生活保護で大学に通うのは、いけないことなのか?

ダイヤモンド・オンライン 2017年7月21日

生活保護のもとでの大学進学は 世帯分離という裏技で認められる
厚労省は、大学等(以下、大学)に進学する生活保護世帯の子どもたちに一時金を給付する方向で検討を開始している。金額や制度設計の詳細はいまだ明らかにされていないが、2018年度より実施されると見られている。
現在、生活保護のもとで大学に進学することは、原則として認められていない。家族と同居しながらの大学進学は、家族と1つ屋根の下で暮らしながら、大学生の子どもだけを別世帯とする「世帯分離」の取り扱いによって、お目こぼし的に認められている。
しかし、この取り扱いには以下のような問題点がある。
・生活保護世帯である家族の人数が減る。
・家族の保護費のうち生活費分(生活扶助)が人数に応じて減額される。
・家族の保護費のうち家賃補助(住宅扶助)も人数に応じて減額される。それまでの住まいは、相対的に「家賃が高すぎる」ということになり、ケースワーカーに転居するよう指導されることもある。
・進学した子どもは、医療を含め、生活保護でカバーされていたすべてを失う。このため生活に必要な費用のすべて、学費、国民健康保険料などを稼いだり借りたりする必要がある。
生活保護世帯の子どもは、大学に進学する以前も、進学して以後も、その家族の一員であり、衣食住・水道光熱費などの消費を共にしているはずだ。しかし、大学に進学すると、「生活保護で暮らす家族の一員ではないが同居している」という存在になる。それどころか、自分が進学することによって生活費が減少して厳しいやりくりを強いられる家族を目の当たりにすることになる。
さらに、家賃補助が減額されると、家族は減少した生活費からの持ち出しで家賃を支払わなくてはならなくなる。まして「ケースワーカーに転居を指導される」となると、当然、人数に応じたより家賃の低廉な住宅への転居となる。
生活保護世帯の子どもは、大学に進学すると、制度面では「いるのにいない」とも「いないのにいる」ともつかない“座敷わらし“のような存在にされてしまうのだ。しかし、彼ら彼女らは”座敷わらし“ではなく、生身の人間だ。したがって、生活、健康、学業を支えるためには現実の資源が必要であるはずだ。
現在、厚労省が検討している支援策は、「世帯分離の取り扱いは現状のまま」「進学時に一時金を給付する」「進学後も家族と同居し続ける場合には、家賃補助(住宅扶助)は減額しない」というものだ。言い換えれば「進学したら、医療を含めて生活保護の対象から外し、生活にかかわる費用は出さない(ただし一時金を除く)」という取り扱いは現状のままということだ。
「何もないよりマシ」なのは間違いない。では、何がどの程度期待でき、何が期待できないのだろうか。
私は、社会保障・社会福祉を研究する桜井啓太さん(名古屋市立大学講師)に、現在報道されている厚労省方針についての意見をうかがうことにした。桜井さんは、「自立」の研究で博士号を取得した若手研究者で、元生活保護ケースワーカーという経歴を持つ。また、今回の厚労省方針に影響を与えたと見られる堺市の調査にも参加している。

中途半端な厚労省方針 最大の障壁は家族の困窮
桜井さんは、開口一番「なんとも中途半端ですね」と語った。
「生活保護世帯の子どもの大学進学のために制度設計をすること自体は、良いことだと思うんですよ。進学した子どもを世帯分離したら保護世帯の人員数が減ることを理由とした住宅扶助のカットはやめる。それから、生活のために一時金を給付するわけですよね。でも、どうしても『中途半端だなあ』という印象を受けてしまいます」(桜井さん)
聞きながら、私は「桜井さんは紳士だ」と感じる。私の第一印象は「え? やる気あるの?」であり、その次に浮かんだ思いは「特大のダメを大ダメに軽減したからと言って、『前進』とは呼べないよねぇ? 生活保護に甘えてない?」であった。ここで言う「甘え」とは、生活保護制度を積極的に使わせない、充実させないことを良しとすることに制度運用側が慣れてしまっていることを指している。
ともあれ、生活保護世帯の子どもが大学に進学した場合、最初の大きな障壁となり得るのは、家族と本人の「住」だ。
まず、埼玉県さいたま市に住む母親(40代)、高3男子、中2女子の3人から成る生活保護母子世帯を例として、高3の子どもの進学が何をもたらすかを見てみよう。もともと首都圏に住んでいるのだから、高3の子どもは自宅から通学できる範囲で進学先を見つけることが可能だろう。しかし大学に進学すると、以下のような変化が母親と中学生の子どもを襲うことになる。
・一家の人員数 3人→2人
・一家に給付される保護費の生活費分 4万9780円減少
・一家に対する家賃補助上限 5万9000円→5万4000円
もしかすると母親は、思春期に突入した2人の男女の子どもに個別のスペースを与えられるよう、若干の無理をして家賃6万4000円のアパートに住んでいたかもしれない。すると、これまでも持ち出していた5000円の差額に加え、新たに発生する5000円の差額を、約5万円減少した生活費から捻出することになる。
さらに、基準額を家賃が1万円上回ることになる。生活費を切り詰めて家賃を支払うと、「健康で文化的な最低限度」の生活が営めなくなるし、「生活保護では許されないゼイタク」ということになりかねない。上回っている金額によっては、「高額家賃」として転居を指導されることになる。そこに、高校時代までは同じ生活保護世帯の一員だった子どもが現在も住んでいるにもかかわらず、である。

同居の子どもを「いないもの」に? 悪い冗談のような行政の転居指導
「生活保護世帯で、子どもが大学進学によって世帯分離し、生活保護世帯の人員数が減り、その人員に対する家賃基準より現在の家賃が高すぎる場合には、子どもを“いないもの“として転居指導する」という悪い冗談のような取り扱いは、つい最近まで行われていた。
このような場合に転居指導をしないこととなったのは、2017年4月、つい3ヵ月前からだ。厚労省は2018年4月から、さらに減額も取りやめる方針のようだ。桜井さんは、この方針をどう見るだろうか。
「今年度から転居指導の扱いをやめ、来年度からは減額もやめるというのは……当然そうあるべきだろうという話ではあるんですが……どういう意図に基づいた制度設計なのか、よくわからないというのが正直なところです」(桜井さん)
私には、気がかりがもう1点ある。生活保護世帯の子どもが大学に進学した場合の家賃の減額をやめるとなると、その分の財源はどこかから確保されることとなる。「他の生活保護世帯から削り取って大学進学の財源に」という成り行きだけは避けてほしいところなのだが、最も可能性が高いのはまさに「それ」なのだ。しかも、問題は「住」だけではない。

目的がよくわからない給付金構想 「生活保護で大学へ」はいけないのか?
子どもを大学進学させた生活保護世帯は、衣食・光熱費を含めた生活費全体において、同世帯ではないけれども同居している大学生の子どもの存在により、厳しい生活を強いられることになる。保護費の生活費分(生活扶助)が、同世帯ではなくなった子どもの分だけカットされるからだ。
生活保護の対象とならなくなった大学生の子どもには、さらに医療費という負担が発生する。国民健康保険料と医療費の自費負担を、自ら支払わなくてはならない。その負担に耐えられず、国民健康保険に加入せずにいると、無保険状態になる。厚労省が構想しているという一時金は、これらの問題をどの程度軽減できるのだろうか。
「普通に考えて、世帯分離の取り扱いを止め、大学への世帯内就学を認めればいいんです。現在の高校進学と同じように。そうすれば、これらの問題は全部クリアできます。その上で、学費など、大学での修学に必要な費用に使うアルバイト収入は、収入認定の対象から外せば、学生支援機構奨学金を借りるとしても最小限で済みます。これらの変更は、厚労省の局長通知だけでできます」(桜井さん)
大学等への進学率は、浪人を含めると80%を超えている。長年、「生活保護でも認める」の基準とされてきた「一般普及率が70%」という指標から見ても、生活保護で暮らしながら大学へ進学することは、認められるべきであろう。「いつやるの? 今でしょ!」だ。
桜井さんは、そもそも大学進学にあたっての給付金という厚労省構想にも疑問を感じている。
「意図は何なんでしょうか。世帯分離とはいえ、大学進学後も保護世帯の家族と一緒に住んでいる子どもが大半なんです。大学進学のための特別な需要があることは間違いありませんが、何なのでしょうか。優先度はどの程度なのでしょうか」(桜井さん)
何を根拠にしているのか、“イミフ”(意味不明)なのだ。
「生活保護世帯の子どもは、大学に進学すると、在学中ずっと生活困窮状態に陥り続けているんです。不利や困難は、ずっと続いているんです。就学時限定の給付金は、使いにくいものになるだろうと思います」(桜井さん)
さらに、桜井さんの懸念は止まらない。「生活保護優遇」という制度設計になり、不公平感をぶつけられる可能性もあるからだ。でも、広い関心と議論を呼び起こす機会でもある。

生活保護と大学進学問題を機に 「ナショナルミニマム」の拡大を
高校進学率は100%に近くなり、ほぼ「延長された義務教育」のようなものとなっている。生活保護世帯でも、1970年、世帯分離をせずに親と暮らしながらの高校進学が認められるようになった。さらに2005年には、生活保護費の中で必要な費用がカバーされるようになった。カバーできていない部分はいまだに多々あるのだが、最大の問題は、「教育」として認められているわけではないということだ。
生活保護には、職業生活の維持・発展を目的とした「生業扶助」というメニューがあり、高校での学修に関する費用は「生業扶助」で保障されている。失業者に対する職業訓練と同じイメージだ。要は「高校を卒業できれば職業に就けて生活保護が不要な成人になる可能性が高い」ということである。「本人に高校教育を受ける権利があるから」ではない。
桜井さんは「『自立助長のため』から抜け出せてないところが根深い」としながら、
「生活保護での世帯内大学進学が実現されたら、『生活保護が必要なのに受けていない家庭の子どもがかわいそう』『大学に行かない子どもがかわいそう』という意見が、必ず出て来るでしょう。でも、生活保護での大学進学で、世帯分離の取り扱いを止めるということは、日本全体の『ナショナルミニマム』が久しぶりに拡がる、ということなんです」(桜井さん)
ナショナルミニマムとは、国が国民に対して「これ以下の生活はさせない」と保障する基準だ。日本で言えば、生活保護基準や生活保護で認められる「健康で文化的な生活」の最低限度がナショナルミニマムに当たる。
「生活保護で世帯内大学進学を認め、世帯分離しなくてもよくすることは、多くのご家庭で大学進学が重い負担となり、大学生が奨学金という名の借金まみれになることを解決する方法の1つなんです。生活保護行政の大切な仕事の1つは、日本全体のナショナルミニマムを決めることです。生活保護世帯の大学生だけに対する優遇、ということではありません」(桜井さん)
しかし現在、生活保護世帯の子どもが大学に進学すると、ナショナルミニマムから弾き出されてしまうことになる。
「だから、そこまで、ナショナルミニマムを拡大しようという話なんです。すると、生活保護は受けていないけれども大学生の子どもがいるために貧困状態に陥っているお宅も、生活保護の対象になります。現在の生活保護世帯だけの話ではないのです」(桜井さん)

困ったときに「助けて」と言える社会、 助ける手段がたくさんある社会を望む
とはいえ、生活保護で何もかもを解決することはできない。国公立大学では、学費減免制度が比較的充実している。しかし、私学や専門学校はどうすればよいのか。生活保護世帯の子どもたちは、様々な理由で、大学ではなく専門学校を選択することが多い。下宿している貧困状態の大学生もいれば、児童養護施設の退所者もいる。
「結局、ナショナルミニマムを拡大し、より普遍的な給付制度を構築する必要があるのでしょう。たとえば、失業給付の学生版、学生であるということに対する何らかの手当があってもよいのかもしれません」(桜井さん)
誰もが、困ったときには「助けて」と言える社会。具体的に助ける手段が数多く存在して選べる社会。そんな社会に生きられたら、と私も思う。
(フリーランス・ライター みわよしこ)

 

児相記録を誤送付、回収 京都府宇治相談所

京都新聞 2017年7月19日

京都府は18日、府宇治児童相談所(宇治市)の職員が、児童の相談記録を誤って保護者宅に送付した、と発表した。
府によると、相談記録は児童の家族構成や職員への相談内容が記されており、原則として当事者にも見せない文書だという。関東地方に引っ越した児童の状況を確認するため現地の児相に郵送する際に、職員が宛先を書き間違えたという。14日に保護者からの連絡で発覚し、職員が現地に出向いて回収、謝罪した。

 

就労の障害者220人に解雇予告 岡山・倉敷の支援5事業所が月末閉鎖

山陽新聞 2017年7月20日

岡山県倉敷市内にある障害者の就労継続支援A型事業所5カ所が今月末で閉鎖され、働いている障害者約220人が解雇予告を受けていることが20日、分かった。障害者の一斉解雇としては全国的にも異例の規模。同市などは同日、再就職に向けた説明会を市内で開いた。
市などによると、閉鎖されるのは市内の一般社団法人が運営する4カ所と、同法人の代表理事が経営する株式会社運営の1カ所。2014年1月から17年1月にかけ、市からA型事業所の指定を受けた。食品包装材加工などの軽作業を行い、7月10日時点では1事業所当たり14~88人が利用していた。
同法人などが6月下旬に利用者と市に7月末での閉鎖を通知。市には「過剰な設備投資で経営が悪化したため」と説明したという。
同法人の代表理事は取材に対し、事業所を閉鎖する理由について「最低賃金が上がり、支払う固定費が増えるなどし、経営が悪化した」と答えたが、詳しい経緯は明かさなかった。
厚生労働省障害者雇用対策課は「1度に3桁の障害者を解雇するというのは、ここ数年では聞いたことがない」としている。
大勢の障害者が就労の場を失う可能性があるため、倉敷市とハローワーク倉敷中央は20日、解雇予定者と市内外のA型事業所など42施設のマッチングを図る説明会を市内で開催。障害者68人が参加し、各事業所のブースを回って話を聞いた。
市障がい福祉課は「一日も早く次の職場が決まるよう、相談に乗るなどサポートしていきたい」としている。