けてとかではなく、あくまでさりげなく何かの話に関連付けて言ったそうだ。けれども、女性は「自分のために言ってくれたんだ」と嬉しかった。

危機に陥ったとき、いのちを救う力とは
2年生の修学旅行は参加したものの、出発の朝まで迷っていた。
「もうだいぶ前の話だけど憶えていたら教えて」。阪中さんが行きたくなかった理由を尋ねると、女性は迷うことなく口を開いた。
「みんなの顔を見たら1年生のころ(嫌な思いをしたとき)のことを思い出しそうで……。自分は話す友達がいないのではないかと不安だった」
何度も誘われたため断れずに参加したが、すぐにクラス写真の撮影があり、それがつらかったという。
「もし、写真撮るの大丈夫? と尋ねてくれたら……。たぶん嫌とは言えなかったと思うけれど(気持ちが)違ったと思う」と率直に話してくれた。
「中学生のころは、どうやって死のうかと、そればかり考えていた。でも、今はどうやって生きていったらいいのかと思ってます」
阪中さんは感慨深げに話す。
「本当に成長してくれたと嬉しく感じました。でも、修学旅行で最初の写真撮影がそんなにしんどかったなんて想像もしていなかった。子どもたちの悩みや不安を受け取る感性を高めること、物事を進める際は生徒に自己決定の機会を設けることの重要性をあらためて思い知りました」
阪中さんは、普段の生活の中で「私ってやるやん!」というような些細で小さなことにも喜びを見つけることのできる人になりたいと言う。それは子どもたちも同じに違いない。
「私たち大人が、まずは小さなことにも喜びを見つけられ、自他を大切にできる人間になることが大事だと思います。そういう大人として、子どもたちにとって “なりたい大人”の1つのモデルとなれたらと思っています。そのような努力が、危機に陥ったときにいのちを救う力にきっとつながるのではないでしょうか」
彼女のような教師が増えてくれたら、保護者も子どもたちもどんなに心強いだろう。けれども、今の教育現場はどうだ。
学力テストの結果で、学校の良し悪しが計られる。目立った問題の起きない「落ち着いたクラス」の担任が評価され、「生徒対応」「保護者対応」の困難さばかりが叫ばれる。
そこで見落とされたものはないのか。「ゆとり世代」を否定する大人たちのゆとりのなさが、目の前の子どもたちを実は追い込んでいることもあるのではないか。

疲弊する教師をバックアップできているか
広島県府中町の中学校で昨年、3年生の男子生徒が万引記録について進路指導を受けた後に自殺した。万引きがあったから希望する高校への推薦はできないと担任に言われたことが引き金だった。実はかかわった教師らがほかの生徒と誤って記録しており、この問題は「人災」とも言われる。
だが、学校側や教師の対応を非難し、彼らをスケープゴートにして解決するものなのか。荒れた学校での勤務体験もある阪中さんは「教師の個人的な問題ではなく、疲弊した学校環境を改革しなければ何も変わらない」と訴える。
この広島の学校は問題が多く荒れていたと言われるが、そうした学校では授業さえ成立しない。学校側が「非行があれば(高校に)推薦しない」との規定を、3年時だけでなく1年生から適用すると変更した矢先に起きた悲劇だった。
「そうすれば悪いことをやめる子もいるでしょう。でも、このやり方には疑問をもちます。ただ、ひとつ確かなことは、教員に『(生徒の)いいところ、がんばっているところをしっかり認めよう』と言っても、疲弊している先生たちは、子どもをじっくり見る余裕を持てずにいる場合もあります。教員が変わるためには、もっと教員をバックアップすべきです」
学校は限界を迎えていると感じている関係者は、少なくないのではないか。
保育園に関する書き込みではないけれど、子どもたちは「学校死ね!」「オトナ、死ね!」とは言わない。学校や教師が悪いとは認識しない。
学校に行けない自分、悩んでいる自分を責めた末に、さまざまな生き辛さを抱えたまま命を絶つのだ。

子どもの置き去りは「心理的虐待」 大和君両親の「児相」通告に「そこまでしなくても」

J-CASTニュース 2016年6月6日

北海道七飯町の山林で小学2年生の田野岡大和君が、両親に「置き去り」にされた問題をめぐり、函館中央署は「心理的虐待の疑い」があるとして、大和君の両親を児童相談所に通告した。
「置き去り」行為については、未だ「しつけ」か「虐待」か議論が分かれており、今回の措置にも、「そこまでしなくても」「当然のこと」とネット上では賛否の声が上がっている。

「しつけ」か「虐待」か、議論が再燃
函館中央署が大和君の両親を児童相談所に通告したのは2016年6月3日。大和君が自衛隊の演習所の小屋で6日ぶりに発見、保護された日だ。函館児童相談所は道警や学校を連携して近く、大和君と両親を対象に児童福祉司による事情聴取を行う。
「置き去り」騒動は同じころ、金沢でも起こっていた。報道によると5月23日、小学2年生の男児が「宿題をしなかった」として、金沢市額谷町の山道で母親に置き去りにされ、一時行方不明となった。男児は約3時間後に数百メートル離れた場所で発見された。 そして、北海道の一件と同じく金沢中署は「心理的虐待にあたる」として、同市の児童相談所に通告している。
「しつけ」か「虐待」か――。北海道の「置き去り」に対するネット上の声は、当初から割れていた。自分が過去に「された」、逆に自分が子どもに「した」体験談が少なからず見られた。さらに、大和君が見つかり両親の「疑惑」が晴れた、との見方もある。父親は大和君が見つかった3日に記者会見し、「私の行き過ぎた行動で息子につらい思いをさせた。深くお詫びします」と、強い反省を語ってもいた。
そんな中での児童相談所通告に疑問を覚えた人もいるようだ。ツイッターを見る限り
「親が責められまくって可哀想すぎる」
「もういいだろ、この話は」
「もう、そっとしててあげてください」
と両親を気遣う声は多い。加えて、しつけとしての「置き去り」行為がすぐ「児童相談所案件」になることを危惧する声も出ている。
児童虐待「親も子どもも、その認識を有していないことが多い」
一方、通告は当然だとする意見もある。弁護士の紀藤正樹さんは16年6月6日のブログで、函館中央署の対応を「世論に流されず、警察の職分をわきまえたもので、極めて冷静なもの」と評価している。念頭に置いたのは、これまでの児童虐待事件だ。
「親に善意に考えた結果が、最悪の結果を生んできた」(原文のママ、以下同)。そう振り返り、「万が一の悲劇を二度とおこならないようにする、ということです。その調査の方法としては、警察よりも、児童虐待の専門家である児童相談所がふさわしい」と説明した。
大和君が発見されたから両親を「許すべき」という主張にも懐疑的だ。児童虐待は「親も子どもも、その認識を有していないことが多い」と指摘し、「真相解明の手続はきちんと踏むべき」と反論している。
ちなみに過去、児童相談所に通告された「置き去り」行為のほとんどは捨て子など保護責任者遺棄の色合いが強いものだ。04年、北海道浦河町の牧場従業員女性が「言うことを聞かない」5歳の長女を裸のまま牧場に放置した一件は、両親が「しつけ」を主張した数少ない事例で、保護責任者遺棄には問われなかった。