大手メディアが伝えていない「荒れる少年の貧困」――ヤクザの取り立てに怯え、盗んだバイクで走り回る…

週刊SPA! 2016年10月28日

国会でも安倍総理と民進党・蓮舫代表との間で議論が応酬され、注目を集める「子供の貧困」。虐待、飢え、いじめなど多くの問題を抱える子供らの声を取材した。

少年の荒れた貧困の実態
「婆ちゃんが『これだけは捨てられない』って聖教新聞を取っとくから、足の踏み場がないんですよ」
そう案内された良太さん(仮名・17歳)の家は築40年はたとうかという平屋の住宅。玄関を開けると、脂のこびりついた台所の奥に2間の四畳半が見えた。
「家賃は3万円。自分はベッドで婆ちゃんは下で布団を敷いて寝ています。物心ついた頃からずっと」
「子供の貧困」が社会問題となっている。子供の貧困とは国による基準の貧困ライン(4人世帯では年収約244万円未満。相対的貧困ともいう)で暮らす18歳未満の生活状況を指した言葉だ。この指数が子供の6人に1人に及ぶ事実を受け、8月には『NHKスペシャル 子どもの未来を救え』が放映。出演した“貧困女子高生”をめぐり、ネット上で賛否両論が巻き起こったことも記憶に新しい。
だが、休日に深夜徘徊する少年少女を取材していると、大手メディアが伝えていない子供の貧困に遭遇することが少なからずある。いわば“荒れる貧困”ともいうべき、子供の貧困問題を取材した。
そこで出会ったのが冒頭で紹介した良太さんだ。東京近郊に住む彼の家を訪ねたところ、雑然とした一室で祖母が声を漏らす。
「今も後悔しているんですが……良太が警察のご厄介になったとき、とても抱えきれなくなって児童相談所に預けたことがあるんです」

ヤクザの怒号が響き渡ったある夜
良太さんが祖母に引き取られたのは、2歳になる頃だった。離婚した両親の顔は覚えておらず、親権を持つ母親は「病気で入院している」と聞かされ、祖母が受給する最低額に近い生活保護費と児童手当の月十数万円のみで育った。
「でも基本、婆ちゃんが3食作ってくれたし、腹をすかせた記憶はないです。みんなが持ってるDSをねだったときも内職して買ってくれた。でも、中学に上がる頃かな? 晩飯が卵かけご飯だけとかカップラーメンが増えたのは」
その理由となった出来事がある。深夜、ドアが乱暴に叩かれた。「良太は寝てなさい!」と祖母に諭され、布団に包まると、母親の名を叫ぶ男の怒声がした。
「実は母親、ヤク中で薬物更生施設にいたんですよ。でも、退院したタイミングにツケで覚醒剤を買ったらしくて、ヤクザの取り立てでした。結局、婆ちゃんが内職で貯めたカネは残らなかった」
翌日、良太さんに自宅近くを案内してもらった。かつて荒れた思春期に盗んだバイクで走り回っていたエリアで、胸にある和彫りの入れ墨もその頃のものだという。
「婆ちゃんから盗んだカネで買った脱法ドラッグをキメてツレとバイクを乗り回したりしてた。このタトゥーはいわば友情の証しだよ」
今も地元の友達とは「肉親以上」の関係。道中では良太さんと同じ金髪でタトゥーを入れた少年が何人も親しげに声を掛けてきた。
「でも、カネが欲しくて盗んだバイクのパーツを売ったり、同級生に無理やりカネ貸して利子倍にしたり……あいつらにも迷惑かけたなぁ。今、婆ちゃんが宗教にハマったのも自分のせいだと思ってる」
祖母の孫に対する生活保護の扶養義務が外れる来年、良太さんは資格試験に挑戦する予定だという。
「婆ちゃんのためにもぶっちゃけ金持ちになりたい。でも俺みたいなヤツに仕事なんてないんだよな」

カネと名誉で釣り介護士・保育士を確保…政府が「下品極まりない」叙勲利用を実施へ

Business Journal 2016年10月30日

政府は9月16日、叙勲や褒章など栄典制度のあり方を見直すための「中期重点方針」を閣議了解した。同制度については、3月8日付本連載記事『ナンセンスすぎる春秋の叙勲・勲章、呆れた内幕…受賞者の7割は公務員、功績無関係』でいかに功績に関係なく受章者が選ばれているかを取り上げ、見直しに当たっては功績があった一般の人々が対象になるように制度設計を変更すべきと指摘した。政府は今回、どのような見直しを行ったのだろうか。
日本には栄典の具体的な制度として、叙勲制度と褒章制度があり、春秋の年2回授章が行われる。叙勲は各界各層のあらゆる分野において国家や社会に対して功労のあった者を幅広く対象とし、褒章は特定分野についての善行を表彰する。俳優や芸術家が紫綬褒章を受章するとニュースになるので、褒章は比較的に馴染みがあるのではないだろうか。叙勲の受章年齢は原則として70歳以上、褒章の受章年齢は原則として55歳以上となっている。
叙勲受章者の割合を見ると、国家・地方の公務員、公務員に準ずる職を合わせると7割を超える。つまり、功績の有無など関係ないのだ。叙勲は各省庁の長が内閣府賞勲局に推薦し決定する仕組みなので、政治家や役人は叙勲を受けやすい仕組みができ上がっており、“お手盛り”の制度となっている。
だが、役人も政治家も公僕であり、国民の役に立つのが仕事。その仕事の対価として俸給を得ているわけであり、叙勲の対象とするのは本末転倒ではないか。公務員のなかでも、本当に功績があった人が受賞するよう変更が必要だ。加えて、本当に意味のある叙勲制度にするためにも、民間人で国家や社会に役立っている人々を細かくフォローし、受賞者を選定していく必要がある。

保育士から年間100人の叙勲受賞者
今回の見直しでは、授与分野の見直しが行われ、重視していく民間分野が打ち出された。さらに、この重視していく分野に対して授与数の目標が設定された。また、候補者の選考・推薦方法、功績評価の見直しも行う方針だ。重視していく分野としては、以下の民間分野が挙げられている。
(1)自治会、町内会等の地縁に基づいて形成された団体において功績を挙げた者
(2)商工会議所、商工会、商店街等において地域コミュニティや地域づくりを支える功績を挙げた者
(3)日系外国人、日本で活躍する外国人、日本に進出した外国企業の経営者等を含む我が国や我が国社会に対して功労のある外国人
(4)新たな産業分野を開拓した企業経営者や地域経済の活性化等に貢献した中堅・中小企業経営者
(5)公益法人等の公益的な活動を行う民間団体において功績を挙げた者
(6)保育士、介護職員等の少子高齢社会を支える業務において長年にわたり功績を挙げた者
(7)各省横断的な政策分野で功績を挙げた者、地域において多くの分野で功績を挙げた者など、各省各庁の長から推薦されにくい功労者
確かに、かなり民間人の受賞者を増やすことに配慮したものになっている。しかし、漠然とした「功績を挙げた者」「功労のある者」では、あまりにも具体性がなく、授章基準が曖昧だ。
そのようななか、妙に具体的で目につく項目がある。(6)の保育士、介護職員等の少子高齢社会を支える業務において長年にわたり功績を挙げた者という項目だ。安倍晋三首相が「一億総活躍社会」のなかで柱として掲げている「待機児童ゼロ」と「介護離職ゼロ」対策として、給与の引き上げ・待遇改善により従事者を大幅増員しようと躍起になっている保育士と介護職員が、叙勲の重点分野として盛り込まれているのだ。
その上、叙勲の授与数の目標として「重視していく分野のうち、自治会、町内会等の地縁に基づいて形成された団体において功績を挙げた者や保育士については春秋叙勲において毎回おおむね50名を目標に段階的に授与数の増加を図る」としている。つまり、保育士については年間100人の叙勲受賞者を出すという目標だ。
もちろん、社会に功績のあった保育士・介護職員が叙勲することに問題があるわけではない。しかし、「カネ(給与の引き上げや待遇改善)」に続いて「名誉(叙勲)」によってこれら職業の人々を増やそうというのは、いかにも政治家的発想ではないか。まるで、馬の鼻先に人参をぶら下げれば、職の担い手が増えるとでも思っているのかのようである。
時の政権が政策を実現、成功させる手段として、「叙勲」という手段を利用しようとしていることは問題といえよう。
(文=鷲尾香一/ジャーナリスト)

インフルエンザ予防接種はどこまで有効か

東洋経済オンライン 2016年10月29日

少しずつ寒さが増していく季節。早くも一部でインフルエンザが流行して、学級閉鎖に追い込まれた学校もあります。「インフルエンザの予防接種を受けておきたい」「自分の子どもにも受けさせておきたい」と考えている人も少なくないでしょう。
ところで、そんなインフルエンザの予防接種で受けるワクチンの有効率はどのくらいだと思いますか?

インフルエンザワクチンの有効率は低い
「80~90%以上は効くだろう」と思われる人もいるのではないでしょうか。麻疹風疹混合(MR)ワクチンや、おたふくかぜワクチンは、それぞれ95%以上、90%以上の有効率がありますが、インフルエンザワクチンの有効率は低いのです。
文献をまとめたものでは、インフルエンザワクチンの効果は、日本では小児で25~60%と、成人で50~60%とされています。厚生労働省のホームページには、乳幼児においては、「おおむね20~50%の発病防止効果がある」とされています。また、「乳幼児の重症化予防に関する有効性を示唆する報告も散見されます」とあります。
拙著『小児科医は自分の子どもに薬を飲ませない』でも触れていますが、そもそも、インフルエンザの予防接種の効果(有効率)を調査するのは、とても難しいとされています。年により流行するウイルス株が異なり、ワクチン株の構成も異なり、地域によっても流行状況が異なるからです。 私は小児科専門医です。当院においても、毎年インフルエンザの予防接種を実施していますが、あまりやりたくはありません。なぜなら、親御さんへの説明に手間がかかるからです。インフルエンザの有効率で、親御さんが期待する数値と、実際に予想される数値にかなり開きがあるのです。これは特に、1~2歳のお子さんを連れて、初めてインフルエンザの予防接種に来た親御さんに顕著な話です。
乳児や1~2歳で、初めてインフルエンザの予防接種を受けに来るのは、今まで実際にインフルエンザにかかったことのないお子さんが大多数となります。つまり、それらのお子さんは、インフルエンザウイルスに対して、体の免疫の記憶(貯金)がほとんどありません。そのような状態で、体に外から免疫を植えつけようとしても、なかなか効果が上がらないことは想像できるでしょう。大人でさえ、有効率は50~60%なのですから、生まれて間もない、免疫の力がまだまだ未熟な赤ちゃんや2歳くらいまでのお子さんは、もっと確率が低いだろう……と考えることもできます。

現場ではどう話すのか
実際に、私は診察室で親御さんに対して、次のようにお話しします。「乳児の場合、発症を防ぐ効果ははっきりせず、重症化を防ぐ効果はあるかもしれないという程度です。保育園に入園されていて、ご希望が強ければ接種します」「1~2歳の場合、いろいろな調査報告がありますが、有効率はおそらく20%くらいかもしれません。平たく言えば、“効いたら、ラッキー”というくらいですよ」多くの場合、親御さんはその話を聞いて驚きます。
そして、それでもよいと納得されれば接種するようにしています。
ちなみに、インフルエンザの予防接種は任意接種です。自費診療の部類に入るため、接種しない限りは料金をいただくことができません。それでも、インフルエンザワクチンについては、「しっかり効く」「受けさえすれば安心」という間違った思い込みを持つ人が多いのです。

「先生のお子さんだったら、どうします?」
ワクチンに関する考え方は、小児科医の間でも見解が分かれています。それだけに、不安を覚えるお母さんお父さんも多いかもしれません。そこで、予防接種について話がわかりそうな医者で、特に子どもがいそうな場合に、本音を聞き出すのに有効な質問は、「先生のお子さんだったら、どうします?」です。
医者だって人間です。わが子が大切ですし、いちばんかわいいと思っています。自分が持っている知識と経験を総動員して、一生懸命に子どものことを考え、その時点でベストと考える決断をするはずなのです。だからこそ、本音を聞き出せるでしょう。
この質問は、私が実際に親御さんに聞かれると困ってしまう質問のひとつに入ります。なぜなら、お答えするのに話が長くなりますし、保育園をなるべく休ませたくないという親の都合を含めて、接種を受けさせている部分もあるからです。
私は、大多数が「ワクチン推奨派」の小児科医の中において、どちらかと言えば慎重派であり、親の意見を聞きすぎる傾向にあります。ただ、価値観がますます多様化している中で、言われるがままではなく、わが子の予防接種をどうするかを真剣に悩んでいる親御さんの判断の助けになればと思い、本音を吐露させていただきました。