性虐待は“刑法犯”、厳しい罰則に 法改正「監護者」の定義に課題なお

西日本新聞 2017年8月30日

改正された性犯罪規定の概要
先月施行された改正刑法では、家庭内の性虐待を念頭においた「監護者性交罪」「監護者わいせつ罪」が新設された。性被害者が13~17歳で、加害者が親など「監護者」の場合、児童福祉法ではなく刑法で罰せられるようになった。性虐待への法整備は一歩前進したものの、親以外からの性虐待など、子どもへの性犯罪に関する課題は山積している。
刑法の強姦(ごうかん)罪(現・強制性交罪)は、13歳未満は暴行や脅迫がなくても成立してきた。しかし、13歳以上は性交に同意する能力がある「性交同意年齢」とされ、大人の被害者と同様に暴行や脅迫が伴った性交でなければ強姦罪に問えなかった。このため虐待の現場では、13歳以上の子どもに対する性虐待は、より罪の軽い児童福祉法違反として扱われてきた。
そこで新設されたのが監護者性交・わいせつ罪だ。暴行や脅迫がなくても、被害者が18歳未満で加害者が親など影響力の強い「監護者」である場合、適用されるようになった。

「性虐待をきっぱりと“刑法犯”と位置づけた」
福岡市こども総合相談センターで虐待の対応をしている久保健二・こども緊急支援課長は、監護者性交罪などの新設について、「性虐待をきっぱりと“刑法犯”と位置づけた」と好影響を期待する。13~17歳への性虐待の多くは、暴行や脅迫を伴っていないとされ、児童福祉法違反として取り扱われてきたため「加害者にも被害者にも重大な犯罪であると伝わりにくかった」と振り返る。
今回の改正で、加害者を起訴するために被害者の告訴が必要な「親告罪」ではなくなったことも評価する。被害者によっては幼いころから性虐待を受けて被害意識を持ちにくかったり、「家庭を壊したくない」と被害を話さなかったりする事例もあるからだ。
福岡市が受理した昨年度の児童虐待件数976件のうち、性虐待は1%程度。例年2%前後を推移するという。「統計上はその程度でも、大人になってようやく告白できるようになるなど、暗数はかなりあるだろう。刑法犯となることで一定の抑止力になってほしい」。ただ「監護者」の定義が曖昧で、例えば同居している母親の恋人などに適用できるのかなど、不確かな要素も多い。

性交同意年齢を13歳から引き上げるべき
子どもの権利に詳しい、NPO法人ふくおか・こどもの虐待防止センター事務局長の松浦恭子弁護士は、今回の改正を「前進した」としながらも不十分だと指摘する。監護者性交罪は、加害者が教諭や家庭教師、部活動の指導者などの場合は適用されないからだ。こうした人は「監護者」と言い切れなくても子どもに強い影響力を持ち、暴行や脅迫がなくても子どもは抵抗できない例が多いという。
では、子どもを性犯罪から守るためにはどうしたらいいのか。注目したいのは、性交同意年齢の引き上げと、18歳未満に対する性交への細かな規定だ。
性交同意年齢が引き上げられれば、その年齢未満では、加害者が監護者であろうとなかろうと、暴行や脅迫がなくても刑法で罪に問える。国連の自由権規約委員会による最終見解(2008年)は日本に対し、性交同意年齢を13歳から引き上げるべきだとする所見を採択したが、今回の改正では見送られた。
先進国では18歳未満に対する性行為について、細かく規定している国も多い。ドイツは性交同意年齢を14歳とした上で、教師や上司、内縁関係の人物などを対象に、その支配関係を乱用した18歳未満への性行為を禁じている。
今回の改正では、付則に施行3年後の見直し規定が盛り込まれた。松浦弁護士は、性交同意年齢を義務教育卒業程度まで引き上げる必要性を指摘する。「子どもの防御能力や意思決定は、発達過程にある。その弱さにつけこまれないように法で守ってこそ、本当の保護といえる」と、今後の議論に期待を込めた。

 

「面前DV」当事者の体験一冊に 神戸のNPO

神戸新聞NEXT 2017年8月30日

「面前DV」などを受けた当事者らが自らの経験をつづった冊子
シングルマザーを支援する兵庫県のNPO法人「女性と子ども支援センター ウイメンズネット・こうべ」は、親が子どもの前で配偶者らに暴力を振るう「面前ドメスティックバイオレンス(DV)」や虐待を体験した当事者の声を冊子にまとめた。全国の児童相談所が対応した2016年度の児童虐待件数は過去最多で、中でも「面前DV」は増加傾向にある。同法人は「子どもたちの抱える『生きづらさ』への理解が広まってほしい」としている。(風斗雅博)
厚生労働省によると、全国に210カ所ある児童相談所が16年度に対応した児童虐待は12万2578件(速報値)。集計を始めた1990年度から26年連続で増えた。都道府県別で、兵庫は4092件だった。
冊子は「子どもの“困”に寄り添うノート」。一人親家庭への学習支援などのために同法人が運営する「WACCA(わっか)」=神戸市長田区=で学んだり、同法人のシェルターに身を寄せたりした6人の声をつづった。支援に携わるボランティアの思いも紹介している。
大阪市の20代女性は、幼い頃から母や兄弟と共に、父から暴力を振るわれ続け「殴られないように機嫌をうかがいながら気を使って生活していた」と振り返る。学校でデートDVについて授業を受けたのを機に行政窓口に相談。民間支援団体の保護で平穏な生活を取り戻した。同じ境遇で苦しむ人には「逃げてほしい」と、行動を起こす重要性を訴える。
神戸市の40代男性は、小学2年の時に母と妹が突然家を出て、父と2人残された。「強制されない代わりに、だれも気に掛けてくれることはなかった」。20歳で母と再会し、家を出た理由が父親のDVだったと知った。今は「大人になれた恩返しを」と、仕事の傍ら小中学生の学習支援ボランティアに取り組んでいる。
スタッフの茂木美知子さん(66)は、「屈託ない笑顔を見せていても実はつらい思いをしてる子は多い。小さなサインに気付いてあげてほしい」と話す。
A5判、36ページ。500円の寄付で1冊配布する。WACCATEL078・798・6150(木曜休み)

 

誰もボクを見ていない――17歳の祖父母殺害事件の闇

Book Bang 2017年8月31日

『誰もボクを見ていない』山寺香[著](ポプラ社)
親が子を、子が親を、孫が祖父母を殺す事件が多すぎるせいか、ニュースを聞いてもその場で顔をしかめるだけで、忘れてしまうことが多い。この事件もそのひとつだ。2014年に埼玉で起こった17歳の孫による祖父母殺害の動機は「金目当て」だと報道された。多くの人は素行の悪い不良少年が遊ぶ金欲しさに起こした犯行だ、と思っただろう。
毎日新聞さいたま支局に勤務していた著者もそうだった。たまたま警察・裁判担当になったため、この事件の裁判員裁判をすべて傍聴することとなった。そこで明らかにされた少年の生い立ちと環境は常軌を逸した過酷なものだった。
両親の離婚後、母の元に残った優希(仮名)は転居を繰り返す母と母の愛人に連れられ、小学校5年から学校に通わせてもらえない日々を送っていた。児童相談所や公的機関に一時保護されたこともあったが、拘束されることを嫌う母とともに逃亡し、ホームレスに近い生活を続けて行く。母親は金づるである男がいなくなると、次は優希に金を稼がせ、本人は働かずに自分の遊興に費やした。
いよいよ金に困った母親が言い出したのは、祖父母の家に行き、殺してもいいから金を借りてこいというものだった。そして彼は実行した。
幼い時から母だけを頼りにし、その母も息子に依存してきた果ての犯罪である。優希はどうして母から逃げられなかったのだろう。
荒んだ生活だが、母と愛人の間に生まれた妹を優希は可愛がった。おむつを替えたり食べ物を与えたりし続け、妹だけは守りたいと精一杯かばって暮らしていたという。
子供の貧困や居所不明児童の問題が大きく取り上げられているが、当事者の気持ちを知ることは難しい。本書には優希の手記が掲載されている。逮捕後に勉強したという几帳面な字で書かれた文面に心を打たれる。社会復帰をした際の彼の希望をぜひ叶えて欲しいと思う。