明日、ママがいない 批評まとめ

 

 ドラマ「明日、ママがいない」の影響を受けて、「施設内虐待」のキーワード検索で、当サイトのコンテンツにアクセスする人が増えています。
 では、実際、児童養護施設では、施設内虐待が、どの程度起きているのでしょう。

 参考…STOP!児童養護施設内虐待:児童養護施設の新聞記事

 新聞記事になった児童養護施設だけでも67施設あります。もちろん、潜在的な施設内虐待もあると推測できますので、もっと高い数字になると考えられます。 
 2006年に、新聞記事になった児童養護施設が16件と例年になく多く、これは、2005年(平成17年)の児童福祉法改正により、マスコミが児童養護施設を注目していたのだろうと推測できます。
 施設内虐待が表面化した事実を受け、2008(平成20年)の児童福祉法改正で、被措置児童虐待の通報制度が設けられ、虐待を発見した者や、虐待を受けた児童は、児童相談所等に通報又は届出できるようになりました。
 しかし、数字的には、2000年代だけで、全体の約11%の児童養護施設で、施設内虐待が行われていたことになります。(露呈した数字であり、実際は…?)
 児童養護施設における施設内虐待の代表的事例としてあげられるのが、恩寵園事件ですが、これは、1990年代の事件です。
 2000年に、新聞記事になった児童養護施設が11件と多いのは、恩寵園関係者が1999年-2000年にかけて逮捕された影響により、マスコミが児童養護施設を注目していたのだろうと推測できます。
 *恩寵園事件 Wikipedia

 施設内虐待には、3つの要素があります。(参考…働くあなたへのメッセージ 8 施設内虐待の防止)
 1.職員が子どもに対して行う場合
 2.子ども同士の場合
 3.子どもが職員に行う場合

 ドラマ「明日、ママがいない」の視聴者で、特に放映継続肯定の方の一部の意見として、1.職員が子どもに対して行う場合が、新聞でも取りざたされており、事実に基づいた脚色もあり、児童養護施設側が番組内容の改変を求めるのは、如何なものかとの指摘があります。確かに、平成25年度も新聞に取り上げられた事案が発生しており、児童養護施設側は、ご意見を真摯に受け止めるべきでしょう。
 では、児童養護施設では、施設内虐待防止に向けて、なにも取り組んでいないのか。否です。様々な取り組みを行っています。

・子どもが児童相談所児童福祉司に直接、相談することができる。…児童福祉法に明記されています。
*児童福祉法 第三十三条の十二3 被措置児童等は、被措置児童等虐待を受けたときは、その旨を児童相談所、都道府県の行政機関又は都道府県児童福祉審議会に届け出ることができる。
  *被措置児童等虐待対応ガイドライン~都道府県・児童相談所設置市向け~
 * 平成21年度における被措置児童等虐待届出等制度の実施状況
 *平成22年度における被措置児童等虐待届出等制度の実施状況
 *平成23年度における被措置児童等虐待届出等制度の実施状況
・保育実習生やボランティア(家庭教師等)など外部の人を生活場面に受け入れる。
・要望解決第三者委員会と要望受付窓口の設置。…制度的に義務づけられています。
 *児童養護施設関連制度 6 苦情解決制度
・外部機関による第三者評価の受審。(受審しない年度は、福祉サービス自己評価の実施)…制度的に義務づけられています。
・各種外部研修会への参加。(人材育成)
・施設内研修の実施。(人材育成と勉強会)
・主任配置。(リーダーによるチェック機能)
・業務内容打合せ。(職員相互間におけるチェック機能)
・施設長と主任クラスによる運営会議。(施設長によるチェック機能)
・その他、各児童養護施設による独自の取り組み

 特に、児童福祉法に明記されている、あるいは、制度的に義務づけられている事柄については、全ての児童養護施設が取り組んでいることになります。
 確かに、調査実施状況も公開されており、施設内虐待の件数が明記されています。つまり、施設内虐待は現実の出来事として存在します。だからといって、ドラマ「明日、ママがいない」で表現されている施設内虐待を容認すべきだとの暴論を受け入れることは出来ません。 
 施設内虐待は、起こってはいけないことです。目を背けたり、知らないふりをすることは、もっての外です。しかし、各自治体が現実を直視し、改善に向けて真摯に取り組んでいることも紛れもない事実です。
 
 ドラマ「明日、ママがいない」の視聴者で、そこまで掘り下げて児童養護施設を理解し、ドラマは虚構の世界であって、現実にはあり得ない世界だと考える人は、少数派でしょう。裏を返せば、それだけ児童養護施設の認知度は低く、それは、児童養護施設が生活施設であり、児童養護施設を啓発することは、そこで生活している児童のプライバシー環境を暴露することに繋がることを警戒しているためでもあります。
 児童養護施設を世の中の人々に認知してもらうことに重きを置くか、児童のプライバシー保護に重きを置くか、選択すべきは後者であると考えますが、如何でしょうか。
 ドラマ「明日、ママがいない」の第1話は、施設内虐待の巣窟の雰囲気を醸し出していましたが、現実の日本社会で行われている施設内虐待防止に対する取り組みが、脚本に組み込まれていき、施設内虐待が改善されていく展開になるのか疑問です。
 ドラマの中では、施設長自身が施設内虐待の当事者で児童相談所の職員は、その状況を認知している設定ですが、フィクションと言えども、実在する「児童養護施設」での出来事であるかのような表現は、表現の自由を逸脱していると言えます。
 表現の自由という後ろ盾で、他者を侵害する行為は、「ペンの暴力」に繋がるのではないでしょうか。

児童福祉法
第七節 被措置児童等虐待の防止等
第三十三条の十  この法律で、被措置児童等虐待とは、小規模住居型児童養育事業に従事する者、里親若しくはその同居人、乳児院、児童養護施設、障害児入所施設、情緒障害児短期治療施設若しくは児童自立支援施設の長、その職員その他の従業者、指定医療機関の管理者その他の従業者、第十二条の四に規定する児童を一時保護する施設を設けている児童相談所の所長、当該施設の職員その他の従業者又は第三十三条第一項若しくは第二項の委託を受けて児童に一時保護を加える業務に従事する者(以下「施設職員等」と総称する。)が、委託された児童、入所する児童又は一時保護を加え、若しくは加えることを委託された児童(以下「被措置児童等」という。)について行う次に掲げる行為をいう。
一  被措置児童等の身体に外傷が生じ、又は生じるおそれのある暴行を加えること。
二  被措置児童等にわいせつな行為をすること又は被措置児童等をしてわいせつな行為をさせること。
三  被措置児童等の心身の正常な発達を妨げるような著しい減食又は長時間の放置、同居人若しくは生活を共にする他の児童による前二号又は次号に掲げる行為の放置その他の施設職員等としての養育又は業務を著しく怠ること。
四  被措置児童等に対する著しい暴言又は著しく拒絶的な対応その他の被措置児童等に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと。
第三十三条の十一  施設職員等は、被措置児童等虐待その他被措置児童等の心身に有害な影響を及ぼす行為をしてはならない。
第三十三条の十二  被措置児童等虐待を受けたと思われる児童を発見した者は、速やかに、これを都道府県の設置する福祉事務所、児童相談所、第三十三条の十四第一項若しくは第二項に規定する措置を講ずる権限を有する都道府県の行政機関(以下この節において「都道府県の行政機関」という。)、都道府県児童福祉審議会若しくは市町村又は児童委員を介して、都道府県の設置する福祉事務所、児童相談所、都道府県の行政機関、都道府県児童福祉審議会若しくは市町村に通告しなければならない。
2  被措置児童等虐待を受けたと思われる児童を発見した者は、当該被措置児童等虐待を受けたと思われる児童が、児童虐待の防止等に関する法律第二条 に規定する児童虐待を受けたと思われる児童にも該当する場合において、前項の規定による通告をしたときは、同法第六条第一項 の規定による通告をすることを要しない。
3  被措置児童等は、被措置児童等虐待を受けたときは、その旨を児童相談所、都道府県の行政機関又は都道府県児童福祉審議会に届け出ることができる。
4  刑法 の秘密漏示罪の規定その他の守秘義務に関する法律の規定は、第一項の規定による通告(虚偽であるもの及び過失によるものを除く。次項において同じ。)をすることを妨げるものと解釈してはならない。
5  施設職員等は、第一項の規定による通告をしたことを理由として、解雇その他不利益な取扱いを受けない

 児童福祉法では、施設内虐待に関して罰則規定が設けられていないため、実際に施設内虐待が発覚した場合は、刑法他の法律が適用されることになります。しかし、児童養護施設が組織的に施設内虐待の事実を隠蔽していたり、子どもたちを規則でがんじがらめにしていたり、子どもたちに恐怖感を植え付けるような指導をしていたり、児童権利ノートを配付していなかったり等があれば、事実の発覚が遅れる場合もあるでしょう。現実的に、昨今まで事件として報道されている事実がありますので、約600ヶ所の児童養護施設、全てで絶対施設内虐待は行われていないと断言できないことは悲しいことです。