保健室登校だった小学生の女の子 子ども食堂へ通って変化

NEWS ポストセブン 2016年8月7日

近年、子どもの貧困が社会問題として語られるようになっている。そんな子供の貧困を救うべく全国に広がりをみせる「こども食堂」のうちのひとつ、「要町あさやけ子ども食堂」を開いている山田和夫さんが語った話から、諏訪中央病院名誉院長の鎌田實医師が「貧困」について考えた。

東京・池袋の住宅街に、「要町あさやけ子ども食堂」がある。店主は、「山田じいじ」こと山田和夫さん(68歳)。子どもに安心・安全な食事と、みんなで食卓を囲む楽しさを提供しようと、2013年3月から自宅を開放した。
子ども食堂とは、親が共働きであったり、経済的に苦しかったりで、子どもにきちんとした食事を用意できない家庭に対して、無料もしくは格安な値段で食事を提供する活動。子どもの貧困や孤食が問題になるなか、子ども食堂は、全国的に広がっている。
厚生労働省の国民生活基礎調査(2012年)によると、18歳未満の子どもの16.3%つまり6.3人に1人が貧困状態にあり、過去最悪となった。1人親世帯の場合はさらに厳しく、54.6%つまり2人に1人が経済的に苦しい環境で暮らしている。
要町あさやけ子ども食堂が開かれるのは、月2回(第1・3水曜)。数こそ少ないが、子どもたちの様子は目に見えて変わっていく。保健室登校だった小学5年生の女の子は、子ども食堂に通うようになり、自分から食事前の準備を手伝うようになった。そのうち、ほかの子どもとも遊ぶようになり、自分でつくった紙芝居を読むなど、積極性を見せるようになった。
何か特別なことをしたのか。いや、決してそうではない。
「子ども食堂は狭い場所なので、みんなで譲り合わないといけない。狭いところで、同じものを食べる。そんな体験をするうちに、居場所ができ、何となく心がうちとけていくのだと思います」
山田さんは、ラジオ番組「日曜はがんばらない」(文化放送、毎週日曜午前10時~)にゲスト出演した際、こう語ってくれた。
実は、山田さんがこうした活動を始めたのは、妻・和子さんの影響が大きい。和子さんは自宅の玄関をパン屋に改装。自分でパンを焼く一方、週一度、路上生活者に無料でパンを配る活動を続けていた。当時、サラリーマンだった山田さんは、そうした妻の活動を、遠巻きに見ていた。
その和子さんが2009年、すい臓がんで亡くなる。妻の死で、心にぽっかりと穴が開いた。その穴をふさいでくれたのが、死の直前、妻から渡されたレシピだった。はじめてのパンづくりに四苦八苦しながら、妻の遺志を継いだ。夜、焼き立てのパンを配りながら、山田さんは路上生活者の孤独に思いをはせる。
「自分がここにいることを、周りの人が知っていてくれる。そう思うことで、人は生きていけるんだと思います」
貧困は、人を孤立させる。路上生活者も、経済的に厳しい親子も、社会から取り残されたような疎外感にとらわれやすい。だからこそ、身近なところに「居場所」が必要なのだ。

●かまた・みのる/1948年生まれ。東京医科歯科大学医学部卒業後、長野県の諏訪中央病院に赴任。現在同名誉院長。チェルノブイリの子供たちや福島原発事故被災者たちへの医療支援などにも取り組んでいる。近著に『「イスラム国」よ』『死を受けとめる練習』。

生徒の訴え寄り添えず 児相相談の中2自殺

カナロコ by 神奈川新聞 2016年8月5日

両親から虐待を受けて相模原市児童相談所(児相)に保護を求めた市立中学2年の男子生徒が自殺を図って死亡した問題で、市は4日、報告書をまとめ、厚生労働省に提出した。自殺を図った要因として、生徒よりも保護者の言い分を重視した支援となったことなどを挙げ、「生徒の訴えに寄り添った検討をすることができなかった」と省みている。
市児相は男子生徒が小学校6年生だった2013年11月に虐待事案を把握。14年6~10月に6回、両親の指導や生徒との面談を行ったところ、生徒は「養護施設に行きたい」と自ら保護を求めた。同年10月、市児相は一時保護を提案したが、両親は拒否。市児相は職権で強制的に保護する対応までは取らなかった。生徒は翌11月に自殺を図った。
報告書によると、14年6~10月の面接時、児相の担当児童福祉司は、暴力の再発がなかったことから援助方針会議で面接の経過を報告しなかった。
このため市児相内の情報共有がなく、養父に対する嫌悪感や施設で暮らしたいという生徒の訴えに着目した議論がなされなかった。逆に生徒が誇張して物事を受け取り、表現の仕方に苦労しているとの両親の言い分を重視したという。
また、14年10月下旬に中学校から養父の暴力があったと連絡を受けたが、担当児童福祉司は緊急性がないと判断。虐待の再通告として受理されなかったため緊急受理会議が開催されず、一時保護を含めた対応を協議することができなかったことも問題点として挙げられた。
市は今年4月、医師や有識者ら第三者を委員とする審議会に市児相の対応に問題がなかったか検証するよう諮問し、8月中に答申がまとまる見通し。市は答申内容を踏まえ、再発防止策を策定するという。

改正児童福祉法の示すところを実現するために

Japan In-depth 2016年8月6日

2016年5月27日に児童福祉法が改正され、家庭養育の推進が期待される今日、東京・港区の日本財団にて「子どもの家庭養育官民協議会の研修会」が開催された。
官民協議会の参加団体が家庭養護の推進に取り組む上で、有意義な情報を共有するとともに、参加団体間のネットワークを活性化することが目的だ。
まず講演を行ったのは、厚生労働省家庭福祉課課長の川鍋慎一氏。改正児童福祉法についての理念や、児童虐待防止策の検討に関する経緯について説明があった。川鍋氏は最も大切なキーワードとして「家庭養護の推進」を挙げ、それを進めていく上で日本人としての在りようを見ていかなければならないと強調した。又、この法改正施行日に向けて、行政や民間が何をどこまで進めるのか、整備していくことが重要だとも述べた。
続いて、長野大学准教授の上鹿渡和宏が登壇し、「改正児童福祉法の示すところを実現するために」というテーマで講演を行った。上鹿渡氏は、今年2月に日本財団とルーモス(注1)の共催で実施された、英国での家庭養護推進の視察研修の結果を元に、今後日本で必要とされる社会的養護についての説明と、日本が抱えている里親養育に関する問題提起をすると同時に、施設から家庭を中心とした養育システムの移行が進んでいる英国の事例を紹介した。
里親養育については、対応の難しい子どもをどのように引き受けるかという問題に対し、ニーズにあった様々なタイプの里親養育の準備やそれにおけるケアの質向上と維持が必要と上鹿渡氏は述べ、今後、里親支援機関、専門的なソ-シャルワーカーの人材の確保について、施設養護関係者にとって新たな活躍の場になるのでは、と述べた。
また日本で参考にすべきこととして、英国でかつて施設ケアサービス提供者が、現在は里親、養子縁組など、新たな社会的養護システムの役割を担っているという興味深い事例の紹介もあった。
最後に、改正児童福祉法の示すところを実現するためには「家庭支援」「養子縁組」「里親養育」「施設養護」に関係するそれぞれが、子どもや家庭のニーズを把握し、システム全体として全ての子どもの最善の利益を保証できるよう変化することが必要だと述べた。
そして、この考えに賛同する全国の人々が情報交換し、取り組みにおける課題を相談できる連携の場を作れないか、また家庭を中心とするシステムへの移行について、様々なチャレンジとその成果を蓄積し共有することで、この動きを早めることができるのではないか、と述べ、包括的で戦略的なシステムの再構築が重要だと強調した。
次に官民協議会の加盟団体の5名が登壇し、パネルディスカッションを行った。これからの家庭養育のあり方ということで、当事者たちの実際の声を聞くことができた。キーアセット(注2)の渡邊氏は、家庭養護による質を高め、より機能していくために同じようなNPOが増えるべきだと話した。民間団体が増えることで、ポジティブな部分で切磋琢磨し子供達の利益に繋げていきたいと決意を述べた。
CVV(注3)の中村氏は、自身が施設経験者であり、子供たちの視点から声をあげていこうという思いでこの団体を立ち上げている。今施設で生活している子どもの声をどう聴いていこうか、実践の部分が求められると話す。若者の抱えている問題は深刻で、施設での生活は元より、退所後のケアが重要だと語った。同じくCVVの相馬氏も施設経験者として、幼少期の頃に里親や養子縁組など、選択肢があることを知らなかった、と当事者ならではの意見を訴えた。
それを受けて上鹿渡氏は、子どもの声を何より中心に、多様な選択肢がある、ということを子どもに提示することの重要性を再認識したと話し、この官民協議会の参加団体に当事者が加盟されていて良かったと最後に感想を述べた。
家族と暮らせなくなった多くの子供たちが、安心して暮らすことができる「家庭」という環境を提供することが、子どもの正しい成長につながる。しかし、その家庭養育が進んでいないのが実態だ。改正児童福祉法の精神に則り、あらゆる関係者が連携して家庭擁護を推進することが、日本の社会の未来につながると確信する。
(注1)ハリーポッターの作者JKローリング氏が設立に関わった英国の国際NGO団体。CEOのジョルジェット・ムルヘア氏は元施設スタッフ。
(注2) 子ども中心の里親養育を推進することを目的に活動する特定非営利活動法人。
(注3) CVV(Children’s Views & Voice)施設で生活する子どもや、退所した人たちの居場所づくりを支援する団体。