6500グラムの重み…「やっと会えたんだね」 特別養子縁組で結ばれた“絆”

産経新聞 2015年2月21日

神奈川県に住む主婦、井上祐子(46)が部屋を掃除していると、おもちゃ箱の中に、くしゃくしゃに丸められた紙を見つけた。広げてみると「60点」と書かれた答案用紙。小学4年生の長男、剛(10)の仕業だった。テストはなかったと言っていたのに-。

「かーたん」「とーたん」
「ちょっと、これは何なのよ!」。ゲームに興じる剛を問い詰めると、「今回のじゃないんじゃない? 知らないよ」ととぼける。「先生に聞いてみるよ」「いいよ」。“押し問答”が続いた後、「連絡帳を出しなさい!」と声を荒らげると、迫力に押された剛が「ごめんなさい」とようやく認めた。
2人のやり取りを聞いていた夫の孝(37)が、ちゃかすように助け舟を出す。「剛は本当は良い子なんですよね~」。こんな時、孝はだいたい剛の味方だ。
口ごたえが多くなった剛に手を焼くことも増えた。それでも祐子自身、孝に負けず劣らず「親バカ」だと思う。おもちゃ箱に山と積まれた仮面ライダーグッズや鉄道玩具は、すべて祐子が買い与えたもの。いまだに両親を「かーたん」「とーたん」と呼び、趣味も年の割に幼稚だと思う。ただ「かーたん、仮面ライダー欲しいな」とせがまれると、つい買ってしまう。
小学2年から始めたダンスは見違えるようにうまくなった。スマートフォンに大量に保存されている剛の動画や写真を見ては、成長に目を細めている。
孝は仕事、剛はダンスレッスンに多忙だ。3人で一緒にいる時間は減ったが、一家が必ずする行事がある。「千本桜」と呼ばれる桜並木がある川沿いでの花見だ。孝と剛が前を歩く。祐子は2人の後ろ姿を見るのが好きだ。
今年も間もなく桜の季節。あの日も、ちょうど桜が咲いていた。

「やっと会えたんだ」
平成17年3月26日、孝と祐子は東京都内の公園のベンチにいた。指定された時間より早く到着したため、朝食のおにぎりを食べながら、時間をつぶした。
「どんな子なのかな」「そうだね。信じられないね」。待ち望んだ日のはずが、緊張で会話は弾まない。時間になり、近くの乳児院の門をたたいた。
部屋に通され、どれくらい待っただろうか。扉がノックされ、職員が入ってきた。青いベビー服を着た乳児を抱いていた。「剛君です。3カ月ですよ」。最初に孝、続いて祐子。順番に剛を抱いた。
「この子だったんだ。やっと会えたんだ」。剛はこの時6500グラム。祐子の目から涙がボロボロあふれ、幼い顔をよく見ることができなかった。腕にはそのぬくもりとともに、ずしりとした重みを感じた。「この子の一生の責任を持つんだ、という重さを実感した瞬間でもありました」。祐子は今、こう回想する。
夕方、ベビー用品を買い込んで施設に戻ると、「七つの子」の音楽が流れた。

●(=歌記号)からす なぜなくの からすは山に かわいい七つの子があるからよ
歌詞が頭の中に浮かび、祐子は少し複雑な気持ちになった。日中、別の部屋で多くの乳児が寝ているのを見たためだ。「みんな親が近くにいないのを知らずにいるんだろうな」。傍らでは剛が静かな寝息を立てて眠っている。「私たちは絶対にこの子を幸せにする」。改めて誓った。

「剛以外、考えられぬ」
孝、祐子の夫婦と剛に血のつながりはない。夫婦は不妊治療の末、特別養子縁組をする子供を求めていたところ、特定非営利活動法人(NPO法人)を通じて剛と巡り合った。特別養子縁組をした結果、戸籍上も親子となった。
剛の産みの母は、九州地方に住む当時30代の女性。出産後まもなく「剛を育てられない」と、NPO法人に託したという。「剛」と名付けたのは産みの母だ。孝も祐子も剛も産みの母に会ったことはない。剛の遺伝子上の父が誰なのかは、知らされていない。
3人の生活は3月で丸10年を迎える。「親バカ」を自称する祐子は今、妊娠できずに良かった、とすら思う。「剛以外の子供は考えられない。実子がいたら、剛には出会えていなかったんですから」(文中はいずれも仮名、敬称略)

わが子を育てられない親がいる一方、養子縁組でわが子を求める夫婦がいる。血縁ってなんだろう。親子になるってどういうことなんだろう。第2部は、特別養子縁組で長男を迎えた3人家族の姿を追い、その答えを探したい。

増加傾向の特別養子縁組、25年度は474件
特別養子縁組は親と離ればなれになったり、一緒に生活できなくなったりした乳幼児が、血縁関係のない大人と法律上の親子関係を結ぶもので、昭和63年から制度が始まった。児童相談所のほか、都道府県に届け出をした民間団体や個人が仲介や斡旋(あっせん)を行うことができる。
養子は6歳未満、養親(ようしん)は結婚した夫婦で25歳以上が原則とされる。実親(じつおや)の同意を得たうえで、家庭裁判所での審判が必要。「普通養子縁組」とは異なり、成立すれば養親の実子として戸籍に記載され、実親との親子関係はなくなる。
司法統計によると、平成25年度に成立した特別養子縁組は474件。ここ10年はおおむね300~400件台で推移しているが、増加傾向にある。厚生労働省によると、24年度に15の民間団体・個人が仲介した件数は115件に上り、5年で5倍超に増えた。

「長男の死」軽視か 市と児相、家庭のリスク見抜けず 伊東・女児死亡

@S[アットエス] by 静岡新聞 2015年2月22日

伊東市で2014年3月、生後8カ月の女児が頭部への外傷で死亡した事件は、市や県東部児童相談所が、女児が致命傷を負う一週間ほど前にも頭にけがをしたとの情報を把握しながら、最悪の事態を防げなかった。今月13日には父親の会社員(30)=神奈川県平塚市=が殺人容疑で逮捕された。なぜ対応は後手に回ったのか。専門家は、父親宅で12年に起きた「原因不明の子供の死」の評価を誤った可能性を指摘する。
「子供を家庭に置いておいて大丈夫か」―。伊東市が容疑者の長女のけがを把握して5日後の昨年2月24日、関係機関で対応を協議する要保護児童対策地域協議会(要対協)の「個別ケース検討会議」が開かれた。市によると、市の保健師、家庭児童相談室のケースワーカー、県東部児相の担当職員が出席。長女の保護を検討する意見は3者のいずれからも出たという。
しかし、結果的に保護は見送られた。下田信吾・市健康医療課長は「まだ情報収集が必要な段階との結論になった」と説明する。長女は2日後に容体が急変。一時保護などの権限を持つ児相が直接、家庭の調査に入ることは最後までなかった。
元児童相談所長で、NPO法人しずおか・子ども家庭プラットフォーム(浜松市)の村瀬修代表理事は「そもそも虐待リスクが高い家庭と認識すべきなのに、スタート時点から対応を間違えた可能性がある」との見方を示す。
容疑者は12年、前妻との間の2歳の長男を死亡させたとして傷害致死容疑で逮捕された後、嫌疑不十分で不起訴処分になった。下田課長は、虐待の有無がはっきりしない経緯から「虐待の危険を警戒しつつ、偏見を持たずに接していた」と話す。長女受傷後も「母親との信頼関係を築く」との姿勢を維持した。
村瀬代表理事はそうした判断が、今回の対応の遅れにつながったとみる。「『不起訴』を『虐待はなかった』と誤認していなかったか。福祉の観点では、子供が死亡した事実から『安全が確保できない家庭』とみるべきだった」と話す。児相が一連の対応を市の保健師に任せた判断も「親に虐待を否定された時、分析する専門性は保健師にはない。児相が対応すべきだった」と指摘する。
岡田重光・東部児童相談所長は「第三者機関の検証を待ちたい」としている。

厚生年金逃れ疑い80万社、厚労省が加入指導へ

読売新聞 2015年2月23日

厚生年金への加入を違法に逃れている疑いの強い中小零細企業が約80万社にのぼることが、厚生労働省が国税庁から情報提供を受けて行った調査で明らかになった。
厚労省と日本年金機構は新年度の4月以降、強力な指導に乗りだし、応じなければ立ち入り検査も実施した上で、強制的に加入させる方針だ。勤め先の加入逃れで厚生年金に入れない人は数百万人にのぼる可能性があり、老後の貧困を防ぐため本格的な対策に乗り出す。
厚生年金は原則として、フルタイムの従業員がいる法人の全事業所と、従業員5人以上の個人事業所に加入義務がある。だが、事業所が厚生年金保険料(給与の17・474%)の半分を負担しなければならないことから、会社を設立しても加入しない事業所が後を絶たない。事業所が加入していないと、従業員は国民年金保険料(月1万5250円)を自分で納めるだけになり、老後は基礎年金しか受け取れないことになる。
国税庁は、従業員の所得税を給与天引きで国に納めている法人事業所を約250万か所把握している。このうち厚生年金に加入しているのは約170万か所だけ。残る約80万の事業所は加入を逃れている可能性が高い。厚労省はすでに国税庁から所在地などの情報提供を受け、未加入事業所を割り出す作業を進めている。新年度からは日本年金機構が3年間かけて、新たな加入対策を行う方針だ。

宮崎の強姦ビデオ事件で、加害者側弁護士の懲戒請求に1万2000人がソーシャル署名。募集したビジネスパーソンをインタビュー

現代ビジネス 2015年2月22日

1月21日に毎日新聞にこのような記事が載りました。

宮崎強姦ビデオ:被害女性が公表した手記全文
http://mainichi.jp/feature/news/20150121mog00m040008000c.html
被害者の女性は、加害者側弁護士から、強姦被害時のビデオを返却することを条件に、示談に応じることを求められました。被害者の声をストレートに伝えた上、大手新聞が避けがちな「強姦」の2文字を見出しに使った毎日新聞の判断に拍手を送りたくなりました。
この事件を受けて、1月31日、性暴力の被害者を支援する人々が行動を起こしました。加害者側弁護士の懲戒請求と被害者が適正な裁判を受けられる仕組みを求めて、ソーシャル署名サイトchange.orgで、呼びかけを始めたのです。1週間足らずで1万2000人の署名が集まっています。
宮崎強姦ビデオ加害者側弁護士懲戒請求、ならびに被害者に対する不当な圧力をなくす仕組みの構築(http://goo.gl/VKOyq0)
署名の呼びかけ人である中野宏美さんに個別インタビューを行いました。事件を知って怒りを覚えた方。何ができるか分からずやきもきしている方、男女問わず、中野さんのお話を聞いてみてください。中野さんは「2047年までに性暴力をゼロにする」ことを目標にNPO法人しあわせなみだ(http://shiawasenamida.org/)代表として政策提言、啓蒙、市民向けの講演や被害者グループの支援を行っています。

あまりにひどい加害者側弁護士
Q:最初に、この事件を知った時どう思いましたか。
中野: これはひどい、と思いました。あまりにひどくて信じられない、と。
私は「しあわせなみだ」の活動を通じて、被害者と接してきました。性暴力事件の裁判の被害者を支援したこともあります。
宮崎の事件と同じように、強姦された被害者が訴えても、加害者側弁護士から示談を求められる例は少なくありません。また、裁判で加害者側弁護士からひどい質問をされることも多いです。
そういう残念な現状と照らし合わせても、今回の事件はひどすぎた、と思います。被害者は加害者側弁護士から伝えられるまで、自分が被害に遭った様子を撮影した強姦ビデオの存在を知らなかった、と報道されています。それをもとに示談を申し込まれる、というのは、被害者から見ればほとんど脅迫と受け取れるのではないでしょうか。
Q:性犯罪の裁判で、加害者側弁護士は被害者にどんな質問をするのでしょうか。
中野: 事件とは直接関係がない被害者の過去の経歴や、自分から加害者について行ったのではないか、等と言われることもあります。被害者に圧力をかけるような質問ですね。
そもそも性犯罪裁判は勝てない、と言われていて、被告(=加害者)が無罪になることが多いのです。今回の宮崎の事件も無罪になる可能性があります。
Q:どうしてでしょう…。
中野: これは日本の刑法の問題ですが、強姦罪の定義がとても狭いのです。暴行や脅迫で強要されていないと罪として認められない。その証拠を出すのが難しいのです。

1万筆のソーシャル署名を目指す
Q:宮崎の事件で被害者は手記に「…抵抗しないのではなくて、できなかったのだということ、アダルトビデオのような激しい抵抗は、女性の安全が保障されていて、身の危険を感じない状況であるからこそできることなのだと実際に体験して思いました」と書いています。被害実態と法律に大きなかい離があるのですね。
中野: そうなのです。実際には、抵抗したら殺されるかもしれないから何もできない、と思うのも、被害者にとってみれば、当然の心理状態だと思います。
Q:ソーシャル署名を集めた後、今後、どういう提案をしていく予定ですか。
中野: まず、署名は1万筆を目指しています。これをもって、日弁連と宮崎弁護士会に加害者側弁護士の懲戒免職請求をします。
また、これらも署名で要望している内容に盛り込んでいますが、被害者が適正な裁判を受けられるように、不当な圧力がかからないような仕組みを作ることを行政に求めていきます。例えば裁判官や弁護士など司法に関わる人に性暴力被害について研修を受けてもらったり、裁判過程で不当な圧力がかかった場合、相談する窓口をつくったりする必要があります。
さらに、裁判の過程で被害者に事件と無関係のこと、たとえば過去の性体験などを尋ねてはいけないという法律をつくってほしい。海外を見ると、例えばアメリカやオーストラリア、カナダの「レイプ・シールド法」(* 文末注)は、そういう役割を果たしています。
また、近年、アメリカでは、大学キャンパスで相次いで問題になった性暴力事件において合意の有無の判断基準が変わってきました。こちらの記事(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/40726)が詳しいです。
Q:この署名は呼びかけ人が3名います。中野さん以外のお2方、野口さんと山口さんのことを、少し教えていただけますか。
中野: 野口真理子さんは九州でFOSC(フォスク=http://www.npo-fosc.com/)というNPOを運営しています。様々な事情で自宅が安全ではない、自宅に帰りたくない女性と子どものために宿泊施設を提供したり、学生(中学生から大学生まで)向けの啓発事業を行ったり、電話相談にも応じています。
山口修平さんは児童養護施設一宮学園の副園長です。性暴力に遭った子どもを支援してきた経験が豊富で、今回、すぐ呼びかけ人に名を連ねて下さいました。
Q:女性だけでなく男性も、性暴力をなくしたい、と考えていることが伝わってきます。最後に男性へのメッセージがあれば、いただけますか。
中野: この署名は、ひとつの裁判のだけでなく、私たち市民が裁判や弁護士に何を求めていくのか考えるものです。被害者が人権侵害されずに裁判を受けられる制度をみなさんと一緒に作っていきたいと思っています。
また、男性には、被害者が責められるのではなく、加害者に責任があることを明確にし、被害者をきちんと救済する法制度が必要であることを理解いただきたいです。そして、一緒に、自分の大事な妻や娘が性暴力に遭わない社会を求めていただきたい、と思います。

インタビューを終えて
インタビューは中野さんのお仕事の合間に、電話で行いました。ふつうに働くビジネスパーソンが、人権を守るために、市民として何ができるか考え、行動する姿勢に共感します。法律や制度は政治家や霞ヶ関にお任せしていれば、自然にできるものではありません。私たちひとりひとりが時間と労力を使って良い方向に近づけていかなくちゃ、と中野さんとお話して感じました。