給付型奨学金、月3万円軸に…17年度にも開始

読売新聞 2016年10月21日

政府・自民党は、大学生を対象にした返済不要の給付型奨学金について、経済的に苦しい世帯の学生に対し、成績が一定の基準を満たすことなどを条件に毎月3万円を給付する方向で調整に入った。
2017年度中にも支給を開始する方向で検討している。
自民党の給付型奨学金を検討するプロジェクトチームが10月上旬、給付額を「最低でも月額3万円」とする方針を決定。これを受け、文部科学省などが給付額を3万円とする案を軸に詳細な制度設計に入った。
対象者については、大学進学を希望する生活保護の受給世帯や児童養護施設の入所者などを想定している。具体的な成績の基準は調整中だが、仮に基準を下回った場合でも、高校の推薦枠を設けることで貧困世帯の学生を救済する方向だ。

「ママがお年玉を使うから、おもちゃが買えない」記事に反響 読者の善意が母子救う 熊本地震取材

西日本新聞 2016年10月21日

「家族の足しになれば」「仲間とともに集めたお金を届けてほしい」。熊本地震に翻弄(ほんろう)される家族の実情を描いた連載「子どもに明日を 被災地に生きる」を6月に掲載すると、読者から支援の寄付を申し出る手紙や電話が相次いだ。

災害が家庭に、子どもにもたらした深刻な影響を探ろうと、被災地で1カ月間取材を続けた。地震の恐怖から不登校に陥った小中学生、失業して家賃が払えずアパートを追い出された母子…。6回の連載の中で最も反響が大きかった記事が、初回の「息子の貯金崩し生活費」だった。

「ママがお年玉を使うから、おもちゃが買えない」
永田真実さん(31)と長男貴史君(6)、長女優花ちゃん(2)=いずれも仮名=と出会ったのは地震から1カ月余りの5月下旬。炊き出しの列に並ぶ真実さんに、貴史君が「ママがお年玉を使うから、おもちゃが買えない」とぼやいていた。
シングルマザーの真実さんは訪問販売会社の契約社員。養育費はなく、月給14万円で熊本市のアパートで暮らす。地震後、車中泊を続けた結果、優花ちゃんとともに高熱を出した。入院と看病で働けず、収入は途絶えた。学資保険を解約し、子どものお年玉貯金を使って食いつないだ。

「神様っているんだ」少し目を潤ませた真実さん
「愛情を受けてないから育て方も分からない。それでも努力したのに」と地震を恨んだ真実さん。小学生の頃から児童養護施設で育ち、頼れる親族はいなかった。震災が弱い人々を容赦なく追い詰める現実を目の当たりにした。当時、話を聞き、書くことしかできない自分がもどかしかった。
だからこそ読者の気持ちがうれしく、連載終了後に手紙とお金を直接届けに行った。「神様っているんだ」と少し目を潤ませた真実さんは、1時間ほど悩んで何度も書き直したお礼の手紙にこんな言葉をつづった。「いっそ施設に手放した方が幸せになれるのではと悩みましたが、おなかを痛めて産んだ子どもです。あきらめず、育てぬきます」
現在、真実さんは職場に復帰し、生活を立て直しつつある。読者の善意が窮地で折れかけた心を救った。現場と読者をつなぐ新聞の力を改めて実感した。

「130万円の壁」を巡る誤解-2016年10月からの適用要件拡大の意味を正しく理解する

ZUU online 2016年10月20日

要旨
2016年10月から社会保険の適用要件が拡大された。しかしながら、従来から女性の就業を阻害するとされてきた「130万円の壁」そのものについても、10月からの社会保険の適用要件拡大についても、その内容が少なからず誤解されているケースが多い。
そこで、本稿では、社会保険の適用要件拡大に関する代表的な3つの誤解を取り上げ、「130万円の壁」の何が変わるのかについて解説することとしたい。
1つ目は、「130万円の壁」が「106万円の壁」に変わるという誤解である(被扶養者枠の判断基準は130万円のまま)。2つ目は、社会保険の適用が年収(106万円)で判断されるという誤解である(社会保険の適用は月収で判断)。最後の3つ目は、社会保険の適用を判断する月額賃金に、残業代・通勤手当・賞与も含まれるという誤解である(月額賃金は雇用契約上の所定内の賃金)。

「130万円の壁」は10月からどう変わったのか
女性の就業を阻害する制度面の壁としては、配偶者控除(103万円の壁)と社会保険(ここでは年金・健康保険を指す)の被扶養者枠(130万円(*1)の壁)が取り上げられることが多い。配偶者控除については、昨今見直しの議論が活発化しており、見直しの方向性についても選択肢が示されつつある(*2)。一方、社会保険の被扶養者枠については、見直しの声があるものの、その方向性についての議論は停滞しているようにみえる。
社会保険料負担は社員と企業の双方に生じることから、就業調整のインセンティブも双方に生じることになる。この点を踏まえると、社会保険についても、女性の就業の観点から、見直しの議論が広がることが期待されるところである。
ただ、そのためには、社会保険の現行の仕組みを、まずは正しく理解する必要がある。ちなみに、国民年金法等の一部を改正する法律(*3)により、今月(2016年10月)からは、これまでは社会保険が適用されていなかった短時間労働者も、以下の要件(学生は適用除外)に合致すれば社会保険が適用されることになった(*4)。
・所定労働時間が週20時間以上
・月額賃金8.8万円以上
・雇用期間1年以上(*5)
・従業員数501人以上
しかしながら、「130万円の壁」そのものについても、10月からの社会保険の適用要件拡大についても、少なからず誤解されているケースが多く、正しい理解が十分に広がっていないことが懸念される。
そこで、本稿では、社会保険の適用要件拡大に関する代表的な3つの誤解を取り上げ、「130万円の壁」の何が変わるのかについて解説することとしたい(*6)。

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(*1)被扶養者枠の判断基準となる年収130万円は60歳未満の場合であり、60歳以上の場合は年収180万円となる。
(*2)配偶者控除の見直しに関する筆者の見解については、「配偶者控除の見直しは就業への「心理的な壁」を破れるか?-夫への説明ストレスの軽減にも配慮を」を参照されたい。 http://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=42670?site=nli
(*3)公的年金制度の財政基盤及び最低保障機能の強化等のための国民年金法等の一部を改正する法律(2012年8月10日成立、2012年8月22日公布)。
(*4)適用要件の拡大によって社会保険が新たに適用されることになるのは約25万人(厚生労働省資料より)と推計されており、影響は限定的だとされている。
(*5)雇用契約期間が1年未満であっても、雇用契約書に契約が更新される旨、または更新される可能性がある旨が明示されている場合は、雇用期間1年以上の予定として取り扱われる。
(*6)本稿での執筆に当たっては、しゅふJOB総研所長・川上敬太郎氏から貴重な気づきを頂いた。また、制度の内容についてはオフィスモロホシ事務所代表・諸星裕美氏に丁寧にご指導頂いた。ここに記してお礼申し上げたい。もちろん、本稿は筆者の見解であり、本稿に誤りがあればその責は全て筆者に帰する。
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「130万円の壁」が「106万円の壁」に変わるという誤解
「130万円の壁」が「106万円の壁」に変わる、という言い方は厳密には正しくない。社員本人に対する社会保険の適用要件と、配偶者等の被扶養者枠(配偶者等の扶養に入れるかどうか)の基準を分けて考えると、この点に関する誤解を解消しやすくなる。
まず、10月に改正されたのは適用要件だけであり、被扶養者枠の基準は変更されていない(年収130万円のまま)。もともと、社会保険の主な適用要件は、「通常の就労者」(フルタイム勤務)の所定労働時間・日数の概ね3/4以上であることとされてきた。したがって、理論的にはこれまでも、この適用要件に合致していれば(3/4以上勤務していれば)、年収130万円未満でも社会保険が適用されなければならなかった(自動的に被扶養となる意味がなくなるので、被扶養からも外れる)。
つまり、被扶養者枠は、あくまでも国民年金の第3号被保険者や健康保険の被扶養者になれるかどうかの判断基準であり、年1回を目処に健康保険組合等によって判断される(*7)。一方、適用要件は社会保険を適用しなければならない(社員にとっては勤務先で厚生年金保険や健康保険に加入しなければならない)基準であり、被扶養者枠に入っているかどうかにかかわらず、適用要件に合致していれば社会保険が適用される。
結果として、所定労働時間・日数および今回新たに新設された適用要件に合致しているかどうかによって、社会保険の被保険者区分は図表のように分かれることになる。図表のうち、〇で囲まれた部分が、今回の改正による変更部分である。
図表 http://www.nli-research.co.jp/files/topics/54121_ext_15_3.jpg?site=nli

注1:適用事業所(法人事業所又は法定の16業種を営む5人以上の個人事業所)以外の事業所で働く場合には、労働時間等にかかわらず、被用者保険適用の対象外となる。
注2:臨時に日々雇い入れられる者や季節的業務に従事する者等を除く。
注3:国民年金の被保険者は、原則、20歳以上60歳未満(第2号被保険者は70歳未満)の方が対象となる。医療保険の場合は、原則、75歳未満の方が対象となる。
注4:健康保険の扶養は配偶者に限られない。親の健康保険の扶養に入り(健康保険被扶養者)、自身は国民年金第1号被保険者というケースもある。
資料:厚生労働省資料に、一部筆者が追記。
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12500000-Nenkinkyoku/hishokenshakubun.pdf

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(*7)年収が被扶養者枠内かどうかについて、途中で変更があれば変更の届け出が求められる
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社会保険の適用が年収(106万円)で判断されるという誤解
被扶養者枠は年収によって判断されるが、適用要件については、もともと賃金水準は判断基準に含まれていなかった(所定労働時間・日数が3/4以上であれば基本的に適用)。改正により、所定労働時間・日数が3/4未満であっても、「週20時間以上、月額賃金8.8万円以上」等の要件に合致すれば、社会保険が適用されることとなった。
被扶養者枠の判断基準と混同して、適用要件の月額賃金8.8万円も年収ベースで判断されるのではないかと誤解されがちであるが、適用要件の判断の拠り所となる「8.8万円以上」はあくまでも月収(月額賃金)であり、年収ではない。月額賃金8.8万円以上の社員が社会保険を適用され、結果として年収が106万円未満となったとしても、税金のように還付されることはなく、既に支払った社会保険料は戻ってこない。

社会保険の適用を判断する月額賃金に、残業代・通勤手当・賞与も含まれるという誤解
社会保険料の算定基礎となる標準報酬月額には残業代や通勤手当が含まれる(*8)。また、被扶養者枠の判断基準についても、基本的には前年(1月~12月)の収入を証明するものを求められることが多いので、残業代・通勤手当、さらには賞与が含まれることになる。
しかしながら、改正によって拡大された適用要件に合致するかどうかを判断する月額賃金は、残業代・通勤手当・賞与を含まない「所定内の賃金」であり、雇用契約書等に記載されている予め決まった額が基準となる。あくまでも社会保険を適用すべきかどうかを判断するためのものであることから、わかりやすさ、明確さが重視されたと考えられる。
社会保険の被保険者区分の判断は、今回の改正でより複雑になっており、前述したように正しい理解が十分に広がっていない懸念がある。しかしながら、社員が自分自身の働き方を選択するうえで、企業が法令を遵守しながら社員の労働条件を検討するうえで、さらには女性の就業の観点から社会保険の仕組みについて議論していくうえでも、制度の正しい理解は不可欠である。本稿がその一助となれば幸いである。

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(*8)賞与は標準報酬月額に基本的には含まれないが、年4回以上支払われる場合には含まれる。
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【参考URL】
厚生労働省「平成28年10月から厚生年金保険・健康保険の加入対象が広がります!(社会保険の適用拡大)」
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/2810tekiyoukakudai/

松浦 民恵(まつうら たみえ)
ニッセイ基礎研究所 生活研究部 主任研究員