不妊治療の実態 体外受精の成功率は3割 かさむ費用、精神的な負担……

ZUU online 2016年9月22日

「不妊治療」は一昔前まで、一部の夫婦だけが受ける特別な治療法のような存在だったが、今はそうではない。
現在、日本では夫婦の6組に1組は不妊治療の経験があると言われている。それくらい不妊治療は重要かつ身近な存在となっている。

2クラスに1人は体外受精児がいる?
厚生労働省の「不妊治療をめぐる現状」によると、2013年の総出生児のうちの2.7%が体外受精による乳児であるというデータがある。この数字は、37人に1人が体外受精による乳児である。学校に置き換えると、1~2クラスに1人はいる計算になるのではないだろうか。
ここから分かるように、現在不妊に悩み、不妊治療を受ける夫婦が増えているということである。
そもそも不妊症は、一般的に「避妊をせず1年たっても子供ができなければ不妊症」と定義されている。健康な夫婦が避妊をせずに夫婦生活を送っていれば、大半が結婚して半年で7割、1年で9割、2年で10割が妊娠するなどと言われているためである。

不妊の原因は?
その原因として、私たちの体質そのものの変化にある。い一例を挙げると、女性側では極度なダイエットによる「排卵障害」や男性側ではそもそもの精子が少ない・作られない「造精機能障害」などが挙げられる。しかし、不妊に悩む夫婦の1/3は「原因不明」であることも現実である。
加えて「晩婚化」による、出産年齢の高齢化も挙げられる。35歳以上の母親の出産割合は、2000年は11.9%であったことに対して、2011年には24.7%と急激に増加している。
女性の「妊娠できる能力」というものは、20代前半をピークに後半から衰え始め、30代後半から低下するとされる。これは女性の加齢とともに卵子も老化し、数も減ってしまうからだ。つまり、通常の夫婦生活を送ることによる自然妊娠が難しくなるということである。

そもそも不妊治療にはどのような種類があるのか
一言で「不妊治療」と言えど、その治療内容にはいくつか種類がある。大きく分けると「一般不妊治療」と「硬度生殖医療」の2種類だ。
まず「一般不妊治療」には「タイミング法」「ホルモン療法」「人工授精」の3つがある。「タイミング法」とは、排卵日のタイミングを予測し、排卵日前後に性行を行う方法だ。この予測には基礎体温や・ホルモン(エストロゲン・黄体ホルモン)の数値・おりものの様子などを参考にする。専門医が、たくさんの情報をもとに予測するため、その精度は比較的性格と言われている。
次に「ホルモン療法」は、妊娠をアシストするホルモンを補ったり、その分泌を促したりするために補ったりする方法。例えば黄体ホルモンや、排卵誘発剤を使った方法がある。主に、排卵障害・造精機能障害・子宮内膜症・着床障害などが原因で不妊に悩む夫婦の治療に用いられる。
そして「人工授精」。タイミング法と同じ様に、排卵日を予測し精子を卵子に入れる方法。主に、不妊の原因が不明・性交障害がある・精子が少ない・運動性が低い・女性が高齢である場合に用いられる。身体への負担が少ないことも特徴である。
大別したもう一種「高度生殖医療」とは、一般不妊治療で妊娠ができない場合・女性が高齢(40歳以上)の場合・卵管がふさがっている場合などに用いられる方法で、「体外受精」「顕微授精」「凍結胚移植」がある。
一般不妊治療に比べ身体への負担や費用が増えるが、自然妊娠が不可能な人にも妊娠できる可能性がある。
「体外受精」は受精を体外で行い、受精・細胞分裂した卵を子宮内に戻す方法。主に人工授精で妊娠ができず、卵巣や精子に問題がある場合に行われる。
そして「顕微授精」は精子と卵子を採取し、体外顕微鏡で見ながら卵子の中に精子を注入し、受精させる方法。体外受精で妊娠しない場合や・精子減少症・乏精子症に悩む夫婦に行われている。
最後に「凍結胚移植」は体外受精させ、胚(生き物の細胞が発生する初期の段階)となったものを凍結する。それを排卵のタイミングで子宮に移植させる方法だ。

不妊治療における問題点
問題としては、まず身体的な苦痛だ。不妊の原因を調べるために、女性はかなりの数の検査を受ける。しかしその分、身体に負担がかかることになる。
例えば卵管が通っているかを検査する「子宮卵管造営(HSG)」。この検査は人によっては、痛みを感じる場合がある。
その他にも、めでたく妊娠できたとしても「多児妊娠」「子宮外妊娠」などのリスクも潜んでいる。
次に「費用」。少ない人は10~30万円程度で済んでいるが、全体の55%が100万円以上の費用がかかっている。治療期間が長引くほど妊娠率は下がり、高額な治療へと方向転換せねばならなくなってしまう。
また「心理的な苦痛」もある。体外受精で妊娠した夫婦の6割は3回までの治療で妊娠していることに対して、約1割の夫婦は10回以上の治療を経てやっと妊娠しているという個人差が存在している。
妊娠を強く望む女性側が特に「周りの人はすぐに授かったのに、どうして自分はうまくいかないのか…」と思い悩む人も少なくない。治療期間が長くなる分、心的ストレスは大きくなり夫婦仲に亀裂が入り、、離婚に発展する場合も少なくない。
そして「男性不妊」。なかなか妊娠しない夫婦では、女性側に何らかの原因があると長らくされてきた。しかし最近ではストレスや生活習慣などが原因で、夫婦生活が成り立たない・精子そのものが作られないなどといった、男性側に原因があることも少なくない。
「男性側の治療に対する消極性」も問題だ。多数の女性不妊の検査を行い、それでも原因が見当たらなかったら、初めて男性の検査が行われる。その検査が「精液検査」。これを屈辱的にとらえる男性が多く、治療や検査そのものを拒否する男性も少なくない。
最後に「成功率」。体外受精による成功率は32.5%。この数字をあなたは多いと思うだろうか、少ないと思うだろうか。たしかに年々成功率は上がってはいる。しかし世界的に見ると、実施数は世界1位なのに対して成功率は世界最低レベルと悪ぎる。

何よりも大切なこと
何より大切なのは、夫婦間でのコミュニケーションや周囲の理解だ。不妊で悩む夫婦は、周囲の何気ない一言で大いに傷つくものだ。不妊治療に頭がいっぱいになって夫婦間のコミュニケーションが疎かになり、意見が違って離婚に至るケースもある。
たしかに不妊治療をしていることを公言する夫婦も多くないため、自分が「周囲」にあると気づかないこともあるだろう。ことに治療には精神的な負担がかかるため、悪気のない一言が苦しめる可能性だってある。そこは想像力が必要だろう。(ZUU online 編集部)

待望の「不妊治療保険」 4つの注意点とは?

ZUU online 2016年9月17日

日本生命は9月5日、不妊治療費用を保障する保険を販売すると発表した 。不妊治療を対象とした保険を発売するのは国内初になる。保険の名は「シュシュ」で10月2日から販売される。待望の不妊治療を保障する保険だ。どこに注意が必要なのかを見ていこう。

不妊治療保険導入の背景
少子高齢化が進展し、社会保障費の負担も増加の一途を辿っている。少子の原因としては、ライフスタイルの変化によって独身者の増加や共働き世帯が増えたことによって出産の機会が減少し、女性の晩婚化も相まって不妊が増えているということがある。
これに対して政府は、少子化対策として待機児童の解消や育休の積極的活用などを掲げており、その一環として今年4月に不妊治療にかかる費用を補償する民間の医療保険を解禁した。不妊治療は健康保険の対象ではないため1回の治療に高額の費用がかかるからだ。
しかし、不妊治療費を保障する場合、それに加入する人は不妊治療をしたいと思っている人なので、保険会社から見てリスクの高い人が集まることになる。また、どのような治療を何回受けるかも加入者の意思に任されるため、保険金の支払いが多くなることが予想されるので保険会社にとってはリスクが高い。そのようなことから、保険会社各社は積極的に商品開発に取り組んでこなかった。
そんな中、日本生命が国内初の不妊治療費用の保険を販売したということは大きな意義がある。もし、日本生命の「シュシュ」の販売が好調ならば他社も追随してくる可能性があるからだ。

不妊治療保険の内容
不妊治療費の保障という点ばかりが注目されるが、この保険(シュシュ)は死亡した場合はもちろん3大疾病(がん、心筋梗塞、脳卒中)についても保障される。さらに、満期時には一時金が支払われる。
具体的には、がん、急性心筋梗塞、脳卒中の3大疾病にかかるか、死亡した場合には300万円が支給される。不妊治療費用の保険は、すでに不妊治療が必要な女性でも加入できる。ちなみに不妊の理由が男性側にある場合も保障される。
保障内容は特定不妊治療(「体外受精」、「顕微授精」)を行った場合に1回目から6回目が1回につき5万円、7回目から12回目が1回につき10万円が支給される。支払い限度は12回なので最大90万円が受け取れることになる。さらに、不妊治療の有無にかかわらず、被保険者が保険期間中に出産をした場合には、出産給付金として、1回目が10万円、2回目が30万円、3回目が50万円と徐々に金額が上がっていき、5回目以降は100万円となる。
満期になると保険期間が10年の場合100万円、15年間の場合150万円、20年の場合200万円が満期給付金として支払われる。ただ、他の給付金が支払われている場合にはその分は差し引かれるのでその点は注意して欲しい。
加入できる年齢は、16歳から40歳までの女性で、保険期間は10年、15年、20年の3種類になる。ただ、31歳から35歳の人は10年と15年のみ、36歳から40歳の人は10年のみになる。したがって、40歳で加入すれば50歳まで保障を受けられることになる。
保険料は年齢と保険期間によって異なり、月払いの場合9537円から1万869 円の範囲なので、保険料はおよそ1万円と考えておけば良いだろう。

どこに注意するべきか?
(1)単独加入できない
今回発売された保険は、「不妊治療保険」だけ単独で加入することはできず、死亡保障なども含まれている。そのため、すでに生命保険に加入している場合には、余分な保険に加入することにならないか注意が必要である。
(2)待機期間がある
契約から2年間は不妊治療費の保障は受けられない。不妊治療ではできるだけ早く治療することが重要なので、すでに不妊で悩んでいる人の場合に2年間支払いを受けることができないというのはネックになる。また、契約から1年以内の出産の場合には出産給付金支払いを受けることができない。したがって、すでに妊娠している人はこの保険に加入しても当該出産では給付金を受け取ることはできないのでここも注意して欲しい。
(3)支払回数に制限がある
「出産給付金」の支払回数には限度はないが、「特定不妊治療給付金」は12回までと限定されている。そのため、治療回数が12回を超えた場合には経済的負担が発生するので、そこは十分に考える必要がある。
(4)年齢制限がある
生命保険なので年齢制限があるのは他の保険と同じであるが、この保険は不妊治療や出産に対する給付金があるので、加入できるのは40歳までに限られている。晩婚化で不妊治療をしている人は41歳以上にも多くいるので、それらの人は加入できないというところは注意が必要である。
「特定不妊治療」は公的な健康保険の対象外で、治療1回あたりの患者負担は30万円以上と高額になる。公的助成制度はあるもののそれでも高額な自己負担は免れない。その意味で民間保険を利用することで月1万円の負担で一定の給付金が支払われるのは助かるだろう。もっとも、上記注意点があるのでその点を踏まえて加入するかどうかは慎重に検討して欲しい。(ZUU online 編集部)

隠される保育事故「裁判しても意味がない」 親たちが署名に走る理由

withnews 2016年9月21日

万が一、保育事故が起きてしまったら――。原因についての調査や、再発防止に向けた取り組みが進むと思うのではないでしょうか。ところが、実際には多くの遺族が「何が起きたのか」を十分に知らされることがないまま、苦しみ続けてきました。何があったかを明らかにし、再発防止のための策を進めたい。そんな思いで、遺族たちが署名活動に取り組んでいます。(朝日新聞社会部記者・仲村和代)

「被害者が完全に置いてきぼり」
8月下旬、東京・上野。保育事故で子どもを亡くした親たちで作る「赤ちゃんの急死を考える会」のメンバーが、街頭に立ちました。
「保育事故をなくすために、署名へのご協力をお願いします」
署名を呼びかけていた須田博美さん(40)は2010年9月、横須賀市が認定した「保育ママ」に預けていた4カ月の長男を亡くしました。ミルクを気管に詰まらせたことによる窒息死。事件性はないとされました。
事故後、須田さんをさらに苦しめたのが、「何が起きたのか」について、納得のいく説明がされなかったこと。警察や行政の調査も、期待していたような内容ではなく、「被害者が完全に置いてきぼり」と感じました。真相を知りたいと14年、市と保育ママを相手取り、民事訴訟を起こします。
「なぜ、息子がこんな状態に置かれたのか。なぜ、見ていてくれなかったのか。環境を明らかにすることで見えてくることがあるはず。少しでも知りたくて、裁判せざるを得なくなった」

裁判起こしてもたどりつけない現実
そんな思いで始めた裁判でしたが、最近は「あまり意味がない」と感じているそうです。相手側が情報を開示する気がない限り、知りたかった事実にはたどり着けないからです。
「赤ちゃんの急死を考える会」には、同じように、真相を知りたいという思いすらかなえられず、苦しむ遺族たちがいます。
真相究明と再発防止に向けた取り組みのためには、何が必要か。議論を重ね、取り組み始めたのが、「認可外保育施設も、日本スポーツ振興センターの無過失保険に加入できるようにすること」を求める署名活動です。

過失がなくてももらえる保険金
署名活動が、なぜ「真相究明」につながるのでしょうか?
日本スポーツ振興センターの「災害共済給付」は、学校などで事故が起きた場合、過失の割合に関わらず保険金が支払われます。
保険に入れる対象は、保育施設の場合、児童福祉法で定められた保育所に当たる施設、つまり「認可保育所」に限られます。昨年からは小規模保育所などにも加入対象が広がりましたが、認可外は対象外です。(認可でも、加入していないところがあります)。
厚生労働省によると、04~15年に保育施設などで起きた死亡事故は174件。うち、7割の120件は認可外保育施設で起きています。
民間の賠償責任保険では、過失の有無によって保険金が支払われるかどうかが決まります。そのため、事業者側が自分たちに過失はなかったと主張するため、事実を隠すケースがこれまで起きていました。
無過失の保険に入れるようにすることで、こうした事態をなくしたいというのが、署名の狙いです。

『誰が悪いのか』ではなく『何が悪いのか』
「『誰が悪いのか』ではなく、『何が悪いのか』を明らかにし、フィードバックできれば、ほかの誰かの命を守れるかもしれない。それが、息子の生きた証しをつなぐこと」
須田さんの活動の根底には、そんな思いがあります。
「事故が起きていないとしたら、現場の保育士が必死で頑張っているから。でも、倫理観や良心だけに頼っている状況では、限界がある。社会として、子どもを守る仕組みを作らなくては」
事故から6年の間にも、多くの命が失われました。その大半は、危険性が指摘され続けているうつぶせ寝や、長時間、保育者が見ていなかったケース。対策さえ取られていれば、「救えたはずの命」です。保育士の待遇改善が進まず、現場が疲弊していることも背景にあると感じています。そんな現状に、むなしさをおぼえることもあるそうです。
「子どもを亡くすことは地獄です。手をつないでいた子が、次に会った時、息もせず、真っ白な状態に直面する親の気持ちをわかってほしい。もしも自分だったらと、一人一人が想像してくれたら、きっと保育現場も変わるんじゃないかと信じています」