「SOSの出し方」を教えるだけでは、若者の自殺が減らない理由

弁護士ドットコム 2017年6月6日

政府が5月30日に閣議決定した「自殺対策白書」(2017年版)は、若年層(40歳未満)の死因の1位が「自殺」であることや、他の年代と比べて(自殺の)減少幅が低いことなど、若者の自殺をめぐる深刻な状況を浮き彫りにした。
特に、男性では10~44歳までの死因の1位が「自殺」だ。こうした実態をうけて、5月15日に公表された「新しい自殺総合対策大綱のあり方に関する検討会」の「報告書」では、「若者の自殺対策のさらなる推進」が盛り込まれた。検討会のメンバーでもある鈴木晶子さん(一般社団法人インクルージョンネットかながわ代表理事)に聞いた。(渋井哲也)

「SOSの出し方教育」
鈴木さんが「検討会」の議論の中で注目したのは「SOSの出し方教育」だ。
「SOSの出し方も大切ですが、順番が逆だと思う。まず変わるのは大人側。子どもたち、若者たちはすでにSOSを出しています。せっかく発したSOSは、大人にとっては甘えに聞こえます。説教されてしまう若者たちを見てきました」
SOSの出し方だけが強調されるのは、鈴木さんには違和感があるそうだ。検討会でもそうした発言をした。事務局にはメールも出した。
その結果、報告書には、〈教師がSOSの出し方を教えるだけでなく、子どもが出したSOSについて、教師を含めた周囲の大人が気づく感度をいかに高め、また、どのように受け止め、子どもに寄り添い命をつなぐかという視点も重要〉との文言が入った。
「子どもたちはSOSをうまく出せません。真面目で不器用な子どもほど立ち止まって、引きこもったりします。きちんと受け止めることを前提にして、SOSの出し方教育をしてもらいたい」
〈ICTも活用した若者へのアウトリーチ策の強化〉も取り上げられている。若者は自発的に相談窓口になかなか行かない。一方で、インターネットを使って、自殺をほのめかしたり、手段を検索している。
「子どもたちにヒットするようなサービスがない。だから、子どもたちはインターネットの中へ行く。悩んでいる子どもは、困った大人にひっかかることがある。(私たちのようなに)きちんとした支援者たちが、そうしたネットの相談者よりも検索した時に上位に表示されることが大切です」

「毎日、『死にたい』という声を聞く」
鈴木さんが代表理事をしている「一般社団法人インクルージョンネットかながわ」は、子どもの支援拠点や居場所として「Spaceぷらっと大船」を運営するほか、鎌倉市から委託を受けた生活困窮者自立相談支援事業「インクル相談室鎌倉」や学習支援事業を行なっている。
「自殺対策として活動しているわけではありませんが、毎日、『死にたい』という声を聞いています。『自信がない』『価値がない』。だから『生きている意味がない』『誰からも価値を認めてくれない』。そんな子どもたち、若者たちがいます」
鈴木さんがもう1つ理事を務めている「NPO法人パノラマ」では、高校で昼間にカフェを開いている。
「地域にはいろんな大人がいます。貧困問題が怖いのは、余裕のある大人が周囲にいる階層の子と、いない階層の子がいるということ。後者の場合、大人との出会いがなく、孤立しています。大人たちだって、貧困で余裕はありません。地域や階層で違うんです。カフェの活動を自殺対策で読み直すと、子どもがSOSを出したらキャッチできる大人を増やすことです」
このほか、子どもは、公立学校から私立学校へ進学などした場合、そこで支援が切れてしまうことがある。社会的養護の子どもたち(児童養護施設などに入所する子どもたち)も、高校や大学の卒業時に、福祉の支援がなくなる時がある。また、知人を自殺で亡くした経験から思うこともある。
「自分の仕事上のポジションから見えるものは盛り込んでもらいました。しかし、貧困やさまざまな困難とは一見無縁で客観的に見ると『なんでこの人が自殺する?』と思う人が自殺することもあります。その答えは報告書の、どこにもありません。報告書では、死ぬリスクを減らす支援についてたくさん書かれているけれど、生きる理由を作る支援がないのかな」
「報告書」では、細かなことまでは書ききれるものではない。新しい「自殺総合対策大綱」の方向性を示すだけに過ぎない。その大綱も、全体の枠組みを示すのみで、より細かな方針は、市町村が策定する計画に書き込まれる。
そんな中から、個々人が自殺の背景や理由を考えていくことが望まれる。その上で、具体的な予防、介入、事後対応が見えてくるのだろう。

<性犯罪厳罰化>衆院委で可決 付則で「施行3年後見直し」

毎日新聞 2017年6月7日

性犯罪を厳罰化する刑法改正案は7日、衆院法務委員会で全会一致で可決された。強姦(ごうかん)罪の法定刑下限を懲役3年から5年に引き上げ、告訴がなくても加害者を起訴できる「非親告罪」化することなどが柱。参院では「共謀罪」の要件を改めたテロ等準備罪を新設する組織犯罪処罰法改正案を巡って与野党の対立が激化しており、刑法改正案が今国会で成立するかは不透明だ。
強姦罪の成立には、被害者の抵抗を著しく困難にする程度の「暴行または脅迫」の存在が必要とされるが、この点は改正案でも変わっていない。しかし、相手への恐怖などから暴行や脅迫がなくても被害を受けるケースもあることから、この日の審議では暴行・脅迫要件を緩和する必要性などが指摘された。その上で、自民、公明、民進、共産、日本維新の会は「施行後3年をめどに性犯罪の実態に合わせた施策の在り方について検討を加える」との付則の修正案を共同提出し、全会一致で可決された。
一方、性犯罪被害者や支援者ら4団体でつくるグループ「刑法性犯罪を変えよう!プロジェクト」は7日、改正の早期実現などを求める要望書を約3万筆の署名とともに金田勝年法相に手渡した。金田法相は「速やかな成立を今国会で実現したい」と話した。【鈴木一生、飯田憲】

被害者ら国会日程に焦燥
早期の改正を望んできた性犯罪被害者たちは残り少ない国会日程に焦りを募らせる。
「性別規定がなくなる一点だけでも、高く評価できる」。「被害者は女性、加害者は男性」との性差をなくすことを盛り込んだ改正案を、20代の時に知人女性から性暴力を受けた玄野(くろの)武人さんは歓迎する。
性被害の相談電話で「男性の被害のことは分からない」などと言われた自身の経験から、男性の性被害者の自助グループ「RANKA」を主宰する。男性の被害者には泣き寝入りしている人も多い。「早く成立させてほしい」との願いは強くなるばかりだ。
小学6年から中学2年までの間、義父から性的虐待を受け続けた群馬県内の20代女性の願いも同様だ。
現行の強姦(ごうかん)罪は被害者が13歳以上の場合、暴行や脅迫が伴うことが要件で「ハードルが高い」とされる。女性の義父が問われたのも強姦罪ではなく、法定刑が軽い児童福祉法違反だった。
改正案は、18歳未満の子に、父母らが影響力に乗じて性交やわいせつ行為をした場合の罰則を新設する。女性は「被害者が受けた癒やされない傷を考えれば、こうした新設は必要」と力を込める。【山本有紀】

公認心理師の国家試験、150-200問出題 – 厚労省、検討会報告書を公表

医療介護CBnews 2017年6月8日

厚生労働省は7日、公認心理師カリキュラム等検討会(座長=北村聖・国際医療福祉大医学部長)がまとめた報告書を公表した。創設される公認心理師の国家試験の受験資格を得るまでに達成すべき「到達目標」を整理し、大学・大学院で修める科目を提示。国家試験の出題数は150-200問程度とし、正答率は「60%程度以上」を合格基準とした。【新井哉】
医療機関などで勤務する心理職の資格については、各団体の認定者の知識や技量に差があるのが実情だ。こうした状況の改善を目指し、2015年9月に公認心理師法が成立、国家資格を持つ専門職が創設されることになった。この資格の創設を踏まえ、検討会が大学・大学院で必要なカリキュラムなどを検討し、報告書を取りまとめた。
報告書では、公認心理師に求められる役割や知識、技術について、「さまざまな心理療法の理論と技法についてバランスよく学び、実施のための基本的な態度を身につけていること」とし、身体疾患や精神疾患が疑われる人を医師に紹介するといった対応ができることを求めている。
大学や大学院のカリキュラムの「到達目標」に関しては、▽公認心理師としての職責の自覚▽問題解決能力と生涯学習▽多職種連携・地域連携▽心理学・臨床心理学の全体像▽心理学における研究▽心理学に関する実験▽精神疾患とその治療▽産業・組織に関する心理学▽健康・医療に関する心理学-などを挙げている。
大学で修める科目は25科目(実習80時間以上)、大学院は10科目(実習450時間以上)と記載。大学院の実習施設については、「保健医療」「福祉」「教育」「司法・犯罪」「産業・労働」の5分野の施設のうち、3分野以上の施設で実習を受けることを推奨している。
報告書では、現任者(現時点で心理職として活動をしている人)が受験資格を得るための条件も示した。大学卒業後、厚労省令などで定めた施設(大学院実習施設に準ずる)で2年以上、心理学などに関する専門的な知識・技能などを習得できるプログラムにのっとって業務を実施するよう求めている。