100年迎えた民生委員 役割の大切さ変わらない

毎日新聞  2017年7月6日

お年寄り宅の見回りや地域住民からの相談を担う民生委員・児童委員の制度が今年で発足100周年を迎えた。
担い手不足や高齢化などの課題はあるが、家族や地域の支え合いが薄れる中、民生委員への期待はむしろ高まっている。
1917(大正6)年、岡山県が貧困者救済として始めた「済世顧問」という制度が民生委員の前身だ。県が委嘱した篤志家らが貧しい人々の自宅を訪ね、貧困の原因を調査して行政につなぐ役割を担っていた。
戦後、生活保護法や児童福祉法が制定されたのに伴い、改めて民生委員・児童委員が制度化された。厚生労働相が委嘱する非常勤(任期3年)の地方公務員で、全国に約23万人いる。年間数万円程度の活動費が支給されるだけで、実質的には報酬のないボランティアだ。
お年寄りや子育て世帯の見回り、生活困窮者や障害者の相談など活動範囲は多岐にわたる。1人の年間の活動は平均132日、訪問・連絡などは平均167回に上る。
介護保険や障害者総合支援法、生活困窮者自立支援法など、民生委員の活動に関わる制度は多い。制度改正の度に研修を受けなければならず、負担は年々重くなっている。
交通機関の少ない地方では、高齢の民生委員がバスを乗り継いで独居の高齢者の安否確認を行うところもある。都市部ではマンションのオートロックなどが訪問の壁になっている。行政からはさまざまな役割が振り分けられてくるが、個人情報保護を理由に必要な情報を教えてもらえないという苦情もよく聞かれる。
振り込め詐欺被害、児童虐待、ゴミ屋敷など新たな課題は、行政機関や公的福祉サービスだけで解決することが難しい。地域の事情に詳しい民生委員が中心的役割を担い、住民自身が課題を発掘し解決に取り組むことが求められている。
60歳代が6割、70歳代が2割と民生委員の高齢化は進んでいる。しかし、健康寿命は延びており、高齢になっても元気な人は増えている。潜在的な担い手は少なくない。
民生委員が担う役割は重要だ。熱心に活動する民生委員も多い。地域社会全体でその活動を支えていくべきである。

 

「日本の福祉政策は限界」 日社大の神野直彦・新学長に聞く

福祉新聞 2017年7月13日

厚生労働省の社会保障審議会年金部会長などを歴任した神野直彦氏が今年度から、日本社会事業大学の学長に就任した。抱負を尋ねるとともに、これからの福祉政策について在るべき方向性を聞いた。

神野学長は総務省の地方財政審議会長も務めるなど財政学の専門家です。日社大の学長に就任されて、印象はいかがですか。
日社大は1946年の創立以来、「悲しみ」を「幸せ」に変えることを使命に、政府の委託を受ける形で、指導的な社会福祉人材の養成を担ってきました。学長として大学が持つ歴史的な責任を果たしたいと思います。教員、学生ともに使命感を持った人が多いと感動しています。

財政学の観点から、日本の社会福祉政策は限界だという主張もされていますね。
第2次世界大戦後の日本は、公的扶助を取り込みつつ、社会保険を軸として所得再分配を行いました。つまり男性が労働市場で働き、女性は家庭を守る。失業や病気などで男性が働けなくなる時のリスクを保険で支え、最後に生活保護で支えるというモデルです。
ただ、1973年の石油ショックが象徴するように、重化学工業による高度成長は行き詰まっています。基軸的な産業構造は、サービス業や知識集約型へとシフトしているのです。
すると、労働市場には女性の労働力も求められ、家庭がうまく機能しなくなる。家事や育児、高齢者のケアなどの担い手がいなくなり、現金を給付するだけの政策では成り立たなくなるのです。

次の時代はどんなモデルが考えられますか。
イギリス・ブレア政権のブレーンで、「第三の道」を著したアンソニー・ギデンズが、「社会投資国家」を提唱しています。これは所得再分配を含む社会保険国家から、社会サービス国家への転換に通じると思います。
このままでは労働市場が、無償労働から完全に解放される人と、無償労働に足を引っ張られる人に分かれてしまいます。正規従業員と非正規従業員と言い換えてもいい。
賃金は二重構造となり、格差は拡大したままです。不況の際の新卒者は非正規労働から抜け出せなくなるでしょう。そのため、政府は労働市場に参加する時の条件をサービス給付で保障する必要があるのです。

現在、社会保険や公的扶助の財政支出は現金給付です。具体的には何をサービス給付とすべきと考えますか。
それは国民が決めることです。とはいえ、主として女性が無償労働で担ってきた育児や高齢者ケアは、もっと社会全体で担わなければ成り立たなくなるでしょうね。
特に社会投資としての教育は重要になってくると考えています。かつて重工業の時代は道路やエネルギー網に投資しましたが、これからの社会インフラはヒトになるわけですから。つまり、いつでも再訓練・再教育できるよう、学び直せる環境の整備が喫緊の課題なのです。
例えば、現在ITのプログラマーが持つ技術は数年後は役に立たないかもしれない。これから今まで以上のスピードで産業が高度化するので、いつでも再訓練できるシステムをつくらないといけません。
人間的な能力が経済を発展させるという前提に立てば、能力を高める条件整備こそがこれからのインフラの前提条件になり、セーフティーネットにもつながると思っています。

産業構造の変化はさまざまな問題を我々に突きつけますね。1971年のニクソンショック以降、資本が国境を越えて移動を始めた時がターニングポイントだったのかもしれません。
資本のグローバル化はコミュニティーの破壊を招きました。動き回れない土地や労働者と違って、資本は賃金の安い地域へと動く。これまで税金を払っていた富裕層の資産も税金の安い海外へ移る。こうして国家の再分配機能が弱くなり、地域の文化や絆などあらゆるものが壊れました。
だから今、世界中の人はコミュニティー崩壊への恐怖感を抱いています。人とのつながりが弱くなったからこそ、暴力的な手段を使ってでも伝統的な共同体を取り戻そうとする。アメリカのトランプ大統領の登場や、イスラム国の誕生、イギリスのEU脱退だって本質的には同じです。

改めて、日社大が目指す今後の方向性を教えてください。
産業構造が変化する中、ますますソーシャルワーカー(SW)は社会に必要とされると思います。現金・現物含めたさまざまなサービスをうまく組織して、一人ひとりに提供する。失われつつある共同体の調整者という役割も大きい。
そのため日社大としては、親の所得に関係なく指導的な研究者やSWを養成することが重要だと考えています。今後も国立大学なみの授業料は維持します。
また、巨大災害が起きた時に活躍できるSWも養成しようと思っています。独自事業として、自治体と連携してモデル事業を展開する予定です。
「分かち合い」としての社会福祉をテーマに、福祉人材の養成という大学の天命をしっかり果たしていきたいと思っています。

 

「人口減少」が続くが、解決策はあるのか

ITmedia ビジネスオンライン 2017年7月13日

2017年7月5日、総務省統計局は住民基本台帳を基に集計した17年1月1日時点の人口動態調査を発表した。
最新の調査によれば、日本の総人口は1億2558万3658人で、8年連続の減少。この数は前年から30万人以上も減っており、1968年に調査が開始されてから最大の減少幅になったという。さらに少子化も相変わらずで、出生数は98万1202人と過去最少を記録した。
もっとも、人口減少は今さら驚くことではない。人口減少の問題は何十年も議論されてきているが、有効な手立てを打てておらず、結局、今後もどんどん減っていく一方になると見られている。
人口が減ること自体は悪いことだとは言い切れないが、日本のように少子高齢化が進むケースでは、少なくとも経済が縮小するのは避けられない。なぜなら労働人口がどんどん減っていくからだ。
ただ今こそ、考え方を変える必要がある。さまざまな分野について外国人と話をすると、日本のテクノロジー分野の素晴らしさを述べる人は多い。テクノロジーが日進月歩で進む現代、インフラが世界のどこよりも充実している恵まれた環境の日本は、世界的にもテクノロジー分野を先導できるポテンシャルをもつ。ならばそこにチカラを入れて、日本だからこそできる人口減少対策があるのではないか――そんな可能性を探ってみたい。

将来、移民の争奪戦が起きるかもしれない
そもそも将来的に、日本の人口はどれほど減っていくのか。国立社会保障・人口問題研究所が2017年4月に発表した推計によれば、日本の人口は2040年に1億1092万人となり、2053年にはついに1億人を割って、9924万人になる。そして2065年には8808万人になるという。
もちろん日本は、人口問題研究所のこの調査よりずっと以前から、人口減の懸念を前にしてこれまでいろいろと対策を議論してきた。その一例として今もよく聞かれるのは移民政策だ。人口が減った分、外国から人を連れて来たらいいのではないかという賛否が分かれる対策だ。
ただ外国人労働者の数はすでに徐々に増えている。厚生労働省が2017年1月に発表した外国人雇用状況を見ると、2016年10月の時点で届け出のあった数だけで108万3769人。この数は史上最も多い数で、その背景には留学生の就職支援などがある。ただ移民については、反対意見も根強く、一筋縄ではいかない対策だということに加え、将来的にはアジア諸国でも人口減が起きるために移民の争奪戦というような状況になるとの見方もある。
それ以外では、出生率を上げるべきだという対策もよく耳にする。例えば、子どもを産んだ女性に年金を上乗せするといった現金給付のアイデアもあるようだが、ともすればカネで子どもを産ませようという対策にも受け取られるため、批判が出る可能性もある。
また人工中絶を減らすことで出生率を上げられるとの指摘もある。現在、中絶を減らすべく、いくつかの対策が議論されている。例えば養子縁組。2016年12月に特別養子縁組あっせん法が成立し、養子縁組のあっせんに補助金を出したり、あっせん業社についても、これまでのトラブルが報告されていた申請制から、許可制に変わった。2017年5月には、「赤ちゃんポスト」の開設から10年が経ったが、これまで10年で130人の子どもが預けられ、半数ほどが養子縁組されているという。

人口減対策に「テクノロジー」のチカラを
こうした対策はすでに始まっているが、ゲームチェンジャーとなるような成果を出しているとは言い難い。そこで日本が得意なテクノロジーによる人口減対策に、国を挙げて取り組むべきではないだろうかと思う。政府が長期的なビジョンとして、人口問題対策としてテクノロジーの活用を国策にするのだ。
すでに述べた通り、少子化で人口が減少することで大きな問題になるのは、高齢化が進むことで労働人口が減り、経済が縮小していくことだ。これまでいろいろな対策が議論されても、結局、人口減はなかなか食い止められない。だが、テクノロジーの進化で今、世界的に話題になっているAI(人工知能)やオートメーション(自動化)などをどんどん普及させれば、減った人口分を補っていける可能性があるのではないだろうか。
今、さまざまな分野でオートメーションが進んでいる。自動運転や銀行自動支払い、ドローンによる宅配、スーパーのレジなどのオートメーションが近年では話題になっている。
また、AIの利用がどんどん広がっていくはずだ。米IBMが開発した有名なAIのワトソンは米国のガン専門病院に導入されて医師の診断を手助けしていたり、天気予報などにも活用が進められている。またAIで犯罪予測やビジネス予測なども行われ始めている。米ロサンゼルス・タイムズ紙では地震などの速報ニュースをAI記者「クエークボット」が自動に書いて配信している。
特にサービス業では、今後ますますオートメーションやAIを活用した手法が広がるだろう。そうなると当然のことながら、人は今以上に少なくて済む。もちろん人間しかできない仕事はなくならないし、人が全くいらなくなるわけではないが、適材適所で配置すればいい。

中長期的に国が方針を示さければいけない
そうすれば、人口が減っても、他国の追随を許さないようなテクノロジーを開発することで、その穴埋めをすることができるようになる。そこで重要になるのは、こうした国としての大きな課題に、国策として政府が大きなイニシアティブを発揮し、十分な予算をつけるなどして対策に乗り出せるかどうかだ。もちろん政府にすべて頼ってしまうのではなく、日本国内でビジネスを成功させている企業などが基金を作るなどして、官民で取り組むこともできる。
そもそも公共のインフラなどを活用してビジネス業界で成功している企業などは、国民がみんなで作り上げてきた電力や道路、インターネットなどのインフラがあってこそカネを稼げているのだという事実を今一度認識して、社会に還元していくべきである。海外のIT長者など起業家たちは、税金対策もさることながら、そういう還元の意識で基金を設立したりしている。
とにかく、まずは国がそうした対策をはっきりと分かりやすく、大々的に国策として打ち出さなければいけない。そろそろ人口減に直面している私たちがどこに向かうべきかの、中長期的な国の指針を示す必要があるのではないだろうか。

 

日本人は寝ないで働く? 睡眠時間6時間未満が4割、アメリカ人は意外に爆睡

The Capital Tribune Japan 2017年7月13日

長時間残業の抑制などワークライフバランスを見直す動きが活発になっていますが、早く家に帰ることができない職場は依然としてたくさんあります。長時間残業は、日本人の睡眠時間にも大きな影響を与えているようです。
厚生労働省の調査によると、6時間未満の睡眠しか取っていない人は全体の4割に達します(20歳以上の男女)。しかも短時間睡眠で済ませる人の割合は上昇しており、5年前との比較では1.2倍に増えています。特に40代男性の睡眠時間は短く、約半数の人が6時間未満となっていました。
日本人の睡眠時間は先進各国と比較してもかなり短いようです。OECD(経済協力開発機構)の調査によると、日本人の平均睡眠時間は463分ですが、米国人は516分、フランス人は509分、ドイツ人は494分となっており、いずれも日本より長くなっています。
日本人の睡眠時間が短いのは、長時間残業の影響が大きいと考えられます。日本人の年間総労働時間は以前よりかなり減っていますが1729時間となっており、ドイツ(1371時間)やフランス(1473時間)と比較するとかなり長くなっています。この統計は事業者が対象となっていますから、サービス残業に代表されるような違法な残業は申告されていない可能性があります。実際の労働時間はもっと長いかもしれません。
米国は欧州とは異なり日本人とほぼ同じ労働時間ですが、睡眠時間は米国人の方が長くなっています。米国人は食事の時間が日本人より圧倒的に短く、一方、家族と過ごす時間や睡眠時間が長いというデータが得られています。食事を短時間で済ませ、空いた時間を家族との会話や睡眠に当てているようです。
これは各国を比較したものですので、厳密に同一の条件で調査が実施されているとは限りません。日本人の食事の時間には、もしかすると会社での飲み会などが含まれている可能性があります。そうなってくると、会社の飲み会を心から楽しめる人を除いては、実質的な労働時間はさらに長いということになるかもしれません。
ちなみに厚生労働省の調査では、「睡眠をあまり取れていない」あるいは「まったく取れていない」と感じている人は23%となっています。政府はこれを15%まで引き下げようとしていますが、実現できるのかどうかは現時点では何とも言えません。