日常的に起こるDV、我が身に降りかかる虐待などで、ごく稀に自分で希望して児童養護施設に入所してくる子どもたちもいるが、殆どの子どもたちは、望まずして入所してくるのである。いわゆる大人の都合で、いつのまにか、児童養護施設で生活を余儀なくされているのである。
児童養護施設において子どもたちは、日本国憲法第二十五条「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」を根拠に、児童福祉法の規定に基づき定められた児童福祉施設最低基準第2条「最低基準は、児童福祉施設に入所している者が、明るくて、衛生的な環境において、素養があり、かつ、適切な訓練を受けた職員(児童福祉施設の長を含む。以下同じ。)の指導により、心身ともに健やかにして、社会に適応するように育成されることを保障するものとする。」により、衣食住は勿論のこと、育成されることを保障されているのである。
そのため、児童養護施設に入所したことで、不幸な生活を強いられることはない。食生活は、栄養士によって立てられた献立により、年齢に応じたバランスの取れた栄養を吸収し身体的成長を促している。栄養士は、食育に工夫を凝らすと共に、楽しい食事時間を過ごせるように献立にも工夫を凝らしている。また、食材についても、入手経路を明確にし安全安心な食材を選択している。子どもたちの子育てを担う職員は、常に子どもたちと食事を共にする。要するに子どもが冷めた食事を一人寂しく食べる瞬間は、ないのである。食生活については、一般家庭より豊かな状況と言えるのではないか。
衣類については、昭和時代は、寄贈品としていただいた中古衣料を子どもたちに提供することもあったが、平成の世では、衣類購入の予算を割当て、新品の衣類を子どもたちに提供している。幼い子どもたちは、職員が単独で購入することもあるが、ある程度の年齢の子どもたちについては、一緒に買い物に行ったり、高学齢の子どもたちは、自分で買い物に行くこともある。高級な衣服を買いそろえることは出来ないが、必要最低限の衣類は、新品により揃えられるのである。もちろん、洗濯も、洗濯機が毎日4回5回も稼働し、常に衛生面にも気を配っている。高学齢の子どもは、下着など自分で洗濯機をまわすなど日常的な光景である。
住環境は、昭和50年代以前に建てられた児童養護施設が建て替えを進めており、国は、小規模ユニットケアを推奨している。いわゆる、5LDK程度の間取りの一戸建てまたは、マンション型の住まいに6名~8名程度の子どもたちが生活する形式である。兄弟姉妹の多い戦前の日本の家庭を思わせる家庭環境と言える。それでも、寮生活のような集団的な生活環境ではなく、より一般家庭に近似した生活環境と言える。昨今の児童養護施設の住環境は、機能面より、QOL(生活の質)を念頭に置き、一般的な生活機器を導入し、同年代同世代の子どもたちの生活環境と同じようにしているところが増えている。
では、子育て能力のある素晴らしいまた、献身的な職員に恵まれ、生活環境がある程度満たされていれば子どもたちは満足するのか。否である。幼稚園に行けば、他のお友達は、母親が迎えに来て我が家に帰っていく。学校に行けば、クラスメート達は、家族の待つ我が家に帰宅していく。そんな光景を毎日目にしている児童養護施設の子どもたちの心境はいかなるものであろう。
社会の基本は家庭と言われている。つまり、人が最初に所属意識を持つのは、家庭である。それは、児童養護施設の子どもたちも同じである。それが例え、どんなに過酷な環境の家庭であっても、所属意識は家庭にあるのである。児童養護施設は、自分の本当の居場所と認識できない。認識したくないのが当然の結果であろう。本当の居場所に存在していない自分について劣等感を抱き、早くこの場から脱したいとの心境に陥ることに対して、誰が、それを否定や肯定ができるであろうか。高学齢になるにつれて、その子どもたちの心境が生活面に表出されてくるのである。そして、その心境が子どもたちの心の中で、やっと消化されるのが、高校卒業後に社会に旅立っていく、その時なのである。もちろん、結局消化できずに、劣等感や嫌悪感を抱いたまま社会に旅立っていく子どもたちもいる。
日本社会では、殆ど認識されていないが、児童養護施設の子どもたちも、いわゆるマイノリティ(社会的少数者)問題に関連していると言える。私たちは、マジョリティ(社会的多数)としての優越感をマイノリティ(社会的少数者)に対して、心の片隅に抱いていないだろうか。児童養護施設の子どもたちは、精神的にも知識的にも未熟が故に、どうしてもマイノリティ(社会的少数者)の意識を抱きがちである。これを解決しない限り、子どもたちの真の満足感は得られないであろう。
社会的養護とは、社会が子どもたちを支え合い、社会に受け入れていくプロセスが求められる。そこに、少数派や多数派的な考えが介在してはいけないのである。児童養護施設で生活することは、日本社会の中で特異なことなのか普通のことなのか、「普通のことだ」と思ったあなたは、何を成すべきなのか、こどもの日の今日、考えてみてはどうだろうか。