子ども達に一番身に付けてほしいのは、死なない力だ

日経DUAL 2016年8月19日

未来を生きる力――、それは「死なない力」だ
民間人校長として3年の任期を終え、行政職に異動となった。学校の現場経験を持ち、かつ民間人である立場で教育行政に関わってほしいとのことだった。校長として当たり前に4年目を迎えると思っていたので、周りも驚いたが自分が一番驚いている。
4月1日より現場を離れて、4カ月が経った。子どものための仕事に変わりは無いが、学校との距離が遠くなりさびしくてたまらない。現場から行政に来た先輩達も、みんな同じ気持ちを抱えながら、自治体丸ごとの教育をいかによくするか、奮闘している。やるしかない。
ただし、発信はかなり難しくなった。よって、この連載に関しては所属する組織とは関係無く、「あくまで一個人として」塾講師・起業家・民間人校長の経験を持った子育て世代の女性として、思いを発信したい。
小学校にいたころ、「校長先生のお話(校長講話)」を毎週月曜日に行っていた。1年生から6年生までが分かるように話すのは難しい。月に一度は、講堂でパワーポイントを使った講話をしていた。たった10分間の授業。私は塾や予備校でたくさんの子どもを教えてきたが、教員免許を持っていない。授業が大好きなのにできない、そんな私にとっての唯一の機会が「校長先生のお話」だった。
そこで連載を再開するにあたって「校長先生のお話」の続きをしたい、と思った。
最後の1ページは、子ども達に呼びかける形で書いている。「未来を生きる力」をテーマに、さまざまな角度からボールを投げていきたい。正解は1つではない。親子で受け止め、キャッチボールしながら、考える機会になることを願っている。
「未来を生きる力」と考えたとき、たくさんの能力や知識が思い当たる。ITスキルや、自由な発想力、グローバルなコミュニケーション能力など。さて、最初に取り上げるべき「力」をどうしよう? 書き手として、しばし悶々と数日考え続けた。しかし、どうしてもこの答えしか思いつかない。予測できない20年後の未来を生きる、子ども達につけたい力。
それは、「死なない力」だ。

「発想のすごい詩」が「祈りの詩」となった瞬間
私の好きな谷川俊太郎の詩がある。「あかんぼがいる」という詩だ。生まれたばかりの孫娘に、祖父である著者は呼びかける。お前は何になるのか、妖女か、貞女か、今はどれも流行らないなとつぶやいた後で、こう語りかける。
「だがお前さんもいつかはばあさんになる
それは信じられないほどすばらしいこと
うそだと思ったら
ずうっと生きてってごらん
(中略)
そのちっちゃなおっぱいがふくらんで
まあるくなってぴちぴちになって
やがてゆっくりしぼむまで」
(谷川俊太郎「あかんぼがいる」)

赤ん坊に年老いた姿をイメージする人は、ほとんどいない。しかし、谷川俊太郎は自分が年老いているからこそ、老いるまで生きることの素晴らしさを言葉にする。この詩は1992年、新聞の朝刊に載っていた。当時、結婚すらしていなかった私には「発想のすごい詩」ではあったけれど、そこまでの感想だった。しかし、娘を産んだ瞬間からこの詩は私にとって「祈りの詩」となった。あなたが私より先に死にませんように。「ばあさんになる」まで、生きますように。

「死なない力」をつけるため、危険な場面に出合った大人は子どもを叱ってほしい
ほとんどの親が、わが子の長生きを切実に願う。だから、全ての子ども達に、大人達は「死なない力」をつける必要がある。気が散りやすい未熟な子ども達を見ていると、ハラハラする。中高生だって安心できない。制服姿の学生が、自転車で車道を走りながらスマホをいじっている。体は成長していても、大胆な行動をカッコいいと思う年齢の危うさが出てくる。
「死なない力」を育てるには、まず周りの大人が「命に関わる場面」で真剣に叱ることだ。危険な場面に出合ったら、躊躇せずに叱ってほしい。たった今起きた「ヒヤリハット」を、子ども達が軽く考えないために。そこで何も叱られないと、ヒヤっとする場面を切り抜けた成功体験が、子どもを慢心させてしまう。子ども達の緊張感と安全意識を養う。自分の身は自分で守る力が必要だ。そして、安全な環境は大人が守らねばならない。
学校にいたころは、養護教諭がアンテナを研ぎ澄ませ、管理作業員と協力して環境改善をしていた。金属製の傘立ての角、雨の日の廊下、給食袋をかける金具……。ほころびを見つけ、改修や警告を行う。子ども達の行動パターンを観察し、環境面での防御をするのは大人の役目だ。乳幼児の家庭内事故も、同じだ。「危ない場面を叱る」「安全のための環境整備」の2点を家族で確認してほしい。5~9歳の死因は「不慮の事故」が1位(厚生労働省 H21年度調査)だ。
だからといって、危険要因の一切を排除してしまうと、子ども達の経験値が低いままになる。理科の実験で火を使うと危ないからと言って、IHヒーターでやればいい、映像を見せておけばいいでは、火の熱さや怖さを知らない大人が育つ。それは、本当に「死なない力」につながっているだろうか? 体験を通じた安全指導や防災教育を、学校ではどう取り入れるか試されている。家庭でも、考えてみてほしい。

(*お子さんに読んであげてください。漢字やひらがなを読めるお子さんには、直接読ませてあげてください。From 山口照美)

みんなが車の前に飛び出しそうになったり、危ない遊びをしたりしているときに、強く怒られたことはありませんか? 私には、4歳の子どもがいます。その子がお店から出る時ときに、ふざけてパッと勢いよく店を飛び出しました。お金を払うため、手を離した一瞬のタイミングです。あわててつかまえ、その場で本気で叱りました。もし、お店の前が車のびゅんびゅん走る道路だったら。歩道でも、自転車がスピードを出して走っていたら。ちょっとぶつかっただけでも、頭を打つと命に関わります。
君達からしたら「なんで大人はそんなに怒るんやろう、大丈夫やったしええやん」と思うかもしれません。でも、大人達は命が二度と帰って来ないことを知っています。大事な人を亡くした経験がある人もいます。「ああ、あのとき注意してやればよかった」「もっと一緒にいたかった」……そう思っても、命が無くなったら二度と会えない。だから、大人達は必死で怒ります。君達を、絶対に死なせたくないと願っているからです。君達とずっと一緒に過ごしたいと思っているからです。でも、大人がどれだけ安全のための努力をしても、みんなが「死なないように行動しよう」としなければ意味がありません。1人で道路を渡ろうとするとき、車が来ていないか確認するのは誰ですか? ――自分しかいませんね。ふざけて教室で追いかけっこをしている人に、どんな声をかけますか?
「注意一秒、けが一生」という言葉もあります。危険を感じるアンテナを立てて、「死なない力」をつけてください。

17年度税制改正、配偶者控除の見直し焦点-女性の活躍促進へ「103万円の壁」

日刊工業新聞電子版 2016年8月19日

有配偶者女性のパートタイム労働者の21%が、年収103万円を超えないよう就業調整
政府・与党は2017年度税制改正の焦点の一つに所得税改革を位置づける。経済財政諮問会議(議長=安倍晋三首相)の民間議員は、配偶者控除や企業の配偶者手当について、年内に見直しの道筋を示すよう政府に提言。政府税制調査会(首相の諮問機関)は9月から本格議論に着手する。労働人口が減る中、働く女性の弊害となっている税制を見直して経済再生につなげる。ただ控除見直し後の税負担の公平性確保など、課題も少なくない。 (編集委員・神崎正樹)
諮問会議の民間議員は「103万円の壁」と言われる配偶者控除や、妻の所得が一定額を超えると支給の対象外となる夫の配偶者手当見直しを提言。中でも配偶者控除は、働く妻を持つ夫の所得税負担の軽減が本来の目的だが、妻の年収が103万円を超えると控除の適用除外となり、夫の税負担が増える。
厚生労働省の「女性の活躍促進に向けた配偶者手当の在り方に関する検討会」が4月にまとめた報告書では、有配偶者女性のパートタイム労働者の21%が、年収103万円を超えないよう就業調整している。配偶者控除や配偶者手当に設けている配偶者の収入制限がネックとなり、女性の能力が十分に発揮されていない。

<専業主婦は増税>
こうした控除・手当てを見直すことで女性の社会進出を促し、所得の増額が消費を喚起する好循環が回り出すことが期待される。
ただ課題もある。配偶者控除を廃止・縮小した際に発生する財源は、子育て支援など若い世帯への歳出を手厚くすることが想定される。子どもが独立した共稼ぎ世帯や専業主婦世帯は増税となる可能性があり、税収中立の原則で税負担の公平性を確保するのは難しい。

<賃金原資維持を>
安倍政権は14年に配偶者控除の廃止・縮小を検討しながら、結論を得られなかった。妻の収入によらず、一定額を控除する「夫婦控除」などの選択肢が浮上しているが、議論は曲折も予想される。
一方、企業が支給する配偶者手当の廃止・縮小は、社員のモチベーション低下を招きかねない。このため厚労省の検討会は報告書で、見直しの留意点として賃金原資総額の維持を指摘。廃止した配偶者手当分を基本給に組み入れた事例などを紹介している。また報告書は労使による真摯(しんし)な話し合い、従業員の納得性を高める企業の取り組みも求めた。
公平・中立な税制・制度をいかに確立するか、政権が掲げる「働き方改革」の行方を占う当面の焦点となる。