「子供の貧困」を放置すると、中卒の子供が4倍に

文春オンライン 2017年2月20日

現在、6人に1人の子供が貧困という日本社会。これを放置すると、年間約40兆円が失われ、国民一人ひとりの負担が増える――。
日本の最重要課題である「子供の貧困」を、データ分析、当事者インタビューなどで多角的に論じた『徹底調査 子供の貧困が日本を滅ぼす 社会的損失40兆円の衝撃』の著者、日本財団子どもの貧困対策チームがポイントを解説する。

ある高校生は、生活保護を受けており、塾に通う経済的な余裕がなかった。中学2年生の時に行政から生活困窮世帯向けの無料学習塾を紹介され、大学生ボランティアと必死に受験勉強を重ね、希望の高校に進学することができた。ただ、夢である保育士になるために大学進学を希望してるものの、その進学費用を賄う目処は立っていない。
また、ある大学生は、父親が家庭内暴力をふるい、母親が育児放棄かつアルコール依存症という家庭で育った。居場所を求め非行に手を染めたこともあったが、福祉職員の勧めで自立援助ホームに入ったことを契機に福祉系の大学を志す。しかし、勉強時間を確保し、進学費用を賄うためには、短時間で多く稼げる風俗に手を出すほかなかった。今は、無事に大学に合格し、将来の夢は自分と同じような境遇にある人を支援することだという。
こんな子どもたちが抱える「貧困」の問題。今まさに、子どもの貧困問題が日本で深刻さを増している。子どもの貧困率は16.3%にのぼり、実に6人に1人の子どもが貧困状態に陥っている。ひとり親家庭だけでみれば、2人に1人という割合だ。OECD諸国で比較しても日本は下位グループに属する。
そんな日本において最大の課題は、親世代の貧困が子ども世代の貧困を生む、貧困の連鎖(世代間再生産)だ。家庭の経済格差が子どもたちの教育格差を生み、将来の所得格差を生んでいる。つまり、子どもの貧困問題を放置すれば、低所得層の拡大を招き、国内市場の縮小や財政収入の減少を招くことが想定されるのだ。
「子どもの貧困」と聞くと、どこか遠い国の話題と感じる人も少なくないだろう。もしくは貧困を乗り越えるのは自己責任だと唱える人も多くいる。しかし、子どもの貧困問題は我が国の経済問題であり、当事者のみならず、すべての国民に関係する「あなた」の問題なのだ。
上記のような問題意識のもと、日本財団子どもの貧困対策チームは、0~15歳の貧困世帯の子どもについて、子どもの貧困問題を現状のまま放置した場合(現状放置シナリオ)と、何らかの対策をうった場合(改善シナリオ)で、彼らの学歴や就業形態、ひいては生涯で得られる所得や支払う税金・保険料(=政府の財政収入)にどれだけの違い(社会的損失)が生まれるかを算出することで、子どもの貧困問題がもたらす経済的影響を推計した。
まずは、最終学歴別人口の違いをみてみよう。中学卒業者数でみると、改善シナリオでは11万人、現状放置シナリオでは47万人となっており、現状を放置してしまうと、何らかの対策を講じた場合に比べ4倍以上の子どもが中卒のまま社会に出てしまうことになる。我が国の場合、学歴は生涯所得に大きな影響を与えることから、中卒の彼らが貧困の連鎖に苦しむ可能性は高いといえよう。
次に、職業形態別人口の違いをみてみよう。非正規社員でみると改善シナリオでは48万人、現状放置シナリオでは53万人となっており、現状を放置してしまうと、何らかの対策を講じた場合に比べ1.1倍以上の子どもが非正規社員として働くことになる。学歴の低さに加えて、非正規社員のような低所得かつ不安定な職業についてしまうと、貧困の連鎖は益々拡大していくことだろう。
では、彼らが生涯で得る所得、支払う税金・保険料(=政府の財政収入)でみると、どうだろうか。所得、税金・保険料双方について両シナリオの差分(社会的損失)を計算すると、所得は約43兆円、財政収入は約16兆円という推計結果を得た。43兆円とは国家予算の半分に匹敵する規模であり、その影響は甚大である。また、推計対象の世代を広げれば、この数値は何倍にも膨れ上がっていく。子どもの貧困対策は、単なる社会問題ではなく、日本の成長戦略の礎をつくる政策として立案されるべきものなのだ。
本書では、これら推計の詳細な解説はもちろんのこと、冒頭で紹介したエピソードを盛り込んだ当事者へのインタビューを紹介している。また、問題の実態だけでなく、対策についても国内外の先進事例を盛り込んだ。
本書刊行後、大学等の研究者・専門家からNPO等の現場の支援者まで幅広い方から温かい評価をいただいた。本書を契機として講演や寄稿、取材の依頼を多くいただき、改めて本問題への関心の高さを感じている。著者一同、本書を多くの方に読んでいただくことで、子どもの貧困問題を「ヒトゴト」でなく、「ジブンゴト」としてとらえる人が少しでも増えるよう願っている。

日本財団 子どもの貧困対策チーム
深刻化する子どもの貧困問題に対応する専任部署として日本財団に2015年より設置。同年12月に「子どもの貧困の社会的損失推計レポート」を発表し、子どもの貧困を放置した場合の経済に与える影響を日本で初めて試算した。
・活動の詳細
http://www.nippon-foundation.or.jp/what/projects/ending_child_poverty/

「インターネット赤ちゃんポスト」を実際に利用した人たち…養子に出す側&迎える側の事情

週刊SPA! 2017年2月20日

6歳未満の子供を戸籍上の我が子として迎える「特別養子縁組」。これをあっせんするウェブサイト「インターネット赤ちゃんポスト」が波紋を広げている。取材を進めると、これまでの養子縁組制度の問題点が見えてきた。

課題山積の「養子縁組」。当事者たちの本音に迫る!
「産んでくれたら最大200万円援助します」
大阪市のNPO法人「全国おやこ福祉支援センター」が「インターネット赤ちゃんポスト」と称する自身のサイトに掲げた一文が波紋を広げている。赤ちゃんを育てられない親と、養親希望者とのマッチングをネット上で呼びかけるこの行為に対し、「命を商品化している」「営利目的では?」などの批判が殺到しているのだ。
また、昨年9月には千葉県の民間事業者が「100万円払えば優先的に養子をあっせんする」などとして、現金200万円以上を受け取り、実母が養子縁組の同意を撤回したにもかかわらず、子供を返そうとしなかったとして、社会福祉法に基づき、業務停止命令が出された。養子縁組をめぐって、トラブルが相次ぐのはなぜか。
そもそも多くの児童相談所や民間業者を利用する場合、養親希望者は「子供が欲しい理由」などの書面を提出、さらに講習を受け、面談といったプロセスを経る必要がある。そのうえで、どの子が選ばれるかは法人側が決めることになっている。
だが、「インターネット赤ちゃんポスト」では、養親希望者は年齢、職業、年収、貯蓄などの基本情報をメールや電話で事業者に伝え、3000円の登録料を支払うだけで登録が完了する。生みの親はそれらの情報をもとに、子供を託す相手を選ぶだけの簡易的なシステムだ。
一連の批判について当事者はどう思っているのか。「全国おやこ福祉支援センター」代表理事の阪口源太氏に話を聞いた。
「200万円援助という表現は問題提起のためにあえて使いました。営利目的? ありえません。私たちは役員報酬ゼロで働いています。今の養子縁組はスピード感に欠けています。ビジネスのように合理性を導入すべきだと思いますね」

“手軽さ”に惹かれて……。ネット養子縁組にすがる親
そもそも「ネット養子縁組」の利用者たちはなぜこのサイトを選んだのか。記者の待つ喫茶店に姿を現したのは「今年4月に出産予定」と言う高橋さおりさん(仮名・30歳)。髪を明るく染め、ピンクのバッグを肩にかけた彼女のお腹は、現在妊娠8か月だという。
「友達から紹介されて働き始めたキャバクラで複数のお客さんと関係を持っちゃって。妊娠に気づいたときには全員と連絡が取れなくなって……。当然、仕事も辞めざるをえず、一度は中絶することも考えました。ただ、前に一度、結婚したときに子宝に恵まれなくて。『せっかく授かった命なのだから……』と、両親とも相談した結果、養子に出すことを決めました」
彼女なりの切実な思いを語る高橋さんだが、当初は心療内科に通うほど精神的に参っていたという。
「一時期は誰も頼れず、部屋で一日中、泣いていました。そんなときテレビで『インターネット赤ちゃんポスト』を見て電話しました。1か月15万円の生活支援だけでなく、精神的な支えを得られたのも大きかったです。今も毎日、LINEで相談を聞いてもらってます」
一方、養親の側にも話を聞いてみた。都心から電車とバスを乗り継ぎ1時間ほどの郊外に住む藤本英樹さんと妻、美紗子さん(ともに仮名・46歳、42歳)は5年前に結婚、昨年7月に生後1か月の男児を養子として迎えた。
「不妊治療を何年もしたうえで養子縁組をする年齢的、金銭的余裕はなかったので、すぐに養子をもらう決断をしました」(英樹さん)
だが、そんな決断をした2人の前に思わぬ壁が立ちはだかる。
「多くの団体が養親候補者に“45歳以下”や“結婚3年以上”などの条件を設けていたんです。それで10件近くの民間団体に養親登録を断られたときには、晩婚化のこの時代になぜ……と、とてもショックでした」(美紗子さん)
厚生労働省のガイドラインでは養親の年齢を「子供が成人したときに概ね65歳以下となるような年齢が望ましい」とされている。そのため、多くの団体ではいまだに年齢制限を設けているのだ。その後、「インターネット赤ちゃんポスト」と出合った英樹さん、夫婦の情報をメールしただけですぐ養子を受け取ることができたという。

養子縁組後進国・日本、法整備が進まない背景
スピード重視で手軽に利用できる「インターネット赤ちゃんポスト」。しかし、その姿勢に対し、他の養親から疑問の声が上がっているのも事実。9年前、民間事業者から生後2週間の女児を迎えた藤田真弓さん(47歳)は養親たちの覚悟を疑問視する。
「私の場合、1年の不妊治療を経て、養子縁組を利用しました。すぐに代表者との面談がありましたが、登録には赤ちゃんの名前候補といった書類を何枚も提出するなど、多くのプロセスを踏みました。養子は母子の一生に関わることです。実際、私も面談などされましたし」
なぜ日本で養子縁組文化は普及しなかったのか。NPO法人「フローレンス」代表の駒崎弘樹氏は「日本では施設養護文化が過度に根づいている」と解説する。
「戦争で親を失った多くの孤児たちを飢えさせないために建てられたのが養護施設です。政府は児童福祉問題の対応を施設に任せきりで、特別養子縁組などの政策を採ってこなかったのです」
こうした事態を受け、昨年12月には民間事業者を取り締まる「養子縁組あっせん法案」が成立。法案に携わった民進党の牧山ひろえ議員に内容を聞いた。
「法案には2つの柱があります。まず悪質業者の排除に向け、届け出制から都道府県の許可制になったこと。営利目的でないこと、情報の適切な管理などが条件に含まれます。もうひとつは許可を受けた団体に国や自治体から財政支援できるようにしたことです」
しかし、今回の法案は「骨組みにすぎない」と、駒崎氏は言う。
「具体的な補助金の金額や施行の時期など詳細は今後の政省令で定めます。なので、まだまだ心配は尽きませんが、今回の法案成立を機に養子縁組が社会インフラとして保育所や病院のように事業として営めることを期待しています」
【駒崎弘樹氏】

地域共生社会へ向け工程表を発表 公的サービスに依存しない社会めざす

福祉新聞 2017年2月20日

厚生労働省は7日、地域住民と社会資源がつながりを持つ「地域共生社会」の実現に向けた5年間の工程表を発表した。介護保険など公的サービスの担い手不足を背景に、住民や専門職を有効活用することが狙い。小さな圏域ごとに生活課題を発見し、解決する体制づくりを市町村に求める。その体制づくりを促すため、社会福祉法、生活困窮者自立支援法などを順次改正する。公的な福祉サービスだけに依存しない社会を2020年代初頭には実現したい考えだ。
工程表は省内幹部で構成する「我が事・丸ごと地域共生社会実現本部」(本部長=塩崎恭久・厚労大臣)が同日決めた。塩崎大臣は昨年7月の同本部発足時から、「地域共生社会は今後のさまざまな福祉改革のコンセプトだ」と強調している。
同日、国会に提出した介護保険法等改正法案には、地域共生社会関連として社会福祉法、障害者総合支援法、児童福祉法の改正事項を盛り込んだ。17年度から21年度までの5カ年に及ぶ改革の第一歩を踏み出した。
社会福祉法には、地域福祉の理念に「地域住民による生活課題の把握、専門機関との連携」を追加した。また、市町村の努力義務として「生活課題の解決に向けた体制整備」を規定した。
市町村が同法に基づいて作る地域福祉計画は策定を努力義務にする。現在、市町村の約7割が策定済みだが、福祉の各分野に共通の事項を追加することで他の福祉計画の上位に位置付ける。
訪問や通所の福祉サービスは、縦割りの規制を緩和する。例えば、障害者総合支援法の事業として指定された事業所が、介護保険法でも指定を受けやすくなるよう特例を設ける。児童福祉法も同様だ。特例に基づく事業所を「共生型サービス事業所」と呼ぶ。
現在、事業を始めるには各法の人員配置や利用者数などの基準を満たし、自治体から指定を受けることが必要だ。しかし、人口減により職員や利用者を基準通り確保できない地域もあり、柔軟な扱いが求められていた。
これらは6月18日までの今国会で成立を目指す。施行は18年4月1日。社会福祉法に追加した「市町村による体制整備」については、全国的に整備する方策を施行3年後に見直す規定を盛り込んだ。
厚労省が唱える「我が事」は「他人事」の反対語で、住民同士のつながりを重視する。日常の困りごとに気付き、解決につなげようというものだ。
「丸ごと」はその気付きを受け止める側の体制を指す。年齢や障害の有無で縦割りになった制度の狭間に、困りごとが放置されないよう相談機関同士の連携を強化する。
社会福祉法改正で促す「市町村による体制整備」は、住民同士が交流するための拠点を設けること、住民自らが相談に応じることなどを想定する。
「我が事」の意識づくりや、「丸ごと」に関係するのは地域包括支援センター、社会福祉協議会、民生・児童委員など。新たな相談機関は設けない。
16年度からのモデル事業や、生活困窮者自立支援法の見直し(18年)を経て既存の相談窓口を機能強化する。
また、専門職不足も深刻なことから、保健医療福祉の国家資格は、17年度から共通基礎課程の創設を検討し、21年度をめどに導入する。複数の国家資格を取得する際に、類似した課程を重複して学ばずに済むよう合理化し、人材を有効活用する考えだ。