わが家に勝手に上がり込む「放置子」 ケガをしたら治療費を払う必要がある?

弁護士ドットコム 2016年7月11日

親から放置され、他人の家に入り浸る子どものことを、最近では「放置子」と呼ぶようです。今回は、近所に住む「放置子」に悩む方から子育て情報サイト「ママスタ」のBBSに投稿がありました(実際に寄せられた投稿はこちら→http://mamastar.jp/bbs/comment.do?topicId=2595811)。
投稿した女性を悩ませているのは、近所に住む小学校4年生。女性の子どもとは学年が違っていて、どこの家の子かよくわからないそうです。
「毎日毎日、下校時間になると家のチャイムがなり、私も参ってしまって数日前からチャイムのスイッチも切りました。出ないと大きい声でうちの子の名前を呼ばれたり、ドアを叩いたりするので、赤ちゃんが起きるからと注意をしましたが、うちの子は一緒に遊びたいようなので距離の置き方が難しく…」
さらには、「勝手に(家に)上がってきて注意をしましたが、その後も同じことがあったため出入り禁止にしました」と、手を焼いている様子です。
この投稿に対しては、「親にしたら、ラッキーって感じだろうし託児所扱いされないように」「許せない」など、女性に同情する意見のほか、「何かあったら責任問われるのは主さん夫婦なんだから」と心配する声も寄せられています。
「放置子」が自宅で遊んでいて、事故やケガなどあった場合に、法的責任を問われる可能性はあるのでしょうか。大和幸四郎弁護士に聞きました。

放置子を家で遊ばせることは、「事務管理」にあたる可能性がある。
放置子が自宅に来て、自分の子どもと遊んでいてケガをしたような場合、状況によっては、家主に法的責任が生じる可能性があります。
放置子の親と明確に「子どもの面倒を見る」という約束をしていなくても、民法の事務管理(697条以下)に関する条文を根拠に責任が生じる可能性があるからです。
なぜ、面倒を見る約束もしていないのに、責任が生じることがあるのでしょうか。
事務管理というのは、「義務無く他人のために事務の管理を始めた」場合に、その者に「事務の管理」をする義務が生じることを定めたルールです。よその家の子どもを家で遊ばせていたような場合、明確に「面倒を見る」という約束をしていなくても、子どもを適切に監護する義務が生じる可能性があります。
事務管理にあたる場合、子どもが家の中でケガをすれば、この義務に反したとして、治療費などを賠償する責任を負う可能性があります。
では今回のケースのように、親が知らない間に、子どもが放置子の友達を家に招いて遊んでいたような場合でも、責任が生じることがあるのでしょうか。
親が全く知らなかった、あるいは明確に家に遊びにくることを禁じていたという事情があれば、事務管理が成立する可能性は低いと思います。
今回のケースは、投稿者は「勝手に家に上がってきたので注意した」「出入り禁止にした」ということですから、「事務の管理を始めた」と評価される可能性は低いでしょう。
一方で、仮に、放置子が家で子ども遊ぶことを容認していたようなケースであれば、事務管理にあたる可能性は出てくると思います。

他の法的責任は?
次に、刑事責任など、他の責任についても考えてみましょう。
仮に事務管理にあたり、放置子が家の中でケガをしたとします。そうしたケースで、医者の治療など適切な措置をとらずに、そのまま放置したような場合、保護責任者遺棄罪に当たる可能性があります。
また、放置子が虐待されているような形跡(アザがある、身なりが不潔、やせ細っているなど)を発見した場合は、自治体が設置している福祉事務所もしくは児童相談所に通告する義務があります(児童虐待の防止等に関する法律6条)。
かつて、隣人に預けられていた子どもが、ため池で溺れて亡くなった事故がありました。その隣人は親切で預かっていたのですが、民事訴訟にまで発展しました。
たとえ親切心からした行為でも、このように、さまざまな義務や責任が発生する可能性はあります。ですから、善意でやったことが、あだにならないように注意してもらいたいです。

更生保護と福祉が接近 刑の一部執行猶予スタート

福祉新聞 2016年7月11日

今年6月1日、刑の一部執行猶予制度が施行された。一定の要件を満たす場合に刑の一部を猶予し、社会内処遇により更生を促す同制度は主に覚せい剤などの薬物依存症者を対象と想定。法務省と厚生労働省は昨秋、その支援の関係機関として福祉事務所などを挙げた地域連携指針を作った。刑務所を早期に出所する薬物依存症者の増加を見据え、更生保護関係者による障害者グループホーム(GH)運営も始まるなど、更生保護と福祉が一段と接近してきた。
「お友達と会うので出掛けます。晩ご飯はいりません」。「帰りが遅くなるようなら必ず電話して」-。
都内の障害者GHで暮らす女性が外出する際の、職員とのやりとりだ。GHは2階建てで個室が4部屋ある普通の住宅に見える。
購入したのは社会福祉法人でも株式会社でもない。来年、創設100年を迎える更生保護法人両全会(東京都渋谷区、小畑輝海理事長)だ。
GHを運営するのは小畑理事長が代表を務めるNPO法人両全トウネサーレ。2015年12月に開設し、今年5月末までに4人の女性が入居した。薬物依存症者専用ではなく、常勤職員は3人。両全会職員も定期的に訪れ入居者と面談する。
両全会は渋谷区内で女性専門の更生保護施設(定員20人)を運営。刑務所を仮釈放となっても帰住先のない人などが平均で約4カ月入所する。その間に働いてお金をため、アパート暮らしを目指すのが基本だ。

寄り添いが不可欠
「更生保護施設にいられる期間は短い。社会で自立した生活を送るには、退所後もなじみの職員らの寄り添いが必要だ」。小畑理事長はGH開設の狙いをこう話す。
両全会の更生保護施設は、入所者の8割が覚せい剤や窃盗の常習者。精神障害や発達障害の人も多い。
12年度からは施設内で独自の薬物離脱プログラムを開始。退所後も任意で通うよう促し交通費も両全会が負担しているが、通うのは該当者の半数程度。13年度からは法務省の予算で薬物離脱専門員が配置された。
こうした動きは、刑の一部執行猶予制度と深い関係がある。
同制度では、累犯の薬物使用者が一部執行猶予になると必ず保護観察が付く。数カ月間で終わることの多い仮釈放と異なり、最長で5年間、保護観察下に置かれるため、単年度ごとの保護観察対象者は従前よりも増える。
それを踏まえ、小畑理事長は「更生保護施設は単なる下宿屋から脱却する必要がある」と判断。外部講師の力を借りた施設内での処遇力向上、施設退所後に暮らすGHづくりを進めてきた。より汎用性のある薬物離脱プログラムも開発中という。

障害福祉の出番
国も各地域での連携に期待を寄せる。
「関係機関は薬物依存症者が精神症状に苦しむ一人の地域生活者であることを改めて認識し、偏見や先入観を排して回復と社会復帰を支援する」-。
15年11月、法務省と厚労省がまとめた「地域連携ガイドライン」は基本方針にこう掲げた。刑務所を出所した薬物依存症者を司法だけで更生させるのは不可能だとし、福祉行政とも認識を共有しようというものだ。
福祉との関連では、保護観察中の支援として、本人の希望に応じて必要な障害福祉サービスなどを実施するよう福祉事務所などに求めた。法務省保護局は「保護観察終了後も薬物依存症者が必要な支援を受けられるよう、本人とかかわる人を増やすことが最も大切だ」としている。

ことば
【刑の一部執行猶予制度】
3年以下の懲役・禁錮の場合、刑期の一部の執行を猶予する制度。2013年6月に関連法が成立した。例えば、懲役2年のうち6カ月につき2年間の執行猶予の付いた判決を出せる。これまでも刑期の途中で仮釈放(覚せい罪事犯者は14年は約4000人)する仕組みはあったが、釈放期間が短いこと、判決時に釈放時期が決まっていないことなどから社会復帰支援が不十分となり、再犯に至るケースが多かった。刑務所の過剰収容を緩和する狙いで06年に法務省で議論が始まったが、社会内での長期的なかかわりにより再犯を防ぐ意味合いが次第に強くなってきた。

【保護観察】
刑を執行猶予となった人、刑務所を仮釈放となった人などを国の責任で指導監督・補導援護すること。全国50カ所の保護観察所がその役割を担う。更生保護とは犯罪をした人や非行少年を社会内で処遇し、再犯を防ぎ更生を助ける活動のこと。保護観察所のほか保護司、更生保護施設などが担い手となる。

生涯未婚率と「持ち家」の関係性-少子化社会データ再考:「家」がもたらす意外な効果-

ZUU online 2016年7月11日

はじめに
6月の研究員の眼「未婚化と少子化に立ちはだかる『まだ若すぎる』の壁-少子化社会データ検証:『逆ロールモデルの罠』」(http://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=53150?site=nli)では、日本において生涯未婚率(*1)が着々と上昇している、というデータを示した。2010年の国の調査においては、男性の5人に1人、女性の10人に1人が生涯未婚のままである可能性が高い、というデータである。
婚外子比率が2パーセント台である日本においては、結婚というステップを経て子どもが生まれている。そうであるならば、未婚化(特に女性)は少子化にシャープに影響を及ぼすこととなる。
進行する未婚化に強い影響がある要因を探ることは、少子化対策として必要不可欠である。
そこで本稿では、国が提供している都道府県別の大規模データを用い、少子化の前段階にある未婚化に焦点をあてて要因分析を行った。
その結果、1つ特に注目すべき結果が見られたのでご紹介をしたい。

【都道府県別 生涯未婚率の状況】
まず各都道府県の生涯未婚率の全体像を見ておきたい。2010年における各都道府県の生涯未婚率について男女別ランキングを作成したものである。(1)は生涯未婚率が低い、すなわち、結婚経験者が多い都道府県10エリアである。一方、(2)は結婚経験者が少ない10エリアとなっている。
結婚経験者が多いエリアを見ると多少男女で異なるものの、福井・滋賀・富山・岐阜・三重・石川の6県が男女ともにおいて、上位10エリアに入っている。結婚経験者が少ないエリアとしては、東京・沖縄・高知・神奈川の1都3県が男女ともランクインしている。
以上の情報からだけでも、ある特徴がみられる。結婚経験者が男女とも多い上記6県を日本地図上で表したものである。赤色の円で男女とも生涯未婚率の低いエリアにマークしたものだが、丁度日本列島を東西に分ける北陸から関西にかけてのタテのエリアにわかりやすく集中している。
このことは何を示しているのだろうか。

【低未婚率をもたらす要因は何か】
少子化対策に関して、昨年特徴的な動きが生じた。厚生労働省がこのほど発表した2015年の都道府県別合計特殊出生率で、島根県が大きく出生率を伸ばしたのである。
島根県は2014年の1.66から1.80へと0.14も合計特殊出生率を上昇させ、出生率上昇ポイントが2位の徳島や鳥取の0.09を引き離して上昇ポイント1位となった。
島根県でなぜこれだけの出生率上昇が起こったのか。一つの要因として考えられるのが、同県が2010年以降、特に力を入れている住宅政策である。人口減少を食い止めるため、Uターン、Iターンの増加を目指し、3世代同居世帯への補助金、お試し住宅政策などを展開し、若い世帯の島根への誘致に積極的に取り組んだ。
島根県が大阪、広島、東京の3都市で開催した2015年の「U・Iターンフェア」には、過去最多1280人が参加している。このフェアは2010年から開始されており、昨年は2014年に続く最多記録更新であった。
同県の継続的な住宅政策強化による若い世帯の同県への誘致が出生率に寄与したとの仮説のもと、生涯未婚率にも同じく何らかの寄与があるのではないか、との観点から都道府県別の住宅取得のしやすさの目安となる持ち家比率の状況と生涯未婚率との相関分析を行ってみることとした。
以下が、その分析結果である。

【持ち家比率と生涯未婚率 ―結婚してマイホームをもてるのか― 】
持ち家比率を算出するために、総務省統計局の「社会生活統計指標(2016)」のデータを利用し、同データ中の(持ち家数)/(居住世帯あり住宅数)で持ち家比率を算出した。この都道府県別の持ち家比率と男女別の生涯未婚率との関係性の強さをもとめるため、相関分析を行った。
その結果、非常に興味深い結果を得ることが出来た。
都道府県別の持ち家比率と「女性の生涯未婚率」の分散図である。図表からもわかるように、非常に綺麗な負の相関関係がみられる。両者の相関係数は実に-0.83もあり、両者に強い関係性があることを示している。勿論、男女とも未婚率の低い6県も、持ち家比率が全国平均よりも9%から18%も高い状況となっている。
つまり、日本においては、持ち家比率の高いエリア(都道府県)ほど、女性の生涯未婚率は低くなる傾向がとても強い、という結果である。
相関関係は双方向の関係性を示すため、女性の生涯未婚率が低いエリアほど、持ち家比率が高くなる、ということも可能である。ちなみに男性の生涯未婚率と持ち家比率の相関係数は-0.51であり、女性ほど強い相関ではないが、「負の相関関係はある」(持ち家比率が高いほど未婚率が低い)ということが出来る値であった。
確かに女性の結婚経験者が多いエリアでは、そもそも「結婚したらマイホームをもちたいだろうから、未婚率が低いエリアで持ち家比率が高くなるのは当たり前では?」という見方もできなくはない。
しかし、例えばそれが大都市圏であれば、マイホームを建てようと思っても人口過密であるため、まずそう簡単に希望の広さの土地や建物を確保することは難しい。
その上、希望のマイホーム物件がみつかったとしても、都市部は不動産価格が非常に高いため、それを簡単に入手できるとは限らない。
そう考えると、「結婚後にマイホームで暮らすという希望が簡単にかないそうな」地方エリアでは、女性が求婚された際や、既に交際相手がいる場合に、結婚に乗り気になりやすい、と考える方が自然であるのではないだろうか。一方、大都市エリアでは、女性が求婚されたり、交際相手がいたりする場合でも、結婚後の住宅事情が結婚を決意する障害となっている可能性が小さくないのではないかと考えられる。
妊娠出産を男性よりも肉体的に身近にとらえる女性側に、より強く「結婚後、快適な持ち家が簡単に得られるかどうか」が、(交際ではなく)結婚の決定誘引とされているのかもしれない。

【やはり結婚=マイホーム(特に女性)】
今回の分析において、未婚率がそのエリアの持ち家取得状況と関係性を持っていること、特に女性において強い関係性があることが判明した。このことは、日本における未婚化対策、そして少子化対策、さらに地方振興策として重要視するに値する関係性ではないかと思われる(*2)。
島根県のU・Iターン誘致政策ではないが、「住めば都」である。そして何より、「コウノトリの飛来はまずはカップルの巣作りから」なのではないだろうか。
若いカップルが暮らしたいと思うような住宅の積極的な提供・宣伝は、これからの地域の出生率上昇のためのキーワードとなるのではないだろうか。
(*2)非常に限られた範囲の調査でではあるが、図表2の6県の出身者に、未婚率が低い理由は何であると思うか、筆者がインタビューした際にも「家が持ちやすいからではないか」という意見は必ずあがっていた。