「スマホ持ってるのに貧困!?」 バッシングから貧困問題を考えます

読売新聞(ヨミウリオンライン) 2016年9月1日

NHKの「子どもの貧困」のニュースに登場した女子高生が、「本当は貧困ではないのでは?」という疑惑からバッシングされるという問題がありました。

「非の打ち所のない貧しい人」
彼女は「子どもの貧困」に関するイベントで、学費が工面できず進学をあきらめた当事者として発言し、それがニュースにとりあげられました。
カメラは彼女の家に入り、クーラーがないことや、パソコンは買えないのでキーボードだけ買ってもらっていることなどを紹介。実名で登場していたことからSNSのアカウントが特定され、「映画に何回も行っている」「スマホを持っている」ことなどが指摘されて、“炎上”状態となったようです。
それに対して作家・活動家の雨宮(あまみや)処凛(かりん)さんは、「『非の打ち所のない貧しい人』ってどこにいるの?~高校生バッシング、もういい加減やめませんか」と提言しています。
人は人が期待通りの姿でないと失望してしまう。例えば、長年、難民支援や緊急国際支援に携わる人がこう言っていました。
「支援の対象というと、ガリガリにやせてお腹(なか)がポッコリ出ているようなアフリカの子どもを思い浮かべるでしょう。私が初めて紛争後のボスニア・ヘルツェゴビナの支援に入ったとき、最初は印象が違いました。ヨーロッパ系の白人で、石造りの家に住んでいる彼らは、困っているようには見えません。でも深く現地に入れば入るほど、支援を必要としている、悲劇から立ち直れない人たちだとわかりました」
欧州に流入しているシリアなどからの難民も、スマホを持っているそうです。スマホを買えない人からしたら、なぜスマホを持っている人たちが支援の対象なのか理解に苦しみます。しかしスマホは彼らの生命線でもあります。遠くにいる親族と連絡をとり、家族を守るためのツールなのです。

食うや食わず…そうじゃない「貧困」もある
そして「相対的貧困」の問題もあります。
厚生労働省の調査によると、「子どもの貧困率」(2012年)は過去最悪の16.3%。およそ6人に1人が貧困という結果になりました。詳しく言うと、これは全国民の所得を順に並べたとき、ちょうど真ん中に来る値の半分(貧困線)に満たない所得の世帯で暮らす18歳未満の子の割合です。12年は122万円未満が貧困かどうかのラインとなっています。
掲示板サイト・発言小町に「手取り―家賃が8万5000円未満は貧困」というタイトルのトピがありました。
この定義を見かけたトピ主さん。ご自身の「家賃以外の生活費」は7万円とのこと(貯金をしているので定義にはあてはまらない)ですが、7万円でも「普通の生活」を送っているように感じるため、「この定義はどうなのか?」と尋ねています。
レスのひとつを紹介します。
「だって、貯金できず、生活費が本当に7万円しかなかったら、子供を大学に入れられませんよ。大きい病気をしたときに、貯金ができてなかったら、どうなるんです。(中略)結局は、貧困ってそういうことなんです。毎日の生活のレベルのことではないんです。パソコンを買い替えられるか、靴がボロくなったときに買い替えられるか、そういう話です」
日々の生活のレベルで食うや食わず……だけではないんですね。住むところ、食べるもの、基本的なことに事欠くのは「絶対的貧困」です。そういう方もいらっしゃる。そして、日々の生活は何とかなっても、それ以上の出費には事欠いてしまうのが「相対的貧困」。修学旅行とか、進学とか、制服を新しくするとか、そういったことができないわけです。これが今の「6人に1人」の子どもの状態なんですね。
親は自分の靴は買い替えずにボロのまま。でも、子どもは自分のバイト代で好きなライブのチケットを買う――こんなケースは、「困ってないんだから、我慢するべき」なのでしょうか?

貧困の“罪”はあきらめを招くこと
実は相対的貧困って、経済協力開発機構(OECD)が定めたものです。なぜ相対的貧困を世界が注目しているのか、それは湯浅誠さん(社会活動家・法政大学教授)がブログ(「NHK貧困報道“炎上” 改めて考える貧困と格差」)に書いています。
「『ある程度の許容範囲の格差』と『過度の格差』の境界を示すメルクマールが『相対的貧困』だ。これを超える落ち込みを示す人たちが増えると、消費は停滞しますよ、活力はむしろそがれてしまいますよ、社会は不安定化しますよ、と」
格差がゼロの国はないんですね。でも「進学をあきらめる」「病気になったときにどうにもならない」……こんなあきらめを持った人が増えると、社会全体に元気がなくなる。特に若い人がこうなるとたいへんです。
そんな現状を伝えてくれた高校生へのバッシングは、当事者にとって大変つらいことだと心が痛みます。でも、少しでも日本の「貧困」について、知りたいと思う人が増えたらいいなと思っています。
(少子化ジャーナリスト・白河桃子)

給付型奨学金に成績基準検討 文科省、議論の経過公表

朝日新聞デジタル 2016年8月31日

返済のいらない給付型奨学金の創設に向け、文部科学省は31日、議論の途中経過をまとめた資料を公表した。対象者を選ぶ際、一定の成績基準を設けることを検討。基準を満たせなくても、学力向上など優れた成果を収めた場合は学校の推薦で対象に含めることも例示した。
文科省は30日に公表した来年度予算の概算要求で、給付型奨学金制度をつくると明記。予算額は示しておらず、政府内で調整して年末までに対象者数や給付額を詰める。法改正し、2018年度の入学生から利用できるようにする考えだ。
対象は大学、短大、高等専門学校、専門学校生で、児童養護施設の退所者や、生活保護・住民税非課税世帯など年収の低い世帯の学生に限るとした。高校の1学年では、こうした境遇にあるのは約16万人で、うち進学者が対象となる可能性がある。

<虐待対策>小中学校にカウンセラー 文科省、来年度から

毎日新聞 2016年8月30日

文部科学省は30日、児童虐待の早期発見や相談体制強化に向け、虐待対策のスクールカウンセラー(SC)やスクールソーシャルワーカー(SSW)を来年度から新たに小中学校に配置すると発表した。SCは約400校、SSWは約1200校での配置を目指す。人件費の3分の1を自治体に補助し、関連費用を2017年度予算の概算要求に盛り込む。
厚生労働省の調査によると、15年度に全国の児童相談所(児相)が対応した児童虐待は10万3260件(前年度比約16%増、速報値)で過去最多を更新した。
学校は日常的な観察や健康診断などを通じ、虐待や家庭の異変に気づきやすい立場にある。このため、心理と福祉それぞれの専門家であるSCとSSWが、家庭状況が困難な子どもについて教師に代わって家庭訪問をしたり、虐待の情報がある場合に児相との調整役を務めたりする活動などが期待されている。
文科省児童生徒課は「過去の虐待事件では学校が児相に通告した後、児相に任せきりにしていたことがあった。学校と専門知識を持つスタッフが連携し、きめ細かな支援体制を整えたい」としている。【佐々木洋】