検察から児相へ情報伝達可能 法務省が見解

読売新聞2013年12月8日

 和歌山市での男児虐待死事件に絡み、児童虐待の容疑で逮捕された人物が不起訴(起訴猶予)となった場合の児童相談所(児相)と検察側の連携について、法務省刑事局は読売新聞の取材に「被害者等通知制度を使えば、検察から児相に情報伝達は可能」との見解を示した。同制度を児童虐待に適用する考えを明らかにするのは初めてという。だが、専門家は、処分を決めた検察側こそが、主体的に福祉機関と連携して子供を守る環境を整備する必要性があると指摘している。
 児相と検察との連携の問題は、長男星涼せりちゃん(今年7月に2歳で死亡)への傷害致死罪で先月12日に起訴された同市の原和輝被告(26)が2年前、星涼ちゃんに対する別の二つの傷害容疑で逮捕、再逮捕され、和歌山地検がいずれも起訴猶予としたことに起因する。起訴猶予は「罪を犯した事実は認定できるが、起訴するほどの悪質性がない」などの場合の処分だ。
 当時について、児相(和歌山県子ども・女性・障害者相談センター)の永井真理子次長(59)は今回の事件後、取材に「被告は起訴猶予を『潔白』ととらえていた。地検から処分理由や捜査内容は教えてもらえないとの認識だったので、当時は求めなかったが、知ることができれば、虐待を認識させる積極的な働きかけができたと思う」と説明。保護していた星涼ちゃんを帰宅させた判断が結果的に誤りで、死を招いたと悔いた。
 こうした経過に関し、読売新聞が同局に対応を尋ねたところ、同局は「児相を被害者等通知制度の対象となる『被害者等』に含まれると考えることは可能で、各地検の判断で捜査情報は伝えられる」と柔軟な運用が可能との意向を示した。
 ただ、こうした見解は周知されているわけではないため、現場の検察官らとは温度差があるのが実情だ。
 原被告の起訴時、刑事訴訟法との関係で「詳細な説明は難しい」とした和歌山地検の金木秀文次席検事は先月19日、県や児相関係者に対し、処分理由や捜査情報の提供に前向きな姿勢に転じたが、具体的には個別ケースごとの協議が必要とし、実際にどの程度開示されるかは不透明だ。
 また、ある検察関係者も「情報が漏れる不安があり、開示の基準が明確でなければ現場は混乱する」と積極開示に戸惑いを見せる。
 一方、検察側との連携については、和歌山県以外の複数の児相の関係者も「検察から情報は得られない」との認識を示し、ルール化による改善を望む声が多い。法務省「検察の在り方検討会議」元委員で元東京高検検事の郷原信郎弁護士は「不起訴の中でも起訴猶予は、検察が『再犯の恐れなし』と判断した処分。そうであるからこそ、検察には子供を守るために児相との連携という環境を整える責任があるはずだ」と話している。
被害者等通知制度
 検察官が、希望した犯罪被害者や事件の目撃者らに、事件の刑事処分や裁判の結果などを通知する制度で、1999年4月に始まった。被害者とその親族、それに準じる人には、不起訴の理由も伝えることができる。

児童虐待 強制介入ためらい、児相苦慮

MSN産経ニュース 2013年12月7日

 各地の児童相談所が相次ぐ児童虐待への対応に苦慮している。児童の一時保護や、両親が調査を拒んだ際などに強制立ち入りする「臨検」が有効な防止策とされるが、児相は家庭支援の役割も担っているため、現場では介入に及び腰な姿勢も。専門家は「強制措置を取るには役割の見直しが必要」と話す。
 厚生労働省の昨年度の調査では、全国の児相にあった虐待の相談件数は過去最多の約6万6千件に達した。国や自治体は、児童虐待防止法が施行された10年以上前から対策を強化。虐待が強く疑われる事案では臨検や一時保護が認められている。児相は各市町村の保健所などと連絡を取り、警察に援助も要請できる。
 だが、平成23年度に確認された虐待死は56件にも上る。ある関係者は「背景には児相の現場が強制的な介入をためらう実態もある」と話す。
 6日に愛知県豊橋市の男が生後7カ月の三女を虐待死させた容疑で逮捕された事件では、東三河福祉相談センターの複数回の家庭訪問に両親が虐待を否定。そのため強制的な保護には踏み切れなかったという。

傷害致死:乳児揺さぶり、父逮捕 双子の姉も死亡 愛知

毎日新聞 2013年12月06日

 生後7カ月の三女の頭部に昨年7月、衝撃を加えて死亡させたとして、愛知県警捜査1課などは6日、同県豊橋市西幸町、トラック運転手、鈴木和也容疑者(33)を傷害致死容疑で逮捕した。双子の姉である次女も今年7月、頭部への衝撃が原因で死亡しており、県警は鈴木容疑者が双子を虐待していた可能性があるとみて、次女についても立件を視野に捜査を進める方針。
 容疑は昨年7月12日午後10時〜同13日午前3時、自宅で当時7カ月の三女望玲愛(みれあ)ちゃんの頭部をたたいたり揺さぶったりするなど何らかの暴行を加え、脳損傷などを負わせ、同8月に死亡させたとしている。
 三女が入院した病院から「虐待の可能性がある」と通報があり、県警が捜査を進めていた。強く揺さぶられた乳児は「乳幼児揺さぶられ症候群」を起こして死亡するケースがある。県警によると、鈴木容疑者は「たたいたり、揺さぶったりしていない」と容疑を否認しているという。
 次女は昨年2月に自宅から病院に搬送され、約1カ月後に意識不明に陥り、今年7月に1歳7カ月で死亡した。死因は脳損傷を原因とする感染症だった。
 鈴木容疑者は事件当時、20代の妻と当時2歳の長女、双子との5人暮らしだった。妻は今年2月ごろに離婚し、鈴木容疑者は現在、1人暮らしという。
 ◇児相が昨年聴取、虐待断定できず
 鈴木容疑者一家をサポートしていた愛知県東三河児童・障害者相談センター(豊橋市)の水野清司センター長は6日、記者会見し「虐待と断定できず、保護に踏み切るには至らなかった。結果的に双子の命が失われ、申し訳ない」と述べた。
 センターによると、双子は昨年2月、市内の病院に風邪の症状で入院、その後、次女が心肺停止状態になった。病院は次女に眼底出血があることなどに気付き、「虐待の疑いがある」とセンターに通報。センターは鈴木容疑者らに事情を聴いたが虐待を強く否定され、「病院内で第三者が関与した疑いもある」と判断したという。
 三女は同3月に退院した後、元妻の実家で生活。センターは県警に情報提供すると共に、市こども保健課と連携して鈴木容疑者宅への家庭訪問や面会を開始した。三女は同4月に自宅へ戻り、その後も家庭訪問などを実施していたが、異常は発見できなかったという。【岡大介、清藤天】