児童養護施設に驚きと衝撃 厚労省の「新ビジョン」を協議会長が批判

福祉新聞 2017年10月23日

 全国児童養護施設協議会(桑原教修会長)は11日に都内で、厚生労働省の検討会が8月にまとめた「新しい社会的養育ビジョン」についての特別セミナーを開いた。施設入所期間の限定化などが盛り込まれた新ビジョンは現場の施設に衝撃が広がっているとして、桑原会長は「施設への偏った見方がある」と怒りをあらわにし、今後は現場の意見を訴える方針を明らかにした。セミナーは東京と大阪で緊急に開催、計700人が参加した。全養協が厚労省の報告書に批判的な対応をするのは異例だ。
 2016年の改正児童福祉法を受け、厚労省の検討会がまとめた新ビジョンは、家庭養育優先と施設の専門性強化などが柱。原則として就学前の子どもの施設入所を停止し、里親委託を進める。
 施設の滞在期間は、乳幼児で数カ月以内、学童期以降で1年以内と具体的な数値も挙げた。今後、乳児院や児童養護施設には、里親支援やマッチングなど機能転換を求めている。
 セミナーは検討会委員の奥山眞紀子・国立成育医療研究センター部長、藤林武史・福岡市こども総合相談センター所長、加賀美尤祥・山梨立正光生園理事長が登壇し、新ビジョンについて解説した。
 続く行政説明では、厚労省併任の山本麻里・内閣官房内閣審議官が「数値目標により機械的に施設入所を止めたり、里親委託をしたりするわけではない。子どもの権利を守るため国や自治体に意識変革を投げ掛けている」などと理解を求めた。
 こうした講義の最後に桑原会長が登壇し、「一施設長としても、新ビジョンは自分の中で沸き起こる怒りを抑えることができない。児童養護施設への偏った見方がある」などと指摘。日々苦しむ子どもと誠実に向き合う職員の働きが社会で認められるべきだと主張した。
 特に検討会の委員に全養協が入っていない点も問題視し、「自分たちで将来像を描けなかったのは残念。新ビジョンを進めるには私たちのエネルギーも必要なはずだ」と疑問を投げ掛けた。
 その上で、全養協としては新ビジョンを完全には受け入れない姿勢を表した。今後、具体化される過程では現場の声を集めて訴える方針。さらに、近日中に再度、厚労大臣へ要望書を提出する。
 新ビジョンをめぐって、全養協は9月6日にも、厚労大臣に「丁寧かつ十分な議論を行ってほしい」などとする意見書を提出。エビデンスの検討がないまま数値目標が設定されており、ニーズが異なる子どもたちへのきめ細かい支援が行き届かなくなると危惧していた。
 桑原氏は今年度から全養協の会長に就任。京都府舞鶴市の舞鶴学園の施設長も務めている。
 セミナー後、本紙の取材に対し「社会的養育の方向は、施設そのものが虐待だと言う国際人権NGOの主張通りに進んでいる。しかし、子どもの最善の利益のためには、関係者すべてが方向性を共有し、協働することが必要ではないのか。これからは黙認するのをやめ、きちんと大事なことは主張していきたい」と話した。

 

赤ちゃんの泣き声に腹を立てた隣人が嫌がらせでウソの虐待通報、法的問題はある?

弁護士ドットコム 2017年10月20日

 現在、育児中の男性が10月10日、Twitterにこんな投稿をしました。
 「現在、4カ月の子どもを妻とマンションで育てています。夜泣き等、大変ですが二人で必死にやりくりしています。そんななか、本日、以下のような紙がポストに入っていました。とても悲しい思いをしました」
 一緒に投稿された写真には、メモに「毎日、泣き声が上まであがってきます。もしかして……? けいさつ(原文ママ)へ連絡しますよ」と手書きされていました。他の部屋の赤ちゃんの泣き声をうるさいと感じる人は少なくありませんが、マンションの管理会社が間に立つなどの解決方法が考えられます。
 しかし、苦情がエスカレートして嫌がらせをする隣人もいるようです。弁護士ドットコムの法律相談コーナーには、赤ちゃんの泣き声を快く思わない隣人から、嫌がらせの手紙をポストされたり、虚偽の児童虐待を警察や児童相談所に通報されたりしたという相談が、複数寄せられています。こうした隣人の行為は、法的に問題はないのでしょうか。濵門俊也弁護士に聞きました。

虚偽の虐待通報は明らかな犯罪行為
 嫌がらせ目的で、「子どもが児童虐待されている」と虚偽の通報を警察や児童相談所にすることについて、法的に問題はないのでしょうか。
 「『泣くことが仕事』といわれる赤ちゃんの泣き声が『騒音』といわれかねない時代とは、何とも世知辛い話です。ただ、だからといって嫌がらせ目的で、虚偽の通報を警察や児童相談所にすることは、明らかな犯罪行為です。
 すなわち、偽計を用いて、人(警察官や児童相談所の職員)の業務を妨害していることから、偽計業務妨害罪に該当し得ます。警察や児童相談所からしますと、児童虐待の通報があった以上、動かざるを得ない立場にあります。
 通報の時点ではその内容が事実か虚偽かを判断することはできないからです。結果、単なる嫌がらせであった、ではすみませんので、絶対にやめてください」
 では、「通報するぞ」といった脅しの手紙を直接、郵便ポストに投函することは問題ないのでしょうか。
 「脅迫罪が成立し得るためには、『通報する』行為が人の意思を畏怖させるに足りる害悪の告知に該当するかどうかが問題となります。この点に関し、害悪の告知には適法行為も含みますので、『通報する』行為は害悪の告知に該当し得ます。
 あとは、人の意思を畏怖させるに足りるものかどうかですが、通報により、警察官や児童相談所の職員がたびたび臨場することがつづけば、妙な噂(件の家庭では虐待が行われているようだ等)が立ってしまい、引越しを余儀なくされるような場面も生じるおそれがあります。
 周囲の状況からしますと、脅迫罪に該当し得る可能性はあります。いずれにしても、虚偽の通報や嫌がらせは度が過ぎますと、犯罪行為に該当し得ることは、よく押さえておいていただきたいと思います」

 

児童虐待 隠れたケースも 求められる教育の場 来月、防止推進月間

琉球新報 2017年10月23日

 児童虐待の相談件数が全国的に増えている。2016年度に児童相談所に寄せられた件数は12万2578件と過去最多となり、沖縄県も713件と前年度より増加した。性虐待のように表面化しにくいケースもあり、統計で示されるより実態は深刻だ。来月は児童虐待防止推進月間。「すべての児童は、心身ともに、健やかに生まれ、育てられ、その生活を保護される」。児童憲章でうたわれている言葉の重みを考えたい。

「面前DV」急増
 児童虐待は「身体的虐待」「ネグレクト(育児放棄)」「性的虐待」「心理的虐待」に区分される。児童虐待防止法では、子どもの前で、配偶者に暴力を振るう「面前DV」も児童虐待と定義している。
 16年度の全国の相談件数の内訳は、心理的虐待が最も多く6万3187件、身体的虐待の3万1927件、ネグレクトの2万5842件、性虐待の1622件だった。
 心理的虐待は13年度から年千件ペースで増加している。厚生労働省によると、警察が「面前DV」を通告するケースが増えたことが要因。

統計に潜む「暗数」
 虐待の種別の中で最も表面化しづらいのが性虐待だが、16年度は前年度より101件(6・6%)増え、06年度と比較すると、10年で442件(37・5%)増加した。沖縄は前年度比5件増の21件。相談件数全体に占める性虐待の割合は2・9%で、全国1・3%の2倍強となった。沖縄の性虐待の割合は例年、全国平均より高くなっている。
 ただ、「統計もあくまで明らかになった数字で、被害が表面化していない『暗数』が多い」と指摘する関係者は多い。
 県コザ児童相談所相談班長の後野(うしろの)哲彦さんは「性虐待は被害児が自ら被害を口に出すことが難しい。表面化した時点ですでに長期間被害を受けている場合が多く、被害児童の心身への影響は計り知れない」と語る。
 その上で、性教育プログラムや人権教育、暴力防止教室などの学びの場を、乳幼児健診や保育、学校現場などで持つことが大事だと訴える。「児童年齢や発達に合わせた教育を継続的に実施し、大人に対しても、被害が子どもの心と体に及ぼす影響などについて知ってもらうことが、虐待防止の大きな前提になる」と話している。
 (新垣梨沙)