子どもが非行を中心とした問題行動を起こしてしまう理由とは

ベネッセ 教育情報サイト 2017年8月2日

保護者に嘘をつく、きょうだいをいじめる、保護者のお財布からお金を持ち出す……、これらの行動をお子さまが起こした場合、お子さまは心に大きなストレスを抱えているかもしれません。今回は、少年非行に詳しい立正大学社会福祉学部教授の村尾泰弘先生に、子どもが非行を中心とした問題行動を起こしてしまう理由についてお伺いしました。

子どもの問題行動はストレスを感じている証拠
わたしは以前、家庭裁判所調査官として、少年非行の問題に関わってきました。現在も、大学で教壇に立つかたわら、相談室や児童養護施設のスーパーバイザーとして、子どもの非行を中心とした問題行動について相談を受けています。少年非行にはさまざまな定義がありますが、家庭裁判所では少年による非行を、3つの種類に分けています。
【少年非行とは】
・犯罪少年…14歳以上20歳未満の犯罪をした少年
・触法少年…14歳未満の刑罰法令に触れる行為をした児童
・ぐ犯少年…今のままの状態を続けると犯罪行為をしてしまう、または刑罰法令に触れる行為をしてしまう可能性が高い20歳未満の少年
どの非行行動も、子どもから発せられるSOSのメッセージであることが多いのです。その子を取り巻く人間関係の中に何らかのストレスがあり、そのはけ口として万引きなどの非行行動をとってしまうことが多いのです。特に多いのは保護者やきょうだいとの人間関係においてトラブルを抱えている場合ですが、友達や先輩との関係、先生との関係でストレスを感じて問題行動に至ることもあります。子どもは、自分の気持ちを内省し、保護者や第三者に伝える力が未熟なため、無意識のうちにきょうだいをいじめたり、万引きをしたりすることで、親の関心を引こうとする場合があるのです。

気を付けたいお子さまからのサイン
非行行動は、最初は保護者の目の届く家庭内で起こります。幼児であれば、友達をいじめる、友達におもちゃを貸さないということが頻繁に続けば、何らかのストレスを抱えている可能性があります。小学生であれば、嘘をつく、頻繁にケガをする、きょうだいをいじめるなどが挙げられます。
その段階でお子さまのストレスが解消されなければ、家庭外の学校や社会で非行行動を行ってしまうことがあります。お金の持ち出しや万引きになると、事態はより深刻です。お子さまが日々の生活において何らかの欲求不満を抱えていることは明らかですので、早めの手立てが必要になってきます。

子どもに問題行動の多い家庭とは?
多くのご家庭から少年非行に関する相談を受けますが、「うちの子に限ってなぜ問題行動を起こすのかわからない」と言われることも少なくありません。多くの保護者がお子さまを「良い子」に育てようと、さまざまな努力や工夫をされていると思います。しかし、お子さまを思いやるあまりに、過保護や過干渉になってしまい、それがお子さまの負担になっている場合があります。保護者の期待や要求が高くて、お子さまはそれに応えようとしてかなり無理をしてしまうのです。上手にそのストレスを解消できる子もいれば、保護者に本音を言えず欲求不満がたまり、非行行動でそのストレスを解消しようとする子もいるのです。
ですから、お子さまの非行行動は何らかのお子さまからのSOSであるととらえ、原因を追求するとともに、家庭でのコミュニケーションが一方通行になっていないか振り返っていただきたいと思います。多くの保護者が良かれと思って取っている行動が、お子さまにとって負担になっている可能性もあります。

 

「虐待児の施設入所停止」新しい社会的養育ビジョンの衝撃

駒崎弘樹 認定NPOフローレンス代表理事 2017年8月1日

特別養子縁組支援に携わる、NPO法人フローレンスの駒崎です。
社会的養護業界にとっては、「革命」と言っても良いニュースが飛び込んで来ました。
7月31日、「<厚労省方針>虐待児ら施設入所停止 里親委託75%目標」
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170731-00000122-mai-soci
本記事ではこの「新しい社会的養育ビジョン」を簡単に解説します。

【ポイントは何か】
60ページの資料になるので、筆者が特に大切だと思ったポイントを箇条書きで専門用語は言い換えて、ピックアップします。
・子どもを地域で支援するソーシャルワーク体制を創る
・中でも児童虐待に関しては、児童相談所の指導のもと、市区町村で集中的に高リスクな家庭を積極的に支援しにいくような体制を創る
・でも、親子を分離しなきゃいけないケースもある。これまでの児童相談所にある一時保護所は、むやみに長期滞在させたり、そこから学校に通えなかったり、いろんな問題があったので、それは早期に解決する
・また、親と離れて子どもが暮らさざるを得ない場合は、施設じゃなくて里親や特別養子縁組を基本とする。里親への委託率は現在の2割未満から、75%に大幅アップ。特に就学前の子どもは乳児院(施設)入所を停止。
・それだけ強力に家庭養護を推進するためには、里親の数を増やし、質を高めなくてはいけない。そのため、「里親とチームとなり、リクルート、研修、支援などを一貫して担うフォスタリング機関」を創設し、(現在は非常に手薄な)里親支援を強化し、なり手を増やし、質を高める
・特別養子縁組は社会的養護を要する子どものエグジット(永続的解決=パーマネンシー)になるので、強力に推進。「1日も早く児童相談所と民間機関が連携した強固な養親・養子支援体制を構築」し、5年以内に今の2倍の特別養子縁組成立件数にする。

【なぜ施設入所を停止すべきだったのか】
この中で一般の人には分かりづらいかもしれないのが、乳児院への入所停止の方向性ですので、補足します。
「特別養子縁組の6歳以上への年齢拡大についての解説」(https://news.yahoo.co.jp/byline/komazakihiroki/20170716-00073348/)でも書いたように、世界的には、施設養護(乳児院や児童養護施設)から家庭養護(里親や養子縁組)という政策転換の流れがあります。
これは、施設において職員1人に対して、3人から10数人、という人員配置のもと集団生活を送るよりも、家庭的な環境で子どもと両親というマンツーマンに近い環境の方が、子どもの心理的発達においてはポジティブである、という研究結果が下敷きにあります。
ただ、日本では親元で暮らせない子どもたちの83%が施設で暮らすという状況からも明らかなように、施設養護が長らくメインであり、諸外国に比べて圧倒的に遅れていて、日本の社会的養護関係者や研究者にとって積年の課題でした。
今回の「新しい社会的養育ビジョン」においては、一気にその転換を目指したと言えるでしょう。
( 注)とはいえ児童養護施設出身の子ども達に何か問題がある、ということではなく、子ども達にとってより良い環境はどんなものか、といった際には、より家庭的な方がベターだ、ということが意図されており、誤解によるスティグマ量産には十分注意しなくてはいけないのは言うまでもありません。)

【評価と課題】
現場でまさに家庭養護に取り組む我々としても、この革命的な方針転換については、歓迎したいと思います。「ようやく」日本もグローバルスタンダードの社会的養護に一歩足を踏み出した、と言えるでしょう。
ただ、意欲的なビジョンだからこそ、実現には多くの課題があるでしょう。
まず予算です。新たな体制を創る予算を、本当に政府は支出するのでしょうか。これまで、社会的養護の予算は極めて少ないものでした。社会保障予算全体を削減しようとする中で、本当にこの分野に新たな予算を投下するのでしょうか。
また、人です。フォスタリング機関を創設していって、抜本的な里親支援をすると言っても、これまでの行政機関だけではその役割は担えません。
民間のNPOや他の子ども・子育て支援で実力を発揮していた福祉団体等がこの分野に参画してくるような働きかけ、また彼ら潜在プレイヤーの育成が欠かせないでしょう。
そして文化です。児童相談所、児童養護施設、乳児院の職員の方々にとっては、これまでの自己の役割を一部手放し、しかし同時に新たな役割を見出すような納得のプロセスが必要になります。
こうした心理・行動変容をスムーズに行えるよう、前向きな対話と議論を通じて行なっていくプロセスが必要になってくると思われます。
いずれにせよ、地域全体で弱い立場にいる子どもを支えに行く体制を、一刻も早く構築していかねばなりません。社会的養護の世界は、まさにその産みの苦しみの只中にいて、しかし今、新たな方向性を打ち立てたのです。
厚労省、学識経験者、現場のみなさん、すべての関係者の皆さんの、勇気ある議論と創造のプロセスに、敬意を評します。

 

大阪府警、児童相談所と連携深めようとするも課題多し

毎日放送 2017年8月2日

親が子に暴力を振るう身体的虐待や適切な食事を与えないネグレクトなど、児童虐待は年々増え続けています。大阪府の去年の児童虐待の認知件数は4966件、児童数が8536人とともに過去最悪を記録しました。こうした現状を踏まえて、大阪府警は今年から児童相談所と連携を深めようとしていますが、まだまだ課題は多いようです。
大阪府警は今年2月、大阪府、大阪市、堺市の3つの自治体と協定を結び、児童相談所と警察とで情報を共有する取り組みを開始。4月には全国で初めて児童虐待に特化した部署を発足させます。
「虐待に苦しむ子どもを1人でも多く救って、重大な事件に発展しないよう全力をあげて頑張ってまいりたい」(大阪府警児童虐待対策室 荒武泰子室長)
対策室によりますと、過去4年半の間に虐待で子どもが死亡した事件の半数で、児童相談所から警察に情報が提供されていなかったということです。実際7月31日、23歳の男が交際相手の2歳の長女の脚の骨を折ったなどとして逮捕された事件では、児童相談所が自宅を訪問して顔のあざを把握していましたが、警察には情報が届いていませんでした。
そこで大阪府警は、軽い症状でも時期の異なるあざややけどが複数見つかった場合などより細やかに情報提供するよう、2日までに3つの自治体に対し改めて要望しました。

 

「生活保護の不正受給」は減らせるのか

プレジデントオンライン 2017年8月3日

「偽装離婚」の摘発は依然として難しい
厚生労働省は2015年3月、2013年度の生活保護費の不正受給が4万3230件、総額186億9033万円だったと発表しました。金額は前年度より約3.6億円減ですが、件数は過去最悪を更新しました。生活保護は制度上、住民登録がなくても居住実態さえあれば申請が行えます。このため自治体間で受給実態の情報が共有されておらず、不正受給の原因の一つともなっていました。
マイナンバー法の施行で、自治体(都道府県知事等)は生活保護の受給実態をマイナンバーで管理できるようになりました。情報提供ネットワークシステムを用いた適切な情報連携が行われれば「複数の自治体から重複して受給する」といった手口の不正はできなくなります。
ただし、生活保護を受給するうえで、マイナンバーは必ずしも必要ではありません。厚労省は2015年9月、都道府県等に向けて「生活保護事務におけるマイナンバー導入に関する留意事項について」という通達を出しています。要点は以下の通りです。
(1)保護申請書を受理する際には、所定の欄にマイナンバーを記載するよう申請者に求めること。
(2)マイナンバーの提供は保護の要件ではないが、申請者がマイナンバーを提供しない場合は、住基ネットを介してマイナンバーを入手できる。
(3)住民登録のない者はマイナンバーが付番されないため、福祉事務所が住民票作成に必要な支援を行う。
そもそも生活保護の主な対象者には、ホームレスなど住民登録のない社会的弱者が含まれるはずですが、通達では「住民票作成」を支援するように指示しており、生活保護行政の行き詰まりが透けて見えます。
またマイナンバーは個人単位の不正受給抑止には効果がありそうですが、世帯単位での効果は未知数です。生活保護が世帯単位で認定されるのに対し、マイナンバーは個人に割り当てられる番号だからです。書面上は離婚して世帯を分け、形式的に母子家庭とする「偽装離婚」のような手口を防ぐのは難しいでしょう。
離婚の成立には「形式的意思説」といって双方に離婚の意思さえあればいいため、離婚後も同居しながら「でも家計は別々です」と主張することは適法であり、可能です。不正を見抜くためには、元夫と元妻のお金のやりとりを調べる必要があります。これも銀行口座と紐付くようになり、かつ福祉事務所の調査にマイナンバーが用いられれば、調査がやりやすくなるかもしれませんが、幾つかのハードルがあります。
このようにマイナンバーの適用である程度不正受給の抑止が進むとみられますが、本来は適切な保護の拡大にも制度を活用するべきでしょう。
マイナンバー制度の導入をめぐる議論は、民主党政権下の2011年に始まったものです。当時の議論のポイントは「給付付き税額控除」でした。これは課税所得が一定以上の人には税額控除を行い、課税所得が少ない低所得者には現金を給付するという仕組みです。
日本の社会保障制度は「申請主義」で、申請しなければ保障を受けられません。しかし社会的弱者の多くは、様々な制度の存在すら知らないのが現状です。マイナンバーで所得や資産が把握できるようになれば、「生活に不安はありませんか」と申請を呼びかけることもできます。
政府は「不正受給の抑止」をアピールしていますが、それは統治側の論理。付番される側のメリットを示さなければ、マイナンバー制度への信頼は得られず、個人番号カードの利用も広がらないでしょう。