親に搾取される子どもたち 家庭への支援どうすれば

朝日新聞 2016年6月27日

母子生活支援施設長 廣瀬みどりさん(59)
「頼れない親」の背景を知りたいというご意見を多くいただきました。困難を抱える母子に20年間寄り添い、自立を支援してきた母子生活支援施設の廣瀬みどり施設長(59)に聞きました。

「頼れない親」は確かにいます。その多くが、貧困の中で大人になり、虐待やDVを受けたり、障害などを抱えたりしています。子育て、家事、金銭管理、人付き合い……。苦手なことが多くあります。「常識」で判断すると「ダメ親」と思われてしまう人もいます。
ですが、よくよく関わっていくと、私たちと大きくは変わらない。ただ、大切にされた経験がなく、人間不信でSOSの出し方を知らないのです。家庭でも学校でも「問題児」という扱いを受け、社会的なチャンスを奪われ、ひどい場合は身体的、金銭的な搾取の中で育っています。善悪の区別を教えてもらった経験もない。自尊心が低く、極端に心を閉じるか、攻撃的になるか。振れ幅が大きく、孤立しがちです。
私たちはまず、「あなたも大事な存在なのよ」とメッセージを送り続けます。そして、料理、掃除、節約の仕方、子どもとの遊び方、人との関わり方などを、悩みを受け止めながら一緒に体験し伝えていきます。そうすると、少しずつ親も心を開き、子どもほど早くはないですが、変わるのです。
2年前から、公民館で子どもに勉強を教える会を地域の人たちと始めました。家はごみ屋敷、親は子育てが苦手。厳しい状況の子もいて、地域の人たちは「あんな親なら、子どもは離れて暮らした方が幸せなのでは」と心配します。でも、子どもはママやパパが「一番好き」って言うんです。だから私たちは地域の人にこう言います。「親なんだけど経験がないだけ。排除しないで、子どもたちのために、見かけたらあいさつしてもらえませんか」と。すると、近所の人も少しずつ関わってくれるようになりました。親の態度も柔らかくなり、地域がその家庭を気にかけるようになりました。
子どものため、排除しない。貧困の連鎖を断ち切るためには、SOSを出せない親の背景を理解し、子どもを通して親も心を開いていけるような地域づくりが大事だと思います。(聞き手・山内深紗子)

立教大教授(社会福祉学) 湯沢直美さん
子どもの貧困に詳しい立教大の湯沢直美教授(社会福祉学)にこうした子どもや親への支援のあり方を聞きました。

困っていることを自覚していない親もいれば、相談窓口に行かない親もいます。その前提で支援の仕組みを作らなければなりません。
親に対しては、寄り添い、信頼できる第三者が必要です。子どもを通して出会う保健師、保育士、教員らはキーパーソン。特に乳幼児期から専門家に「困りごとに付き合ってもらえた」という経験があれば、その後も頼ろうと思えるものです。
子どもには、事情を話せる大人が不可欠です。学校でSOSをつかむ方法として神奈川県立田奈高校の「ぴっかりカフェ」が参考になります。図書館でお茶を飲みながら外部の支援者らとおしゃべりする中で、気づきや相談につなげます。
高校に行かない10代後半の子は、行政に存在を十分に把握されていません。「子どもシェルター」は18歳を過ぎた子も逃げてこられる。広がればより多くの子を支援できます。
親子を丸ごと支援する場として、母子生活支援施設のような機能がもっと評価されてよいと思います。母親の親の代から困難を背負っていることにも気づけます。在宅ではわからない暮らしも把握でき、柔軟に支援しやすい。
産前産後に入れる施設はほとんどありません。職員の手を借りて、頼れる人がいない親や、虐待や貧困を経験した親の「困難の連鎖」を断ちきる場として設置を急ぐべきです。海外にある若い親向けの母子施設や、両親のいる家庭でも入れるケアがセットになった住宅もつくっていきたいものです。
施設を出た後も、子どもが学習支援を受けたり、親が話を聞いてもらえたりする居場所があれば、親子丸ごと支援につながります。傷ついた親にも信頼できる他者が必要です。(聞き手・中塚久美子)

寄せられた提案は

寄せられたご意見の中から、親を頼れず苦しんだ経験を持つ人や子どもの支援に携わってきた人からの提案を紹介します。

東京都の主婦(39) 小学生のとき家計を支えていた祖父母が相次いで亡くなり、母と2人の暮らしになって困窮しました。担任に給食費を払えないと言えず、「忘れた」と言ってはびんたをされていました。
母は収入が低いのに金遣いが荒く、借金を重ねていました。生活力も乏しく、市営住宅の減額手続きをせずに家賃を滞納。児童扶養手当も面倒くさがって請求していませんでした。生活保護は「そんな情けないことはできない」と嫌がり、もらいもののジャガイモで1週間、水だけで3日間過ごしたこともあります。
家が散らかっても、洗濯物が雨にぬれても私のせい。周囲の大人には「お母さんは仕事して大変なんだから、あなたがしっかり家のことしないと」と言われました。なぜ子どもの私が大人以上の我慢を求められるのか、納得できませんでした。
プログラマーになろうと、アルバイトして学費を払いながら高校に通っていました。でも母に使い込まれ、通えなくなって中退しました。借金まみれの親をみており、返すあてのない奨学金は申請する気になれませんでした。面接やテストなどの壁があってもいいから、給付型の奨学金が欲しかったです。
普通の家で育つと、「親は正しい」という価値観を持つのでしょうが、育てる資格のないような親もいることを知ってほしい。「親の言うことを聞け」と言われて、苦しむ子どももいるのです。そんな子どものSOSをすくってくれるスクールカウンセラーのような存在が、もっと増えてくれたらと思います。

宮城県のパート女性(52) 実家は造船業を営み、幼い頃は羽振りがよかったのですが、両親とも家庭を顧みず、つましい生活ができない人たちでした。事業が傾いてもそれは変わりませんでした。
兄と姉は大学進学を諦め、働いて家にお金を入れていました。私も高校からアルバイトをして家にお金を入れました。親戚も「親の面倒をみるのは当然」と言い、私もお金を渡すことが親孝行と信じていました。何より、お金を渡したときの母の喜ぶ笑顔が見たくて従っていました。
結婚後もお金の無心は続きました。職場に電話してきて「税金を滞納しているから明日までに20万円用意して」「友だちに2万円貸して」などと頻繁に要求されました。兄は借金の保証人にされ、姉はクレジットカードを使われ続け、姉が嫁いでも親の借金の請求が来ていました。
親の奴隷のように感じながらも、誰に相談していいかわからず生活していました。よく当たるという占師や宗教を頼り「5年耐えたら何とかなる」と言われて心の支えにしたこともあります。知識がなく、弁護士に頼むといった考えも浮かびませんでした。
母親が今年3月に亡くなり、改めて考えてみると、親こそ、誰かの助けが必要だったのではないかと思うようになりました。気づいた段階で、行政などが経済観念のない親の生活指導に入るなど、親をサポートする仕組みがあれば違ったのではないか、私たちのような人をもっと減らせるのではないか、と思っています。

北海道のソーシャルワーカーの女性(54) 数年前まで自立援助ホームなどの施設で働いていました。入所している子のアルバイトの給料を搾取する親、ふだんは来ないのに、お金がなくなった時だけ子に会いに来て、「借りる」と言いながら結局返さない親がいました。
職員は子どもがお金を渡すのを止められませんでした。子どもは親をあきらめきれないのです。ひどい虐待を受けていても、一度でも優しくされた経験を覚えていて、親が目を覚ましてくれるのではと、お金を渡してしまう。職員が「きっと返ってこないよ」と言いたくても、渡すのを止めれば親を否定させることになり、子どもが反発します。親とそのような関係が続いたまま子どもが退所し、もどかしい思いをしました。
子に対する親の依存は、家族だけでは解決できません。
周りの人には、その子が自ら親と距離をとり、自分のために生活や幸せを築こうと思える環境をつくることができると思います。
子どもは社会で育てるべきです。施設を出た後も含め、20歳になるまで横断的に子どもを見守る仕組みや、何かあってもここに行けば助けにつながれるというワンストップの支援があればいいと思います。子どもにとってのあたたかい居場所が必要ではないでしょうか。

子どもの貧困、学校で把握しやすくする仕組みを
読者のおたよりと取材から、親に搾取される子どもは少なくないと実感します。子どもが助けを求めるならどこか。一番に思い浮かぶのは学校です。苦境に気づき、解決能力のある機関につなぐ役割が期待されます。でも、今の人員配置では余力はなさそうです。問題に気づいても、親の理解を得られず支援が届かない場合もあります。子どもの6人に1人が貧困という時代。人と予算を手厚くし、学校で把握しやすくするとともに、解決にあたる専門機関や仕組みが必要だと思います。(後藤泰良)
ほかに丑田滋、畑山敦子が担当しました。

経済的支援の充実求める フリースクール等検討会議で

日本経済新聞 2016年6月27日

文科省のフリースクール等に関する検討会議の第11回会合が6月27日、文科省で開催された。
訪問による支援や具体的施策、今後の検討課題や経済的支援の充実について議論した。
委員からは、経済的支援の充実を求める声が聞かれた。
「不登校児童生徒による学校以外の場での学習等に対する支援について~長期に不登校となっている児童生徒への支援の充実~」との審議経過報告案が、事務局から示された。
学校や教委、民間の団体等によって、児童生徒や保護者に対する相談対応、学習支援などを行う訪問型支援の取り組みが行われている。訪問型支援では、学校と福祉等関係機関、学校と教委との連携を行うべきと示された。
訪問型支援の具体的施策として、▽保護者への情報提供▽ICT等を通じた支援▽教育支援センター等の整備充実の促進▽スクールソーシャルワーカー(SSW)やスクールカウンセラー(SC)の配置や研修の充実――などが必要とされた。
これについて委員からは「それらの支援を求めていない家庭も存在する。すべての人に当てはめるべきではない」との意見が出た。
NPO法人東京シューレの奥地圭子理事長は、保護者同士で情報の共有ができる『不登校親の会』について「もっと多くの人に知ってもらうための施策が必要。不安な気持ちを吐き出せる場所も大切」と述べた。
また今後の検討課題として、経済的支援が挙げられた。
報告案には、「不登校児童生徒がその状況に応じた支援を受けられるよう、経済的困窮家庭への経済的支援の充実を図ることが必要」と記述されている。
これに関して、NPO法人フリースペースたまりばの西野博之理事長と奥地理事長はともに「弱い」と指摘。経済的支援のさらなる充実を求めた。
事務局から示された報告案には、▽現状・課題および基本的な方向性▽教育委員会・学校と民間の団体等の連携等による支援の充実▽家庭にいる不登校児童生徒への支援の充実▽支援体制の整備▽今後の検討課題――などが盛り込まれた。
報告案の取りまとめは政策研究大学院大学の永井順國教授と事務局とで行うとされた。

日本に寄付文化根付かない理由 「税金で十分。高収入でも生活に余裕なし」〈AERA〉

dot. 2016年6月27日

平均3403円。これが日本の2人以上世帯の年間平均寄付金額だ(総務省・家計調査2015年)。
日本は圧倒的な寄付後進国だ。CAF WORLD GIVING INDEXの世界寄付ランキングでは145カ国中102位で、先進国では飛び抜けて最下位。寄付者の数も東日本大震災のあった2011年の7026万人をピークに右肩下がりだ。何が私たちを寄付から遠ざけているのか。
都内のマスコミで働く女性(43)は岩手県出身。東日本大震災では実家が被害にあったこともあり、夫と合わせて5万円を日本赤十字社に寄付した。しかしそれが何に使われたのかわからないまま、被災地から聞こえてきたのは各種寄付金の不正使用だった。以降、寄付に懐疑的になったという。
自然災害ですら使い道が不明なのに、貧困問題はなおさら。こども食堂や無料塾はよい取り組みだとは思うが、寄付をしても本当に生活に困窮している子どもに届くのか疑問がある。

かさむ教育コスト
「貧困問題と寄付が結びつきません。貧困の解決は国の仕事のはず。そのほうがより幅広い支援ができると思うのですが」
貧困を身近に感じないわけではない。小学生が夜中に一人で所在なげに歩いているのを見ると胸が痛む。学童保育費が支払えない家庭も知っている。何とかしてあげたいとは思うが、そもそも他人に手を差し伸べる余裕がないのだという。
夫(43)は大手メーカー勤務。世帯年収は1600万円だが「安定」を感じたことはない。2人とも正社員だがいつリストラされるかわからない。何より娘2人の教育コストがかさむ。習い事のクラシックバレエと英会話で月15万円、長女の民間の学童保育が月10万円、週1、2回の残業時のベビーシッター代が月3万円。今は姉妹とも公立の小学校と保育園に通うが、将来私立への進学を希望したときのために、姉妹それぞれ月8万円ずつ教育貯金をしている。新築で購入したマンションのローンも重なると、手元にはほとんど残らないという。
さらにこんな「不公平感」もある。家族が暮らす神奈川県の医療費助成制度は自治体で異なり、相模原市は小学6年生まで通院助成があるが、住んでいる横浜市は3年生までしかない。
「都会は生活コストが高く、資産を持っていたり財テクをしたりしなければこの年収でもギリギリ。税金は十分に払っていると思うのですが、年金もいつからどのくらいの金額がもらえるかわからないですし、寄付にお金を捻出するのは難しいです」
年収が高く税金を多く納めているほど、認可保育園の保育料は傾斜で高くなるうえに入園はしづらくなるなど、負担感が大きいという母親にも多く出会った。格差が固定化し生活圏が分かれているため、貧困を身近に感じずピンとこないという声も多い。寄付先進国で知られる米国などとは宗教観も違う。寄付を拒む理由はいくらでもあるのだ。
20年までに日本の寄付市場を10兆円にすることを目標に掲げ、NPOの活動支援を行う日本ファンドレイジング協会のコミュニケーション・ディレクター、三島理恵さんは言う。
「日本は“公共”は国がやるものだという意識が根強く、納税で社会への責任を果たしていると思っている人がほとんどです。でもそれだけでは社会がまわらなくなっているのが現実。一方でNPOも活動内容を寄付者に対してもっと明確に示す努力が必要です」
そこで、寄付者が支援先NPOの活動にもコミットし、使途を一緒に決めているのが、ソーシャルベンチャー・パートナーズ東京だ。パートナー(会員)は1人あたり毎年10万円を払い、社会貢献活動を行うNPOに出資するだけではなく、それぞれの専門知識をいかしてNPOの運営にも参加する。普段は弁護士・医師・経営コンサルタントなどの専門分野で働く会員たちが知識も提供するのだ。
IT企業で働く男性(32)と国家公務員の女性(32)の夫妻も3年前から参加している。夫は13年の夏から約2年間、途上国の教育支援を行うNPO法人e-Educationの支援をしてきた。スタッフの新規採用に資金調達、特に専門のウェブサイトでのPRに力を入れた。
「このプロジェクトに関わるまで途上国について何も知らなかったのですごく刺激を受けました。支援する僕たちも成長機会をもらっていますね」

意志のある使い道
妻は福島県出身。母子家庭に育ち、高校卒業後コンビニでアルバイトをしながら受験勉強をし、東京の公立大学に進学した。半年ごとの審査をパスし、4年間授業料は全額免除に。途中からは、大学進学にともない上京してきた2歳年下の弟の生活の面倒もみるようになった。アルバイトを掛け持ちし、生活費を切り詰め、実家に帰省したのは4年間で1度きりだ。
その頃始めたのが、セネガルで暮らす10歳の男の子に毎月3千円を寄付することだ。自分よりも大変な状況にある子どもを支援したい一心だった。自身のお金が地域のインフラや教育の整備に使われていること、彼の成長を写真や手紙で見届けることがうれしかった。
現在、夫婦の世帯収入は1200万円。毎月1度、お金の使い道を考える夫婦会議を開く。
「私が奨学金で大学進学できたように、受け取ってきたものを社会に還元したいんです。意志のあるお金の使い道を常に考えています」(妻)

寄付控除が後押し
児童養護施設の子どもたちの海外留学を応援するチャリティーパーティーを企画したのはSilky StyleのCEO、山田奈央子さん(37)。自身も海外留学の経験がある。子どもが生まれてからより一層、社会の循環を考えるようになった。
「パーティーに子どもたちも連れていきました。幸せをシェアしたり本当の豊かさを考えたり、寄付を考えることは子どもたちにとっての生涯学習にもなると思っています」(山田さん)
実は今、納税よりも寄付に投資したい人が増えている。後押しするのは、11年に変わった寄付税制だ。日本の寄付控除は認知度は低いものの、米国に比べても優れているといわれる。
寄付控除の対象となる認定NPOは全国に700以上あり、寄付金額から2千円を引いた額の40%の税額控除が受けられる。つまり5万円寄付すれば1万9200円の税額控除が受けられるのだ。だが申告率はわずか14.3%にとどまる。
「この寄付控除は確定申告でしかできないので会社員が多い日本では浸透しづらい。年末調整で保険や住宅ローンと同じように“寄付”を項目に加えれば、国としての在り方を示すことにもなる」(前出の三島さん)
面白いデータがある。日本の高額寄付者が寄付先を選ぶ際の特徴的な理由は「寄付者の名前が公表されること」だ(寄付白書2011)。米デューク大学のダン・アリエリー教授が行った寄付に関する実験では、寄付者の名前を公開した場合と非公開の場合では公開したほうが寄付の回数は多かった。日本では著名人の寄付が売名行為と炎上することもあるが、承認欲求は誰にでもあるので、寄付を受けるNPOの配慮が必要と、前出の三島さんはいう。
日本では圧倒的に高齢者の寄付が多いのも特徴的だ。そこで、学生向けの「寄付教育」も始まっている。前出の日本ファンドレイジング協会が主催する授業では、自己肯定感を高め、社会課題解決能力を身に着けたグローバル人材を育成。社会問題を解決するNPOについて学び、フィランソロピー(社会貢献)とは何なのかを考える。授業を終えた学生が「僕たちにも社会を変えることができると初めて感じた」と語っていたのが印象的だった。日本流「ノブレス・オブリージュ」が芽吹きつつある。(編集部・竹下郁子)