選挙権年齢引き下げと児童養護施設

2015年6月2日

選挙権の年齢引き下げは、今国会で成立する見通しです。公布から1年後に施行し、その後の国政選挙から適用されるため、2016年夏の参院選から18歳以上が投票できるようになる公算が大きい。
児童養護施設の今後の対応については、対策を立てておくべきでしょう。
選挙権の年齢引き下げが、児童養護施設と、どの様に関わっていくのか。それは、児童養護施設在籍中に満18歳に達した児童は、措置延長手続きがとられ、高等学校卒業まで措置が継続しているためです。
つまり、満18歳の高校生が、在籍しており、選挙権の年齢引き下げは、直接的に影響します。
今回の法改正には、下記の附則が大きく関わってきます。

日本国憲法の改正手続に関する法律 附則 第三条
国は、この法律が施行されるまでの間に、年齢満十八年以上満二十年未満の者が国政選挙に参加することができること等となるよう、選挙権を有する者の年齢を定める公職選挙法、成年年齢を定める民法(明治二十九年法律第八十九号)その他の法令の規定について検討を加え、必要な法制上の措置を講ずるものとする。( 総務省ホームページ より)

従って、選挙権の年齢引き下げを行うに当たっては、年齢に関係する法律も見直さなければならいと言うことです。
では、特に影響を及ぼす法律を挙げてみましょう。

民法第4条
年齢二十歳をもって、成年とする。

18歳は、成年か未成年かを明確にしなければいけません。何故ならば、未成年と言う単語が幾つかの法律のキーワードになっているからです。

民法第5条
1.未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。ただし、単に権利を得、又は義務を免れる法律行為については、この限りでない。

民法第20条
1.制限行為能力者(未成年者、成年被後見人、被保佐人及び第17条第1項の審判を受けた被補助人をいう。以下同じ。)の相手方は、その制限行為能力者が行為能力者(行為能力の制限を受けない者をいう。以下同じ。)となった後、その者に対し、一箇月以上の期間を定めて、その期間内にその取り消すことができる行為を追認するかどうかを確答すべき旨の催告をすることができる。この場合において、その者がその期間内に確答を発しないときは、その行為を追認したものとみなす。

未成年者であれば、商取引等で制限行為能力者と判断され、商取引そのものを契約破棄できることもあり得ますが、成年者となると、そうはいきません。反面、成年者となると、クレジットカード作成時の「保護者の同意」が不要となり、クレジットカートが作れるようになります。
児童養護施設在籍中の児童でも満18歳になると、施設長の承認も受けずにクレジットカードを作って使用しているなどのシーンがあり得るのです。

民法第731条
男は、十八歳に、女は、十六歳にならなければ、婚姻をすることができない。

民法第737条
1.未成年の子が婚姻をするには、父母の同意を得なければならない。
2.父母の一方が同意しないときは、他の一方の同意だけで足りる。父母の一方が知れないとき、死亡したとき、又はその意思を表示することができないときも、同様とする。

未成年が18歳未満に設定されると、18歳になった在籍児童が、いつの間にか、結婚していたなど、現実的に起こりえます。成年者は、父母の同意なく婚姻を結べるため、役所も届出があれば受理することになります。

未成年者飲酒禁止法1条
1.満20歳未満の者の飲酒を禁止する(1条1項)。

未成年者喫煙禁止法第1条
満20歳未満の者の喫煙を禁止している。

飲酒や喫煙については、条文には、未成年者という表現ではなく、満20歳未満と表現されているため、今回の選挙権年齢引き下げの法律とは連動しません。
従って、来年、18歳に達した高校生が、児童養護施設内で、喫煙や飲酒をする光景は、とりあえず回避されていることになります。

児童養護施設職員においては、少なくとも以上の点が、児童に関わってくることは、現時点で明らかになっているため、検討研究を、開始していることと推察しますが、仮にまだ、対策協議を進めていないのであれば、速やかに進めていくべきでしょう。
マイナンバー制度も平成28年度からスタートし、選挙権年齢引き下げも平成28年度夏からスタートとなれば、社会が大きく変化していきます。児童養護施設は、社会の変化について行くことが、児童への教育上も必要です。
児童や従事する職員が、その時が来て慌てなくて良いように、先手先手で、対応策を練っていくことが大切ですね。

選挙権年齢引き下げに関連するニュースを下記に紹介します。

「18歳以上」選挙権、来年参院選から適用も…残る“ダブルスタンダード”

産経ニュース 2015年05月30日

選挙権年齢を「20歳以上」から「18歳以上」に引き下げることを柱とする公職選挙法改正案が6月4日の衆院本会議で可決され、中旬にも成立する。来年夏の参院選から適用され、18~19歳の未成年者約240万人が有権者に加わる見通しだ。昭和20年に「25歳以上」から現行の年齢に変更されて以来、70年ぶりの見直しで、国政選挙のほか、自治体の首長、議会の選挙などにも適用される。
選挙権年齢の拡大により、18~19歳の選挙運動も解禁となる。このため、改正案には、未成年者が連座制の適用となる悪質な選挙違反に関与した場合は、原則として検察官送致(逆送)となる規定を盛り込んだ。成人に科せられる処罰との不均衡が生じないようにする措置だ。
ただ、民法と少年法の成人年齢は「20歳以上」のまま変わらない。18~19歳は選挙権を行使できる一方、少年として「保護」の対象となるという“ダブルスタンダード”が残るため、公選法改正案は「民法、少年法その他の法令の規定について検討を加え、必要な法制上の措置を講ずる」と規定し、是正を促す。
海外では、選挙権年齢と成人年齢をともに「18歳以上」と定めている国が大半だ。自民党は4月、民法と少年法の成人年齢引き下げを検討する特命委員会(委員長・今津寛衆院議員)を設置し、議論を開始した。
法相の諮問機関「法制審議会」は平成21年10月に民法の成人年齢について「18歳に引き下げるのが適当」と答申しており、自民党内でも異論はほとんどない。しかし、少年法は同党の谷垣禎一幹事長が「少年は人格の形成途上であり、少年法の特例は意味があるものだ」と改正に慎重な考えを示しており、法制審への諮問を経て、さらに議論を深めることになりそうだ。
一方、各党は、憲法改正の最終的な意思決定の手続きを定めた国民投票法の投票年齢についても、速やかに18歳に引き下げる方針で一致している。与野党で合意した引き下げまでの猶予期間を前倒しするため、同法の改正作業にも早期に着手する予定だ。

なぜ引き下げ?…18歳選挙権実現へ

読売新聞 2015年05月30日

選挙権年齢を「20歳以上」から「18歳以上」に引き下げる公職選挙法改正案は27日、衆院政治倫理確立・公職選挙法改正特別委員会で審議入りした。6月4日の衆院本会議で採決され、6月中旬にも成立する見通しだ。来夏の参院選で「18歳選挙権」が実現する公算が大きい。(2015年05月28日)

実現すれば70年ぶりの見直しとなる選挙権年齢。引き下げの目的や選挙権を持つことになる世代の反応をまとめました。

実現するとどうなる?
選挙権年齢の引き下げが実現すれば、18、19歳の未成年約240万人が有権者に加わり、衆院選と参院選のほか、地方自治体の首長や議会の選挙などに適用される。18歳以上の未成年者であっても、買収など重大な選挙違反は成人と同様、処罰対象となる。(2015年05月28日)

なぜ引き下げる?
国民投票法では、憲法改正のための国民投票で投票できる年齢を原則18歳以上としました。ただし、法律の施行までに18歳以上20歳未満の人が国政選挙に参加することができるよう、公職選挙法や関連法の整備などを定めています。

日本国憲法の改正手続に関する法律 附則 第三条
国は、この法律が施行されるまでの間に、年齢満十八年以上満二十年未満の者が国政選挙に参加することができること等となるよう、選挙権を有する者の年齢を定める公職選挙法、成年年齢を定める民法(明治二十九年法律第八十九号)その他の法令の規定について検討を加え、必要な法制上の措置を講ずるものとする。( 総務省ホームページ より)

海外では18歳が主流
海外では選挙権年齢は、「18歳以上」が主流だ。国立国会図書館の調査(2014年)では、197の国・地域のうち、8割以上が日本の衆院にあたる下院の選挙権を18歳以上としている。特に主要8か国(G8)では、日本以外の7か国が18歳以上と決めている。(2014年12月10日)

対象になる世代の反応は

引き下げに好意的な声
27日夜、東京都内で開かれた「18歳選挙権フォーラム」。松下政経塾の主催で、参加者約150人の4分の1ほどは高校生や大学生らが占め、与野党の衆院議員らのパネルディスカッションに耳を傾けた。

神奈川県藤沢市の高校3年生(18)は「国の未来を決定できる機会が増えるのは良いこと」と歓迎している様子。来春に18歳になる横浜市の高校3年生(17)は「若者の投票率は低いが、学校で投票の方法などを学べば政治への関心も高まっていくと思う」と話した。

模擬投票で予行演習…「よく分からない」の声も
高校入学時から政治参加意識を高めようと、神奈川県では2010年と13年の参院選の際、全ての県立高校で生徒の模擬投票を実施した。
県立湘南台高校(藤沢市)では、13年参院選で、生徒が選挙公報などで各党の政策の違いを研究した上で模擬投票に臨んだ。市選管から投票箱と記載台を借りて、生徒有志が投票所の運営と開票を担った。
投票するかどうかの判断を生徒に委ねたところ、投票率は51%だった。投票後のアンケートでは「選挙に親近感がわいた」「1票の重みを実感した」という声の一方で、「政党が多くてよく分からなかった」との意見もあった。
(2015年05月28日)

学校での啓発は進むのか…識者や教師の声
18歳選挙権の導入をにらみ、総務、文部科学両省は昨年度末から、高校生用の主権者教育の副読本の作成を始めている。「模擬選挙など実践的な活動を手助けする内容にしたい」として、今夏の完成を目指す。
しかし、教育基本法の定める「教育の政治的中立性」を背景に、大多数の学校は依然、政治的な話題に消極的だ。

ある大阪府立高の教頭は「やらなければと思うが、保護者から『偏った政治思想を子供に押しつけているのではないか』と言われそうで踏み出せない」と明かす。私立高の校長の一人は「受験勉強が最優先で、保護者も望んでいない。わざわざ手を回すほどの余裕はない」と言い切った。

関西学院大の稲増一憲准教授(政治意識論)の話「若者の投票率が低い理由の一つに、長年、学校が主権者教育に消極的だったことがある。有権者になって初めての選挙で投票した人はその後も投票を続ける傾向がある、との研究もある。18歳選挙権が実現すれば、学校での啓発は極めて重要だ」