児童養護施設の移転、地元反対で断念 「学校が荒れる」

朝日新聞デジタル 2018年2月12日

 岐阜県関市の児童養護施設「美谷学園」が、山県市内に施設の一部を移転新築する計画を断念した。移転先の地元自治会の「反対」が理由だ。ただ、その理由には学園側が「偏見だ」と訴えるものもあった。
 関市の山あいにある美谷学園の現施設は老朽化に加えて、通学に不便で進路選択にも影響していた。学園は来年4月開設を目指し、現施設(定員74人)の隣接地に新施設(同45人)と山県市内にグループホーム(同16人)の二つを建てる計画だった。
 だが移転先の自治会は16年9月、同じ中学校区に別の児童養護施設があることなどを理由に、住民計約1300人分の署名を添えて建設反対の陳情書を市に提出した。学園による複数回の住民説明会を経ても態度は変わらなかった。
 それでも学園側は昨年9月、施設整備の補助金を国に申請するため、必要となる市町村による意見書作成を山県市に依頼。ただ、国は補助金の交付条件の一つに「地域住民の賛同」をあげており、市の意見書には自治会の反対が記された。
 美谷学園の森川幸江理事長によると、学園側は意見書の内容を受けて昨秋に臨時理事会を開催。自治会の反対により補助金を受けられる見通しが立たない中で、グループホーム建設は財政的に困難だと判断。隣接地での新施設建設だけを進めると決めた。
 国への補助金申請手続きを行う県は昨年11月、学園からこの意見書を含めた書類を受け取った。だが、県も住民の反対を理由に「補助金の協議を国にするのは困難」と判断し、昨年末に学園側に伝えた。
 県によると、学園の現施設の定員は74人だが、国の児童養護施設の小規模化方針やグループホーム建設を見越して、1月現在の入所児童は43人に調整されている。県の担当者は「今入所する子どもが別の施設に移ることはない」とし、県全体の受け入れ態勢についても「支障はない」としている。

住民「中学 荒れる」 施設「偏見だ」
 地元の二つの自治会が山県市に出した陳情書には、施設建設反対の理由の一つに「生活環境や地域住民だけでなく、学校や子どもたちにも著しい影響を与えると懸念」とあった。「中学校が『荒れた』過去があり、また起こる心配がある」と取材に語る男性もいた。
 美谷学園の森川理事長は「施設の子が悪い子という決めつけ、偏見だ」と憤る。地元の賛同がないまま補助金申請に動いたのは「撤退すれば学園が偏見を認めたことになる」からだと説明する。
 山県市の担当者は「市としては意見書を作っただけで、あとは県の判断。地元住民を説得することも、その逆もできない」。県の担当者は「施設は地域社会全体に受け入れられることが望ましい。住民の賛同がなければ計画の頓挫はやむをえない」としている。(山岸玲)

〈児童養護施設〉
 虐待や死別、貧困などで親が育てられない原則18歳未満の子どもを保護・養育する施設。厚生労働省の調査によると、2016年10月時点で全国603施設に2万7288人が入所する。近年は虐待を理由とするケースが増え、同省の別の調査では入所の半数近くに上った。

痛ましい子供への虐待…あなたの“勇気”が命を救うことも

デイリースポーツ 2018年2月13日

 最悪のケースを防ぐため“勇気”を持ってほしいと訴える谷光医師
 子供への虐待による痛ましいニュースが後を絶ちません。兵庫県伊丹市の「たにみつ内科」で日々診察にあたっている谷光利昭院長は、悲しい現状を憂いながら、周囲が“勇気”を持つことを呼び掛けました。

 子供は親を選べない。しかし、こういった話があります。
 「翔子はお母様が好きだからお母様のところに生まれてきたの」。ダウン症で生まれて“奇跡の書家”となった金澤翔子さんの御尊母が、よく翔子さんから言われる言葉です。そうです、子供は親を選んで生まれてくるということもあるというのです。
 子供の生前にこれから生まれるであろう家族を、よく見ながら選ぶのだという話です。実際、幼児が、お母さんに子供が知るはずのない生前の話を時々することもあるそうです。親の愛よりも子供の愛の方が深いのかもしれません。
 白血病などで死期を悟った4歳の子供さんが、つらい治療の合間に悲しむ親を慰めて天国にいった話も聞いたことがあります。我々、親が思っている以上に我々は子供たちから深い愛情を受けていることを忘れてはいけません。
 しかし、子育ては大変です。仕事が忙しく、子供が幼少期に自宅にほとんどいなかった私にはわかりませんが、聞いた話からは私にはできないだろうなと思うくらい大変です。泣き続ける子供を夜通し抱っこしたり、高熱でうなされている子供を寝ずに看病したり、言葉が通じない赤ちゃんの思いを汲み取ったりなど、本当に大変です。そういった大変な思いをしながら、未熟であった親が、自分の子供に成長させてもらっているだとも思います。
 最近、親が子供を虐待するニュースを頻繁に見たり、聞いたりします。本当につらくて、悲しくなります。虐待と言っても様々な種類があります。肉体的なものばかりではなく、精神的、社会的なものあるのです。虐待されている子供が他人に訴えるケースはほとんどありません。最悪の場合、虐待されている子供の死をもって初めて発覚するケースもあります。
 また最悪に至らずに、無事成人したとしても身体、精神に落とし込まれた記憶は簡単に消えることがないのは必至です。そういった虐待を受けた人の多くが、何らかの精神疾患を抱えておられるケースが多いということを精神科の先生から伺ったことがあります。
 本当に愛してやまない親からの虐待は、想像を絶する苦しみ、悲しみを子供に負わせるのです。刑事罰では疑わしきは罰せずが原則ですが、そうしていては最悪の事態を招きかねないのではないでしょうか。そこは考え方を変えて頂き、親を罰するだけではなく、子供たちを救うことを最優先に変えて頂きたいのです。
 子供の虐待が疑われた場合は、まず児童相談所や福祉事務所に連絡を入れて頂きたい。あなたの“勇気”が、幼い命を救うこともあるのです。

第1号の男性保育士、30年経て見えてきたもの

西日本新聞 2018年2月12日

保育士歴30年の浦浩三さん。「子どもたちは日々成長していきます」
 保育士不足が深刻化している。福岡県久留米市も例外ではなく、保育所に入れない待機児童数は59人(昨年4月時点)で、保育所定員を満たしていないにもかかわらず、人材難を理由に入所を拒まれている。市立大城保育所(同市北野町)で主任保育士を務める浦浩三さん(58)は数少ない男性保育士。「もっと“男性参画”が進めば、保育士不足の解消にもつながるのでは」。30年間、保育現場に身を置くことで見えてきたものもあるという。
 午後3時のおやつの時間。「みんな座って」。歩き回っていた子どもたちが椅子に腰掛けると、お菓子を手渡した。それでも、そわそわと落ち着かない子も。「椅子に座れる子は、かっこいいな」「さあ絵本の時間だよ。きょうは何かな」。優しい口調で、子どもたちの興味を引き付ける。

保育が終わった後、市労連の業務に取り組むことも
 「何で保育士をやろうと思ったの」
 0~6歳の94人が通う大城保育所で、浦さんは昨年4月から、1歳児クラス(18人)の担任を務める。それまでは7年間、市幼児教育研究所で発達の遅れや偏りがある幼児を対象に療育訓練を実施してきた。「例えば、押し付けではなく興味を抱くまで待ち続ける-。以前と比べ、子どもたちとの向き合い方が変わりました」
 筑後市出身。中2の冬、父親を病気で亡くした。家計に負担をかけまいと、中学卒業後に就職するつもりだったが、五つ離れた兄の「高校には行け」との一言で進学。兄が子どもたちに運動を楽しく教える幼児体育指導者だったこともあり、九州大谷短大(筑後市)の幼児教育学科に入学した。在学中、幼稚園や保育所に足を運び、子どもたちの主体性を促す「創造保育」に関心を持った。「子どもたちと同じ目線で触れ合いたい」。保育士の国家資格を取得し、1981年、久留米市に保育士として採用された。
 浦さんは男性保育士第1号。現在も全83人のうち男性は4人しかいない。これまで6カ所で勤務したが、男性と一緒だったことはなかった。「変わってるね」「何で保育士をやろうと思ったの」と、保護者や知人から尋ねられたことも。「保育士は女性の仕事というイメージが強い。元気すぎる子どもたちと遊んだり、力仕事を引き受けたり…。頼りにされるケースは少なくありません」

「男性が魅力を感じる仕事として発信にも努めたい」
 2014年10月から、市従業員労働組合連合会(市労連)の執行委員長を務める。男性だけでなく保育士全体の人材不足を痛感しており、手当の増額や平日限定など柔軟な働き方を促すことで雇用増を働き掛けることを思案中。「公務員と民間の賃金格差もあり、国が本腰を上げて対策に取り組まないと、いつまでたっても待機児童問題は解決しない」と浦さん。「保育現場に限らないが、結婚や出産、育児を理由に男性が辞めるケースは少ない。男性が魅力を感じる仕事として発信にも努めたい」
 孫世代の1歳児から「しぇんしぇい」と慕われるベテラン保育士。2年後に迎える定年まで、子どもたちの屈託のない笑顔を見続けるつもりだ。