児童相談所=悪なのか? 知られざる一時保護所の実態

ニューズウィーク日本版 2017年2月23日

<10カ所の児童相談所を訪問し、100人以上の関係者に取材し、2つの児童相談所に住み込んだ著者が客観的視点でまとめた『ルポ 児童相談所:一時保護所から考える子ども支援』が突きつける現実>
『ルポ 児童相談所:一時保護所から考える子ども支援』(慎 泰俊著、ちくま新書)は、そのあり方自体を否定されることも少なくない児童相談所の実態を、客観的な視点に基づいて明らかにした新書である。
といっても、著者の本業は途上国の貧困層の人々のための信用組合の運営であり、つまりこの問題の専門家ではない。しかしライフワークとして、子どもを支援するNPO法人の活動も続けているというのだ。
ちなみに、その背後にあるものは、決して裕福ではない環境に育ったこと、そして中学生時代に「生意気だ」という理不尽な理由から受けた先輩からの暴力に起因しているのだという。また、自身の出自についてはこんな記述もある。
両親は朝鮮人ですが、私は日本で生まれ、日本で育ちました。生まれた時に私が親から受け継いだのは朝鮮籍といって、これは戦前に朝鮮半島からやってきた人々につけられた記号で、国籍ではありません。日本に愛着はあり、日本の子どもたちを支援する活動をしていますが、自分の生まれた境遇を否定するわけにはいかないと思っていますので、朝鮮籍のままです。(中略)私に「人は生まれながらに平等であり、みなが自分の境遇を否定することなく、自由に自分の人生を決められる機会が提供されるべきである」という信念を抱かせているのは、こうしたバックグラウンドによるものだと思います。(20~21ページ「序章『一時保護所』とは、どういう場所なのか」より)
単純に考えれば、国籍や人種の問題と、児童相談所の話との間に共通点はない(私も個人的に、人種がパーソナリティに影響するものであるはずがないという考えを持っている)。しかし著者は、本書に登場する子どもたちが感じている不安や不満に、自分と共通するなにかを感じ取ったのだろう。
注目すべき点は、そんな著者が、全国約10カ所の児童相談所を訪問し、100人以上の関係者にインタビューし、2つの児童相談所に住み込みをして本書を書いているという点である。人種問題や家庭環境など、表層的な部分だけを拠り所にして無責任な否定論を展開する人たちには、絶対にできないことだと感じる。
そして実際、多くの子どもたちから話を聞くことによって、それまで児童相談所や一時保護所(児童相談所のなかの施設で、非行少年、被虐待児、児童養護施設や里親家庭に入る前の子どもが「一時的に」いる場所)についてほとんど知ることがなかったという著者は、多くの事実を知ることになる。
「二十年前の当時、そこの一時保護所はひどい場所でした、毎日が体罰です。たとえば、午前中ずっと体育館を雑巾がけさせられます。また、先生と話していたら、『目を見て話せ』と馬用のムチで叩かれたりします。 私から見て、特に理由があって体罰があるようには思えませんでした。朝礼の時間に、『お前ら夜に話していただろう。うるさかったぞ』と言われ殴られたりします。夜の就寝時間に怒られ、朝まで立たされていたり、ご飯抜きになったりすることもありました。ほぼ毎日がそんな感じです」。(14~15ページより)
【参考記事】日本の貧困は「オシャレで携帯も持っている」から見えにくい
・朝、周囲よりも早く起きてしまうと、他の子どもがちゃんと眠れないから早起きは禁止
・子どもたちが脱走しないように、窓が5センチ程度までしか開かない
・子どもたちが裸足でも靴でもなく靴下を履いて過ごす一方、職員は全員スニーカー。理由は、逃げ出しにくいようにしつつ、逃げても捕まえやすいように
・性関連のトラブルを避けるため男子と女子の交流は禁止
・食事中の私語が禁止されているため、食事のスピードが速くなる
・荒れてしまうことがあるため、一定数の子どもに精神安定剤を飲ませている
これらはほんの一部の例だが、文字を目で追っているだけでも身につまされるような話である。子どもたちの様子を眺めながら著者は、刑務所内の人間関係を描いた映画『ショーシャンクの空に』を思い出したというが、なんとなく理解できる気もする。
教育と養育は子どもの成長における両輪であり、両者がバランスよく存在してこそ、人は本当の意味で成長をします。しかし、抑圧的な一時保護所では、生活のすべてが規律によってコントロールされており、教育はあっても養育の観点は感じられません。そこでは子どもが心から安心を感じることはできないのではないかと思います。(91ページより)
しかし、ここで誤解すべきでないのは、職員たちが決して憎しみなどの感情から子どもたちを縛り付けているわけではないということである。実際、強い規律を課すことには理由があるのだという。
まずは、さまざまな罪を犯した子、虐待を受けて心に傷を抱えた子、発達障害のある子などを1カ所に集めているだけに、「子どもたちを従順にさせる以外に方法がない」ということ。第2の理由は、職員数の少なさ。そして第3が、そもそも職員が子どもの状況について想像力を持っていない場合が多いということだそうだ。
「私であっても、携帯電話を取り上げられて、閉じ込められた場所で生活していると、一週間で気が狂うと思う。しかも、こういうところに来る子どもは、そもそも様々な意味で『不健康』な子どもなのに。 いくら私たちが必死にやっても、子どもたちが『ここは牢屋だ』と思うのはどうしようもない。子どもたちはカゴの鳥のような心境だろう。先日も二カ月以上ここにいる女の子が、『私がここに”連れてこられてから”、もう二カ月になる』とこぼしていて、心が痛かった。一時保護期間は、短くあるべきだ」。(96ページより)
ところで一時保護された子どもたちは、その後どうなるのだろうか? 著者によれば、半分強は家庭に戻り、一部の子どもはそのまま病院に移ることも。そして残る約4割の子どもが社会的養護に入ることになるのだそうだ。
【参考記事】子どもへの愛情を口にしながら、わが子を殺す親たち
社会的養護とは、実家庭で育つことができない子どもたちに、社会が代替的に提供する養育環境のこと。施設養護と家庭養護があり、前者の代表が児童養護施設、後者は里親家庭というわけだ。
しかし、ここに至るまでにも、いくつもの障害が立ちはだかっていることは先にも触れたとおり(あるいはそれ以上)だ。児童相談所側は「子どもの安全を守るために一時保護は当然の措置」と考えるが、親は「児相に子どもを取り上げられた」と考えることが多いからである。
しかも我々のような一般人には断片的な情報しかもたらされないため、「児童相談所=悪」のような”無責任なイメージ”だけが肥大化していくことになるのだろう。
ただし、それは単なるイメージでしかなく、基本的には憎しみを持って子どもと向き合っている職員などいないと考えるべきではないだろうか。その証拠に本書においても、理想と現実の狭間で苦悩する現場の人々の言葉が紹介されている。
「うちのケースワーカー(注:児童福祉司のこと)たちはみな疲れています。午前八時半から働き始め、仕事をしている親に会おうとすると、仕事終わりが夜一〇時を過ぎることも多いです。この児童相談所だけの話ではありません。二カ月に一度県内の児童福祉司会議がありますが、県内のすべての児童福祉司がみな同じ状態にあります。自分たちの仕事について時間をとって振り返る暇もなく、毎日ケースをおいかけています」。(179~180ページより)
「自分自身が子育て中であるにもかかわらず、自分の子どもに対してきちんとケアをしてあげられないのが辛い。たとえば、自分の子どもが明日受験なのに、虐待対応のために一緒にいてあげられないといったことがある。他人の子どものことをしながら、自分の子どもが後回しになっている現実に、日々葛藤が絶えません」。(182ページより)
「児相はけしからん」という主張がされがちなのは、声を上げるのは親ばかりという現状があるからだと著者は指摘する。しかし、大切なのはそのような感情論ではないはずだ。今後、行政にどんなことをしてもらうべきか、それだけでなく、広がりを見せる「子ども食堂」がそうであるように、民間にできることはないのかなどを私たちひとりひとりが考えていく。
本当に求められているのは、そのようなことではないだろうか。

大学進学、諦めないで 給付型奨学金などさまざまな支援制度が

ベネッセ 教育情報サイト 2017年2月23日

経済的理由で大学進学などを断念することのないよう、文部科学省は、「高等教育進学サポートプラン」を公表しました。給付型奨学金の創設などの他にも、貸付金制度や奨学金の返還など、大学入学時から卒業後までにわたる、さまざまな制度や仕組みを紹介しています。

非課税世帯への支援策を導入へ
同サポートプランは、「一億総活躍社会実現のための奨学金事業の大幅拡充」をキャッチフレーズにして、新しく始まる給付型奨学金制度や、その他のサポートの取り組みなどについて、2017(平成29)年度大学等入学者と18(同30)年度大学等入学者を対象に説明しています。新しい取り組みとしては、返還不要の給付型奨学金の創設、住民税非課税世帯に対する無利子奨学金の選考の際の成績基準の撤廃、所得連動返還型奨学金制度の導入、児童養護施設にいた学生に対する一時金給付などが挙げられています。
まず、2017(平成29)年度大学等入学者を対象にしたサポートによると、18(同30)年度本格導入予定の給付型奨学金の一部を先行実施して、私立大学などの自宅外通学者を対象に月額4万円を給付します。給付対象は住民税非課税世帯で、学力・資質要件を満たすことを証明する高校の校長による推薦が必要となります。
従来の貸与型奨学金では、日本学生支援機構の無利子奨学金(第一種奨学金)について、高校の成績評定が「平均3.5以上」とされていた成績基準を、住民税非課税世帯の学生に対して撤廃します。さらに、これまでは無利子奨学金の貸与基準を満たしていても定員の関係で借りられない学生がいましたが、2017(平成29)年度入学者からすべての資格者に貸与できるようにするとしています。
この他、2017(平成29)年度入学者から卒業後の奨学金返還月額が、所得に応じて引き下げ可能になる「所得連動返還型奨学金制度」が導入されます。

給付型奨学金では月額2~4万円を給付
2018(平成30)年度大学等入学者からは、返還不要の給付型奨学金が本格的に導入され、国立大学等の自宅通学者には月額2万円、国立大学等の自宅外通学者と私立大学等の自宅通学者には月額3万円、私立大学等の自宅外通学者には月額4万円が給付されます。給付型奨学金の対象者は約2万人で、住民税非課税世帯であること、そして一定の学力・資質要件を満たすことを証明するため、高校長による推薦があることが条件となります。
この他、同サポートプランでは、大学入学前後の支援制度として、都道府県社会福祉協議会による「生活福祉資金貸付制度」(無利子)、都道府県などによる「母子父子寡婦福祉資金貸付金」(無利子)などの制度を紹介。また、高校などに「スカラシップ・アドバイザー(仮称)」を派遣して、高校生やその保護者に対して奨学金制度を安心して利用できるよう説明する相談窓口を開くなどのサポート制度も新しく実施すると説明しています。
経済的な不安や困難などを抱えている高校生や保護者などは、同サポートブランを参考にしてみてはいかがでしょうか。
※高等教育進学サポートプラン ~一億総活躍社会実現のための奨学金事業の大幅拡充~
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/28/12/__icsFiles/afieldfile/2016/12/26/1380888_1_1.pdf

子どもを育てたのは“母のムチ”のおかげ?…「子どもへの体罰は不法です」

ハンギョレ新聞 2017年2月21日

セーブ・ザ・チルドレン「体罰美化情報提供」サイト 受付事例が続々と オークション、eマートなど “愛のムチ”宣伝文句に関連する情報提供も多数 「子どもの成功を願いムチを手にする母」といった 文在寅(ムン・ジェイン)発言も指摘

1月6日に放送されたSBSのテレビ番組『にくいうちの子』で、歌手のキム・ゴンモ氏が出演し弟と子どもの頃の「体罰」に対する思い出話を交わした。番組では「ゴンモ氏を育てたのは8割が母のムチ」、「ムチを通じて伝えられた母の愛」などの字幕が流れた。視聴者のキム・ミンヒさんは「バラエティ番組なのでそのまま笑って過ごすこともできるが、ともすれば体罰に対する固定観念を強めるかもしれない」という考えから、国際支援開発NGO「セーブ・ザ・チルドレン」に通報した。セーブ・ザ・チルドレンは9日、SBS審議チームなどに体罰表現に注意を求める公文書を送った。
セーブ・ザ・チルドレンが7日から体罰美化表現をしている対象物に対して市民からの情報提供を受ける「“鷹”(ムチ)の目を借ります」キャンペーンに寄せられた情報提供によると、テレビ・ラジオ番組、冊子や広告などの日常生活で体罰を「愛のムチ」で覆い隠した表現がたびたび登場する。共に民主党の文在寅(ムン・ジェイン)前代表は先月23日、光州(クァンジュ)・全羅南道でのメディアフォーラムの発足式で“地域の民心”を「子どもの成功を願いムチを手にする母」に例えた。ある市民は「大統領候補者として国民に対する気持ちを表現したのは理解するが、子どもの成功とムチを手にするという表現は、体罰を正当化する表現であるため適切ではない」とし、文前代表の発言をセーブ・ザ・チルドレンに通報した。セーブ・ザ・チルドレンは文前代表の実務を担当している共に民主党のキム・ギョンス議員室に注意を求める公文書を送った。自由韓国党に向けた国民の批判を「親のムチ」と表現したウォン・ユチョル自由韓国党議員にも同じ内容の公文書を送った。
オークション、eマート、Gマーケットなどインターネットショッピングモールで見受けられる“愛のムチ”に対する通報も数多く寄せられた。ある体罰道具には「大人たちにノスタルジーを、子どもたちには真の教育を教える良いプレゼントになる」、「テストとして叩いてみたら学生時代を思い出した」などの宣伝文句がつけられていた。市民のLさんは「体罰は愛の心を表す手段にはなりえず、思い出を呼び起こすあたたかい文化でもない」とし、当該サイトをセーブ・ザ・チルドレンに通報した。
子どもへの体罰は不法だ。児童福祉法は「児童の保護者は、児童に身体的苦痛や暴言など精神的苦痛をかけてはならない」と規定している。セーブ・ザ・チルドレンのキム・ウンジョン権利擁護チーム長は「体罰は子どもを愛すべき人が子どもに暴力を使う行為だ。“愛のムチ”のような表現は『暴力は許される』という誤った認識を強化する」と指摘した。セーブ・ザ・チルドレンは今年の年末まで市民の情報提供を受けつけ「体罰美化事例報告書」を出版する予定だ。報告書には情報提供に参加した市民たちの名前が掲載される。ウェブページを通じて、誰でも情報提供することができる。

<震災6年>孤児の里親 進む高齢化

河北新報 2017年2月21日

東日本大震災で親を亡くした子どもたちを養育する里親の高齢化に懸念が広がっている。両親や一人親を亡くした震災孤児が被災3県で最多の宮城県では、里親の6割が60代以上。里親となった祖父母らからは将来の養育継続に不安を訴える声が関係機関に寄せられている。震災発生から6年となるのを前に、宮城県は1月、仙台市内に里親支援センターを開設。専門スタッフが相談に応じる態勢を整え、対応に乗り出した。
宮城県などによると、県内の震災孤児は139人。既に成人して自立した子らを除くと、大半が親族の里親の元で生活している。
県内で子どもを養育する里親は1月末現在、116世帯。うち震災孤児を育てる里親は約3割に当たる32世帯51人いる。年代別の内訳は円グラフの通り。最高齢は79歳の男性だ。
各児童相談所には、高齢の里親から、思春期を迎えた子との関わり方に関する悩みや、今後も子どもを育てていけるかどうか不安がる声が寄せられている。
関係者によると、70代の祖父母が小学生を養育しているケースがあるほか、里親自身が健康問題や、収入は年金だけという経済苦を抱える場合もある。高齢を理由に別の里親の元に移った子どももいるという。
県は、里親支援を強化するため、仙台市青葉区東照宮1丁目に「みやぎ里親支援センターけやき」を開設。県里親会「なごみの会」と、社会福祉法人仙台キリスト教育児院に事業を委託し、1月中旬に業務を始めた。スタッフは非常勤を含めて4人。電話や面接などで相談に応じ、助言する。
里親登録者の新規開拓も課題になる。県は研修や審査などの手続きがある里親制度の説明会を県内各地で開き、周知を図る考えだ。
県内では、震災以外に虐待などで社会的養護が必要な子どもの数も増加傾向にある。県子育て支援課は「センターの活動で里親登録を推進し、子どもたちの安定した養育環境を確保したい」と説明する。
センター長を務める県里親会のト蔵(ぼくら)康行会長(61)は「里親への支援は子どもへの支援でもある。現在の里親や、これから里親になろうとする人の相談に応じ、安心感を持ってもらえるようサポートする必要がある」と強調する。
センターの業務時間は、土曜を除く毎日午前10時~午後6時。連絡先は022(718)1031。

ネット養子縁組、“赤ちゃんは200万円“に批判の声 運営者の狙いは…

AbemaTIMES 2017年2月22日

「産んでくれたら最大200万円相当の援助」。ネット上で赤ちゃんを斡旋する「ネット赤ちゃんポスト」のウェブサイトに並ぶ、刺激的な言葉。
運営するNPO法人「全国おやこ福祉支援センターサービス」代表理事の阪口源太氏によると、望まない妊娠や、様々な問題から自分で育てられない親の元に産まれた子どもの実に9割が乳児院などの養護施設に送られているという現実から、「特別養子縁組」という仕組みがあることを母親たちに知って欲しいという狙いがあったという。
「施設で育つお子さんというのをまず減らしていくことですよね。将来、愛着障害などになることもありうるのに、リスクを一切説明せずに乳児院へ入れてしまうんですよ」(阪口氏)。
「中絶を考えられている方へ「産んでくれたら最大200万円相当の援助」があります」という表現については、「(妊娠して)お腹が大きくなってきたら女性は仕事ができない。安全に出産するために最低限生活保護レベルの資金援助というものが必要になってくる」と、その理由を説明した。
阪口氏自身も、子どもに恵まれず、養子を引き取り育てたかったと話す。しかし児童相談所では何百人もの希望者に対し、マッチングしたのは実現、年間1、2件ほどだったという。
そこで始めたのが、ネット上での特別養子縁組のマッチングだった。産みの親が入力した養父母に求める条件と、養父母希望者が入力した職業や収入、財産、育児支援者の有無などのデータをマッチングさせ、上位3人の候補者が面談の権利を得る。そして養父母候補者は、マッチングが成立した時点で出産までにかかる生活費など200万円を上限に、産みの親に支払うことになる。
運営側は、従来は面談で聞き取り調査をしたり、郵送で書類をやりとりしたりと、マッチングまでに多くの時間を要したことから、それらをネット上で済ませることで必要な手続きが大幅に短縮できると、その利点を強調。慶應義塾大学特任教授の若新雄純氏も、居住エリアが離れていて、面談が難しいケースや、条件から養父母候補が見つかりにくいケースも、ネットを使うことでマッチングしやすくなるとメリットがあるのではないか、とした。

「時間をかけて面談を重ねることが大事だ」
しかし、この「ネット赤ちゃんポスト」の「手軽さ」に対しては、懸念の声が多いのも事実だ。実際、大阪市から行政指導も受けている。
特別養子縁組を斡旋する「ベビーライフ」代表理事の篠塚康智氏は、子ども養子に出す親ち引き取る親と、時間をかけて面談を重ねることが大事だと話す。
「夫婦別々の面談があるが、そこで夫婦の関係をを見抜いたりする。実際に養父が“あまり乗り気ではない“とポロっと漏らしてしまうということもある」(篠塚氏)。
これまで230件以上の養子縁組を成立させてきた篠塚氏の団体でも、養子縁組が成立してから6ヶ月までの間に、縁組が解消されてしまうケースがあったという。
また、ヒューマン・ライツ・ウォッチの土井香苗弁護士は「人身取引」の観点から、「200万円もらえるということが、父母に育ててもらうという子どもの権利を侵害しているという意味で、法に抵触する可能性がある」と指摘する。
土井氏によると、子どもには産みの親に育てられる権利があり、その産みの親が育てられるよう最大限の支援をし、どうしても不可能な場合「金銭などの対価ではなく、自由意志で子どもを手放すということが重要だ」と訴えた。
昨年12月には、質が低い斡旋団体を排除し、質を向上させるための「養子縁組あっせん法」が成立している。これまで、届出さえすれば誰でも養子縁組の斡旋ができたが、施行後は自治体の許可と必要になるほか、罰則規定も設けられることになる。
この新法によって、「ネット赤ちゃんポスト」のようなサービスに対しては、さらなる行政指導などの対象になってしまうのではないかとの疑問に対し、阪口氏は「むしろ我々が問題提起をした結果が法成立」と話す。
全ての子どもたちが十分な環境や愛情の元で育られるのが理想だが、近年、育児放棄や虐待の末、生後間もない我が子を殺してしまうような事件も数多く報じられている。日本で虐待を受けて亡くなる子どもは年間36人で、ほぼ10日に1人のペースだ。
また、過去10年間で特別養子縁組が成立した件数は2012年の339件から2015年には544件にまで増加しており、ここ数年間で大きく増加しているのが分かる。特別養子縁組の仕組みが広く認知され普及していく中、仕組みの効率化がもたらす様々な課題もクローズアップされていきそうだ。(AbemaTV/AbemaPrimeより)