里親委託率の数値目標は「都道府県の判断」 社会的養育の推進計画で

福祉新聞 2018年2月5日

骨子案をまとめた社会的養育専門委員会
 厚生労働省は1月31日、社会保障審議会児童部会社会的養育専門委員会(委員長=柏女霊峰・淑徳大教授)を開き、都道府県推進計画の見直し要領骨子案を公表した。焦点だった里親委託率について骨子案は、国の目標を念頭に、都道府県の判断で現行を上回る数値目標を設定するよう求めた。今後厚労省は関係者と調整して3月中に要領をまとめ、都道府県に通知する。  
 専門委員会は、厚労省の検討会が昨年まとめた新しい社会的養育ビジョンを受けて設置。都道府県が社会的養育の体制について定める推進計画の見直し要領を検討していた。新ビジョンには、7年以内に就学前の子どもの里親委託率を75%以上にすることなどが盛り込まれており、自治体などが「現場が混乱する」と反発。数値目標の扱いが最大の焦点になっていた。
 新ビジョンの里親委託率の目標について、国としては「達成時期の早期化を図る」という姿勢を表明。都道府県に対して、新ビジョンを念頭に、現行計画よりも上乗せした数値目標を年齢区分別に設定するよう求めた。新ビジョンの目標を自治体に強制する表現にはなっていない。
 厚労省は、各自治体の進捗状況を毎年モニタリングすることで、新ビジョンの目標達成を目指す考え。評価については、社会的養護経験者や専門家、里親、都道府県なども参加する方針だ。その際の評価指標について骨子案には、乳幼児里親委託率や里親不調数、フォスタリング機関実績、新規里親登録数などが盛り込まれた。
 このほか骨子案は、社会的養育の体制整備の基本的考え方や施設の多機能化、児童相談所の強化などを盛り込むよう求めた。見直し期間は18年度中とした。
 会合では、都道府県に数値目標を求めることに異論はなかった。しかし、吉田菜穂子・全国里親会評議員や奥山眞紀子・国立成育医療研究センター部長などから、里親委託率の75%を入れないことへの批判が挙がった。
 また、桑原教修・全国児童養護施設協議会長も「骨子案には政策評価をする中に、施設関係者という言葉がない。一貫して施設が隅に追いやられている」と指摘した。
 骨子案は子ども家庭局預かりとし、委員会の議論は今回で終了。今後、厚労省は関係者と調整した上で、施設の多機能化などの項目を追加し、正式な見直し要領をまとめる。

「社会的養育の都道府県計画、見直し方針は妥当」 草間吉夫教授インタビュー

福祉新聞 2018年2月6日

草間吉夫・東北福祉大特任教授
 厚労省が示した見直し要領の骨子案は、国として里親委託率の高い数値目標を掲げながらも、自治体に強制する内容ではなかった。草間吉夫・東北福祉大特任教授に話を聞いた。

骨子案をどう見ますか。
 着地点として、非常に現実的で妥当な骨子案です。自治体によって意識も違うし、施設や里親など社会資源は異なります。地域の実情に応じて進めるべきなのです。
 そもそも社会的養育は生活保護業務のような法定受託事務ではなく、自治事務ということも大きいです。国は自治体への強い関与はできず、是正要求くらいしかできません。
 進捗状況を毎年評価するのも大事です。足りない社会資源も可視化される。行政の行動原理として、ほかの自治体と客観的に比べられれば意識が変わり、取り組みは前進するでしょう。

新ビジョンには児童養護施設から反対の声も上がっていました。
 当然です。数値目標はあまりにも性急で、明らかに踏み込み過ぎでした。これは幕末に開国を迫った黒船のようなものです。
 もちろん、新ビジョンの全体の方向性ついては賛成です。家庭養育の原則や、施設の小規模化、地域分散化は進めるべきでしょう。
 児童養護施設のメリットは、複数で関与でき、ある程度支援の中身を透明化できることです。問題を起こした施設があるのも事実ですが、法人として子どもをみることは養育の質を一定程度担保できます。
 一方、里親の養育はある意味、ブラックボックスです。里親家庭でも虐待などの事件が起きる可能性はゼロではありません。子どもへの愛情があるという性善説で進めているのが現状で、おそらく児童相談所にも不安がある。
 里親をバックアップするフォスタリング機関の議論もこれから。急激に里親を増やせば、ミスマッチも増え、間違いなく子どもにしわ寄せがいくでしょう。

里親には手厚い支援が必要です。
 多くの里親が孤独感を持っています。巨大な権力を持つ児童相談所へ気軽に相談なんてできません。相談すれば、不適格の烙印らくいんを押され、里親ができなくなる恐怖もあります。
 施設には虐待を受けた経験のある子が6割、障害がある子も3割いると言われています。そうした子どもと24時間向き合うのは本当に大変なことです。
 本気で里親を増やすなら、現場経験などを義務化し、資格制度を創設すべきでしょう。今の専門里親も結局、一定の経験があって研修を受ければ誰でもなれる。今は少年野球の子が大リーグで試合するようなものです。
 それには今の里親への報酬では不十分。せめて施設で働く主任職員並みの報酬を保証することが必要です。

児童相談所も疲弊していると聞きます。
 虐待相談件数は増加傾向にある中、どこもぎりぎりの状況なのではないでしょうか。まずは児童相談所も専門性を高める必要があります。
 例えば、地域包括支援センターには保健師や社会福祉士など国家資格を持った人がいるのに、児童相談所はそうではない。前の部署が土木だった人などもいます。福祉専門職の配置を義務化すべきでしょう。

これからの児童養護施設や乳児院についてはどうお考えですか。
 高齢者分野の施策を見ると良いと思います。全国の包括支援センターの多くを社会福祉法人が担っているように、今後、児童養護施設や乳児院などが児童相談所の機能をもっと担うことが求められるでしょう。
 現実として児童相談所の人材も足りない中、虐待相談件数は増加傾向です。社会福祉法人には入所機能だけでなく、家庭支援や地域の総合相談業務など多くの社会的なニーズがある。つまり多機能化と高機能化です。これまで戦後70年にわたり社会的養護を担ってきた児童養護施設の真価が問われている。最善の利益実現に向けた最善の努力を期待しています。